---ダン---
王都の迷宮…上層はサリーキラーな仕様であった。ゾンビ天国である。下の方へ行けば、メタルスライムがいるらしい。その為イズから、稀少金属集めを請け負っている。
「ダンさん…」
俺の背中にサリーがいる。歩けない程、ガクブルであった。
「移動式ギルドホームで、待っていても良かったんだぞ」
「そうもいきません」
カスミ、アスカ、ミィがゾンビ達を倒していく。身捧ぐ慈愛でカバーされて、マイユイコンビも頑張っている。イザとなったら、ミザリーの浄化で殲滅出来るようなので、とにかく下層へと降りていく。
「アズライトのおかげで、潜れましたね」
「そうだな」
メイプルは嬉しそうだ。それにしても、アズライトは王女付きなのか?王族の許可証をすんなりと貰って来てくれるとは。きっと仕事が早いから優秀なんだろうな。
「どうなんだ?ティアンは人間と同じなのか?」
クロムに訊かれた。
「リアル世界ではマジマジと見たこと無いから、わからん。ティアンとマスターは差が無いみたいだぞ」
「えっ!」
サリーが声を上げた。なんだ?
「ダンさん、マスターとも寝たんですか?」
「寝ていないよ。Pkでキルする前に、全裸をマジ見しただけだよ」
うん?女性陣から冷たい視線を感じる。なんでだ?
「それって、身ぐるみ剥いだんですか?」
サリーが今日一番の元気な声を上げた。
「剥いだよ。いきなり襲って来たから、無力化させてからな」
「あおかん?」
「それって、寒天のお菓子か?」
「違う。青空の下で姦淫することだ」
サリーの放った意味不明ワードを。クロムが説明してくれた。
「いや、見るだけだよ。観察は大事だろ?」
あれ?サリーがダンマリになった。どうしたんだ?
--ギフテッド・バルバロス(ドライフ皇国軍元帥)----
一部マスターの暴走で起きたギデオンテロ事件。まさに、その時、同時に我が国に報復攻撃が為された。居残りのマスター達が、次々に撃破され、国土が焦土に変わっていく。敵対行動に出ないティアンには危害を加えず、敵対するティアンとマスターは次々に消されていった。
王国は何者を招聘したのだ?魔将軍が簡単に消された。超級ティアンだった皇王ですら、なすすべも無く消された。
「以後、王国には手出しをしないで欲しいクマ」
クマの着ぐるみを着た使者に通告された。今度、手を出せば、次は無いと…そんな意味合いだろう
「お前らのテロ部隊は、無抵抗なティアンすら襲ったクマ。無垢なティアンの少女を人質に取り、街に無数のモンスターを放ったクマ。それに比べれば、アイツらの攻撃は度は過ぎていないと思うクマ」
まぁ、あの狂った科学者、Mr.フランクリンに比べれば、誰でも人道的だろうが…
「友好条約を結べば、復興支援をするクマ」
それは、私に皇王になり、友好条約を締結しろと。
クマ男は、2枚の書類を目の前に置いた。友好条約締結証のようで、私のサインを入れろと言うことだろう。震える手で、サインを入れる。この国の戦力では、王国には勝てないと思われるからだ。
「今後、狂った隣人は要らないクマ」
1枚の書類を手にして、部屋を出て行くクマ男。
---一宮渚(マリー・アドラ)ー---
リアルではスランプに陥った漫画家である。休職中なので、私の作品の主人公である暗殺者マリーをアバター化して、デンドロを始めた。その結果、暗殺者としての裏の顔を持つ記者になり、初心者狩りという仕事を請け負い、レイと『楓の木』にPKをした実績を持つ。う~ん、レイとは友好な関係を築けそうだが、『楓の木』はどうだろうか?
リアル世界で、『楓の木』について調べて見た。敵を知らないと、対策を打てないからね。
ギルドマスターは【歩く要塞】メイプル。貫通攻撃以外の攻撃を弾く堅牢さを持つ大盾使い。【蒼き暗殺者】サリー。被ダメゼロを誇る、回避のエキスパート。
この二人が特出しているようだが、残りのメンバーも普通では無いらしい。あの二人と比べると普通なプレイヤーに思えるだけで、死なない大盾使いとか、両手持ちハンマーでの二刀流とか、あり得ない情報が掲示板に載っていた。こんなのがいたら、ゲームバランス崩れるだろうに…だから、遠征という追放処分なのか?
