「ダンさんはいらっしゃいますか?」
素のミィがギルドホームに来た。俺の名前がダンであることが、ミィにばれたのだ。俺が留守の時に、ここ楓の木のホームを訪れたミィに、情報通のクロムが説明したらしい。余計なことをしやがって…
「なんだよ?イベント中だろ?」
「私は、ダンさんの下僕ですわ」
コイツ、炎帝の仲間のいない場所だと、素に戻る傾向にある。
「ダメだよ。ねぇ、ミィさん、本当にダメだからね。ダンさんの背中は渡さない」
メイプルが俺の背中を死守しようとしている。
「いやぁ~、流石にそれは恥ずかしくて出来ません。でも、ダンさんの命令であれば…」
「しない。だから、メイプルは落ち着こうな」
ミィに取られると思っているメイプルは、興奮気味である。俺の背中って、そんなに価値があるのか?
ミィと言う部外者がいるのでカエデは出てこない。最終兵器と言う自覚があるようだ。
「でも、ここはイベント中なのに、人が多いですね」
「うん…極振りが多いから…」
メイプルが理由を話した。
「じゃ、ダンさんはVIT振りなんですね」
メイプルの説明で、誤認識してくれたようだ。それなら好都合と、話を合わせる。
「まぁ、そうだよ」
「ダンさんも盾ですからね」
体力盾ではあるが…
「そうかぁ。だから、私の攻撃がまるで効かないんですか」
いや、違う。でも、話は合わせる方向で。
「内緒にしておいてくれよ。ミィだけだぞ」
「はい、ダンさんの秘密は私の秘密です」
「おいおい!炎帝のマスターがまた来ているのか?」
サリーとカスミのコンビが戻って来た。ここは平和だな。アスカがいないってことは、フィールドは狙撃天国中か?
◇
翌日、ギルドホームに行くと、巨大な毛玉がいた。
「これ、何?」
マイに訊いた。
「メイプルさんです。羊毛を生やすスキルを覚えたって…でも出られないって…」
メイプルに話を聞きと、毛刈りしないとダメらしい。毛刈りスキルは持っているが、手段が無い俺。ここにいるメンバーではどうにもならない。こういう時に限ってミィが来ないし。
「ちょっと、ミィを探してくるわ」
カスミ達は遠出をしているらしい。イベントの為の遠征なので、呼び戻すことは避けたいようだ。
「カエデは毛生えを使うなよ」
と、指輪に指示を出し、町へ繰り出した。ミィが見つからない。アイツ、ギルドメンバーに見つかって、イベントに向かったのだろうか?ふと、おなじみのヤツを見つけた。
「おい!フレデリカ!ちょっと来い」
「えっ!えぇぇぇぇ~」
フレデリカを拉致して、ギルドホームへ連れ込んだ。
「悪いけど、この大きな毛玉を刈ってくれないか?」
「どうしてですか?」
「俺達、全員刈れないんだよ」
「えっ…そんな人がいるんだ…」
フレデリカにより、メイプル救出作戦は成功した。
「ありがとうございます。この毛は差し上げます」
「こんなにいっぱい?いいんですか?」
「いいんだよ。貰ってくれ。拉致した迷惑料代わりだよ」
嬉しそうに毛を収納するフレデリカ。お得感満載のお礼だったようだ。
「ここって…?」
「楓の木のギルドホームだ」
「あぁぁ、メイプルさん…」
「てへへへへ」
羊の毛から救出され、バツの悪い笑みを浮かべたメイプル。
「4人も刈れないんですか?」
「いや、5人だよ。極振りだからな」
「あぁぁぁ、なるほど…ところで、あなたの名前を伺っていいですか?」
あれ?名乗って無かったっけ?
「名乗っていないんですか?これは失礼しました。私は毒と防御が自慢のメイプルです。彼は背中自慢のダンさんですよ」
その自慢は何だ?
「背中が自慢なんですか?…ダン?まさか、レールガンの?」
「それは妹だ」
「妹さん?」
「俺を破壊光線の吐ける化け物のように言うなよ」
「そうですよ、そんなチンケな化け物で無いんですから」
メイプルは俺をどう思っているんだ?その説明はどうなんだ?
「で、なんで、背中自慢なんですか?」
助けてくれたお礼だとメイプルの指示で、俺がフレデリカを背負うことになった。メイプル、そのお礼、セクハラで無いのか?
