---街尾 火楽---
夕食…炊きたてのご飯に、イカの塩辛、鰺の塩焼き、キャベツと人参の糠の浅漬け、そして納豆汁。我が家で作ったことのない料理がまだあった。レシピを貰わないと。食材の殆どは五ノ村での購入であるだろうから。
「イカはどこで獲れるんです?」
シャーシャトーの港では、イカ、タコ、カニの漁師がいなかった。この世界では食べる習慣が無かったのだ。
「ダンジョン産ですよ。分類的には魔物肉になるかな」
それは、魔物の内臓で塩辛を…ゴロウン氏の顔色があまり良くない。シャーシャトーの街では魔物肉を食べる風習は少ない。魔物を態々食べなくても、食材が豊富であるのだ。
「ここでは基本、食材はダンジョンで得ています。五ノ村を見つけてからですよ。食卓が賑やかになったのわ」
デザートにはあのパンケーキに、ミルク味のアイスが添えてある一皿だった。それに珈琲…この世界では紅茶が主流で、珈琲なんて物は見かけていなかった。
「珈琲豆はどこにありましたか?」
「それもダンジョン産ですよ」
この街では、ダンジョン有りきの食事のようだった。文化の違いというより、得られる食材の問題だろうか。
一夜明けて、朝食はパンだった。それも懐かしの食パンである。トースターで焼き上がったばかりの食パンからは、薄らバターの香りがする。
「このパンのレシピもお願いします」
「いいですよ。ジャムもどうですか?この黒いジャムがお薦めです」
ダンから渡された黒いジャム。イカスミか?パンに塗って食べると…海苔の佃煮だった。
「海苔が獲れるんですか?」
「いえ、それはダンジョンで採取出来るコケの一種ですよ」
ここのダンジョンは食材に満ちあふれた狩り場のようで、彼らはそこで戦闘経験を積んで…
「ウルザに狩りを体験させたいです」
「狩り?あぁ、それはここでは日課ですから、非戦闘員以外、全員参加です。ですので村長のお子さんも漏れなく全員参加決定ですよ」
へ?日課?全員でダンジョンに潜って居るのか…訊いてみると、日課と言っても毎日で無く、在庫量の残りが少なくなると狩りに行くそうだ。
「じゃ、まずクボォーク王国に行きますか。マイルは道草せずに現場へ行けよ」
「はぁ~い」
ダンと共にクボォーク王国へと転移した。
◇
クボォーク王国の新築の城は、日本で言うところの庄屋の屋敷みたいである。内部は畳では無くフローリングであった。ダンによると、手間も掛けられないそうだ。畳は手間が掛かるものなぁ。
「巨大な城を作る人手も予算も無いからね。今は、街の復興が優先だし」
城を中心にして広がる貴族街、そして平民街。貴族街と平民街の間には商人街が広がる予定らしい。現在、家はまばらに建っているだけで、街と言える雰囲気は無い。
「ランドマークとして、商人街に銭湯を作ってある」
確かに昔懐かしい銭湯が建っている。男湯と女湯に分かれている裸の社交場である。あぁ~、珈琲牛乳がある。イチゴ牛乳も…昔懐かしい瓶入りだし。
「こんな感じです。今は移民のスカウト事業が優先です。農地は先日奪った国の領地をまるまる開拓中です」
戦争しているのか。こんなにも疲弊している国なのに、戦争する意味が分からないが、きっと訳ありなのだろう。
◇
そして、ラビの村へ…クボォーク王国よりも栄えている村である。畑は稼働しているし、銭湯の他、温泉旅館、そして病院まである。五ノ村よりも豪華な福利厚生が為されているようだ。
「ここは基本、バニーと呼ばれる亜人を隔離している村なんだって」
村の奥にある畑では、ウサ耳のある亜人達が農作業をしている。
「だから、インフラはまだまだなんだ。人間至上主義である国からの補助も無い。ただ、天使に愛でられたというバニーという種族を保護の名の下に隔離しているんだそうだ」
一瞬、ダンの身体から発する怒りのオーラを感じた。
「ここも奪うのかい?」
「いや、クボォーク王国とは違う大陸で飛び地すぎる。だから、この村を再生したい知り合いに協力しているんだよ」
ダンの知り合いだと転生者か、召喚勇者か?
