もうすぐ、第二回イベントがスタートする。サリーもメイプルも気合い充分なようだ。
「ダンさん、なんでカバームーブを覚えたのですか?」
サリーからもっともな質問を受けた。このパーティーの不動な盾役には、メイプルが居る訳だが、
「貫通攻撃対策だよ。俺がメイプルを貫通攻撃から守る為だ」
俺のHPなら単発の貫通攻撃を食らっても、瀕死になる程度である。だが、メイプルはその単発攻撃でも危険になる。絶対的な防御力の為か、HPの値が低いのだった。下手すると即死もあり得るし。
「なるほどね。で、レベルが上がっていないのに、パラメーターが上がったのは?」
「まぁ、何回か、殺されたからだな」
死ぬと、各パラメーターの値が10%増しになる、チートなスキル。
「レベルを上げるより、手軽だし」
「上位陣にPKしたんですか?」
「炎帝のミィには、何度も瀕死にされたよ。聖剣のフレデリカには数回返り討ちに遭ったというか」
魔法使い系の駆逐が課題だな。
「スラッシュは?」
「購入費がなかったよ。対人戦はドロップが期待出来無いからさぁ」
実際の要因は、回復薬の大量購入である。メイプルを護るって、瀕死になるって事に近い。その為の回復薬である。
「今回のイベントは探索型です!目玉は転移先のフィールドに散らばる三百枚の銀のメダルです!これを十枚集めることで金のメダルに、金のメダルはイベント終了後スキルや装備品に交換出来ます!」
運営の声が広場に響き渡った。いよいよ開始のようだ。
「前回イベント十位以内の方は金のメダルを既に一枚所持しています!倒して奪い取るもよし、我関せずと探索に励むもよしです!」
俺とメイプルは狙われる対象ってことだな。まぁ、俺は面が割れていないと思うが…
「死亡しても落とすのは、メダルだけです!装備品は落とさないので、安心して下さい!メダルを落とすのは、プレイヤーに倒された時のみです。安心して探索に励んで下さい!死亡後はそれぞれの転移時初期地点にリスポーンします!」
リスポーンするのは初期地点か。そうなると、ボスクラスとの戦闘は、迂闊に死ねないなぁ。
「今回の期間はゲーム内期間で一週間、ゲーム外での時間経過は、時間を加速させている為、たった二時間です!フィールド内には、モンスターの来ないポイントが幾つもありますので、それを活用して下さい!」
2時間で一週間?リアル生活で時差ボケしそうだな。
運営からの説明が終わると、初期地点に転移した…
◇
「三人分のメダルが取れるといいな」
三人分だとメダル30枚もゲットしないとダメだ。
「メイプル、大丈夫よ。私とダンさんがいるから」
サリーに期待されている俺。周囲を見回すと草原のど真ん中に転移したようだ。見回す限り、モンスターもプレイヤーも見当たらない。空の上には浮遊島や優雅に飛行するドラゴンなどが見える。
「どっちへ行く?」
「取り敢えず、あの山を目指しましょう」
俺の問いに、メイプルが山を指差し答えた。俺は迷わず、メイプルを背負った。
「ちょっと…恥ずかしいですよ~」
メイプルの言葉をスルーし、
「このまま、走るよ」
「了解」
サリーが俺の横で併走した。メイプルの徒歩の速度だと、あまり移動出来無い可能性がある。既に俺の耳元で、メイプルの寝息が聞こえる。ヨダレはカンベンだぞ。
しばらく走ると、ゴブリン達が寄ってきた。だが、サリーのナイフの肥やしにされていく。相変わらず、攻撃を華麗に回避していくサリー。俺は、山に向かって走り続けている。サリーがゴブリンに遅れを取るとは思えないからだ。
