雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

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最終話 雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか

 ――そこがどんな所かを答えようとすれば、誰もが答えに窮するだろう。無理矢理にでも答えを捻り出すならば、それは『何もない世界』とでも言うべきか。それとも『魂』だけが存在している世界か。

 

 足が何かを踏みしめる感覚はある。しかし、それが何なのかは見当もつかない。なにせ、そこには月や太陽といった光源が存在しないから、何も見えないのは当然だった。にも拘らず、この場所は明るいようで暗く、暗いようで明るかった。

 

 ならば触覚に頼ればいいだろうと思うだろう。けれど、足が踏みしめているものは手では触れることができなかった。すり抜けてでもいるのか、手には何も伝わってはこなかった。仕方なく足を動かすことで得られる感触はどこも平坦で、僅かな起伏も生じていない。

 

 故にここは『何もない世界』。道というものがないからどこもかしこも道になるが、どこまで行っても終わりがなく、どこかへ行くことを諦めた時が終わりになる――あやふやで、まっさらな場所。

 

「なるほどなぁ。神々が呼吸と同じ頻度で『天界は死ぬほど退屈』と口にしていたが、不死者にとって『退屈』ほど死に等しいものはないということか」

 

 そんな世界に彼はいた。彼がここに来ることになったのは不死者を殺した代償である。変化を続けなければ生きていけない人間の彼に与えられたのは、何の変化もない世界で過ごし続けるという――輪廻転生の環から外される罰だった。

 

 彼が辛いと考えたり、先が見えないことに不安を抱くことはない。幸せだった穏やかな蜜月。出会いと別れと取捨選択を繰り返し、その一瞬を精一杯に、その一時を全身全霊で生きてきた、苦しくも輝かしい日々。永遠に忘れないそれらを脳裏で思い返せば、この長い旅は苦にならなかった――苦だなんて思いたくなかった。

 

 だから彼は旅を続ける。今日も、明日も、その次の日も――

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 変化はなく、時間の概念もない。同じ場所を無意味に回り続けている可能性もあるのに、彼は微塵も迷わず進み続けた。一度だって歩みを止めなかった。

 

 彼は約束をしたのだ。もし相手がその約束を覚えていなかろうと、自分のことを嫌いになっていようとも……彼はもう一度会いたかった。

 

 そんな彼の足が止まる。終わりがない旅を諦めたからではない。一つ、約束を果たせると――確かな旅の終わりを見つけた、そう思えたから。

 

「――待たせたかな?」

 

 何もないはずの世界なのに、彼の目の前には一人の少女が立っていた。今の問い掛けは彼女に向けたものである。

 

 顔は見えず、身体の線も映らない。それでも、彼にはそこに少女がいるとはっきり感じ取れた。

 

 そしてそれは――胸にくすんだ黒い剣を生やす少女も同様である。

 

「――確かに待ったし退屈はしたけれど、ちっとも辛くはなかったよ。君が『待ってて』と、そう言ってくれたから。君こそ大変じゃなかったかい?」

 

 少女にとって彼が約束を守ってくれるのは当たり前のことで、彼を嫌うことは少女にとって絶対にないことだった。

 

 けれども、彼が選んできた道に安易なものは一つもなかった。今になって彼が諦めても責めはしない。彼が投げ出しても仕方ない。少しでもそう思ってしまったことが、どうしようもなく恥ずかしい。

 

 隠さずに全てを告げても、彼は罵ったりしなかった。

 

「いやいや、君は『おっせぇんだよ、亀かお前はっ!』って怒ってもいいんだぜ。そのくらいで済ませる君は優しいし、その信頼が俺にはとても嬉しい」

「……ありがとう。本当に、ありがとう」

 

 陳腐な感謝の言葉しか伝えられない自分がもどかしい。そして自身の瞳を潤ませ、嗚咽を堪えなければならない喜びを覚えさせてくれた彼を……ちょっぴり憎たらしく思った。

 

 彼に顔は見られていないはずだ。自分だって彼の表情を窺うことはできない。なのに彼には泣きそうになっていることを見破られている気がしたし、彼が微笑んでいるのをなんとなく感じ取れた。

 