もう少し調べて見ると、『楓の木』第二パーティーと言う情報を見つけた。2軍ってことか?その情報を見ると、思わず絶句してしまった。
はぁ?第二パーティーって、2軍じゃないのか?これって…
【姿無き狙撃手】アスカ。あり得ない距離からの狙撃、近接攻撃も出来る。【情け容赦無きテロリスト】ダン。被ダメ、殺戮数共にゲーム内でダントツの1位。
きっと、この二人だ。PKしまくっているのは…これって、NWOの運営のリークか?被ダメや殺伐数って個人情報だし。
他にも、多重魔法使い、爆炎系魔法使い、聖女がいるようだ。第一パーティーが防御で、こちらが攻撃陣ってことか?いや、臨機応変で立ち向かっているのか?
早く手打ちをしないと…不安な心を抑えつつ、デンドロにログインをした。
---マリー・アドラー---
ダンと友好関係があるクマニイサンに相談した。
「お前、レイもキルしたクマ!」
しまった。コイツの弟もキルしたんだ。
「反省しているクマ?」
「勿論です。レイに協力は惜しまない。だけど、PK天国されると、協力できないかもしれないです」
「なら、リリアーナを頼るといいクマ」
「レイの彼女を?」
「彼女は、レイじゃなくて、ダンだクマ」
えっ!えぇぇぇぇ~!いきなりの特ダネでは無いですか。ギデオンの英雄だから、リリアーナファン達は暖かい目で見守っているんですよ。
「ダンは不器用クマ」
不器用?レイもだよね?
「まかせたクマ」
クマニイサンは去って行く。え?ちょっと、何を任されたんだ?はて?
リリアーナを捕まえて、ダンとの和解を相談した。
「う~ん…仲介するのは構いません。街が平和になるんでしたら。ただ、ダンさんには惚れないでくださいね」
はい?そんなことを言うキャラでしたっけ?この娘は思いっきり惚れてませんか?
「ライバルはアルティミア様だけで充分ですから」
更なる特ダネ…はぁい?第一王女もダンに惚れているんですかぁぁぁぁぁ~!
「えぇ、惚れませんよ。私はレイくん派ですからね」
「それは良かったです」
うわっ!蕩けるような笑顔だよ。本当に大好きなんですね。リリアーナの恋のお手伝いを約束し、ダンに会えることになった。連れて行かれたのは、あの初心者狩りをした現場の森、今は荒れ地になっているが…そこにはプライベートジェットがあり、その中へと連れ込まれた。この世界に飛行機って有りましたっけ?
「リリアーナ、その人が俺に話があるって?」
「はい、そうです」
「で、君は誰?」
「マリー・アドラーという新聞記者です」
「あぁ、コイツ、お兄ちゃんを撃ったヤツだよ」
奥からアスカが出てきた。既に彼女の手には銃が握られていて…ここでPKするのか?って、ダンはアスカの兄なのか?
「あぁ、アスカへの客か」
「もう敵対する意思はございません。どうか、もうPKは止めてもらえませんか?」
「いいよ。ギデオンで公式試合でPKすれば、お金貰えるし」
あっさりと釈放された気分である。
「リリアーナの持ち込んだ事案だし、それでいいよ」
「あぁ、そうだ。なぁ、リリアーナ、どこか狩り場は無いか?ゾンビ嫌いがいてさぁ、あの迷宮以外に、狩り場を知りたいんだよ」
「それでしたら、鬱蒼とした森とか、山へと続く道とか、物騒な場所が良いと思いますよ」
リリアーナがいつも以上にかわいらしく見える。恋する乙女ってやつか。
「サンキュー、リリアーナ」
「いぇ…」
ダンに頭を撫でられて真っ赤な顔になっていくリリアーナ。レイの前では凜々しいのに、ダンの前では小動物系か?
---レイ・スターリング---
ギデオンの街中を歩いていると、アイツを見つけた。レイレイさんにイタズラした挙げ句にキルした強姦魔である。
「おい!テメェ!」
「うん?だれ?」
背中に女の子を背負っている。その子にイタズラする気か?
「ネメシス、やるぞ」
「街中じゃが、いいのか?」
「ここで逃がせば、被害者が増える」
「良かろう」
ネメシスが剣になってくれた。
「メイプル、降りてくれ」
「うん?ダンさんは私が守ります」
黒い鎧を着た女の子が、俺の前に立った。まさか、コイツのエンブリオか?
