ナンバー1ヒーローが教室のドアから普通に入って来てヒーロー基礎学の授業が始まった。
彼がこの国で1番強い人間…と断ずるのはいささか軽率だが、トップレベルの人間の1人なのは間違いないだろう。
能力はもちろんなのだろうが、佇まいやオーラだけで敵を威嚇できる。
彼が先頭に立ちこの国を率いたら、一体何人の国家錬金術師を投入すれば勝ち目があるのだろうか…
まあこちらもただの人間ではない。簡単には勝てずとも、負けるつもりもないがね。
まずはコスチュームに着替えるという事で更衣室へ向かったが、流石に高校生でヒーロー科の生徒ともなれば色々と弁えているのか、私の身体を見て何か言う者は居なかった。多少騒ついたがその程度だ。
横からブツブツ言う声が聞こえた気もするが、気にする程でも無かった。
外野に何と言われた所で私が気にする事もないし、気にしたとしても…歩みを止める理由にはなり得ない事だ。
蒼いズボンの上からブーツを履き、ベルトを締め手袋をはめ直す。一応造ってもらった帽子を小脇に抱えて更衣室を出た。
かなり記憶に近い形に仕上がったコスチュームに気分が高揚しているのが自分でも分かる。自然と上がってしまう口角を抑え、帽子を目深に被り気を落ち着かせると、他の生徒の観察に入った。
初回の授業なので全員の実力や問題点を把握する為により実践的な授業として模擬戦を行う様だ。
学校側が保有している我々の戦闘能力や個性の詳細は、役所に登録されたものと入試の際のデータのみだ。教師側としてもその辺りの情報を早く収集しておきたいのだろう。
どの程度個人に沿った授業を行うのかは不明だが、詳細なカリキュラムを組むには現状の把握が必須だ。
他の生徒の能力やコスチュームのサポート性能を確認する良い機会だろうし、できればじっくり観察したいと思っていると、何も書かれていないボールを箱から引き当てた。
「おめでとう水龍少年!!それは大当たり!ペアになる相手が居ない代わりに1番最後に好きな相手を指名して戦えるぞ!」
何処から出したのかわざわざクラッカーを鳴らしながらオールマイトが声高らかに宣言している。
なるほど、確かに当たりらしい。
クラスメイトの対戦をざっと見た感じでは、みな将来ヒーローに可能性はあるが、当然ながら現状ではまだまだ詰めが甘かったり荒削りだったりという印象だ。
特に最初の模擬戦からアクセル全開だった爆豪少年たち…あんなんで大丈夫なのかね。特に爆豪少年は危うすぎる。彼のヒーローを目指す理由…指針が如何なるものか知らないが、それが未来の重要な分岐点で光になるか闇になるか。
フッ…彼も、名声の為にヒーローになろうとしている私にこんな事言われたくはないだろう。私には関係のない事だったかな。まあ、敵になるなら関係はあるが。
未だ未熟だという印象を覆す訳ではないが、戦争のないこの国で、彼らは義務教育を終えたばかり。そしてヒーローになるための勉強をしに来ている学生だ。今の彼らにはこれで十二分だろうとも感じた。
隣国との恒常的な戦争や内戦の絶えない我が国では、彼らより幼いながらも、彼らより優れた兵士が大勢居た。
昨日まで酒を飲みに来ていた酒場だった、腐臭の立ち込める瓦礫の山。
ガラス玉の様にただ周囲の景色を反射する眼球。
おそらく数十名が爆死したであろう拠点で適当に拾った指や歯を、名前も確認せず遺族へ返送する袋へ投げ入れる新兵。
優れている事が良い事だとは限らないと、私はたった今、彼らによって真に理解させられた様に思う。
なんか急に暗い。