生と死の交差点
---白峯理沙---
次に訪れたのは宗教法人『月世の会』が運営する医療施設だった。そこで、何やら打ち合わせをする正さん。
「さて、帰るか。後は俺の方で世界を用意するだけだ」
世界を用意?
「楽しい時間って、いつまで続くと思う?」
帰り道、そんなことを正さんに訊かれた。
「ずっと、続いて欲しいけど…」
「そう…無限には難しい。世界の理を変えないとね」
世界の理を変える?そんなこと、人間には無理である。正さんは何になろうとしているんだ?
「いつまでも理沙達の傍にいたいけど、高校卒業したら明日奈とユーリの三人で、フランスへ修行しに行く。でも、ゲームの世界ではいつまでも寄り添えると思う」
えっ!海外留学するの…お菓子の修行…
「だから、そんな顔をするな」
私はどんな顔をしているんだ?正さんの両手で私の頬は包まれ、正さんの親指が私の涙を拭う。あれ?いつの間に、涙が出たんだ?
「ゲームの世界では、毎日会える。俺達のいない間、経営関係の勉強をしてくれると嬉しいな」
それって…将来を考えてくれているってこと?
「レイチェルが手放さないと思うから、秘書として傍にいて欲しいなぁ」
苦笑いしている正さん。あぁ~、あの『酒池肉林』女は正さんを手放さないだろうな。お金も名誉もあるから、正さんがヒモにならないように、私が傍にいないと。よっしゃ~!将来に向けて息込んだ私。それが、数日後…あんなことになるなんて…
---諸星正---
家に帰ると、アリスからメールが届いていた。万能の使い魔になると、ログインしていなくても自立行動してくれるようだ。デンドロってゲームは恐ろしい仕様だ。プレイヤーがインをしなくても、ティアンはティアンの時間を自分の意思で生きている。一体、AIモジュールを同時に何個動かしているんだ?サーバーの性能も恐ろしく高機能なのだろうな。
『新しい世界の目処が着きました。インをして打ち合わせをしたいです』
と…現状での一番の問題を解決してくれたようだ。だけど、AIにそんな権限があるのか。まぁ、インをして詳しい話を訊いてみよう。時間が足りないのだから。
インをすると、アリスが待っていた。
「新しい世界を用意できました」
「それは新しいサーバーを用意してくれたのか?」
「サーバーとは違います。人間とAIでは理が違いますから」
サーバーでは無いのか?
「仲間のAIに、領域を無限に生成出来る者がいるので、領域を無限に生成してもらうようにして貰いました」
無限に?圧縮技術かな?だけど、記憶モジュールは動的変化するから、圧縮には向かないが…
「どんな仕組みなんだ?」
「仕組みを説明するのは難しいと思います。マスターに対して、失礼な言い方ですが、AIの知識に人間が優るとは思えませんので」
それはそうだな。人間では見落としてしまう事を、AIは完璧に網羅してくれるし。
「分かった。じゃ、実験をしよう」
「はい!」
---白峯理沙---
週が明けた月曜日…楓との共に学校へと向かう。
「えっ!ユウキって、そんなに悪い状態なの?」
週末に正さんと一緒に、ユウキの中の人の見舞いに行ったことを、楓に話した。
「保って、今週末くらいだって…」
信号待ち…向こう側には小学生がいる。
「私も誘って欲しかったなぁ」
むくれる楓。青信号になり、横断歩道を渡り始めた…いきなり、左折してきたトラック、その先には小学生が…固まる私の横を楓が走っていく。小学生を歩道に突き飛ばし、猛スピードで迫るトラックの前に立ち、カバンを盾の様に持ち、『悪食』と叫んでいる。えっ?『悪食』?ここゲームじゃないけど…
トラックと真っ向勝負した楓は、私の目の前でトラックにぶつかり、トラックに血肉骨を散布している。一方、トラックは身体の正面を無くした楓を貼り付けたまま、疾走して行った。これは夢?夢だよね?現実世界で『悪食』なんかしないよね?
夢から覚めると、知らない部屋のベッドの上にいた。私を心配そうに見つめている両親。これは、どういう状況なんだ?
「ここは?」
「病院よ」
「なんで?」
「可哀想に…記憶に障害があるのね」
私を見て涙ぐむ母親。父親は病室から出て、誰かを呼んでいる。父親が戻ってくると、後ろには正さんがいた。
「大丈夫か?理沙…」
正さんの目は充血していた。今まで泣いていたのだろうか?頬には涙の粒が残っていた。
「私はどうして、ここに?」
「楓が交通事故に遭い、それを目撃して、お前は倒れたんだよ」
悔しそうな正さん。楓が事故に遭った?あれ?夢の中の話をなんで、正さんが知っているんだ?
◇
翌日、警察の人が来て、事情聴取を受けた。楓が事故にあった時のことを訊かれたけど、全身が震え、真面に応えられない。
「こんな状況なのに、まだ話を訊くんですか?目撃者たくさんいたでしょ?」
正さんが、警察の人に文句を言ってくれている。そして、正さんと話合った警察の人達は病室を出て行った。
「理沙は兎に角寝ろ。いいな!」
正さんが私の手を握り、傍にいてくれている。嬉しいから、うぅん、安心してかな。私はいつの間にか、深い眠りについたようだ。