「メイプル、ここで戦うな。闘技場で戦え。おい、お前、こっちへ来い。ここじゃダメだ。リリアーナから、街中で戦うなって言われているからな」
「あぁ、そうでしたね。でも、アイツが拒否すれば、ここで良いかな」
アイツのエンブリオは、ここで戦ってもいいみたいだが、アイツが止めてた。闘技場だと、死んでもデスペナ無しだっけ?強姦魔達と、闘技場へと向かった。
◇
闘技場に着くと、マリーと兄さんがいた。どういうことだ?
「どうしたクマ?」
「コイツが街中で攻撃してきたんだよ。でも、リリアーナと約束したからな」
まさか、リリアーナさんは、コイツの毒牙に既に…許せない!
「う~ん…で、どっちが戦うんだ?」
「メイプルが戦うって」
「うん!がんまりましゅ…」
今、噛まなかったか?コイツ、エンブリオではないのか?そのメイプルという少女と、闘技リングに立つと、結界が発動し、俺達二人を取り囲んだ。
「じゃ、私マリー・アドラーが見届け人になります。【聖騎士】レイ・スターリングVS【歩く要塞】メイプル、試合開始!」
歩く要塞?なんだ、その二つ名は?
「ヒドラ!」
紫色の三つ首龍をいきなり召喚してきた。なんだ、コイツ!三つの頭部が俺に襲い掛かってきた。剣で切り刻むも効果無く、俺は猛毒状態になってしまった。ネメシスは槍形態になり、《逆転は翻る旗の如く》を発動した。これは受けた状態異常や、デバフ効果を逆転させるスキルである。
「毒無効体系か?それも武装特有スキルか?」
アイツに俺を研究されてしまう。早くコイツを倒さないと。
「捕食者!」
何?今度は2匹のバケモノが召喚され、俺に襲い掛かってきた。こいつ、召喚師か?俺の手足に喰い付き、肉を食べられているようだ。マンイーターなのか?マズい。2匹のバケモノに攻撃を加えながら、回復ポーションを…
『闘技中は、一切のポーションの使用を認めません』
ポップアップした画面に非情な文字列が表示された。蓄積ダメージが溜められないのか…マズい。食い殺される。ネメシスを剣に戻して、《復讐するは我にあり》を放った。これは蓄積ダメージを倍化して、相手に返す技である。
「悪食!」
は???俺の攻撃を無効化されたのか…意識が薄れゆく。
◇
気づくとベンチの上で寝ていた。やられたようだ。あの黒い鎧の少女に…
「じゃ、次は俺と戦艦クマだな」
「えぇぇぇぇ~!今日は私と戦ってくれるって、約束でしたよね?」
「えぇぇぇ~!結果は見えているのに?」
「今日こそ、覆しますよ」
アイツと黒い鎧の少女がリングに立った。
「えぇっと、この試合もマリー・アドラーが見届け人になります。【歩く要塞】メイプルVS【情け容赦無きテロリスト】ダン、試合開始!」
アイツ、強姦魔で無くて、テロリストなのか?思考に気を取られた一瞬で、俺を簡単にキルした少女を、アイツは瞬殺していた。何が起きたんだ?少女は床から生えた何かに串刺しされていた。頭頂部に何かの先端部が見える。おいおい…
「よしゃ!次、戦艦クマ!戦えよな」
「まだ、弾が補填出来無いクマ。すまんクマ」
「はぁ?まだ、準備出来ないのか?ヤル気あるんか?」
「あるクマ」
アイツ、兄さんと戦う気なのか?
「それに、ここじゃ無理クマ。あの荒れ地じゃないとダメクマ」
「わかった。リリアーナに使用許可を貰ってもらう」
「アズライトの方が早いクマ」
「あぁ、王女付きだもんな。わかった、アズライトに使用許可を貰ってもらう。弾を補填しておけよ」
「了解クマ」
兄さんも戦う気があるようだ。あいつ、ただの強姦魔なテロリストでは無いのか?
「彼は、皇国の皇王を暗殺したそうですよ。噂ですけど」
気配を消して、俺の耳元で囁いたマリーさん。
「暗殺者?」
「NWOでは一瞬で500名以上をキルしたそうです。ただ、殺戮方法は不明ですって」
不明?人前では本気を出さないタイプか?
「ダンさん、ズルいですよ!瞬殺は無しって約束ですよね?」
「えっ!メイプルが弱いだけだろ?瞬殺されるなよ」
あの男、無理を言っている。瞬殺しておいて、瞬殺されるなって…