---ダン---
王子の婚約者が立て続けに消息を絶つ事件が多発し、不穏な空気がソルシエ王国を覆い始めていた。特に、カタリナ、キースとメイドのアンが消えたクラエス家は、呪われた公爵家と噂されているそうだ。
今、目の前にクラエス公爵夫妻が座っており、俺の横にはカタリナ、キースが座っていて、カタリナの背後にはアンが立っていた。
「君が首謀者ってことか?」
カタリナ、キースの父親で、現クラエス公爵家の現当主ルイジ・クラエスが、俺に詰め寄っている。
「首謀者の意味は分かりませんが、一緒にいるのは事実です」
今日は交渉に来ている。ソルシエ王国を捨てて、新生クボォーク王国に移住して欲しいと。
「王子との婚約をしておいて、こんなどこの馬の骨ともわからない男に、走ったの?!」
カタリナの母親でキースの義母である、ミリディアナ・クラエスは怒りを含んだ声で、叫ぶように言った。
「ご主人様は、立派な方です。私のしたいように、生きたいように、私の生き方をアシストしてくれます。それのどこに、非難されなければいけないことが含まれているんですか?そもそも、私は王子に婚約を破棄してくださいと、何度も伝えました。その度に王子は、私の額にはまだキズが残っているって言うのですよ。ねぇ、どこにキズが残っていると言うんですか?そんなアリもしないキズを理由に、私の自由を奪う権利が王子にはあるのですか?」
いると言うんですか?そんなアリもしないキズを理由に、私の自由を奪う権利が王子にはあるのですか?」
「カタリナ…王子には権利がある。国民は王子の願いを叶える義務があるんだ」
なんか、無茶苦茶なことを言っている気がする。この国の王子は、人民を支配する魔王なのか?俺の知る限りの魔王達よりも横暴だろうがっ!
「キースはどうなんだ?」
「僕は…姉さんのしたいように見守るのが役目です。ご主人様には感謝しています。姉さんと一緒に暮らしたいと言う、僕のわがままな願いを叶えてくれましたから」
「アン!あなたはどうなんですか?あなたはクラエス家に仕えるメイドでしょ」
「そうですが…私のお遣いする主はカタリナ様です。ですから、カタリナ様に付いていきます」
並行線だな。そろそろ、俺の限界だ。前以て用意しておいた魔方陣をこっそり発動した。屋敷の外が光に包まれて、窓から見える景色が一変している。が、窓に向かって座っているのは俺達なので、公爵夫妻は気づいていない。
「ふふふ、お父様、お母様、もう私達の勝ちですわ」
窓から見える景色を見て、勝ち誇るようにカタリナが宣言をした。そう、このクラエス家の敷地ごと、新生クボォーク王国の決めておいた貴族街に、強制転移させてしまったのだ。話し合いは並行線になることはわかっていた。なので、強制執行でかまわないと、カタリナが提案をしたのだった。後、肩身の狭いマリアの母親と実家も、新生クボォーク王国に転移させてある。貴族街ではないが、今後は平民街になる場所にである。
「何を言っているんだ?」
勝ち誇ったようなカタリナの表情を見て、窓の外を見たクラエス公爵…
「何?!ここはどこだ?いつの間に…」
屋敷の外で出て行った。そこは荒れ地の広がる貴族街予定地の一角である。家を建てる為の資材が不足しているなら、家ごと移築すれば節約になるって発想である。まぁ、或る意味エコな発想と言うか。
「ここはどこだね?」
「ようこそ、新生クボォーク王国に」
してやったりのカタリナ…いいのか、これで。
---ジオルド・スティアート---
クラエス公爵邸とマリアの実家が消えた。跡形も無くだ。どういうことだ?屋敷ごとって、神隠しのレベルでは無い。ナニカが絡んだ陰謀に思える。クラエス公爵邸のあった場所に行くと、ただ空き地が広がっていた。今まで、ここには何も無かった風景が広がっていた。引っ越しのレベルでは無い。神様に連れて行かれたのか?
調査隊を組織して、調査をさせているが、どこへ行ったかの痕跡すら残っていないと、報告が上がって来た。
「どういうことだ…」
結婚式を前にして、婚約者二人に逃げられた問題ある王子として、有名になりつつある。そして今度は、婚約者達を消した後、家族や家までも消し去った王子って言われそうである。まるで、俺が消したようじゃないか。こんなにも愛しているのにどうして?
「アランは、どう思うんだ?」
同じく婚約者が消えた弟に訊いた。
「どうも何も…わからないことだらけだよ。アニキは、どうしてカタリナを消したんだ?そんなに独占したかったのか?」
コイツも、俺が消したと思っているのか?
「お前なぁ!言っていいことってあるんだぞ!」
「アニキに、何か問題でもあったんじゃ無いのか?」
俺と揉めた日を境に、弟であるアランも、俺の前から消えた…
---ダン---
カタリナの提案で、ソルシエ王国の第四王子アラン・スティアートを『強奪』した。因みにメアリの婚約者だったらしいが。
「で、説明した通りよ、アラン。この国の王子様の教育係になって欲しいのよ」
一国の王子に物を頼む態度では無いカタリナ。カタリナの語気にタジタジ気味のアラン。
「で、その為に、俺を攫って来たのか?」
「そうよ。ジオルドと違って、性格が悪くないし、ドSでも腹黒でも無いでしょ?色々と難のある人が教育すると、生徒がダメになるから」
「う~ん、まぁ、攫われた以上、戻る気は無い。カタリナの依頼を受けるよ」
「ありがとう、アラン」
う~ん…カタリナって魅了持ちかな?結局、クラエス公爵も折れてくれ、新生クボォーク王国の公爵として、貴族候補者達の教育係をしてくれることになったし。
九内に頼んで、平民街のランドマークとして銭湯を作って貰った。これで、イチゴ牛乳、フルーツ牛乳などを風呂上がりに飲めるな。
「君はこの国にとって王なのかい」
何故か銭湯にいるクラエス公爵。
「俺ですか?この国にとって、雑用係ですかね。足り無い物を工面する係と言うか」
王なんてメンドーな者になりたくない。俺は、俺のやりたいことをするだけである。
「王にはなりたく無いのか?」
「ならないです」
即答する俺。
「君みたいな優秀な執務官のような者が在野にはいるんだな」
俺が優秀?何を誤解しているんだ?俺は一介のパティシエだぞ。
「この国は良くなりそうだな」
「なりそうではなく、するんですよ。その為の人材をハンティングしているんですからね」
「なるほど…しかし、この銭湯と言うのは良いものだな。肩書きを気にせず、肩の荷を降ろして、ノンビリと出来る」
「出た後の珈琲牛乳は格別ですよ」
「そうだな」
クラエス公爵のここ一番の良い笑顔を見た気がする。