---アルティミア・A・アルター---
遺跡調査にダン達を頼った。父である亡き国王から、マスターを戦の道具にはするなと言われたのだが、今の王国の戦力を考えると、マスター達の力に頼ることが不可欠だった。あの国王を亡くした戦争により、多くの有能なティアンが失われた。皇国のマスター達の手によって…
マスター…世界が遣わした時代の変革者で、特別な力を有する者達である。その特別な力は戦争の為にあるのでは無いと、亡き国王は口にしていた。だけど…彼らの力は戦闘向きである。これも事実である。破壊王の火力、女教皇の組織力、どれも戦争向きである。彼に会うまでそう思っていた。
ダン…私の総てを見て、触って、交わった唯一の男性マスター。彼は戦闘も出来るが、内政も出来る男だ。相談に乗ってくれ、提案もしてくれる。問題は、私が王女付きの侍女だと思っていることだな。今まで、何度も正体を明らかにしようとしたのだが、私の正体を知って離れて行く彼を見たく無い、失いたくないのだ。
「そろそろ、打ち明けたらどうだクマ」
破壊王には、アズライトの正体はばれていた。
「だけど…」
「いつまでも偽りの関係はダメですよ」
リリアーナの言いたいこともわかる。
「そんなことで、関係は壊れないクマ。あのレイレイが懐いているクマ」
酒池肉林が彼に懐いている。クマ以外と組まなかったあの女が、普通に彼の本拠地に出入りしている。私と二人で、彼に甘える日も少なくない。
「いざとなったら、護ってくれるクマ」
クラン<楓の木>…彼の所属するクラン。その潜在能力は未知数。クランマスターは非公式であるが、王国一の戦闘力を持つ破壊王を一撃で消し飛ばしたそうだ。その上、そのクランマスターは彼に全敗中だとか。また王都内にいる犯罪者や私達の敵対者は、彼の妹を始めクランにいるPK専と呼ばれる者達に消されているそうだ。
「すでに、王国の秘密戦力クマ」
王女として、彼らに特に依頼はしていないが、王女付きである私を苦しめる者は消すことが、彼のいるクランの方針らしい。あくまで、王女付きである私の為である。
◇
遺跡に向けて、空を飛ぶ船に乗って移動している。これは何?どうして、金属の塊が空を飛んでいるの?
「そんなに固くならないで大丈夫だよ。落ち無いから」
この船の中には、ラウンジの他、キッチンや風呂場、そしてそれぞれの個室まである。クランホームとしての機能までもだ。
「みんなで移動する時は、コイツが便利なんだよ。特に宿屋が無くても、野宿しないで良いし」
「これはどういう仕組みなんだ?」
「俺も知らない。まぁ、失われた文明の残りカスだろうな」
ダンの部屋で彼に抱かれている。こうしていないと、不安であるから。たまに、体内でダンの息吹を感じる。それはそれで安心出来るのだが…
「目標地点に着いたよ。なんか機械仕掛けの犬が、人間を襲っているんだけど…どうする?」
周辺探査を受け持っていたイズが、そんなことを言うと、
「じゃ、殲滅するか」
私から離れ、装備を装着するダン…
「飛び降りられる者だけ降りろ。イズ、近場で着陸してみて」
「わかった」
扉を開け、飛び降りるダン、メイプル、アスカ…彼らは空を飛べるらしい。マリー、フレデリカ、ミィ、ミザリーが上空から狙撃を始めた。普段はマッタリとしている集団であるが、戦闘集団に変身する速度は速い。
「着陸します」
空を飛ぶ船が地上に降りると、クロム、サリー、カスミ、ビースリー、アスナ、レン、フカが我先にと飛び出して行った。
「アズライト、驚いた?私達、基本バトルジャンキーだからね」
イズとカナデ、マイ、ユイ、ユーゴーが私を護るように位置取りをしている。事前に役割分担が出来ているようだ。しかも、王国騎士団よりも火力も練度も高い。いつ練習しているんだ?いつも、マッタリしているのに…
ガサッ!
