1945年に滅びる日本を救って欲しいであります(未来知識チート)   作:火焔+

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25.1837年 八幡製鉄所-前編-

 

今回は「八幡製鉄所」であります。

西暦は引き続き1837年5月でありますな。

 

■加硫ゴムの開発

■ルブラン法によるガラス精製

■ケプラー式望遠鏡(単眼鏡・双眼鏡)の発明

■ビタミンの発見「2枠」

★八幡製鉄所「6枠」

・活版印刷機「2枠」実用化(5か月)

・ヨーゼフ・レッセルの出島招待とスクリュープロペラの開発「3枠」(11か月)

・パレンバンの産業振興(11か月)

・バリクパパンの産業振興(11か月)

 

■研究専用13枠:生物+2

■研究専用13枠:生物+2

 

 

世界に先駆けて鋼鉄の量産、昂ぶりますな!

 

 

――――――――――――――――

 

●八幡製鋼所

 

【江戸城】

 

「以前、余は天保銃が最後の仕事だといったが、あれは嘘だ。」

 

 第11代将軍徳川家斉は唐突に言う。

 だが、その理由も経緯も誰もが理解している。

 

「偶然にもオランダから大量の鉄鉱石を、そして朝鮮からも鉄鉱石を輸入できる目処が付いた。

 これは非常に幸運なことだ。

 だが、問題が無いわけではない。それはわかるな?」

 

 家斉は忠邦に視線をやる。

 仔細は任せたとの合図だ。

 

 家斉は家慶が家臣を率いる度量が無いと見込んだ事から、家臣たちを鍛え上が変わっても問題なく(まつりごと)が行える様にしてきた。

 事実、家慶は家臣を見出す力はあるが、率いる才は無かった。

 

 

「オランダと朝鮮の鉄鉱石の輸入によって、釜石鉄鋼所はキャパシティオーバーが明白となった。

 さらに、東北まで鉄鉱石を運ぶコストも、オランダや朝鮮に売る鋳鉄を運ぶのにも安くないコストが掛かっている。

 つまり、輸送経路が長すぎている。

 これを解消するには九州地方に製鉄所を構えなければならないということだ。

 

 もちろん釜石の炉を止めずに動かす分の鉄鉱石はこれからも輸送する。

 江戸やその近辺で鋼鉄を使うには、やはり釜石は適した場所であるのも事実だからだ。」

 

 

 簡単に言うと輸送コストを下げるために九州に製鉄所を作るということだ。

 鉄鉱石みたいな嵩張るものを西から東に運ぶだけでも、結構な金が掛かる。

 

「九州といいますと、島津に力を与える事となりませぬか?」

 

「うむ、その懸念も最もだ。故に製鉄所の候補地は北九州を予定している。」

 

 島津はクリッパー船による琉球貿易(其処から先も含む)でクソ貧乏から、そこそこ金のある藩になっていた。

 金があってゆとりがあると、人は丸くなるもので島津と幕府の関係は10年前よりかなり改善している。

 討幕と言うパフォーマンスはしているが、本気で戦って国内を荒廃させようと言う気は今の島津には無い。

 だからといって製鉄所を薩摩に建てるほど仲がいいわけでもないが。

 

 

「場所は黒田斉隆殿の治める福岡藩を予定している。

 斉隆殿は上様の弟君であらせられるが故、既に話は通してある。

 場所は八幡地区が出島から遠くも無く九州と中国地方の要所である為、

 将来の鉄道計画を見据えた上でも良い立地だ。」

 

 徳川家斉と黒田斉隆は母を同じくする兄弟であり、斉隆は黒田家に養子となったのだ。

 それ故、九州での徳川の権威を強める意味も含めて八幡に鉄鋼所を建設する事に決めたのだ。

 

 そして補足するように家斉が口を開く。

 

「耳の早いものは知っていると思うが、斉隆からの書簡が此処にある。

 内容はこうだ。

 『幕府と福岡藩、そして黒田家の発展のため黒田家総力を以って事に当たる所存。』

 と記しておる。」

 

 家斉は書簡を置き、家臣団を見渡す。

 

「鉄は日本の未来にとって非常に重要な資源である事は明白だ。

 余の最後の大仕事、無事に終わらせられるかはお前達の働きにかかっておる。

 

 余を失望させるなよ?」

 

 

「「「「はっ!!!」」」」

 

 

「忠邦、音頭取りは貴様に任せる。

 入即出屋を使うならば、お主が最も精通しておる。

 ただ、そろそろ後釜も育ててやれ。

 お主に何かあったとき、入即出屋との繋がりが切れても困る」

 

