---ダン---
この街の責任者であるギルド長のカミーユと、クボォーク王国の間で調印が無事に終わった。俺達、クラン<楓の木>もこの街に、クランを結成し、冒険者登録も済ませてある。この街のダンジョンは、階層と階層を繋ぐのは階段で無く、黒門と呼ばれる転移装置なのが特徴で、各階層が個性豊かな立地にあるらしい。そして、このダンジョンで獲れるカニも美味らしい。
他で見たことの無い仕様として、ダンジョン内での冒険者達の活躍を、神台というモニタで観戦出来るようになっていた。1チーム5名で構成されるパーティーごとに神の目と呼ばれるカメラが数台、ダンジョンに着いてきて、神台へ映像を送っているそうだ。後は、このダンジョン内で全滅しても、身ぐるみ剥がれるだけで、生きてダンジョンから出られるそうだ。身ぐるみ剥いだ装備は、所有者の俺の物になるようだが、俺達が死んでも、身ぐるみ剥がされるらしい。それは嫌なので、死なないようにしたい。
カミーユ一押しのクランは<無限の輪>と言うらしい。パーティー構成はタンク2アタッカー2ヒーラー1だと言う。俺達だとチーター5になるのだろうか?全員ヒールが出来る。タンクが出来るのは俺とメイプルだが、アタッカーでもある。
街中にクランハウスを所有して、休日にはこのダンジョンで鍛えるのも手である。マイルを除いた赤き誓いとか、村長の子供達とか…シガ王国の迷宮都市で、一人前のハンターになって欲しいから。ダンジョンの難易度はシガ王国の迷宮都市の方が上である。あちらは、食材であることを前提で狩らないとダメなので、ここのダンジョンのように倒してお終いでは困るからである。
クボォーク王国への編入を正式に認めた日、カミーユに、クラン<無限の輪>マスターのキョウタニツトムを紹介して貰った。
「ダン・モロボシです」
ツトムの表情が驚いている。コイツも転生者か、召喚者なのだろう。俺の名前を聞いて驚くヤツは、現代の日本から来たヤツである。俺のアバター名は、とあるヒーローの変身前の名前であるのだから。
「お前も…なのか?」
他のヤツラに聞かれたくないのか、ツトムの部屋に連れ込まれた俺。
「俺は死んだ後に、異世界転生したんだ。お前は?」
「このダンジョンをクリアすれば、元の世界に戻れるらしい。だから、死んではいないはずだ」
多分、コイツは戻れないと思う。元の世界へ戻れるのは、所有者が神であった場合で、俺が所有者だと返す術が無いからだ。面倒なので、黙っておこうかな。その後、ツトムと当たり障りの無い情報交換をして、館へ帰還した。
◇
館に帰ると、カタリナが欲しい人材がいると言う。また、拐かすのか?構わないけど…拐かす相手の情報をカタリナ、キース、アランから訊き出した俺。今回のカタリナが拐かした相手は、ニコル、ソフィアのアスカルト兄妹だと言う。父親はソルシエ王国の宰相でアスカルト伯爵家の当主だそうだ。親子ごと拐かすか。アランが言うには、優秀な宰相のようだし。
今回は『強奪』での誘拐では無く、話し合いでの連れ去りにしようと思う。俺、カタリナ、アラン、そしてクラエス公爵の4人で、アスカルト伯爵の屋敷を訪れた。
「これは…一体…」
俺達を見て驚く伯爵。突然、神隠しにあった3人が目の前に現れたのだから、驚くよな。
「他人の目に見られる訳にいかない。中で話したい」
クラエス公爵の言葉で、俺達は屋敷の中へ通された。アスカルト伯爵へクラエス公爵が説明をしてくれた。クボォーク王国の再建に手を貸して欲しいと。
「しかし、それですと、この国はどうなります?」
ソルシエ王国の未来を心配するアスカルト伯爵。
「それなら、俺の優秀なアニキがどうにかすると思う」
元第四王子のアランが、彼の心配を払拭しようとしてくれた。
「くだらない貴族遊びは出来ませんが、どうかクボォーク王国の為にお力をお貸しください」
俺達は、みんなでアスカルト伯爵に頭を下げた。
◇
アスカルト伯爵の屋敷は敷地まるごと、クラエス公爵の屋敷の隣に転移させた。そのことに驚くアスカルト伯爵一家。クラエス公爵は、もう慣れたようで苦笑いをしていた。これで、この国の政治はアスカルト伯爵に丸投げし、この国の外交はクラエス公爵と、ミツクニ公爵に任せられる。
総合商社エチゴヤも徐々に大きくなっているようだ。
「村長のところとゴロウン商会と取引は順調だよ。シガ王国との取引も順調だ」