 誤魔化すように頭を振り、勘で彼の手がある辺りを探った。久しぶりに触れ合う彼の手は相変わらず温かい。

 

「ほらっ、さっさとこんな所から出ようよ。この剣を使ったのはあの子を殺さないようにする為だけじゃなくて、今の状況も予想してたんでしょ?」

「分の悪い賭けだったけどね。【時死黒剣(スキル)】を発動した後に媒体がどうなるかは不明だったけど、やらないよりかはマシだと思ったからな」

「……予想が外れてたら?」

「頑張って次の案を考えた。ほら、ここって嫌でも悟りそうな場所だろう」

 

 腹が立つほど中身のない楽観的な発言。それでも、彼は本当に考えて答えを出すのだろう。だから彼は世界を……愛する人を守れたのだから。

 

 自身の胸から剣を引き抜き、刀身から放たれる鮮烈な輝きに照らされる男の横顔を見つめながら少女はそう思った

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 ――農民ときこりによって作られたとある村に、その少年はいました。村の人々は農民やきこりばかりでしたが、彼の父親だけ傭兵でした――

 

 ――皆は彼も父親と同じ傭兵になると思っていましたが、彼にそんなつもりはちっともありませんでした。なぜなら彼は本を読むことが好きで、虫一匹も殺せないほど優しかったのです――

 

 ――父親は自分の息子に才能があると言い聞かせましたが、命を奪うために剣を振るう傭兵になんてなりたくありません。もちろん、怪物をやっつけるために戦う『英雄』にだって――

 

 ――彼は弱かったのです。妖精(エルフ)のような『魔法』はなく、鉱人(ドワーフ)のような『力』もなく、獣人のような『五感』もない、ありふれた只人(ヒューマン)でした――

 

 ――生まれた時から彼は強かったのではありません。華やかで祝福された人生もありません。だから、どうか、お願いだから……『強さ』と『偉業』だけで彼を『英雄』だと決めつけないで――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……駄目……作者の願望を前に出し過ぎ……やり直し」

 

 もう何度もやり直し(リテイク)を繰り返して使い物にならなくなった羊皮紙を握りつぶし、(フィーネ)はため息を吐きながら机に突っ伏した。

 

 レインと【神を誅殺せし獣(テュポーン)】の死闘の決着を機に、世界は大きな転機を迎えた。

 

 一つ目にダンジョンの性質。構造を壊しても再生するところ、地上には存在しない植物や鉱物があるところ、モンスターを生み出す特徴に変わりはないけれど、モンスターに誰の目にも明らかな変化があった。

 

 見た目が人に近い個体が出現するようになったのだ。今までは『ラミア』や『ハーピィ』、『マーメイド』が辛うじて人に似ていると言えるモンスターだったのだが、『ミノタウロス』では牛人(カウズ)、『アルミラージ』なら兎人(ヒュームバニー)に類似した個体が確認された。

 

 最初の頃は見るからに理性もなく、本能のままに殺意を撒き散らして襲い掛かって来たのだが、今では五体に一体の割合で意思疎通が可能な個体が出現するようになっている。骸骨(スケルトン)系や昆虫(インセクト)系でもだ。この件は冒険者から『異端児(ゼノス)』――後に『魔人』と呼称を変更――に任されるようになる。『異端児(ゼノス)』の存在価値が認められるようになったことも、あの戦いで得られた『成果』の一つだろう。

 

 更にモンスター達から『魔石』が採取できなくなった。モンスター全体に弱体化の前兆が確認された時から危惧されていたため、こちらは既に解決されている。なにせ『魔石』が取れなくなれば既存の魔石製品は使えなくなるので、生活が立ち行かなくなってしまう。

 

 上級鍛冶師(ハイ・スミス)の鍛造する『魔剣』が元から『魔法』や『魔力』の塊のような代物だったので、その製造過程を徹底的に解き明かすことで人工的に『魔石』を製造できるようになった。全人類に精神力(マインド)は多かれ少なかれあるため、『下層』未満までの純度の『魔石』なら安定して生産可能な体制が整っている。

 