「えっ…なんか落ち着く…」
背中が広いから安定感があるだけで無いのか?って、フレデリカの寝息が聞こえ始めた。
「やはり、ダンさんの背中は寝易いんですよ」
ドヤ顔のメイプル。なんか、嬉しく無い自慢であるなぁ。
---フレデリカ---
ギルドホームに戻り、ペインに報告をした。
「彼では無かったです。とても温厚な人で、凶行に走る人物と思えませんでした」
「モテそうな男なのか?」
「えぇ、モテなくは無いと思います。メイプルさんが、甘えていますから」
実は私も一緒になって甘えていた。とてもここの連中には見せられない姿である。
「そうか。今日もリスポーン狩りがあったそうだ。そうなると炎帝のやつらか」
炎帝のギルドマスターは、毅然とした女性である。その配下は彼女狙いの者が多いかもしれない。要するにモテない男性信者の集まりであるのだ。
「で、楓の木は、どんなヤツラがいたんだ?」
「極振りが5名だそうで、今回のイベントに参加していないそうですよ」
要注意はメイプルさんだけだな。あのスキルはどこで覚えたんだ?自分で解除出来無いスキルだから、要らないけど。
「メイプルだけのギルドか。では銀翼戦で一緒に戦ったヤツらは、ギルドに入っていないんだな」
「確認は出来ていません。ただ、雰囲気はアットホームで暖かい感じでした」
移籍したい気もあるが、戦闘に程遠いギルドでは、このゲームをプレイする意味は少ない。それに甘えたいだけなら、あのホームへ遊びに行けばいいのだ。
---ダン----
翌日、イベントの作戦を変えた。メイプルが毛を生やし、ソレをカスミ、カナデ、サリー、クロム、イズで狩り取るのだ。羊の毛を刈るイベントである。それがメイプルから生えていても、狩り取った物を鑑定すると、羊の毛なのだ。
「追い掛け回す手間が無いが、これって、どうなんだ?」
1回生やすと、5頭分くらい刈れる。参加者が5名なので、丁度良い。
「生産の合間に出来るのは良いわね」
って、イズ。中々好評である。ラストスパート時には、カエデにも生やせば良いか?
---運営ルーム---
運営スタッフ達がイベントを監視している。
「相変わらず、メイプルが謎行動をしているな」
運営スタッフ達はその言葉に苦笑いを浮かべている。
「メイプル対策はもういいかな。あの謎行動を超える策が見いだせん」
「いいんじゃ無いですか?メイプルキラーがいるんですから。それに絶対的な強者プレイヤーもいないし」
ペインにしろ、ミィにしろ、メイプルにしろ、デスを経験している。全プレイヤー中、デスを経験していないのは、サリーとアスカだけである。
「サリーとアスカにしても、彼が本気になれば、デスされますよ」
このスタッフはダンのファンである。
「メイプル達が、このゲームの看板プレイヤー的な扱いを、あちこちで受ける状態になったからというのもあります。彼らのバウトは、ネットで拡散し、良い宣伝になっていますよ」
メイプル達と銀翼との激闘…あの映像のおかげで、参加者が増えたと言っても良い。運営が宣伝の為に作った映像でなく、実際のプレイヤー達の戦いの映像。あの戦いに憧れないプレイヤーはいないはずだと、このスタッフは思っているし、それに賛同するスタッフも多い。
「あぁ、あの映像な…メイプル、サリー、ダンかっ。アイツらに憧れて、参加したプレイヤーも多いは事実だ」
更に言えば、少しでもメイプル達に対抗する為なのか、メイプルが何かをした後は、課金アイテムの購入数も伸びている。ダンとサリーはPK専なので、あまり表立って行動していない為、影響力は皆無であるが…
「メイプルはこのまま進化して貰いましょう。ライバル達もです。彼らに追いつく為、課金プレイヤーも増えると思いますよ」
実際問題として、課金アイテムでは、彼らのユニークアイテム、ユニークスキルには勝て無い。唯一無二故のユニークなのだ。だが、そこに気づかない者は多く、課金が課金を呼ぶのは常である。
「三層はメイプル、ダンの飛行能力を殺さずに、イベントを壊さないように調整した」