サトゥーがホクホク顔である。各地への出張のおかげで、各地の優良な娼館巡りが出来ているそうだ。巨乳好きなサトゥーだが、そのサトゥーに心を寄せるミトはちっぱい系であり、妹枠からはみ出すことが無いそうだ。
俺は性欲が強い方では無いので、サトゥーからの誘いを断っていた。そっちは間に合っているから。レイレイとアズライト、アスナ、JK化したユーリ、サリー…死後の世界故、血の繋がりが無くなったアスカと…もうこれ以上無理である。
「姉さんに興味が無いんですか?」
キースに訊かれた。
「興味が有っても、そういう関係にはなりたく無い。それより、開拓は順調か?」
カタリナ達の作業場を視察中の俺。キースが案内係をしてくれていた。
「荒れ地でも育つ、ジャガイモ、トマトなどを中心に植えています」
まだまだ、培養土が足り無いようだ。どこか、人口密集地に下水処理場を作らないとダメかな。村長が万能農具で耕してくれると言ってくれたが、その申し出を断った。村長有りきの農業ではクボォーク王国の為にならない気がしたからだ。
さて、どうするかな…
---メイプル---
神のダンジョンを上から攻めている。メンバーは私、サリー、マイル、アルフレート、ウルザである。パーティー構成は、タンク2アタッカー3になるらしい。回復役は私、サリー、マイルが務める。
今日の獲物はシェルクラブである。コイツは倒した後に食材になるそうだ。
「メイプルは身捧ぐ慈愛、マイルは爪を牽制して」
サリーが指揮をしている。と、言うのも…私とマイルが攻撃すると、一撃で倒せたのが、食える部分が大幅に無くなると言うか…
「いい?食べられる部分をより多く、持ち返るわよ。で、今日はコイツを周回するからね」
まさか、シールドバッシュで、身体が消滅するとは…ダンさんはカニ味噌狙いだって言ったのに…マイルも聖剣で一刀両断して、カニ味噌が砂浜に食われていた。どうすればいいの?サリーとマイルが爪を相手に、回避盾をしている。その隙に、アルフレート、ウルザが攻撃を食らわせている。アタッカーの二人がヘイトを稼ぐと、マイルがカニの関節狙いでダメージを入れ、三人より多くヘイトを稼いでいく。
なんか、つまらない。だけど、ダンさんのグリグリの刑は避けないとダメだ。あれは痛すぎる。歯医者さんを思い出す痛みだよね。
---ツトム---
神台で、ダンの仲間達の戦いを観察していた。パーティー構成はタンク2アタッカー3と言う尖った構成であるが…タンクの一人は高火力であった。シールドバッシュ一発でシェルクラブの胴体が消えた。しかし、倒したのに、その高火力のタンクが、回避盾のパーティーリーダーに怒られていた。彼らは一度出て、再度シェルクラブに戦いを挑んだ。今度はアタッカーの一人の一閃で胴体が真っ二つになったシェルクラブ…しかし、またもパーティーリーダーに怒られるアタッカー。
出口である黒門の処で待ち構え、彼らに話しを訊くことにした。すると、ダンから「かに味噌をゲットして来い」と指令を受けていたそうで、かに味噌を手に入れるように工夫して倒せって、指令が出ていたそうだ。シェルクラブを一撃で倒した二人は、とぼとぼと周回を重ねるべく、入り口の黒門へと歩いて行く。
その後も彼らの戦いぶりを見る為、神台を移動して、観戦を続けた。ただ、倒すだけでなく、特定部位を残す戦い。それは難易度が上がる作戦である。あのタンクの少女は、その後、天使姿になったり、魔物姿になったり…彼女のジョブって何だ?見た事が無いスキルを使っている。しかし、作戦を変える度に、失敗を重ねている。そして最終的に、天使姿に固定したようだ。天使1アタッカー2回避盾2、よく分からないパーティー編成である。
「これは…」
俺の隣に顔見知りの迷宮マニアのピコさんが座り、あの異常なパーティーに目を輝かしていた。
「あの天使が分からない。どんな役目があるのか」
「私も初めて見ました。見た感じエリアヒールをしているのかな?アタッカー達が攻撃を受けても、ダメージが入っていない感じですよね」
言われて見れば、あの強烈なハサミ爪の一撃を食らっても、アタッカー達はダメージを負っているように見えない。メモにその事実を書き込んで行く。
「あのパーティーは知り合いですか?」
「えぇ、知り合いのクランのパーティーです」
「どこのクランですか?」
「クラン<楓の木>です」
翌日の朝刊一面には、シェルクラブを狩り続けた天使の話が堂々と載っていた。