雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか 作:柔らかいもち
そこは地獄だった。正確には地獄としか言えない光景の場所だ。遥か北の大地、世界の果てと呼ばれるここは、今も尋常ではないほどの炎が辺りを覆っている。
かつてそこにあっただろう森の名残は無残に燃え、山脈が存在したと言われても信じられない程度の岩と土くれしか残っていない。大地には底の見えぬ亀裂がいくつも刻まれ、近くにあった川と湖は完全に蒸発した。
極め付きなのは辺り一面に飛び散っている鮮血と肉片、人骨の欠片だ。これを見ても何とも思わないものは心が強すぎるか、どこかおかしい奴だけだろう。
そんな地獄にいるのは凄まじい存在感を放つ竜と、たった一人の少年だ。竜は全身の至る所が漆黒で目が片方しかなく、少年は黒い服で全身を覆っていた。共通しているのはどちらも黒で、傷がない所を見つけるのが難しいほどの重症を負っているところか。
これを見れば誰もが驚くだろう。目の前にいる恐ろしき隻眼の竜を、この少年は一人でここまで追いつめたのだ。世界最強と言われていた二つのファミリアですら成し得なかったことを、長い英雄史の中で『最強の英雄』と謳われた男が命を懸けてもできなかった偉業を、たった一人でやってのけた。
最も驚いているのは隻眼の竜――人類から『黒竜』の名で恐れられているこの竜だろう。昔、二人の男女に率いられてやってきた人間達にも負けなかった己が鱗を砕かれ、角を折られ、腹を焼かれ、肉を抉り取られるなど微塵も考えなかった。飛び散っている血と肉片は全て竜のものだ。
少年だって無事ではない。大小さまざまな傷を負い、今も傷や口から血を吐いている。それでも、竜を睨む眼光と右手の剣を握る力は弱まらない。
竜は少年に背を向け地を蹴った。ズタボロの羽を必死に動かし、空の彼方へ飛んでいく。かつて片目を奪われた時とは異なり、忌々しい恐怖から遠ざかるように。早い話、竜はこの人間と戦っても負ける可能性があると考え、逃げ出した。空高く飛ぶ竜の身体を雷がかすめるが、気にすることなく逃げる。
逃がすかとばかりに雷の魔法を放った少年はこのまま追いかけるか悩んだが、結局追わないことにした。『
少年は残り少ない
こうして人知れず世界最後の三大
♦♦♦
人間離れした身体能力を遺憾なく発揮し、少年は拠点としている街の宿に約二日で戻っていた。少年が借りた部屋の中には、ベッドに腰かけて本を読んでいる一人の女性――少年の主神がいた。
少年が部屋に入ってきた音で顔を上げた女神は、少年の顔を見てにっこりと笑う。
「お帰り、レイン。目的は達成できたのか?」
「……一応、達成できたと思う。あと一歩のところで逃げられたけど」
不満そうな顔をしている少年がおかしくて、女神は口に手を当てて笑う。凄まじい偉業を成し遂げておきながら不満を持つ人間を、彼女は見たことがない。だから思わず笑ってしまった。
「いやー、笑った笑った。マジであの黒竜を殺しかけるとかすごいなぁ。私、それだけは冗談と思っていたのに」
「……笑い終わったなら【ステイタス】を見せてくれ」
「はいはいっと」
ボロボロの上着を脱ぎつつ女神のすぐそばに座った少年の背中に、女神は自分の指を傷つけるとそこから出た血を垂らした。
レイン
Lv.9
力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
狩人:A
耐異常:A
魔導:B
治力:C
精癒:C
覇気:D
剣士:D
逆境:I
《魔法》
【デストラクション・フロム・ヘブン】
・攻撃魔法。・詠唱連結。
・第一階位(ナパーム・バースト)。
・第二階位(アイスエッジ・ストライク)。
・第三階位(デストラクション・フロム・ヘブン)。
【ヒール・ブレッシング】
・回復魔法。
・使用後一定時間、回復効果持続。
・使用時、発展アビリティ『幸運』の一時発現。
【インフィニティ・ブラック】
・範囲攻撃魔法。
・範囲内の対象の耐久無視。
・範囲はLv.に比例
《スキル》
【???】
・成長速度の超高補正。
・ステイタス自動更新。スキル及び魔法の発現にのみ主神による更新が必要。
・???????
【
・魔法効果増大、及び詠唱不要。
・ステイタスの超高補正。
・魔法攻撃被弾時、魔法吸収の結界発現。一定量で消滅。
・
【
・
・竜人化。発動時、全アビリティ超域強化。
レインが【ステイタス】を見せてくれといった理由。主神に更新してもらわなくても自動的に更新されるスキルがあるからだ。更新したくなくても、勝手に更新されてしまうが……。
前回見た時はLv.8だった少年はLv.9になっている。女神の覚えている限り、このLvになったのは
スキルも増えてる。それも一気に二つも。
女神はステイタスを書き写すとレインに渡した。
「新しく発現した発展アビリティは『逆境』。多分だけど、ピンチになった時強くなるんじゃないか?」
「俺もそう思う」
レインは自身の【ステイタス】が書かれた羊皮紙を机に置かれているロウソクで燃やす。【ランクアップ】したというのに、レインはまるで笑わない。女神の顔からも笑みが消えて真剣な表情になっている。
「……やっぱり行くのか」
「……すまん。あんたには本当に感謝している。俺の我が儘を受け入れてくれた神はあんただけだ」
「いいよ、そういうのは。なんだかんだこっちも無茶ぶりしたことあるし、お互い様だ」
少年が女神の眷属になった時から決めていたことだ。
「オラリオの外でやれることを全部やったら、オラリオに行く。ちゃんと『
「……あんたは来ないのか?」
「お前の主神だったら二度とオラリオから出られないでしょうが。私は自由に生きるのが好きなんだよ」
「そうか……」
「私としては眷属でいてほしいけど、レインはオラリオに行きたいだろう? ならここでお別れだ」
言うが早いかまだ服を着ていないレインの背中で、女神の指が特定の動きをする。少年の背中に刻まれた刻印が淡い光を放ちながら明滅を始めた。
レインも何も言わず服を着る。さっきまでのボロボロの服ではなく、綺麗な黒い服だ。そのままレインは扉に向かう。
「じゃあな、レイン。またいつかな」
「ああ。あんたも、うっかりバナナの皮を踏んで転倒打撲骨折出血死亡とかすんなよ」
「んなことするかっ!」
枕をぶん投げるも、さっさと出ていった少年には当たらなかった。扉にぶつかった枕が、床にむなしく転がる。
ベッドにだらしなく寝っ転がった女神はそれを拾うことなく一人呟く。少年に見せた怒った顔はすでになく、一柱の神の顔になって。
「……いつか、お前が自分を許せるといいな」
その誰かに向けて呟かれた言葉は誰にも聞かれることはなかった。
発展アビリティの『覇気』の解説。
殺気やら闘気やらに物理性を持たせるアビリティ。代わりに殺気を出すだけでも体力を使うことになる。疲れている時には使えない。
スキルの【???】はしばらく秘密。?の数が文字数というわけではない。
この作品は後半はマシですが、前半は根気が必要です。