 二つ目に神や『神の恩恵(ファルナ)』に対する考え方。ダンジョンの真実が明らかになってからというもの、『神の恩恵(ファルナ)』を捨てたがる者が多く現れた。しかし同時に、『神の恩恵(ファルナ)』を授かろうとする者も多くいた。

 

 前者はモンスターに復讐する為の力を求めていた類で、後者は先の戦いで『神の恩恵(ファルナ)』に有用性を見出した者達だ。『神の恩恵(ファルナ)』をどうこうする以前に全ての神を送還するべきではないかという案も出ていたのだが、

 

『俺達は昔も今もその恩恵を受けていたんだ。それを自分達は悪くない、悪いのは神だけと開き直るのはやめろ! そんなお前達は神以上のクズだ!』

『主神様は主神様だからなぁ。この方が嬉々として罪なき娘を封印するとは思わん。手前はモンスターに大事なものを奪われておらんから、特に恨みがある訳でもないしな。これまでの主神様を信じるまでよ』

『この身も心もあの御方に捧げた。真実が詳らかにされたところで、与えられた愛と恩が無になる訳ではない』

 

 意外にも多くの冒険者――特に【ガネーシャ・ファミリア】【ヘファイストス・ファミリア】【フレイヤ・ファミリア】――が神を庇う意見を述べた。最も神々と接し続けた彼等の意見を無視できず、派閥制度を解体して『去る者は追わず来る者は拒まず』の状態に移行し、『恩恵』を授ける数にも制限を設けることで収まった。

 

 それでも神々に対する厳しい目は減らない。神だからという理由で無条件に敬われ、丁寧に扱われることもなくなり、神々の下界での暮らしは楽ではなくなった。『異端児(ゼノス)』以上に受け入れ難い存在となった神々の行く末は、今後の彼等が何を成すかで変わっていくことだろう。

 

 そして最後に――私の存在である。

 

 現在、この世界で一番強いのは私だ。何十万年単位で身体を使われていた代償か恩恵かは知る術がないが、私はテュポーンの能力をそっくりそのまま受け継いでいた。

 

 Lv.という数字に縛られない強さを持ち、加えて世界中に届く風を操り、更には神を殺せて不老不死。声とレインが遺した武器を持っていたことで【神を誅殺せし獣(テュポーン)】と関係性があるとも露見し、私をどう扱うかは世界中で議論された。

 

 殺処分、解剖して研究、懐柔して兵器として徴収……本人を目の前にしても好き勝手に交わされる言葉の数々に、私は仕方ないと大人しく受け入れる――こともなく()()()。それはもう思いっきり。

 

 誰だってムカつくでしょう? 手出しをされないと勝手に安心して、責任を背負う覚悟もない奴等に生き方を決められるのは。安全圏から『化物』『全体の為に犠牲になれ』『人類の裏切り者』なんて好き勝手に言われるのは。

 

 保護という名目で隔離されていた建物を跡形もなく粉砕し、私の力を目にしてみっともなく震える見張りや野次馬を尻目に、【神を誅殺せし獣(テュポーン)】と同じやり方で世界中に声を――私の意思を届けた。

 

「私は確かに人とは言い難いけど、化物と罵られるいわれもないわ。言ってしまえば中立なの。不幸自慢は趣味じゃないけど、私は人と神様に酷いことをされた記憶がある……忘れたことは一度もないわ。貴方達が今も生きていられるのは、私に貴方達を殺す気がないだけだから。それを忘れないで」

 

 ……正直に言えば、怒るまで自分にこんな力があるとは気付かなかっただけなのだけれど……それを知らない人達からすれば黙り込むのに十分な出来事だったらしい。【神を誅殺せし獣(テュポーン)】と私を混同している者を除けば、正面から罵倒したり害を与えようとする者はいなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それ以外に特筆すべきものはない。『迷宮都市(オラリオ)』の再建、難易度の下がったダンジョンの攻略、ダンジョン以外の未開の地の調査。失ったものを取り戻そうとする人類の力は凄まじく、人口や生活水準はあっという間に元通りになっていく。

 

 私はどれにも一切関わることなく、世界を調整する役割を全うしていた。世界を調整、なんて大仰に言ってはいるが、やっていることは人の手に負えない怪物や災害の対処である。せめてこれくらいは手伝ってくれ――と隻眼の勇者に頼まれ、断る理由もなかったので承諾した結果だ。

