---白峯理沙---
司法解剖から正さんが戻って来た。モロボシ洋菓子店の喫茶コーナーに祭壇が設けられている。遺影の正さんは笑っている。だけど、ここには笑っている者など、一人もいない。
レイチェルさんが、アカペラでアベマリアを歌い、棺に向かって歌を捧げている。世界的な歌姫は、今は亡き愛する者へ、どんな顔で歌っているんだろうか。参列者席からは表情がまるで見えなかった。
この場には、正さんが生前、心配をしていたユーリがいない。ユーリの姉に殺人容疑が掛かっているそうで、現在事情聴取を受けていた。なんでも隣人に毒を盛ったらしいのだ。動機が不明で、妹のユーリから事情を訊いているそうだ。その姉は、殺人をした翌日に引っ越しをし、雲隠れしたと言う。
そう言えば、クマ兄さんとその弟も来ていない。デンドロ三昧なのだろうか。こんな時まで…
翌日、正さんを載せた車が、縁のある場所を巡り、終着点に着いた。火葬場には、最後のお別れをしに来た仲間が集まっていた。ミィ、ミザリー、ユイ、マイ、イズ、カナデ、ビースリー、レン、月夜…だが、スターリング兄弟が現れることは無かった。何かあったのか?まさか、メイプルに呼ばれたの?
式場の出口で、参列者には正さんのレシピで作ったショートケーキが、明日奈さんの手によって手渡された。
「兄さんの最後のレシピです。たぶん、販売はしません。味わって…兄さんを偲んでくださると嬉しいです」
気丈に、一人一人に手渡していく明日奈さん。ここには結城明日奈と桐ヶ谷直葉は来なかった。来られないのだろうか。最期の別れくらい、来て欲しかったけど…
---結城明日奈---
まさかキリト君が精神的に病んでいたとは…未だに罪を罪と認めず、正当性を説いているそうだ。もう正さんと会えないなんて…
SAOサバイバー症候群と言う言葉が新聞紙面、テレビで取り上げられている。その為、私は外出禁止になった。何かの事件に巻き込まれるのを恐れた両親により、自宅に軟禁されているのだった。
「ねぇ、一緒に来てくれませんか?」
ベッドの上に横になっていると、メイプルの声が聞こえた。なんで、メイプルが私の部屋に?
「ダンさんが、待っているんです」
ダンさん?正さんでなくて?その時、全身に寒気が走った。確か、メイプルの中の人、本条楓は交通事故で死んだはずだ。はっとして、声の主を見ると、いつもの黒い装備を身に付けた笑顔のメイプルがそこにいた。その後ろには笑顔のユウキも…
「やぁ」
ユウキが私に柔らかい笑みを向けていた。私を誘うような嬉しそうな笑みである。
だけど、ユウキは…紺野木綿季という少女は死んだはずだ。私は葬儀に参列したんだよ。なんで化けて出てきたの?成仏出来ないの?ねぇ、ユウキ…
「さぁ、一緒に行きましょう」
行くって、どこに?二人が私の腕に抱きつき、私をどこかへと連れ去っていく…
---白峯理沙---
結城明日奈が死んだそうだ。自宅のベッドの上で、幸せそうな笑顔を浮かべて…不審死で解剖に回されたが、外傷も体内に異常も無く、苦しむ事無く心停止したらしい。薬物反応も毒物も検出されなかったそうだ。
「これって、どういうことだと思う?」
直葉が訪ねて来た。次は自分だと言う直葉。確証を訊くと無いらしい。
「偶然じゃないの?」
口ではそう言ってみたが、必然だと思う。毎日、一人ずつ消えている。楓から始まって、正さん、木綿季ちゃん、もしかして、アズライトも、一人飛んで結城明日奈。
「調べてみたんだけど、レイ・スターリング、本名椋鳥玲二って言うらしいんだけど、この前殺されたそうだよ」
えっ!あの死霊術師姿の聖騎士の中の人が…だから、クマ兄さんは参列者にいなかったのか?
「容疑者はユーリちゃんのお姉さんだって…」
だから、ユーリが事情聴取を受けているのか。どう繋がるんだ?これって、連続殺人なのか?いや、違う!
「正さんは、あなたの義兄に殺されたのよ!私の目の前で…」
「それは…そうですが…でもね、連続してクラン<楓の木>のメンバーばかりが…」
そう、それはそうなんだけど…やはり、楓が誘っているのか?トラック相手に『悪食』をかます根性があるなら、一人で成仏して欲しいなぁ~。