---ダン---
結局、ロキ・ファミリアは約束を守らずに、居座った。まぁ、NPCの考えることは、ワガママなことなんだろう。それよりも、来月のケーキのアイデアが出ない。10月、11月は難しい。りんご、みかんでは未だ早い。ブドウにするかな…
なんの気無しに、『時空渡り 強い相手』を起動してしまった。どこかの部屋に転移した俺。ここはどこだ?目の前にはデカイヤツがいる。なんか、ヤバそうな相手である。直感的であるが、背筋に冷たいモノが流れて行く。
『倒すまで離脱が出来ません』
アリスからの警告のようだ。アリスは出て来ない。それはアリスでもヤバい相手ってことだ。機龍化しようと思うのだが、出来無い。何故だ?
『空間サイズよりも大きくは成れません』
おい…相手はデカイんだぞ。これ、ダメじゃ無いのか…相手が弾幕を張ってきた。蒼い装備にクイックチェンジして、翼を展開して逃げる。『炎帝』や『爆炎』を叩き込むが、効果がなさげ…どうするんだ。これ?近づいて、32連打しか無いかな?って…弾幕のせいで近づけない。何か手は無いか?何か…そうだ!『英雄召喚』を起動した。現れたのはクマでは無くて…なんで、コイツなんだ?
---レイ・スターリング---
いきなり、知らない場所に転移した。ここはどこだ?
「止まるな!逃げろ!」
アイツの声だ。迫る弾幕。俺はシルバーに乗り、弾幕から逃げる。
「おい!ここはどこだ?」
「わからない」
相手はデカイヤツだ。名前は「An incarnate of the Radius」と表示されているが、HPバーが10本以上ある。これ、どうやって倒すんだ?弾幕を2倍返しのフルカウンターで返しても、倒せない予感がする。それよりも、あの弾幕って喰らったら、ダメじゃないのか?
「囮になってくれ。俺が倒すから」
囮になりようが無い。弾幕相手にどうしろって言うんだ?
「あの固いのはいないのか?」
「いない。たぶん、アイツじゃ囮にならない。これ、マズいだろ?」
1発でも貰えば、即死レベルの弾幕って何?それでもアイツは果敢に攻めている。相手の拳を両方潰しているが、弾幕が止まらない。
「懐に入れれば、倒せるんだけど…」
無理…喰らったらお終いの攻撃に対して、どう囮になれと言うんだ?後味が悪いと言うより、スッキリ爽やかって感じでデス出来そうな攻撃力である。
「なんで、月夜じゃなくて、コイツを召喚したんだ?」
アイツが嘆いているが、俺は、お前に巻き込まれたんだぞ!アイツは青い鳥を召喚していた。細かい氷の礫を撃ち出している鳥。HPバーが僅かずつ減少しているが、これって倒すまでに、一体何日掛かるんだ?そんなレベルの減少である。
「これって、無理ゲーだろ?」
「俺もそう思う」
初めて、アイツと意見が一致したが、状況が変わる訳では無い。
「アニキかフィガロさんを呼び出せよ」
「俺の『英雄召喚』は、一番最適なヤツを一人だけ呼び出すんだよ。なのに、お前かぁぁぁぁ~!」
俺で悪かったなぁ。って、どうするんだ、これ?弾幕だから、弾切れ待ちか?アイツは遠距離攻撃をしているが、HPバーの減りは微々たる物である。ダメだな、これ…
---ダン---
俺にとっての最大火力であるアナの攻撃もミィの魔法も、大したダメージを与えられない。って、レイがやられたようだ。おい!ダメージを入れて行けよ!再度、『英雄召喚』をすると、メイプルが出て、一撃で消えた。もう一度、『英雄召喚』だな。
サリー、クロム、カスミ…皆一撃で消えている。回避盾も弾幕相手では分が悪かったようだ。サリーでも回避出来無い攻撃をクロム、カスミが回避出来る訳もなく、召喚された直後に、事態を把握する前に消えていった。どうするよ、これ…
兎に角、クマか月夜が出るまで『英雄召喚』をするしかないか。
「一緒に戦います」
漸く、弾幕に消される事無く、事態を把握した者が現れた。この子って、ミアの店で唇を奪った女性だったかな?その女性は、風を纏えるようで、弾幕の弾道を変える方向で、回避していく。『機械神』の火力なら、ダメージを入れられるのだが、あの弾幕の回避は無理だろうな。いや、待てよ。『機械神』になれば、メイプルの固さも手に入るはずだよな。そこに俺の機動力があれば…ダメ元で『機械神』状態で蒼き龍の翼を展開した。おっ!展開できた。
「全武装展開!発射!」
おぉぉぉぉ~!みるみるHPバーが減っていく。って、彼女が疲れて来たのか、弾幕に飲まれそうだ。
「『カバームーブ』」
彼女の元に移動して、抱えて、弾幕から逃げる。
「大丈夫か?」
「ちょっと、疲れました」
俺の魔力を譲渡して、休める場所は…俺の胸の中だけか?抱えていると、攻撃出来無いんだけど…どうするかな?
