---ダン---
思っていた通り、イベントは罠だった。ギルド戦?これはどういう訳だ?
イベント開始直後、ランダム配置された上、見える範囲に仲間はいない。いや、プレイヤーがいない。モンスターだらけだぞ。ソロ戦の間違いでは無いのか?カエデ、デミウルゴス、ポチ、アナを召喚して、モンスターとの応戦を始めた。しかし、ザコモンスターを倒しても、メダルは貰えず、経験値しか入らない。後で、メイプルへギフトだな。
「カエデ、メイプルのいる位置、わかるか?」
ダメ元で訊いてみた。
「わかります。もっと南、もっと西」
そうは言うが、方位がまるで分からない。そうだ、マップを出そう。マップ画面を表示させると、現在位置が分かった。思いっきり右上だ。そうなると、メイプルは真ん中辺りにいるのか。ここにいるモンスター達は、メイプルの居場所でもスポーンしているのか?それとも初期配置なのか?モンスターの流れを見る。一定の方向から、湧き出して来るようだ。みんなを指輪に戻し、機龍化して、大元へと向かう。
そこには紫色で渦を巻いている円形の光が、ゲートのように設置されていた。その渦からモンスターが一定間隔でスポーンしている。このゲートを潰せばいいのか?メーサー砲を当てるが、何のエフェクトも無い。内部に潜入してボス戦かな?まぁ、入るか。しかしながら入り口は小さく、機龍だと入れないようなので、蒼い装備にクイックチェンジし、攻略を始めた。
ゲートの中はモンスターがいなかった。スポーン装置すらない。ボスが召喚している設定か?内部はダンジョンのようで、移動しているとメッセージ画面がポップアップして『メダル1枚をゲットしました』と表示された。誰かがボスを倒したのか?それは負けていられないなぁ。
内部にいるモンスターは悪魔系のようなので、デミウルゴスとポチを召喚して先へ進む。あの試練の迷路と違いダンジョンメーカーで作ったみたいで、右回りの法則で移動していくとボス部屋らしい扉の前に出た。
扉を開けて中に入ると、スポーン装置らしき窪みと大きな繭を見つけた。迷わず繭にウッドオクトパスをたたき込み、レベルドレインを発動させた。繭は破壊され中からボスらしきモンスターが出てきたが、翼を展開し超加速で懐に入り32連打を叩き込むと、燃える様にして消えていった。その瞬間、ゲートの前に排出されメッセージウィンドウが開き、『メダル3枚をゲットしました』と表示された。そうなると、さっきの1枚は中ボスか?攻略方法として、スポーンさせているボスの退治でいいのか?さっきまで紫色渦巻きだったゲートは消え、今は蒼い光の玉があるだけだ。じゃ、次のゲートをつぶすか。
機龍化して空を飛び、モンスターがスタンピートしている場所を探し、ゲートを潰していく。潰す度にメダルが3枚手に入るが、このメダルって、何が貰えるんだっけ?
---とある運営ルーム---
遠征と言う名の追放処分をした『楓の木』を呼び戻したのだが、一段とバケモノ化の進むメンバー達に驚愕している運営スタッフ達。
「メイプルのVIT値が、凄いことになっているぞ」
ダンからの再三に渡るレベル譲渡で、レベルがペインを越え、素の状態でVIT値が20000超えていた。
「ダン…コイツは、バランスブレーカーだな。ダメだ、止められない」
何らかのトラブルで、ダンだけ最終局面に飛ばされていた。ラスボスが出現するのはイベントのラスト1時間前であるが、その時に恐怖を煽る為のギミックを撃破していた。
「60箇所あるんだ。大丈夫の筈だ」
「既に30箇所が潰されているんだが…」
「おい!ダンを通常のイベントエリアに排出出来無いのか?」
「出来ません。データコンバート時にバグがあったのかもしれないです」
「なんだと…」
混乱を極めていくNWOのスタッフ達。
---サリー---
イベントは3日の予定であり、漸く1日目が終わったのだが、
「またメダルが3枚入ったよ。ダンさん、何と戦っているんだろ?」
ダンさんだけが行方不明である。夜間セッションは強力なモンスターが徘徊するようで、仮拠点を作り、交代で睡眠を取っていたのだが…
「既に120枚は稼いでいますよ」
私達12名で3枚しか稼げていないのに、その40倍も稼いでいるダンさん。何かをやらかしているんだろう。
「お兄ちゃんをキレさせたな、運営め…ふふふ」
アスカさんの不気味な笑み。危険だな。イベント崩壊するんじゃ無いか?まさか、中止は無いだろうけど。
「明日は見つけて、合流しないと…」
「だな…」
---ダン---
夜間セッションが終了しない。夜が明けない…空には悪魔の群れがいて、メーサー砲を360度方向へ撃ち出していく。光の到達する距離の悪魔が次々に地面に落ち、ドット落ちするように消えていく。キリが無いなぁ。どうするかな。しばらく考え込むと閃きが舞い降りた。そうだ、モンスターに割り振られているリソースを食い尽くせば良いはずだ。殺さずに無力化していけば、活きの良いモンスターはスポーンしなくなるはずである。
空に居る悪魔達の羽を斬り刻んで行く。地面にいる動きの良いモンスター達は、足を潰していく。さぁ、運営よ。どうするよ、ふふふ…
---サリー--
イベント内時間で朝になったはずだが、空は夜のままである。なのに、周囲にはモンスターがまるでいない。何かあったのか?
