---ダン---
先輩はやる気十分のようで、入念に準備運動をこなし、剣の素振りもしている。どうするかな。俺、殺す手段しか持っていないし…出来るなら、先輩をお持ち帰りしたいのだが…
アリス、何か良い案はあるか?
『えぇ、彼女のアシスタント達に脅しを掛けました。ただ、彼女自身のステイタスは高いです。なので、受け流すのが良いと思います』
なるほど…受け流せばフルカウンターは発動しない。『クイックチェンジ』で蒼い装備に着替えて、『召喚』と声に出し、カエデとアリスを召喚した。
「えっ!ダンって、召喚師なの?」
鎧を装備した召喚師は、あまりいないせいか、先輩は驚いているようだ。
「です。彼女は俺の剣のアリス、こっちは俺の盾のカエデです。俺自体は弱いので後ろから指示を出すだけにします」
「三対一だと!卑怯だぞ!」
一番大きな女性が叫んだがスルーする。この陣形が一番安全なのだ。で、重要なのは、二人を避けて、俺に近づいて来て貰うことだ。閃きの神様が、俺に妙案を授けてくれた。
「いいですよ。三人と戦いましょう」
先輩の表情は楽しそうだ。戦いになると思うなよ…
---マイル---
ダンは少女を二人呼び出した。ステイタスを見る限り、二人共人間ではないようだ。種族欄は不明とある。
『ナノちゃん、あの二人は何者かしら?』
相棒のナノマシンのナノちゃんに訊いた。
『マイル様…申し上げにくいのですが、今回の戦い、我々は参戦出来ません』
えぇぇぇぇぇ~!なんでよ~!
『我々よりも上の階位の者が、あちらにいらっしゃるんです。ご了承ください』
それはナノちゃん達よりも高位な存在が居るってことである。もしかして、種族不明って、女神様なのか?諸星君…それはズルいよ~!
だが、女神と戦える機会など、そうそう無い。これはチャンスである。女神に私の力は通用するか試せる。
「じゃ、始めましょうか?」
瞬間移動で諸星君の目の前に出て剣を振り抜こうとした、その時『子羊の行進』と諸星君が声を発し、何かを発動した。
---ダン---
俺にもたれかかるように、眠り込んだ先輩を抱きかかえ、アリス達と共に迷宮都市の館へと転移した。これが、一番リスクの少ない方法である。眠り込んだ先輩をベッドに寝かせ、後の事をマリアに頼んだ。そして再び、あの3人の元へ戻った。
「マイルをどうしたのよ!」
赤毛の少女に訊かれた。
「身柄は預かった。じゃ、ね」
それだけ言い残し、再び館に転移した。これで、彼女達は先輩の生死を気にしないで良いだろう。
「お兄ちゃん、あの娘は誰?」
俺が眠った女性をお持ち帰りしたことに疑問を感じたのか、アスカに訊かれた。
「覚えているかな?みさと先輩だよ。この世界に転生していたんだ」
「あのみさと先輩?フィギュア作りがちょ~上手かった」
「そうだよ。フィギュア作りでは、俺の師匠だ」
この姿の先輩ならメイプルとツートップを張れるだろうな。
---マイル---
久しぶりに、もの凄く良い感触のベッドに横たわっていた。ここはどこだ?部屋を見回すが、記憶に無い場所である。
「お目覚めですね。今、ご主人様をお呼びします」
優しそうな女性が声を掛けてきた。ご主人様?旦那さんなのか?それよりも、なんで私は寝ていたんだ?
『マイル様は、彼のスリープ攻撃で爆睡してしまったんですよ』
ナノちゃんから解答を得た。そうだ!諸星君と戦っていたんだ。むぅぅぅぅ~、この私に子守り唄でも聞かせたのかぁぁぁぁ~!
「あぁ、先輩。目覚めたんですね」
諸星君ことダンが部屋に入ってきた。
「これはどういうこと?」
「俺には戦う能力は無いんですよ。基本、相手を瞬殺することしか出来ない。だから、先輩を殺したくなくて…まぁ、ここで一緒に暮らしてください」
「専業主婦はいやですよ」
「俺達の所属してクランのマスターとツートップを張ってくれれば問題は少ないと思います」
クラン?
「なんて、クランなの?」
「<楓の木>です。だけど所属したのは、先輩が…その後ですから…」
ダンの表情が曇った。私の生前の最期を思い出したのだろう。すまない…空気が読めなくて。
「ダンさん、なんですか?」
黒髪に黒い装備を着けた笑顔のかわいい少女が、部屋に入ってきた。でも、この子ってさっきの子じゃ無いの?しかしステータスには、種族は転生人間とある。他人の空似か?
「彼女は俺の先輩が転生したマイルだよ。メイプルとコンビを組んで欲しい」
「え?あぁぁぁぁ~、かわいい」
笑顔のかわいい少女に「かわいい」と言われ、私の表情が緩んでいく。その笑顔のままで少女は私に近寄って来た。うっ…まさか、この子がオリハルコンを砕いたのかな?
「クラン<楓の木>のマスターのメイプルです。防御と毒攻撃が得意です」
私から離れ、恥ずかしそうに自己紹介をしてくれたメイプル。モジモジ感が堪らない。でも、防御が得意って…まさか、思いっきり硬いのかな?試しに拳固でメイプルの頭を殴ってみた。結果、軽く殴ったのだが、後悔するほど痛かった…殴られたメイプルは更に恥ずかしそうにしている。可愛すぎる。硬くて、可愛いって、最凶か?
「先輩、無茶はダメですよ。メイプルのタックルを食らえば、瀕死レベルですからね」
触るな危険レベルなのかな…おいおぃ…
『彼女、あり得ない防御力ですよ。ドラゴンが踏んだら、ドラゴンの足を貫通するレベルかと思います』
心なしかナノちゃんの声が、怯えているように思える。ナノマシンを怯えさすレベルって、何?でも、ドラゴンに踏まれても問題無いのは脅威である。この私でもダメージが入るもの。
「しばらくは、行動を共にしてください。先輩のパーティーメンバーもその内、連れてきますから」
う~ん…諸星君のケーキは是非食べたいなぁ。食べてから帰るのも悪く無いかな。