が、メイプルを背負ったまま、落とし穴に落ちた俺。しかし、ケガの功名なのか、落ちた穴の底で、メダルを2枚ゲットした。こういった小規模なイベントは、参加人数分のコインが貰えるのか?落とし穴に落ちたと言うのに、俺の背中で安眠しているメイプル。大物である。
「こいつ、大物か?天然なのか?」
「メイプルは天然だよ」
俺の独り言に、返答してきたサリー。その後、一時間も走ると、山の麓にまで来られた。
「あぁ~!よく寝た」
メイプルが起きた。今回はヨダレは無かったが、寝言が多数聞こえた。
「山道は歩いてくれ」
「うん」
背負っても良かったのだが、普段の装備だと、地形ハンデがデカイのだ。これから、登山するのだが、足場が草原に比べ遙かに悪いのだ。俺の防御力だと、もしがあるかもしれない。なんせ、噴水の縁に頭が当たり、死んだ事があるし。
「後ろから来る三人組に注意して」
サリーが危険を探知したようだ。メイプルが緊張感を感じさせない欠伸をすると、後方の三人が動いた。
「「【超加速】」」
同時に加速した俺とサリーが、瞬殺で三人を迎撃した。
「序盤だから、メダルは無いわね」
メイプルは囮役。が、演じている訳でなく、素だとサリーが教えてくれた。
「メイプルはランカーだから、狙って来るはずよ。ダンさんは、どこにでも居る顔だからねぇ~」
デフォルトのアバターだから、狙われない。装備もほぼ初期装備だし。
頂上に着くまでに、数回襲われるが、総て返り討ちにした。が、メダルは無い。
「よっと、やっと頂上だね~」
頂上には祠があり、転移陣が発光していた。クエストの入り口だろうか?
「後方から4人組」
サリーの言葉。俺とサリーが身構える。
「あっ!クロムさんだぁ~」
メイプルが、やってきたパーティーへ、無警戒で近づいて行く。あっ!あの赤い大盾持ち…以前、PKでデスさせている。
「おぉ~、メイプルか。おっと、俺達に戦意は無いぞ」
俺とサリーの様子に気が付き、四人は得物から手を放した。
「彼女が噂のサリーちゃん?」
「そうです」
メイプルがクロムと仲良さげに会話していた。
「彼は、新人さん?」
「ダンさんですよ~」
「え…あのレールガン?」
だから、攻撃レンジは短いんだよ。
「メイプルとレールガンが手を組んだのか?戦いたく無いな」
クロムというプレイヤーは、俺がPKだとは気づいていないようだ。
「それで…この祠はどうするの?どっちかしか報酬は貰えないんじゃない?」
サリーがメイプルに訊いた。コイツらなら、瞬殺で倒せそうだな。
「ダンさん、サリー…いいかな?」
何かを強請るような表情のメイプルに、サリーと俺が頷いた。メイプルはクロム達に譲りたいようだ。
「クロムさん、お先にどうぞ」
「いいのか?こういうのは、早い者勝ちだぞ」
もし、転移した直後に、コイツらが瞬殺されれば、お宝有りだな。俺の導きだした腹黒い考え。が、メイプルは、素で譲ったんだろうな。
「じゃ、先に行くよ」
クロム達が転移されて行き、しばらくすると、転移陣が再度光を帯びた。
「サリー、当たりのようだな」
「そうですね。お宝に期待かな」
「え?どういうこと?」
メイプルだけ、分かっていないようだ。
「取り敢えず思い着くのは二つだ。一つは転移後に、装備やメダルを回収するだけだったから、速攻で終わったっていう可能性。だけど、この場合、再転移はあり得ない。同じ場所にメダルなどを、運営が置くとは思えない。そして、もう一つは、アイツらを瞬殺するレベルの敵がいたってことだ」
「そうなんだ…」
メイプルが納得したようだ。俺は、戦闘に向かう前に、装備を蒼きシリーズに変えた。なんか、ヤバそうな敵がいる予感である。
「準備はいいかな?」
それぞれのステイタスをチェックしておく。
メイプル
Lv24
HP 40/40〈+160〉