「なぁ?魔力を譲渡するから、少し囮になれるか」
「上手くいったら、ご褒美を貰えますか?」
甘えるような彼女の表情にクラッと…そうだ、今は戦闘中だな。
「差し出せる褒美なら、差し出すよ」
「分かりました」
彼女が満タンになるまで魔力をギフトしてから、彼女をリリースし、蒼い装備にクイックチェンジした俺は、敵目掛けて特攻していく。弾幕以外の攻撃なら、防御力無視のホーリークローをたたき込める。そして、たたき込んだ瞬間に、MPをドレインしていく。
あれ?弾幕が弱くなった感じがする。弾幕って、魔力由来なのかな。って考えている内に懐に入り込み、渾身の32連打をたたき込んだ。お願いだ、当たり出ろ!願いが通じたのか、1発目で当たりを引き、ドット落ちしていくデカ物エネミー。次の瞬間、彼女と別のフィールドに飛ばされて、スキンシップタイムとなった。
---サリー
目の前でメイプルがギョッとした。これはこれで珍しい表情なのだが、原因に問題がある。ダンさんが経験値をメイプルにギフトしたのだ。それは、あの弾幕魔を倒したってことである。
「で、最後はどうやって仕留めたんだ?!」
死神衣装のレイ・スターリングが、ダンさんに訊いた。コイツもダンさんに『英雄召喚』されたという。ここはデンドロのクランホームのリビングルーム、クランメンバーほぼ全員、それ以外を多少、召喚したダンさん。私も含まれるが、殆どの者は、状況が分からないまま、スポーン後に即キルされていた。いきなり転移したと思ったら、目の間に弾幕が迫っているという緊迫した場面に迎えられたのだ。
「アイツの懐に入り込み、パンチ一発だよ。俺の攻撃って、基本パンチとキックしか無いし」
レイは仲間のルーク・ホームズと共に、このクランに入団した。ダンさんへの誤解は解けたようだが…
「いや、だからぁ~、そうじゃなくて、どうやって、あの弾幕を抜けたんだ?」
因みにレイは、入団の儀式になりつつあるメイプルとの手合わせで、負けている。レイの得意技なのか、毒ガス攻撃と火炎攻撃をものともしないメイプル。そんなレイは捕食者のエサになっていた。その後、見た目が闇属性に見える二人が、魔王軍団内抗争ってことで、クロムとも手合わせをし、こちらも負けていた。
「呼び出した女性が、風を纏えたから、囮になって貰ったんだよ」
うん?新しい女か?どこの世界の女だ?私の知っている女性で、風を纏える者はいない。
「それは誰だ?」
炎帝モードのミィが訊いた。
「ロキ・ファミリアのバレン某さんだよ」
アイズ・バレンシュタインだっけ?ミアさんのお店で、ダンさんが唇を奪った女である。あれがダンさんの好みなのか?因みに、ミィは召喚されていない。
「その女は強いのか?」
レイが興味を持ったようだ。
「アレは弱かったけど、戦闘はお前より強いんじゃないかな?」
アレって、アレだよな。そうかスキンシップはしたのか。今度、リアルで迫ってみるかな。
---キリト---
漸く、デンドロの世界に辿り着いた。一緒に来たシノン、シリカ、リズベッドと共に、王都の入り口でクライン、エギルと合流した。
「クランは作っておいた。クラン名は<アインクラッド>だ」
クラインが手続き関係を担当してくれた。
「で、どうする?」
「王都で決闘は出来るのか?」
「いや、決闘都市ギデオンに行かないとダメだ」
「まずは観光がてらに、街を見学だな」
とシノン。エギル、クラインの案内で王都を見て回る。
「あの高級旅館みたいな建物が、クラン<楓の木>のクランホームだ」
クランで喫茶店を運営し、クランホームの一部を、国へ迎賓館として貸し出しているそうだ。敵情視察を兼ねて、喫茶店に入っていく。
「えっ!キリト君…なんで…」
アスナがウェイトレスをしていた。リーファもいる。
「迎えに来た。帰ろう、アスナ」
アスナとリーファが、建物の奥へと走って行く。俺は追い掛けたのだが、いきなりの3点狙撃で全身がドット落ちしていった。
「お客さん!当店はお触り禁止ですよ」
銃を持っている女性に言われた。
---ダン---
アスナの元彼で、リーファの兄であるキリトが現れたのだが、アスカ、レン、マリーによる3点狙撃でキルされたそうだ。これで72時間はここには来られない。
「アイツ、PKリストに入れたから、王都に踏み込んだら消すよ」
と、アスカ。PKリストを見ると、キリトと仲間の男性達が載っていた。
「あのシノンって女は?」
「お兄ちゃんがどうにかすれば?アイツの得物はライフルだから、街中でのPK戦では無力だと思うよ」
ならいいか。それよりも問題は…
「来月のケーキはどうする?」
「お兄ちゃんの案だと、ブドウだっけ?」
「12月はイチゴの予定だ」
クリスマス商戦には、イチゴのショートケーキで勝負の予定である。しかし、その前に11月が立ち塞がっていた。
「後、隠し球もあるけど…」
季節感は夏だと思うが敢えて、初冬で勝負したい食材がある。
「隠し球は興味あるクマ」
なんで、コイツがいるんだ?
