亜種聖杯戦争‐純血の聖杯‐   作:ら・ま・ミュウ

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召喚編
一人目のマスター


魔術師として、後継者を残すのは義務である。

 

妻を娶り、夫を取り、子を育む。

 

最近だと魔術の素養のある赤ん坊を養子を得ることも珍しくなくなったとか。

 

「――お母さんになるか」

 

今は肉体の全盛期。

 

私が子供を作るには、少しだけ早い。

けれど、遠くない未来。私も“あの人”のように子を授かるのだろう。

 

「少しだけ、嫌だな」

 

 

『――――――』

 

 

館内放送が次の駅が近い事を教える。

お腹に手を置くその女性は荷物をトランクを纏めて、ゆっくりと立ち上がった。

刹那、黒い影が前を横切る。

 

「きゃっ!」

「おや、失礼。お怪我はなかったですか?」

 

その彼女の手を取ったのは、ガタイのいい十字架のネックレスを下げたアジア系の男性だった。

 

(――聖堂教会の人……珍しい)

 

 

 

英国の現存する魔術の家系としては最古にして魔術協会創世記にはロードの席を預かっていた魔術師一派。

サンザーラ家。

神代の神秘をその身に内包し続ける事でいずれ根源へと到達を目指し、神代であった頃には神と交わる為にその身を獣に落とした等と眉唾物の噂を多岐に抱える彼らは

過去、極東の儀式《第二次聖杯戦争》に参加し魔術刻印をその代の当主諸とも失ってからは徐々に衰退の色を濃く見せ、今では時計塔から分家諸とも撤退し、あのロードエルメロイ二世にして、緩やかな滅びを待つだけと云われていた。

サンザーラ家三百五十六代目の当主マリー・サンザーラ。

新造の魔術刻印こそ三流の魔術師に劣るが一般の神父と聖堂教会所属の神父との違いぐらいは一目で判断出来る。

 

「レディ?」

「あ、ごめんなさい。大丈夫ですから」

 

今は魔術協会所属ではないとはいえ、魔術協会と聖堂教会の関係は水と油。

更に、無手ならまだしも野暮用なのか、黒鍵を初めとする概念礼装を複数隠し持つ完全武装ときた。

…この周囲で死徒でも現れたのだろうか。

正面から闘って勝てる見込みは三割といった所であろう。

厄介事には関わりたくないと、パタパタと腕を振るい足早に汽車から降りる。

 

 

 

「国立公園まではバスかぁ~今日はホテルでも泊まろうかな」

 

適当に旅行会社のパンフレットから抜き取って訪れたここ、イギリスのリーズ。

地図を広げて近場のホテルを探す彼女は予想だにしないだろう。

 

サンザーラ家の衰退の切っ掛けであり

極東の冬木と呼ばれる都市にて、過去三度に渡り行われた万能の願望器を賭け、七人の魔術師と召喚するサーヴァントが最後の一人一騎となるまで熾烈な戦いを繰り広げる『聖杯戦争』の模造版『亜種聖杯戦争』なるものに巻き込まれる事を。




補足:この並行世界でのサンザーラは『アタランテお母さん~聖杯戦争で子育て頑張る~』の世界線の衰退したフリではなく本当に滅亡の一手を辿っています。
マリーはサンザーラの悲願の器として完成していますが魔術刻印という“鍵”を失ったサンザーラが根源に到達することは不可能になります。
ただサンザーラ家が取り込んだあらゆる神々の血が全て先祖返りとして体現した状態であるため、魔力はほぼ無尽蔵で神代の魔術師クラスに強いです。

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