「召喚魔王だよ」
僕の心を読んだのか、意外な言葉を口にした。
「魔王って言うたけで、そんなに強くは無い。だから、戦力として俺達が手を貸すのさ」
あのオーバーキル軍団は、防御特化するととてつも無く強いんだろうな。想像するだけで、身震いしそうだよ。
今夜は温泉旅館に泊めてくれるそうだ。マイケル氏は、手帳に売れそうな商材をリストアップしている。今後、エチゴヤを通じて販売を目論んでいるそうだ。エチゴヤって、越後のちりめん問屋だよな、由来は…そうなるとダン達は世直しをしていくのか。確かに、現代日本で生きた僕達にとって、この世界で理不尽に感じることが多々あるが、そうでもない部分もある。手を加えるにしても匙加減が問題である。
僕は神様から万能農具を与えられ、理不尽に晒される事無く、順調に生きてきたけど、ダン達は違うのだろう。でなければ、あの異常な火力を神様が見過ごす筈はない。ダンがその気になれば、世界征服も可能だろう。この世界の戦力では、メカゴ●ラとはどう砲を前にして、勝てるとは思えない。僕だって、僕だけの身を守ることは出来るが、仲間全員を護ることは不可能だろう。
「村長、下水処理はどうしているんだ?」
「下水処理は、国のインフラに任せているよ。この世界にはこの世界のヤリ方があるだろうからね」
ダンは、下水処理場でも作ったのか?
「なぁ、まだ未完成だけど下水処理場を見るか?」
作ったのか…そして、見せて貰った。下水の処理の過程を…そうか、ここには水が豊富に無いから、再生水が必要になるのか。あと、培養土の生産かぁ。僕には、この万能農具があるけど、万能農具を持っていないダンはそこから作っているのか。目の前にいる万能農具持ちでは無い天才パティシエは、まず水と土を作り始めたのだろう。
夕食…チャレンジ料理が並んでいた。スッポン鍋か?コラーゲンたっぷり…だけど、大きく無いか、これ?えっ?魔物の亀?魔物は成長が早いから下水処理場で間引いたのね。でも、旨いことは旨い。魔物と明記しなければ売れると思う。
そして、ロブスター…これもデカイし、ここって海が無いよね?あぁ~そうですか、魔物のザリガニなんですね。旨いけど…これも魔物って明記しなければ売れると思います。そして極めつけは魔物のサザエもどき…旨いけど、肝は食用にならなかったのね。まぁ、下水処理用の生物だし…
正統派の料理も並んでいた。刺身の舟盛り…五ノ村で醤油が手に入り、実現した料理だそうだ。ワサビはシガ王国産なのか。ってシガ王国ってどこ?クボォーク王国の近くなの?魚、貝の類いはダンジョン産の魔物だけど旨い。マグロ、イカ、タコ、鰹に鯛…アンコウ鍋もあるのか。これは仕入れたいなぁ。エチゴヤにリクエストを出しておこう。
翌日の朝は、玉子かけご飯に、ダンジョン産のコケを使った焼き海苔に、鰺の干物、ラビの村名産の人参を具にした味噌汁。この人参、旨い。さすが名産品だな。え?この人参はバニーにしか作れないの?僕でも無理?本当かな。タネを貰ったので、帰ったら試して見よう
◇
そして、無事に帰宅して、ラビ人参を植えてみた…確かに、僕でも作れなかった。それだけ、貴重な村なんだな、あそこは。援助出来るなら、援助してあげたいなぁ~。