MP 12/12 〈+10〉
【STR 0】
【VIT 170〈+81〉】
【AGI 0】
【DEX 0】
【INT 0】
装備
頭 【空欄】
体 【黒薔薇ノ鎧】
右手 【新月:毒竜】
左手【闇夜ノ写:悪食】
足 【黒薔薇ノ鎧】
靴 【黒薔薇ノ鎧】
装飾品 【フォレストクインビーの指輪】
【タフネスリング】
【命の指輪】
スキル
【絶対防御】【大物喰らい】【毒竜喰らい】【爆弾喰らい】【瞑想】
【挑発】【極悪非道】【大盾の心得Ⅳ】【体捌き】【攻撃逸らし】
【シールドアタック】
【HP強化小】【MP強化小】
【カバームーブI】【カバー】
サリー
Lv19
HP 32/32
MP 25/25〈+35〉
【STR 25〈+20〉】
【VIT 0】
【AGI 80〈+68〉】
【DEX 25〈+20〉】
【INT 25〈+20〉】
装備
頭 【水面のマフラー:蜃気楼】
体 【大海のコート:大海】
右手 【深海のダガー】
左手 【水底のダガー】
足 【大海のレギンス】
靴 【ブラックブーツ】
装飾品 【空欄】
【空欄】
【空欄】
スキル
【状態異常攻撃Ⅲ】【スラッシュ】【ダブルスラッシュ】【疾風斬り】【筋力強化小】
【連撃強化小】【ダウンアタック】【パワーアタック】
【スイッチアタック】【体術I】
【短剣の心得II】【器用貧乏】【ディフェンスブレイク】【超加速】
【火魔法Ⅰ】【水魔法Ⅱ】【風魔法Ⅱ】
【土魔法Ⅰ】【闇魔法Ⅰ】【光魔法Ⅱ】
【ファイアボール】【ウォーターボール】
【ウォーターウォール】
【ウィンドカッター】【ウィンドウォール】
【サンドカッター】
【ダークボール】
【リフレッシュ】【ヒール】
【MP強化小】【MPカット小】
【MP回復速度強化小】【魔法の心得II】
【釣り】【水泳Ⅹ】【潜水Ⅹ】【料理I】
【採取速度強化小】【気配遮断II】
【気配察知II】【しのび足I】【跳躍I】
【毒耐性小】
ダン
Lv30
HP 1206/1206
MP 215/215
【STR 221〈+30〉】
【VIT 0(+95)】
【AGI 71(+50)】
【DEX 71】
【INT 0(+20)】
【LUK +100】
装備
頭 【蒼き龍騎士のヘッドガード(INT+20)】
体 【蒼き龍騎士の鎧(VIT+25)】
右手 【蒼き竜の爪(STR+15)】
左手 【蒼き竜の爪(STR+15)】
足 【蒼き竜の脚(VIT+25,AGI+50)】
靴 【蒼き龍騎士のブーツ(VIT+25)】
装飾品 【惨劇の指輪】
【蒼き竜の翼(VIT+20】
【空欄】
スキル
【復讐者】【運の付き】【返り討ち】【不屈な精神】【毒体質】
【大物食らい】【蜂の一刺し】【超加速】【32連打】【爆炎の守護者】
【ホーリークロウ】
【釣りV】【料理V】
【ヒール】【カバームーブI】
耐性
毒、麻痺無効
爆発系、炎系無効
「ダンさん、鬼のようなステですね」
「攻撃手段が少ないけどな」
「なんで、カバームーブがあるんですか?」
さっきも訊かれて、答えた気がするが…デジャブか?
「あぁ、貫通攻撃対策だよ。メイプルへの貫通攻撃には、俺が盾になる。HPの高さで生き延びられると思うんだよ。で、悪食の無駄使いを減らすのさ」
メイプルの貫通攻撃対策は、悪食である。だが、回数制限が付いた今、無駄に使わせる訳にいかない。
「私の代わりに受けてくれるんですか?」
メイプルが心配そうに俺を見つめていた。
「メイプルは痛いのは嫌だろ?心配するな。その為に、ヒールの巻物も購入したし、回復薬を大量に持ち込んでいるんだから」
「そうなんですか…」
「行こうぜ。お宝が待って居るぞ」
三人で転移陣に進んだ。