あれから数ヶ月が経った。
私が居た瓦礫の山は"ショッピングモール"と呼ばれる大きな市場だったらしい。
脳天ぶち抜かれたと思ったらいつの間にかあそこに居たのだ。
ここ数ヶ月の間に分かった事といえば、ここはアメストリスではなく日本という国であるという事。アメストリスという国はどこにも無く、過去そんな国があった場所も無いという事。
そしてここには錬金術はなく、代わりに個性という実に研究しがいのありそうな能力を持つ者が多く存在するという事だ。
当然、錬金術師も国家錬金術師もおらず、代わりに個性を利用して悪事を働く"敵(ヴィラン)"と呼ばれる犯罪者と、それに同じく個性を使って対抗する"ヒーロー"と呼ばれる職業の連中が存在している。
「どうなっているんだ…」
一体全体どうなっているのか見当も付かない。
しかし、どうやらここは元いた世界とは全く別の世界のようだった。
更に起こった変化についてだが、明らかに身体が幼い子供のそれだという事である。若返ったというよりは、顔付きも体格も自分が子供だった頃とは全く異なっている為、別人になってしまったと考えられる。
年齢は5、6歳と推定され、以前の自分やその環境の面影はどこにも無かった。
この少年の母親は例のショッピングモールで亡くなってしまったらしい。
私の方はと言えば、こちらの両親の事や世界の常識は忘れてしまったと周囲に解釈された。
正しくは全く知らないのだが、ショッピングモールの一件と母親が死んだ事によるショックで記憶喪失になってしまったと思われた様だった。
ショッピングモールでは凶悪な敵が徒党を組み複数人暴れていたところ、地震や火災が重なって大惨事になった現場だったのだと後に知った。
休日だったこともあり、死傷者は数千人に上り被害は甚大。私はその中でも数少ない生き残りらしい。
そのせいで記者たちに追いかけ回され正直ウンザリしている。
生き残り以外にも大きな材料がある。右足を失ったことだ。
気を失っている間に崩れ落ちて来た瓦礫に巻き込まれ、奇しくも前世と同じ右足を失ったのだ。顔にも前世と同じ傷跡がある。
今は全身の打撲や裂傷などの負傷に、失った片足の為車椅子での生活を余儀なくされていた。軍人ならばよくある事だが、ここは軍事国家ではないようだし今の私は軍人でもない。ましてや見た目は子供である。
自分で言うのもなんだが実に痛々しい。マスコミには格好の餌だろうな。
大惨事から生き残った事による謂れの無い誹謗中傷と、痛々しい見た目によって同情を寄せるメディアや一般大衆からの視線や声は鬱陶しかったが、生活に支障が出る程では無い為訴えるのは難しそうだなというのが正直な所だった。
何もかもを失った様だったが、そんな中ひとつ幸いなことがあった。
世界や肉体は違えど知識や記憶、あるいは魂は同一らしい。この肉体になってからも錬金術は問題なく使用出来たのだ。
それが、この異常な事態の中でも私を安心させてくれた。
科学者として受け入れがたい状況だが、何日経っても夢から覚める様子もなく、私はこれが現実である事を受け入れざるを得ないと思い知らされた。
これが現実だとすれば、まずどうにかしたいのはこの足だ。以前は機械鎧だった為、今の車椅子生活は不便でならない。
軍務がある訳でもなく、更には今はこの世界での義務教育期間である学生という身分にある為そこまでの不便という訳ではないが、やはり慣れないし違和感がある。
今は世間の奇異の目から逃れる為に、小学校には通わず家庭教師を雇っており時間はある。正直このレベルの就学なら師は必要ないのだが、この世界の言語や歴史はサッパリなので大人しく教えを乞いている。プロに話を聞く方が独学よりも効率が良いしな。
話が逸れたが、ここでの父親は大企業の社長として日々忙しくしている。その代わり、母親も居らず自分も家にあまり居られないからと言って家政婦や家庭教師を雇ってくれているのだ。つまり金もある。
最初は修理やメンテナンスの為と思って手を出したが、知識欲を刺激され原理だけは頭の中に入っている。
自分で装着する機械鎧を造るだけなら訳も無いだろう。