「既にダンが、一人で180枚も稼いでいるわ。味方で良かったわ。ふふふ」
イズさんは喜んでいるけど…仮拠点から一歩踏み出すと、魔方陣が現れて、光り輝き始めた。
「なに、これ…」
私の声に誰も反応が無い。周囲を見ると、仮拠点の前では無い場所に一人でいた。メンバーをバラバラに散らしたのか?
「おぉ、サリーじゃないか」
スドーン!
大きな音がして、砂嵐のように砂が舞い上がった。砂が舞い上がらなくなると、目の前に機龍化したダンさんがいた。
「どこにいたんですか?心配したんですよ」
「どこにって、イベントフィールドにいたよ。罠に嵌めた運営に抗っていたよ」
罠に嵌められた?
「どういうことですか?」
ダンさんから昨日のことを聞いた。一人でプレイヤーのいないエリアに飛ばされて、モンスタースポーン装置を壊して回っていたそうだ。
「あっ?花火が見えるが…」
確かに。目印のつもりだろうけど、あんなことをするのは…
「たぶん、メイプルじゃ無いかな」
奇抜な行動はメイプルの得意技である。いきなり、機龍の手に身体を掴まれて、機龍が飛んだ。耳がキーンとしている。これって生身の人間が体験して良い加速度なのか?息苦しいし、寒い…初デスがこれって…いやぁぁぁぁ~!
「着いたぞ」
ダンさんの声…あぁ、身体に重力を感じる。取り敢えず、生きているようだ。
「サリーと…ダンさんだ!」
メイプルの声、地面に置かれた私。いや、これ地面じゃない。シロップの背中か?
「サリーさん、大丈夫ですか?」
ユイちゃんもいるようだ。
「ちょっと、機龍に酔った…」
あぁ、気持ち悪い…NWOを始めて、初めての危機かもしれない。スピード酔いでデスなんて、いやぁぁぁぁ~!
---ダン---
稼いだレベルと言う名の経験値をこっそりとメイプルにギフトした。やっとレベル30に戻れたよ。やはり、レベルが上がると、フルカウンターの効きが悪くなるようだ。
スポーン装置は総て破壊したはずだ。今は、何も無い空間からモンスターが排出されている。たぶん、あそこにラスボスが居るんだろう。ウッドオクトパスを放ってみたが、手応えがまるで無かったので、まだボスとしての存在が無いのかもしれない。コイツは、いつ発動するんだ?やることが無いんだが…こんなことなら、デンドロに戻りたいぞ!あぁ、ストレスが溜まっていく。
その時、マスターである証が光り輝き、目の前に金髪碧眼で、黄金のアーマーを着込んだ少女が現れた。
『マスター…私の名はアリス・セカンド、あなたの剣です』
これがエンブリオなのか?メニュー画面を見ると、《エンブリオ》というタブがあり、そこを開くと詳細データ画面が開いた。
アリス・セカンド
TYPE:カーディナルwithスタンドアップ
到達形態Ⅰ
保有スキル
《冒涜の化身》
システムコールを使用出来る
アクティブスキル
《英雄召喚》
LV1 一度に一人の英雄を呼び出せる
アクティブスキル
《デッドリードライブ》
相手に瀕死の重傷を負わせることが出来る。1バトルにつき、1度使用可能。
アクティブスキル
補足説明
『世界を知り尽くし、世界の不備に不満を持つ(システムを知り尽くし、システムに不満を持つ)マスターの元に産まれるSSR級エンブリオ。別名;管理AI1.5号』
なんか、とんでも無いエンブリオを貰ったが、現状が打破出来そうである。
「システムコール:ラスボス実体化」
『了解、マスター!』
目の前にバカデカいモンスターが現れた。コイツを倒せば、イベントが終了になるだろうな。
「アリス、デッドリードライブだ」
『了解』
アリスは腰に携えている蒼白く輝く剣を引き抜き、モンスターを斬り裂いた。瀕死になったボスモンスターへは、『ウッドオクトパス』を叩き込むと、ドット落ちして消えていくボスモンスター。メダルが10枚手に入った。
---サリー---
イベント二日目にして、終了してしまった。そして、ダンさんは見た事の無い少女と共に帰還した。
「その子はどなたですか?」
メイプルが訊いた。
「俺のエンブリオ、アリス・セカンドだよ」
エンブリオ?相棒ってことか?使い魔ってことか?