 

 他にも『自分はレインの恋人だった』『レインに特別目をかけられていた』等々、レインの名を使って利益を得ようとする輩を潰す役目もあった。こちらはどこかのすこぶる強い【ファミリア】も手伝ってくれたので、特に苦労はしていない。

 

 ベルやアイズ、ガイアや『豊饒の女主人』のような善人達から一緒に暮らそうと何度か誘われたが全て断り、気ままに世界中を……レインと縁のある場所を巡った。そして暇を見つけては祖母と暮らしていた小屋に戻り、物語を綴っている。

 

「お話を書くのって、こんなに難しかったのね……」

 

 中身は十分に詰まっている。ベルや春姫に読ませたら絶賛されたし、『チョロい英雄譚マニアの評価を当てにすんなよ』と言った鍛冶師の青年も工房に閉じ籠って泣いてしまう出来栄えだ。だがしかし、序文が決まらない。

 

 私の不幸をひけらかす算段はなく、彼の功績を称える訳ではなく、彼女の無実を訴えるためでもない。これは知ってもらうための物語だ。

 

 ただただ、多くの人に知ってほしい。世界を救った『戦士』も、世界を滅ぼす『怪物』も、この二人が戦う起因となった私も――どこにでもいるような男や女だったのだと理解してほしいのだ。

 

 波乱万丈な『使命』、複雑奇怪な『定め』、強大な力に約束された『運命』――そんな難しい言葉で飾り付けるだけで考えることをやめないで。私達が歩んできた道のりを、一目一聞で終わってしまう文字や声で片付けないで。

 

 そんな気持ちを伝えたい物語の序文はとても大事なのだ。妥協なんて私のプライドが許さない。

 

「ヒロインも決まらないし……どうしよー……」

 

 世界を旅してわかったこと。主人公(レイン)を好きな女性は大勢いた。何をどうしたらこんなに集まるの? と思ってしまうほどいた。

 

 だけど()()()()()者はいなかった。

 

 愛していると言うことは難しそうに思えて簡単で、愛することこそが簡単そうに思えて真に難しいと私は考えている。

 

 極端な話、【ステイタス】にその感情に関係する『スキル』か『魔法』が発現するか、美の神の魅了に抗える気持ちを抱いて、初めて愛していると言えるのだ。

 

 山吹色の妖精が抱いていたのは『憧憬』。

 悲劇の死妖精(バンシー)が抱いていたのは『依存』。

 女戦士(アマゾネス)の双子と銀の女神が抱いていたのは『執着』。

 優しき聖女が抱いていたのは『献身』と『慈愛』。

 誇り高き王族(ハイエルフ)が抱いていたのは『尊敬』。

 

 心の底から愛している、生まれ変わってもこの気持ちを忘れない、君への愛は魂に刻まれた――それらが本当だと証明できた人はどれだけいるだろう。嘘だと思わなければ神様にだってわからない答えなのに。

 

 ヒロインを登場させるなら、その人物は主人公(レイン)を真に愛している者がいい。私はだからこそ困っている。

 

 遺された記憶から彼女(テュポーン)(レイン)を愛していたと知っている。(レイン)は私を愛していた。――では、私は? 私は本当にレインを愛して――

 

「……」

 

 レインの迷宮都市から住民と『異端児(ゼノス)』を追い出す為の殺戮、【神を誅殺せし獣(テュポーン)】を怒らせたことで行われた鏖殺。被害者の遺族達の恨み辛みは全て私に向けられている。

 

 私はこれを受け止める義務がある。旅をすれば必ず負の感情をぶつけられ、この不満を吐き出す相手もいない。ベル達の誘いを断ったのも甘えてしまいそうだったからなのに……。

 

 羽根ペンを置いて立ち上がる。向かうのは――唯一心に安らぎを与えてくれる花畑。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にいいのかい、お前さん? この辺にはおっかない嬢ちゃんが住んでいる森しかないぞ」

