---高杯光輝---
視察へ出発する日が訪れた。竹芝桟橋からクルーズ船に乗り込んだ。
「高杯さん、よろしくお願いします」
大岩総理に迎えられた。
「えぇ、出来る限りのことはします」
一介の神主に出来ることなんか、限られている。準備が出来たのか、船が一路シャーシャトーへと向かい始めた。三浦横須賀沖で、軍艦が併走し始めた。護衛だろうか?巡洋艦と戦艦、イージス艦などが見える。
「あれは?」
総理に訊いた。
「防衛族が、戦力を誇示した方がいいと言って訊かないんだ」
確か、武器の携行は不可の筈だが…国境線を越えた辺りで、併走していた煙に包まれて軍艦が消えていく。
「おいおい、初視察に武装を持ち込むって、どうなんだよ?」
代羽家の当主が総理を睨み付けた。
「何をしたんだ?」
「沈めた。あんな物は必要無いからな」
「沈めただと!」
右派の野党党首が代羽家の当主に詰め寄ったのだが、光の粒子に分解されて消えてしまった。
「何を…した…」
総理の声が震えている。
「友好ムードが感じられないから消した。それだけだ」
冷たい声の代羽家の当主。
「お前達!新大陸へ乗り込む征服者気分なのか?甘いなぁ~。戦力差を見間違えているぞ」
クルーズ船を取り囲むように、武装をした女性達が宙に浮かんでいた。
「何?どんなトリックだ?」
「トリックなんか無いさ。だって、彼女達は魔女だよ」
魔女?ここはファンタジー世界なのか?
「戦力差は明らかだよ。単なる人間である君達に勝ち目は無い。『強奪』」
代羽家の当主が宙に浮かぶと、彼の手には数え切れない程の銃が現れ、それらを海へと捨てていく。
「船に銃器を持ち込んだって無駄だよ。検閲が無いと思っただろうけど、検閲済みだよ。透視能力持ちも居るからね」
日本国視察団のほぼ全員が顔面蒼白である。一部の者達の股間は濡れているようだ。背筋に冷たい物が流れて行くようだ。空気が重い。
「邪な考えをお持ちの方は好ましくない。ここで消えて貰います」
残ったのは、私と総理と最大野党の党首である松井氏だけのようだ。
「じゃ、三名様だけ、ご案内だな」
---ミト・ミツクニ---
何故、父がいるんだ?
「並行世界とは言え、同じ時間軸だからな、居てもおかしくないだろ?あぁ、この世界の高杯光子は、既に過労死している」
そうなんだ。私と同じデスマーチな職場だったんだな。
「どう接するかは任せるよ」
任せられても困るんだけど…クルーズ船から3名の日本人使節団が降りて来た。その中の一人、高杯光輝は、私の父親である。並行世界故、同一の人格では無いが、同一人物である。
「君は…」
向こうも私に気づいたようだ。
「シガ王国の公爵、ミト・ミツクニでございます」
こちらでの世界の身分を名乗っておく。
「総合商社エチゴヤの会頭でサトゥーと申します」
私と兄ぃが挨拶をした。
「クボォーク王国の相談役のダンです」
「日本国総理大臣の大岩太郎だ」
えらそうにしている男。その後ろに控えるがオドオドしている最大野党党首の松井氏と、私を見て動揺している高杯光輝…その三人を案内してシャーシャトーの街を練り歩いていく。
---高杯光輝---
若くして逝った娘の面影のある女性。娘の享年よりも歳が上に見える。娘の光子が成長していれば、彼女のようになったかも知れない。だけど、彼女はシガ王国の公爵だと名乗っていた。他人の空似なのか?いや、彼女も私を見て動揺していた。それって…
「高杯さん、どう思われますか?」
大岩総理に訊かれた。
「どうとは?」
「彼らの文化水準です」
「劣っているとは思えません。技術的には古めかしいですが、魔法が使える為、あれが最良なのでしょう」
「そう、その魔法です。あれって、何かのテクノロジーでは無いでしょうか?」
「まぁ、そういう言い方は出来ますね」
「交渉を優位に進めて、あの未知のテクノロジーの秘密を貰うのはどうでしょうか?」
「刺激するのはどうかと…」
船の上での出来事を、トリックだと思っているのだろうか?現実に沢山の人々が消失してと言う事実を、まやかしとして片付けようとしているのか?
「後、見た事の無い人種を数名、貰って帰りましょう。獣と人間のハーフとか…」
亜人のことだろうか?貰うって、ここって奴隷制度は無かったのでは?この先の道中で、問題が起きそうな予感がする。あと、私の受けた密命がまだ果たされていない。信仰の対象かぁ~。教会とかあるのか、明日にでも確認するか。