「これからは手を出さない感じなのか?」
「ああ、見守ろう。ほら……無理に弱体化を考えなければ、可愛いだけのチートプレイヤーだろう?我我でラスボスを育てるだよ」
どう言おうとつまり諦めたのである。一般的な常識枠から出られない運営スタッフ達には、斜め上を行くプレイヤー達の行動予測は不可能であった。こうして、メイプル達はメイプル達の知らない所で、運営からその能力を公認され、ラスボス認定を受けた。
---ダン---
翌日…メイプルが【カウンター】をゲットしてきた。俺のフルカウンターの優位性が無くなりつつある。俺も何か身に付けた方が良いのか?町に繰り出してみた。入った事の無い路地に入り、怪しいお店の探索に出た。怪しいお店のガチャならば、きっと…
「おい!てめぇ~!俺の女に手を出したな?ちょっと来いやぁぁぁぁ~」
美人局のような台詞。何かのクエストか?って言うか、このゲームはR18では無いだろうに…
「おい!どうオトしまいを、どう付けてくれるんだ?」
強面の大男達に囲まれている。
「まだ何もしていないぞ」
「はぁ~?お前、この女としただろ?」
だから、このゲームでは出来無いんだぞ。言いがかりであるが、連れ出されてきた女性は、高校生の俺には刺激の強い姿であった。あぁ、抱きたい。そうだ!コイツらから奪えば、俺の物かな?
「じゃ、今からやっていいなぁ」
「はぁ?」
使い魔全員を出し、俺はドラゴンシリーズを装着した。まあ、勝負は一瞬で着いた。俺は女性の傍に寄り、
「なぁ、ヤラせてくれるのか?」
と、彼女の耳元で囁いた。その時、俺のスキル【フルカウンター】が発動した。誰に何をされたんだ?戦闘ログをチェックすると、目の前の女性フレイヤに【魅了】を掛けられて、フルカウンターをしたとある。
「ご主人様…ダン様…どちらでお呼びすれば良いのですか?」
彼女の言葉と同時にスキルゲットの画面がポップアップした。
レアスキル【魅了】
戦闘中、異性を味方に出来る
取得条件:女神フレイヤをモノにする
スーパーレアアイテム【女神フレイヤ】
女神フレイヤを使い魔に出来る
取得条件:女神フレイヤの取り巻きの男神を全員倒し、女神フレイヤに勝利する
スーパーレアスキル【添い寝】
ゲーム内での睡眠時に、とても気持ち良くなれる
取得条件:女神フレイヤを使い魔にする
サリーの呆れる顔が浮かぶ。俺はどこへ向かっているんだ?
◇
ギルドホームへ帰ると、メイプルもよく分からない方向に進化していた。
「まったく…二人共…なんで目を離すと、そんな進化して帰っているの?」
俺とメイプルは、サリーにつるし上げられている。俺もメイプルも今回は分が悪い。それは、後指を差されそうな進化だからだ。
俺が女神を使い魔にした日、メイプルは悪魔になって戻って来た。強化後恒例のメイプルとの手合わせ…悪魔ではフェンリルの敵では無い。その上、カエデは天使モードになっているし、更には女神には悪魔では無力過ぎた。
「ダンさんって、鬼ですね。私の強化の上を行くなんて…」
それって、強化なのか?それを言ったら、俺の方は強化では無いぞ。いや。メイプルって、異性だよな?【魅了】をしたら、自らデスしてしまった。
「ダンさん、それって、妄想以上にダメでしょう?」
サリーが呆れている。あぁ、敵がメイプルだけだったので、自分で排除したのか。
「総ての女性の敵ね」
って、イズ。
「スゴイです。女神様を使い魔にするなんて」
カナデが興奮している。
「ダンさん、呪いが効かないんですね」
復活したメイプル。
「呪い?あぁ、総ての状態異常が無効だよ」
「今度こそ、勝てると思ったのに…」
「いいか?あの二人の進化はダメな例だぞ」
クロムが、マイとメイに説明している。
「そんなにダメかぁ?」
「メイプルが二人いる時点でダメです!それに、女神と添い寝って何ですか?戦闘に役立つんですか?」
「それは俺も知りたい」
頭を抱えているサリー。どこがダメか分からない為、俺とメイプルは呆然として、サリーを眺めていた。
それから、数日後…三層が公開された。