草をかき分けた音…咄嗟に音の方へと走る。私を追って、ガード陣も着いてきてくれる。目の前で、怯える少女に近づく、死霊系のモンスターがいた。
「貴様!」
剣を振るう私。
《復讐するは我にあり》
私の振るった剣を、何かのスキルで受け止めた。これって…
「うっ…」
薄れゆく意識の先で、目の前のモンスターの頭部が破壊され、消えていくのが見えた。誰かが倒してくれたんだな…少女は無事だろうな…
---ダン---
くそっ!アズライトがやられた。俺とサリー、カナデ、ミザリーで、回復術、治癒術、修復術を全力で掛けていく。
「なんで、コイツが…王女付きを暗殺って…」
オーバーキルに近いダメージである。辛うじて、カナデが今日のラッキースキルであるオールヒールを使い、アズライトの一命を死守してくれた。だけど、状況は思わしくない。瀕死状態のティアンには、ヒール系の術が効きにくいようだ。
「ミザリー、どうだ?」
「心が折れているみたい。生きようとする気力の問題かな」
生きたい思えばいいのか?俺とアズライトの想い出を妄想という形にして、ギフトしていく。もっと、生きろよ!なぁ、アズライト!
現場で出来る手は総てした。転移術で本拠地に戻り、プールしてある回復薬を飲ませていく。あの時と同じように、口移しで…体内から治すには、魔法よりポーションの方が良いらしい。
「これは…」
サリーがクマを呼びに行ってくれ、連れてきてくれた。。
「どういうことだよ。なんで、お前の弟が、アズライトを…おい!クマ!どういうことだ?」
初めて、ゲーム内で本気の怒りがこみ上げてきた。ゲームだと割り切っていたのに…だけど…アズライトが…くそっ!
「わからない…なんで、アイツはこんなマネを…」
クマの着ぐるみのせいで、中の人の表情はわからない。だが相当に動揺しているようだ。
「なんで王女付きのアズライトが、こんな目に遭うんだ?国にとっての重要人物なのか?」
「えっ!」
クマが驚きの声を上げた。おい、今のセリフのどこに驚くポイントがあったんだ?
「まさか…言っていないのか…まだ…」
クマがマリーとビースリーに目配せをすると、二人は頷いていた。何を言っていないんだ?それは、狙われる理由か?
「アルティミア様は大丈夫ですか?」
アズライトの親友であるリリアーナが、部屋に飛び込んで来た。
「アズライトなら、今寝ている。一命は取り留めたと思う」
「そうですか…ありがとうございます」
「なぁ、アルティミアって誰?」
「「えっ!」」
俺以外の者達が驚きの声を上げた。どうしてだ?そんなに有名人なのか?アズライトって、芸名なのかな?
「まさか…まだ伝えていないんですか?」
リリアーナが先ほどクマがしたように、マリーとビースリーに目配せをした。二人は苦笑いを浮かべる。
「なんで…墓場まで持っていくことじゃ無いのに…」
それは、アズライトの秘密ってことか?
「アズライトって、王城付きの侍女じゃ無いのか?これで二度目だぞ、命に関わる事件で助けるのは?」
初めて会った時も、見逃していたら、死んでいたと思う。
「それは…本人の口から聞いて下さい。アルテ…いえ、アズライト様の希望ですから」
アズライトは王女付きでは無いのか?まさか王様付きの愛人なのか…それは、俺に死亡フラグが立ちそうだぞ。あんなこと、こんなこと、そんなことをしてしまったし。トンズラするかな?
---アルティミア・A・アルター--
うん?ここは…身体がだるい…ここは私の部屋のベッドか…なんか夢を見ていたような。思い出せない。何が遭ったんだ?
「アルティミア様…」
目を真っ赤にしたリリアーナがいた。
「なんで泣いているんだ?」
「覚えていないんですか?」
「何をだ?」
随分長い間寝ていた気がする。
「何が遭ったんだ?」
「その前に…ダンさんに伝えていないのは、どういうことですか?」
ダン…そう言えば、ダンと旅行していたような…
「何を伝えてないんだ?」
「ご自分の身分をですよ!」
リリアーナが怒っているのだが…なんでだ?
「何を怒っているんだ?私は私ではないか…あっ!」
そうだ。ダンは私を王城付きの侍女と思っているんだ。で、今回の依頼の前に伝えようと…あの空飛ぶ船を見て、動揺のあまり伝え損なったのだった。
「伝えないと…うっ!」
「まだ、動けませんよ。死の淵を彷徨っていたんですからね」
えっ!
「どうして?」
「はぁ~」
リリアーナにため息を吐かれてしまった。私は何かをしでかしたのか?
「ダンさんが、アルティミア様のことを王様付きの愛人と誤解しちゃいましたよ」
「え…えぇぇぇぇぇ~!どうして、そうなったんだ?この国に王はいないぞ」
「現在、捜索中です。どこかに逃亡しています。王様付きの愛人に手を出して、打ち首の上獄門だって…なんで、正直に身分を明かさないんですか?!私まで会えないじゃないですか?!」
プンプンと怒り出したリリアーナ。えぇぇっと、怒るポイントはそこ?
