---街尾 火楽---
ティアとルーもなんかやらかしたようだ。二人は意識朦朧として、女体盛りの器として俺に献上された。献上品は白身の刺身と、ナニカの味噌和えのようだ。それぞれの品が二人の臍の上に少量ずつ盛り付けされていた。
「何をやらかしてきたんだ?」
まず白身の刺身。すりおろしたワサビを少し載せ、醤油を少し絡め、口の中に…うん?なんだ、この刺身…なんとも言えない歯ごたえ、噛む程に身の味が口の中に広がっていく。もう1枚刺身を箸で摘まんで、じっくりと見つめる。この繊維の模様って…魚ではなくて、タコの足か…湯がいて、皮を剥いたのか。この大きさだと、随分と大きなタコだな。それに、このワサビも良い。ダンの国にはワサビ田があるのか?
次に和え物を食してみた。これは…カニ身のかに味噌和えである。カニが手にはいるのか。味噌が新鮮であるから、捕り立てを捌いたのだろう。
献上品を食べ終わり、ティアとルーを見つめた。死んではいないがピクリとも動かない。箸で突っつくと、適度に反応する二人。眠らされているのだろう。この二人は何をやらかしたんだ?
翌日、ルーが目覚めた。話しを訊いてみると、二つ名を名乗った瞬間に制圧され、身ぐるみ剥がされて、釜ゆでの刑にされたそうだ。ルーとティアを瞬殺って、どんだけ強いんだよ、ダンは…って、よくよく話しを訊くと、ダンにやられた訳でなく、少女にやられたって…
それを聞いた村の武闘派達は、歓迎武闘会を開催すると意気込み始め、計画を進め始めた。大丈夫なのか?無様に全敗はカンベンしてくださいよ。えっ?魔王様と始祖様が出るから、2勝は確実?あぁ、ドースも出るから3勝はいけるのか?本当に言い切れるの?
---ダン---
歓迎会の前日、みんなで五ノ村を訪れた。村長からお詫びの品として、五ノ村で使えるお金を貰えたのだ。これで、待望の日本食三昧が出来そうである。
「本当だわ。ラーメン横丁があるのね」
アリサが各店の換気扇の下でスープの香りを楽しんでいる。
「野菜ゴロゴロカレーもあるんだ。キース、アレを食べるわよ」
カタリナも嬉しそうだ。俺とアスカは甘味処巡りをし、この世界での可能性を見極めようとする。メイプルとマイルは、目に付く食べ物を片っ端に…って、アイツらの胃袋はどうなっているんだ?
「小麦粉と玉子も仕入れたいなぁ。サトゥーは日課で、ここに買い出しに来られるか?」
「毎日は無理かな?でも週3位で、仕入れには来たいですね。ここで仕入れて、シガ王国で売るのもありですし」
「お兄ちゃん、カレー粉も作れそうだな」
カレールーが店で売っている。カレー粉をつくる材料も売っていた。後、ここに無い物を開発して売り込めば良いようだ。
「見た感じ、海産物に付けいる隙がありそうだよ」
ミトが俺も思っている部分に気が付いていた。マニアック系の食材が無いのだ。このわたとかカラスミとかキャビアとか。辛子明太子も無いようだ。手間を掛けた食材なら、売り込めるかもしれない。
「今回持ち込んだのは、イカ肝のカラスミもどき、干しナマコ、カニ、イカの塩辛、タコ刺し、タコワサだな。これを商材として、パーティー時に振る舞う。あぁ、カニの甲羅焼きはサトゥーに任せるよ」
「渾身のポップコーンも持ってきたクマ」
この世界でポップコーンを広める野望を持つクマ兄さん。
「そうだ。後バターもあったな」
毎朝、ポチタマコンビと、メイプルマイルコンビが競うようにして。バターを作ってくれていた。
問題は、歓迎武闘会ってなんだ?俺達とマジで戦うのか?村長とこの若い衆は血の気が多いのか?売られたケンカは全量買い取るけどね。
◇
翌日、大樹の村へ向かった俺達。村に入る入り口に、戦闘フィールドが作られていた。まず戦って友好を深めるってことか?
「どうする?」
常識派のサリーに訊かれた。既に、クランマスターはやる気満々である。他のヤツラも…ヤル気が出ていないのは、非戦闘員と、俺、サリー、レイくらいか…
「舐められたら終わりよ!」
と…非戦闘員のカタリナが煽っている。
「特訓の成果を披露する場所ですね…」
連日サリーに面倒を掛けているメーヴィスがブツブツ言っているし。
「5VS5の武闘会を開催いたします。こちらの出場選手を紹介いたします」
ファンファーレと共に、アナウンスが始まった。速攻で茶番は終わらすかな?
