雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか 作:柔らかいもち
広い心で見ていただけると嬉しいです。
「俺は数分相手の動きを見れば、相手が次に何をしようとするのか分かる。相手の動きが分かるならLv.が二つ三つ離れていようが問題ない。信じる信じないはお前らの勝手だが、それが事実だ」
『魔法』による残り火で燃える草原。そこには立ったまま動かない少年がいた。
勝利をもぎ取り『英雄』への資格を手に入れた『冒険者』の背中を眺める【ロキ・ファミリア】に、『怪物』が聞いてもいないことを呟く。
そのあり得ない内容の言葉が誰に向けて告げられたのか――答えは
♦♦♦
「テント張るの上手いっすね、レインさん……」
「オラリオの外ではよく使っていたからな。もしかするとお前らより使っているかもしれん」
ダンジョン50階層。大樹林を眺望できる巨大な一枚岩。
野営を準備する喧騒が響いている。指示をかけ合う団員達の声とブーツの足音を聞きながら、レインは地面に鉄杭を次々に突き刺していく。素手で鉄杭を突き刺す姿に、ラウルはちょっと引いた。
レインは他派閥ということに加え、これから身体を酷使する(予定)の第一級冒険者だ。本来なら野営の準備を手伝わなくてもよいのだが、オッタルを地上に届け、18階層で部隊を再編制した際、
『罰として野営の準備や見張りをやってもらう』
同派閥の
しかもアミッドから貰った
「ちょっ、レインさん、手を緩めてほしいっす!」
手元を見ると、天幕を張るための鉄杭が折れ曲がっていた。どうやら
(やっぱ怖いっす、この人! 絶対、俺が可愛い女の子じゃないから怒ってるっす……。どうして俺とペアにしたんすか、団長ー!
レインの噂から勘違いをしてしまうラウル。ただでさえティオナ、ティオネ、ベートが鋭い目でこちらを見ているのだ。レインまで険悪になったらストレスで自分の胃が死ぬ。
そんな
(遠回しにこうしてやるっていう死刑宣告!?)
ラウルの勘違いが加速する。周囲の団員達はラウルに心の中で激励を送り、自分達は目を付けられないようにと遠くで天幕を張っていく。本営の側で指示を出すフィン達は嘆息するだけで何もしない。
――こうしてラウルの胃袋を犠牲に設置された天幕は他の天幕から離れすぎているという理由で張り直しになりかけたが、レインの天幕として利用することに落ち着いた。
♦♦♦
「ここに来るまでロキの眷属達の様子がおかしいが、どうした?」
野営地の準備を完了させた【ロキ・ファミリア】は食事に移った。キャンプの中心で輪になる団員達だが、不自然に途切れている場所がある。未だに近寄りがたい雰囲気を醸し出す四人の若い第一級冒険者の周りと、彼等彼女等に睨まれ続けるレイン付近だ。逆にラウルの周りは彼を労う団員でいっぱいだ。
物怖じしないハーフドワーフの鍛冶師は干し肉をくわえスープ皿を持ち、レインの側にどっかりと腰を下ろす。遠慮を欠片も見せず食事を口にしていたレインが口を開く。
「んー、自分達の見る目のなさと思いあがりっぷりにプライドがズタボロにされているだけだ、気にするな」
「ほう、どういうことだ?」
「筋肉にしか取り柄がなさそうな敵に四人がかりで負けたんだよ。そんでもって『相手が強すぎた』と必死に言い訳しながら進んだ先では、相手が強いと知っていながら戦い、勝ったみせた一人の冒険者がいたんだ」
「なんと! その敵はどうしたんだ?」
「俺が瞬殺した。『うぅ……、やはり俺ごときが勝てる相手ではなかった……』とかいう末期のセリフ付きで、血の海に沈んだぞ」
「では冒険者の名前はなんという?」
「ベル・クラネル。
「ふむふむ、メモメモ、と……」
レインと椿のやり取りに「オッタルはそんなこと言わねえだろ!」とか「言い訳なんかしてないよ!」とか怒鳴りたいベート達だが、その怒りをスープで腹の中に流し込む。
やがて食事を終えたレイン達は、フィンを中心に今後の最終確認を始める。51階層へ
「では、明日に備え解散だ。見張りは四時間交替で行うように」
その指示を皮切りに、団員は周囲にばらけ始めた。見張りの順番は最後に割り振られたので、それまでは天幕で寝ていよう……レインは腰を上げてその場を離れた。
途中、抜身の双剣の構えたベートが肩を掴み「ついて来い」的な意味を込めて顎をしゃくり、返事を待たずにさっさと一枚岩の西端に行ってしまったので、
「この先にいるベートに『オッタルに勝ってから出直してこい雑魚狼が』って伝えておいてくれ。じゃ、よろしく」
「私に死ねと!? 自分で伝えて下さ――って、逃げるなー!」
偶然近くを通りかかったエルフの女性団員に伝言を頼み、与えられた天幕に引っ込んだ。エルフとしての貞淑性がためらわせるのか、天幕の外で何事か喚いていたが中に入ってくることはなかった。
――その伝言が伝えられたかは分からない。怒りで顔を歪めたベートがレインの天幕に突撃し、二秒もしないうちに叩きだされたことだけが事実だ。
♦♦♦
「レイン、入ってもいいか?」
「スケスケで股下ギリギリのネグリジェを着て夜伽してくれるなら入ってもいいぞ」
「――よし、入るぞ」
最初からまともな返事を期待していなかったのか、レインが許可を出す前にリヴェリアは出入り口の幕を開けて入ってきた。そのままレインが
「で、何の用だ? ベートを吹っ飛ばしたことについては謝らんぞ」
「それは別にかまわん。あの馬鹿にはいい薬だ。言いたいのは他の団員をからかうな、ということだ。アリシアがお前に無理難題を押し付けられたと涙目で私に泣きついてきたぞ」
「ただの冗談だっての。用件がそれで終わりならさっさと出てい――何をしている」
虫でも追い払うかのように手を振り、再び寝具に包まろうとしたが――リヴェリアが身に纏う聖布に手をかけ脱ぎ始めたのを見て真顔になった。
「何を、だと? お前が夜伽をしろと言ったのではないか……」
リヴェリアが脱いだのは魔術師の装備でもある聖布だけ。まだその肢体を包む布は何枚も存在する。にも関わらず、既にリヴェリアの顔は真っ赤だ。瞳は潤み、声も少し震えている。
この時、リヴェリアは本気だった。他の人達が寝静まっているわけでもないのに、本当に夜伽をしようとしていた。それが分かったレインは、
「馬鹿なのかお前は? もっと自分を大切に――」
「
止めてしまった。リヴェリアがレインを押し倒したわけでもないのに、ただ
ここでリヴェリアが生まれたままの姿になるまで止めなければ分からなかった。天幕は遮音性が高いわけではない。裸になれば嫌でも本気だと分かり、情事による声を周りに聞かせたいと思う特殊な性癖でもなければそこで止める。
しかしその優しすぎる性格が、神ですら見抜けないレインの演技にボロを出させる。
「レイン、お前は――噂通りの酷い人間なんかじゃないだろう」
次はリヴェリアがレインの違和感を見つけた理由を書きたい。
……次からタイトル書かなくてもいい(小声)? めっちゃきついんだけど、タイトル考えるの。