「んー、俺はその森が目的地なんだがな」

「まさか、あの森に行くつもりかね!? 悪いことは言わんからやめておきんさい。あの森で変な真似をしでかせば、生まれてきたことを後悔する目にあってしまうぞ!」

「でもなぁ……行かないといけないんだ。何十万年経っても忘れない約束をしたからさ。そのためにツレにも遠くの街で待ってもらってるし」

「……お前さん、神様かい? 儂は神様の悪戯に巻き込まれるのは御免じゃよ」

「いいや、人間さ――アンタが言った『おっかない嬢ちゃん』の恋人のな」

「……………………………………ふぇい?」

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 元は彼と私だけの秘密の場所だったのに、今では彼と縁のある人が訪れる場所になっている花畑。

 

 お墓はない。きっと彼なら墓に魂が宿る訳じゃない、なんて言って作ろうとしないだろうから。代わりに彼の二振りの剣を刺していたら墓標みたいになってしまったけど、それは勘弁してほしい。

 

 ここは昔から不思議な所だった。雨が降ろうが風が吹こうが、まるで結界で守られているかのように変化がない。こうして足を踏み入れれば、一年中咲いている高貴白花(エーデルワイス)が私を出迎える。

 

「……」

 

 花畑を通り過ぎて、半分しかない黄金の剣と凝った造りをした柄の剣の前に跪く。

 

 ……近頃、ここに来る人の目的が変わってきている。これまでは彼との思い出を振り返るためだったのに、徐々に彼の死を悼むために訪れるようになっているのがわかった。

 

 皆が彼との再会を信じられなくなっている。そもそも自死を引鉄(トリガー)に発動し、使えば最期は塵になって消滅するような『スキル』を彼は発動させたのだ。再会がいつになるのか、その時の彼に記憶はあるのか、何もかもがわからない。死んでしまったと思い始めるのも仕方ないだろう。

 

 それでも、私は信じ続ける。私を愛してくれた人が『また会おう』と約束してくれたのだから、私はいつまでも待ち続けよう。

 

 だけど……弱音を吐くくらいなら、許してくれるよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「会いたい、なぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――僕もだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――すぐには、振り返れなかった。だって、その声は、ずっと会いたいと願っていた人のもので――

 

 頬を抓る……痛い。視界がぼんやりと滲み、鼻の奥が熱くなる。何かが溢れ出しそうな胸を握りしめて、ゆっくりと後ろを向いた。

 

 ……彼が、いた。夢じゃない、幻じゃない、本当に彼が立っていた。

 

 彼は初めて出会った時の白いシャツを着ていた……私が大好きと言った服だ。

 

 辛かったはずだ、苦しかったはずだ、大変だったはずだ。なのに彼はそんな素振りを欠片も見せずに、穏やかに優しく……私に笑ってくれる。

 

「ほら……また会えただろう?」

 

 私は駆け出していた。瞳から涙を落としながら広げられた腕の中に飛び込み、それでも笑顔で愛しい彼の名前を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――レイン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開け放たれた小屋の窓から風が迷い込んだ。迷子の風は無邪気に羊皮紙を巻き上げ、一人の少女が綴った物語を読み上げる。

 

 ――この世界に忌み子として産み落とされた二人の少女と、彼女達を救うために命を懸けた黒き少年がいました――

 

 ――これは悲劇ではありません。そして喜劇でもありません――

 

 ――そう……これは少年が戦い、少女が救われた、ありきたりで美しく、幸せが約束された――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――【眷属の物語(ファミリア・ミィス)】――

 




 おわったーーー!
 達成感が半端ないです、はい。
 この二次創作業界では『レイン』の作品は両手の指で足りるほどの少なさ、完結したのを見るのは作者自身、今作が初めてです。感無量ですよ。よくここまで大勢の人に見てもらえたなぁ、と思っています。
 作者の柔らかいもちです。今作、『雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか』はいかがでしたか? とりあえず今まで伝えられなかったことをぶちまけていこうと思います。

 最初に書き始めた理由を話します。
『ダンまち』と『レイン』のクロスオーバーを書いているので、作者がこの二作品が好きなのは多分ご存じだと思います。そして『レイン』の原作者、吉野匠さんが亡くなられたことが、この作品を書こうと思ったきっかけでした。