「最強の魔王様、吸血鬼の始祖様、龍王のドース様、武神ガルフ様、皆殺し天使のグランマリア様!」
歓声が上がっている。
俺にマイクが渡された。俺が紹介するのか?どうするかな。
「クラン<楓の木>にケンカを売って後悔するなよ。戦うのは俺、ダン・モロボシが相手だ!」
「ず、ず、ズルいです!」
「一人占めはダメだって…」
いや、誰を選んでも苦情が出るなら、俺ならいいだろう?
「一人でか?何様のつもりだ?!」
誰かがヤジを飛ばしてきた。迷わず、照準を合わせていた相手に、『ウッドオクトパス』による串刺しからの生命力『ドレイン』を開始した。目の前で、大きな串刺しが5本現れ、それぞれの体力をドレインしていく。
「まだ、始まっていないぞ!卑怯者め!」
俺達に殺到するような村人達。
「メイプル、機械神で威嚇!カエデ、身捧ぐ慈愛で非戦闘員をガード!赤き誓い、サリーはザコを殲滅、ミト、サトゥーは上空から壊滅魔法の準備しろ!」
ふふふ
含み笑いが聞こえる俺達の陣営。そもそも狙撃の照準に合っていることに気づかない時点で負け決定なんだよ。さてっと、村長はどう収めるのかな?
---街尾 火楽---
嫌な予感はしていた。ウルザ達の心をへし折り、ティア達に生まれてきたことを後悔させた勢力である。武闘会なんか屁でも無いだろうに。始祖様達は相手の攻撃を避けること無く受けて、既に地面に転がっていた。一瞬でこの大陸の最強クラス5名を無力化って、何の悪い冗談なんだ?
「待て!早まるな!この度の無礼は、皆を代表して僕が謝罪します。すみませんでした」
ダンの元へ行き、土下座して無礼を詫びた。そのことで周囲の殺意が霧散していく。ダン達からは、そもそも殺意すら無かった。無かったのだが、死を予期するに充分な恐怖を感じた。彼らは戦い慣れしていて、殺し慣れているんだろう。
「そうか。セーラ、瀕死の者達に施しを」
「はい」
ダンの言葉により、聖女のオーラを纏う女性が、始祖様達の元に向かい、蘇生の呪文を行使してくれたようだ。
「ねぇ、撃っていい?」
全身から砲門を何基も生やした少女がダンに訊いた。
「ダメに決まっているだろ?威嚇だぞ!撃ったら威嚇にならない。お前はやっと見つけた食材の宝庫を灰にするつもりか?」
「いえ…そんなことは…あぁ、そんなマジでキレないでくださいよ~」
「ねぇねぇ、因みにアレを撃つとどうなるの?」
違う少女が訊いた。
「この角度からだと、村から10キロ程度はクレーターに、その衝撃の波動で、この大陸の1/4くらいに大地震が発生かな?」
うん?あれって子供の頃に見たアニメの宇宙戦艦●マトのはどう砲に見えるんだけど…マジですか…
---ダン---
色々と混乱があったが、食事パーティーに移行出来て良かった。あの時躾けた子供3名は、俺と村長と会話を正座をして聞き入っている。今回持ち込んだ商材は総て買い取りで、今後も買い取ってくれそうである。
「そうだ、先ほど作ったパンケーキがあるんです。食べませんか?」
昨日のうちに生地は仕込んで、サトゥーのアイテムボックスに入れてあったのを、焼き上げてみたのだ。ふわふわ食感のパンケーキ、メイプルシロップを掛け、レモンバターを載せて、果物のソースを纏わせる。
試食タイム…無言の時間が始まった。この時間は料理人として勲章である。本当に旨い物を喰うときには、無言になるものだ。
「これは…」
食い終わった村長からの感想は無言だった。
「レシピ、要りますか?」
「勿論ですよ。お店に出せ、看板メニューに出来る旨さがあります」
また、商談が成立した。
◇
「美味しかったです。どうやったんですか?」
メイプルに訊かれた。
「お店でやっていたことをしただけだよ。ただ、良い食材があっただけ」
レシピ通りに作って差が出るのは、食材の違いだけである。
「良い食材?」
マイルがポチをモフモフしながら訊いてきた。ポチはパンケーキを大切そうにモグモグと食べている。
「メレンゲだよ。良い玉子に巡り会えて、より目の細かいメレンゲが出来たんだよ」
メレンゲは玉子の白身だけを分離して泡立てた物である。これを生地に混ぜることで、ふっくらフワフワ食感になるのだ。
「ただ、メレンゲ作りは、根気と力のいる作業だから、素人向きでは無いかな」
「なるほど…」
マリアとルルがメモしている。玉子を購入したら、館で指導するかな。