「クマはなんで、ここにいるんだ?」
「あの死神レイの保護者として入団したのよ」
と、サリー。コイツ、ここでポップコーンを売るのか?
「アイツも反省したクマ。だから、水に流してクマ」
そうだ!あの重大局面で、なんでコイツは召喚出来無かったんだ?
『大きさが拒否されました』
アリスから正解が出た。俺の機龍と同じ理由で、あの弾幕魔の前で戦え無い大きさだったらしい。そう考えるとメイプルの機械神は、優秀な能力だな。火力はクマ並で、コンパクトサイズって言うのはいい。俺もコンパクトサイズのユニークスキルが欲しいかな?
『今後、破壊王、死神のスキルも使えますよ』
レイの能力はどうなんだろうか?俺には要らないんじゃ無いかな?毒だったらヒドラがあるし、炎だったら爆炎があるし。カウンターもフルカウンターがあるもんな。
『戦姫のスキルは、今までに無く、おいしいのでは?』
美味しいけど…アイズは、あの後、俺達のクランに入団した。俺達のファミリアって言えば良いのか?
『NPCですので、リアルへのお持ち帰りはダメですが、将来的に創造されるユウキの住む国(サーバー)に移住は可能です』
そうだ。そっちもどうにかしないと…資金調達かぁ。
---白峯理沙---
週末にお店に行くと、新作の試食が出てきた。一口食べると、そう来たかって思える味だった。
「これって、トウモロコシのケーキですか?」
「正解だよ、理沙」
コーンのピューレをスポンジで挟んでいるのだが、ウエットタイプのスポンジはコーンポタージュの味である。まんまトウモロコシである。
「トウモロコシの甘みだけで、甘味料は一切使っていない」
これは危険だ。後を引くほど旨い。コーンの甘みが優しい上、旨いのだ。
「醤油ジュレを薄く載せて軽く炙ったのもあるけど、洋菓子としての販売は出来無いってNGになったよ」
その問題作も試食したみたのだが、焼きモロコシ…旨すぎる。これは喫茶ブースでの裏メニューになるそうだ。
「で、こっちが、ブドウのケーキ」
サバランチックなケーキであった。ブリオッシュをワインに漬け込み、中にはブドウのジャムと生クリームが入っていた。
「アルコール濃度を下げる為に、ブドウジュースでワインを割っているんだよ。そんなに酔うほどじゃ無いだろ?」
「えぇ」
「予約要だけど、大人バージョンはワインを煮詰めて、ブランデーを混ぜてある」
イズさんは大人買いしそうだ。
「そうそう、12月にレイレイが来日するって」
ディナーショウかな?ネットでのコンサートの告知は無い…正さんがビラを私の目の前に置いた。
『モロボシ洋菓子店プレゼンツ レイチェル・レイミューズミニライブ 人気漫画家の一宮渚先生のサイン会』
と書かれている。この為に来日するのか?いや、正さんの両親に恩を売るのか?あの二人は…
「理沙は背伸びしなくていいんだよ」
私の頭を軽くポンポンして、奥へ下がっていく正さん。私、お子ちゃまじゃないんだよ~!女としての野望を持っているんだよぉぉぉぉぉ~!
ようやくダンとレイは和解した感じ(^^;