 どんな形でもいいから『レイン』という作品が完結するところを見たい! と考え、初めは『レイン』原作の続きを推測で書いていこうと思いましたが、作者には不可能でした。単に続きを想像できなかったんですね。また、そんな状態で無理に書いたとしても、途中で投げ出すのがオチでした。

 なら自分である程度好きに捏造してもいい二次創作ならどうだ? と思い付き、相性がよさげで勝手ながらも終わりを考察していた『ダンまち』とのクロスオーバーを書き始めた訳です。

 最初のプロットは酷いものでした。オリキャラが阿呆みたいに登場したり、キャラの性別が変わっていたりとやりたい放題。大分物語が進んだところで久しぶりに確認してみたら、『うっっっわ……』となりました。もし一時の欲望のままに進めていたら、この作品は削除されていたでしょう。羞恥に耐えられなくなった作者によって。

 一部を明かしますと、ベル君が女体化、そしてラスボスはフィーネ、そしてフィーネを殺したレインがなんやかんやで裏ボスになり、それをベル君が仲間の手を借りて打ち破って、最後にレインと血の繋がった家族だと判明して終わり……てな感じでした。ちなみにベル(ちゃん)がレインに惚れているおまけつき。……うん、クロスオーバーは素人が詰め込み過ぎると駄作一直線だ、と思い直して本当に良かった。

 没になったのはベル君を女体化させる意味があまりなかったからですね。リリ編はいいとしても、春姫が登場する遊郭編が進まなくなるし、百合百合したやつは書けないしで。

 そしてフィーネがダンジョン最下層に待ち構えている設定だと、内容が薄くなってしまいます。ダイダロス編は完全になくなりますから。それにラスボスであるテュポーンは『ダンまち』の設定や世界観などを加味して作り上げました。フィーネ主軸で書いていたら、完全な独自設定になるのでそれを避けたかった、という思いがありました。

 プロットはころころ変わっていましたが、プロットが無ければもっと完結は遅くなっていたでしょう。この作品が吉野匠さんの供養になれば嬉しく思います。

 以上が書き始めた理由です。次は執筆中の作者の気分です。

 序盤は楽しかったですね。妄想を文字にして、それに対して感想や評価を貰って喜んで。

 ですが、人間は弱いものでして。途中から『レインという作品を完結させる』ではなく、『高評価を貰える作品を作り上げる』に目的が変わっていました。高評価を付けてもらえたらモチベーションが上がり、低評価、特に最低評価を付けられたら『やめよっかな……』と滅茶苦茶落ち込みました。恥ずかしい話です。

 今は高評価やお気に入りをしてもらえると普通に嬉しいですが、生み出す作品を自分が誰よりも楽しもう! と思っているので平気です。……この状態にもっと早くからなれていたらなぁ。

 とまあ、作者の醜態の暴露はここまでにしておいて。今度は短く自分から今作に対する評価を伝えます。

 自画自賛になりますが、ストーリーは良かったと思うんですよ。結構つじつまはあっていた上に、ダンまちの世界観にもマッチしていたので。レインの『スキル』を『早熟』ではなく『成長速度補正』にしたのも、『早熟』だと被るしずっと強くなり続ける意味ではないので、結構いい選択をしたと思ってます。平均文字数も三千ちょいで十分だろうと思っていたのに、最終的には五千文字近くまで膨らませられましたし。だけど、キャラの言動を上手くできなかったのが悔やまれますね。あと地の文の粗い部分とか。漢字の変換とかもブレブレだし。ダンメモはマジですごい。四周年の話とかドキドキがヤバい。

 最後に、全ての読者の皆様に感謝を。お気に入り登録をしてくれた方、誤字脱字の報告をしてくれた方、感想を書いてくれた方、評価をしてくれた方だけでなく、この作品に興味を持って覗いてくれた読者の皆様がいてくれたからこそ、約一年半で完結まで来ることができました。本当にありがとうございます。『レイン』と『ダンまち』、どちらかだけを読んでいた人がこの作品を通してもう片方に興味を持ってくれたら嬉しく思います。

 今後のことは活動報告に載せる予定なので、興味がある方はご覧になってください。

 それでは。

 永遠のレイン教信者、ダンまちファンでもある柔らかいもちより。
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