---ダン---
まさか、アズライトが王様付きの愛人とは…もう、あの国には居られないな。
「どこに行きますか?」
メイプルに訊かれた。
「追っ手の来ない場所だな」
現状でも追っ手が来られない移動式ギルドホームで、お空の上にいるが、ここではバトルが出来無い。
「いや、逃げないでも大丈夫ですよ」
マリーは妙案でも浮かんだのか?
「アズライトは王様付きの愛人では無いからですよ」
「いや、しかしなぁ」
「そもそも、この王国には王様はいません。先の戦争で王様は戦死しているのですよ」
戦死?
「で、今王族に残っているのは3人の王女様です」
「まさか王女様付きの愛人なのか…」
まさか…アズライトは両刀遣いだったのか?
「それはそれで、そそるシチュエーションですが違います。アズライトは第一王女様本人ですよ」
「は?」
意味がわからん。王女が、なんで侍女のロールプレイしているんだ?
「アルター王国第一王女であるアルティミア・アズライト・アルター王女本人です。王女とバレると、ダンが去って行くのではって、中々言い出せていないかったのですよ」
え…俺、王女様とあんなことを…打ち首の上獄門で済むかな?
「兎に角、逃げるのでは無く、向き合った方が良いと思いますよ」
マリーとビースリーはアズライトの正体を知っていたようだ。交互に俺を説得してきた。。
「そういうもの?」
「そういうものだと思います。それに、このまま逃亡ではリリアーナはどうなるんです?駆け落ちするにしても、彼女の妹はどうするんですか?」
俺はまだ駆け落ちまで考えていないのに、マリーは俺の一手先を読んでいるのか?
---一宮渚---
暗殺者マリー・アドラーの新作が掲載される。ダン達のクランに入って以来、作中のマリーが生き生きと動き出したのだ。暗殺のターゲットの為に、恋のキューピッド役をやらせてみたら、生き生きと動き出したのだ。
「第2部はこういう展開なんですか?う~ん、ありだと思いますよ」
担当編集さんに連載の依頼を頂いた。正君に報告しに行くかな。週末にモロボシ洋菓子店へと向かった。月末の週末は混んでいる。クラン<楓の木>の面々が集合しているからだ。来月の試作ケーキが目的であったりする。あのクマも来ているし。月夜と月影の中の人まで来ているよ。そのうち、デンドロ公認のケーキ屋になるんじゃ無いのか?
「あっ!マリー」
レジにいたアスカに声を掛けられた。
「今日は一段と混んでいるねぇ」
「夏休み最後の週末だからね。あぁ、そうだ。フカの中の人も北海道から来ているよ」
そのせいで、ごった返しているのか?夏休み最後の週末の為、遠方組もいるのか。
「あぁ、連載が決まったよ。これ、プレゼント」
「ありがとうございます」
連載1話目の載った雑誌をアスカに渡した。
「おぉ!マリー、連載開始おめでとう」
クマの中の人だ。コイツ、私の作品の愛読者だった。ずっと、続編を待っていてくれていた。
「ありがとう。今日はレイレイは?」
「くやしがっていたよ。今日はロンドンだ」
世界ツアー真っ盛りのレイレイの中の人。そうか、ロンドン公演じゃ、来日は無理だな。
空いている席に着き、ケーキセットを頼むと、新作ケーキがオマケで付いて来た。
「今回は干し柿のモンブラン風です」
ウェイトレス見習いのサリーがサーブしてくれた。ヘッドに干し柿のクリームが載り、中には栗?これって、マロングラッセとクリームチーズのクリームかな?風味が豊かで、なんか癒やされる。
「これ、高くなりそうだね」
材料原価が高そうである。正君は納得出来る味の為なら、価格高騰を抑えるなんて妥協はしない。
「1000円近くなるみたいですよ。マロングラッセとクリームチーズですからね」
苦笑いしているサリー。来月はイズ達の悲鳴が聞こえそうだ。周囲を見回すと、見慣れない外国の少女がいた。誰だろうか?カスミ、イズのいるテーブルにいるんだけど…
「あれは誰?」
近くにいたフレデリカに訊いた。
「ユーゴーの中の人だって。驚いちゃったわ」
へ?ユーゴーってイケメンだよね?え、えぇぇぇ~!中の人って、少女だったのか…う~む…ベルばらチックだな。
「複雑な家庭の事情で、正さんの家で同居して高校卒業したら、ここで働くんだって」
何?このお店の女子率が高くなっていくでは無いか。既にメイプルとサリーも高校卒業したら、このお店で働く気満々だし。それにフレデリカ、ミィも狙っているかもしれない。あぁ、マンガのネタが一杯転がっているのね…