アリスはギルドホームに入ると、黄金のアーマーから、普段着と思えるメイド服へとクイックチェンジした。金髪で碧眼で、整った顔立ちに、ボンキュボンなボディ。ダンさんの好みが反映されているのか?
「彼女はどんな武器になるんですか?」
メイプルが質問を重ねた。
「私は自立タイプなので、マスターの剣として、剣士として戦います」
アリスが自ら答えた。あの黄金の鎧姿で戦うのか。なんか、強そうだよね。
「手合わせをお願いします」
メイプルがアリスと戦うようだ。みんなで、修練場へ移動をし、二人の戦いを見た。一度、瀕死にまで追い込まれたメイプルだが、『暴虐』を使いHPを満タンにしてからメイプルの一方的な蹂躙が始まった。やはりメイプルを倒すには瞬殺以外方法は無いのだろう。
「さすが、マスターのボスですね」
アリスはメイプルを認めたようだ。
「実戦だとメイプルは勝て無いと思う。なんせ、盾としてカエデがいるからな」
試合形式だと、1VS1だからの結果ってことか。確かに実戦だとカエデがポイントだろう。いや、カエデだけでなく、ポチ、アナ、フレイヤ辺りは鬼門では無いのか?
「味方ならいいわよ、味方ならね、ふふふ」
イズさんは喜んでいる。一番の問題は、エンブリオって、添い寝するのだろうか??彼女には勝てる気がまるでしないんですが…
---ダン---
NWOでのイベント報酬…一部をスキルにして、残りはデンドロの貨幣に変えて貰った。これで無一文から脱却である。今日は迷宮で戦えないサリーと共に山道で狩りをしようと山道を歩いている。同行者はアリスとカエデである。カエデはメイプルと同等の移動速度の為、ポチを呼び出し載せている。
山道には山賊がウヨウヨいて、襲い掛かって来た場合は、ティアンでも斬り捨てオーケーらしいので、サリーとアリスが対処している。
「山賊ってドロップ品があるんですね」
有り金を置いていくみたいだ。なんだ、こんな処に稼げるポイントがあったのか。山賊狩りはサリーにも有益だったようで、ウハウハな状態でクランホーム、別名移動式ギルドホームに帰宅した。
迷宮から戻って来たメイプルから、
「街中にホームが欲しいです」
と、言われた。理由は明快である。疲れたら直ぐに帰れる場所が良いそうだ。現状、王都の門を出てから徒歩15分くらいかかる。王都での主な活動場所から門までが徒歩15分だから、30分も歩く羽目になると言う。メイプル単体だと、その4~5倍は掛かるらしい。
「わかった。アズライトに訊いてみるよ。いい物件があるかどうか」
俺は大義名分を貰い、リリアーナ経由でアズライトを呼んで貰った。
「王都は難しいわね。ギデオンなら物件はあるけど」
ギデオンか…近場の皇国領のモンスター狩りは有りかな?でも、人造モンスターだとドロップが期待出来ないんだよな?
「狩り場はある?」
「う~ん、迷宮は無いけど…皇国の守護兵のバイトがあるかな。どっかの誰かが、皇国のマスターをほぼ殲滅したせいで、国力が落ちているみたいなの。王国とは友好条約を締結しているから、そういうバイトが回ってきていたわ」
それは美味しそうだよな。戦えてお金が貰えるって。あの科学者は踏み倒したしなぁ。
ついにエンブリオが覚醒…(^^;;