「畏まりました。」

 

 家臣団は忠邦が誰を選ぶか注目していた。

 入即出屋といえば、ここ数年で幕府の御用商人まで上り詰めた破竹の勢いがある大店だからだ。

 

 それだけでなく、富岡紡績工場、釜石製鋼所、横浜の出島を建設する幕府からの依頼さえも十分に応えるだけの技量をもつ。

 さらには、クリッパー船、あいのこ船、ベッセマー転炉、コンクリート建造物など、西欧の先進技術を次々と発明し実用化する発明家を擁する。

 入即出屋は下手な藩よりも金と権力を持つ一大勢力なのだ。

 

 だからこそ人選にも気を使う必要がある。

 それに選ばれたのは――――

 

 

 

――――――――――――――――

 

【入即出屋】

 

「お久しぶり、と言うほどでもないですけど、お久しぶりですお。

 そちらの方は初めましてですお。

 水野様のご子息ですかお?」

 

 やる夫の元にやってきた忠邦の後ろに控えるのは20歳に満たない若い男性だった。

 

「ハハッ!違うぞ。確かにそれくらいの年の差はあるが、この者は阿部正弘。若いながらに奏者番と寺社奉行を兼任するエリートなのだぞ。」

 

「おぉ、それはすごいですお(良く分からないお)。初めましてですお。」

 

「こちらこそ初めまして、阿部正弘と申します。御噂はかねがね……」

 

(どんな噂かは聞きたくないお。)

 

 やる夫が思うほど悪い噂ではないが、やる夫自身は結構好き勝手している自覚はあるので華麗にスルー。

 

 

 ※奏者番は大名の転封などの重大な決定を伝えるための上使。出世するための登竜門となる。その中でも4名だけが寺社奉行を兼任できる。

 ※寺社奉行は三奉行の筆頭で老中まで上り詰める可能性があるエリート街道の役職。

 結論、阿部正弘は超々エリート。

 

 

「それで、今日はどのような御用ですお?」

 

「うむ。今日は重要な案件を持ってきた。

 恐らく今までで最も重要だ。」

 

「マジですかお……拒否権は――――ないですね、ハイ。」

 

 

 

「今回は福岡藩の八幡地区に製鋼所を建設して欲しい。」

 

(釜石と変わらないお?)

 

 だが、そうは問屋が卸さない。

 

「製造能力は2倍以上、かつ1837年中に建設して欲しい。」

 

「い、一年ですかお!?」

 

 史実ですら1897~1901年までの4年を要しているのに、規模は小さくとも1836年から1年で作れと言うのだ。

 どれだけ無茶を言っているかが分かろうというモノだ。

 

 

「困難であるのは重々承知している。だが、可能性が最も高いのは釜石での経験がある入即出屋しかない。」

 

 0.01%が0.1%になるようなものだが、やる夫の伝手をあたるのが最も確率が高いというのも事実。

 

「なに、お前たちだけにやらせるつもりはない。

 人材面は福岡藩が全面的にバックアップする。彼らを使って一日でも早く完成にこぎ着けてくれ。

 金銭面は気にしなくて言い。幕府が負担するし、報酬もこれまでとは桁違いだ。」

 

 それに――――」

 

(ま、まだ何かあるのかお……?)

 

 次はどんな爆弾が投下されるのか身構えていると……

 

「東南アジア居留地への渡航権を貴様にやる。

 幕府が取り消すまで効果は永続だ!!」「やりますお!!」

 

「よし!頼むぞ!!」

 

 流石は忠邦。

 やる夫が最も欲している切り札を最後に切って、ドン底に落としてから天国に持ち上げるという手法を取った。

 喉から手が出るほど欲した権利にやる夫は、反射で了承してしまった。

 

 

【挿絵表示】

 

[ヤバイお……]

 

(しまったお……完全に乗せられてしまったお。

 

 

 ま、いっか。

 どっちにしろ断れないんだし、海外に出るチャンスだお。)

 

 

 日本が鎖国政策をとっている以上、原則日本人は国外に移住する事は出来ない。

 渡航にも幕府の許可が必要となっていた。

 今回は特例として、幕府に多大な貢献をした者として入即出屋に海外へ渡航する許可を与えることにしたのだ。

 

 実の所、これにも忠邦の裏の作戦があった。

 パレンバン、バリクパパンの2つの居留地は殆ど開発が進んでなかったのだ。

 各藩は自身の土地の産業を振興するのに全力を注いでいたため、天領も公共事業で手一杯だった。

 

 民間を参入させる事でどうなるかの実験をしようという腹づもりだった。

 入即出屋であれば、そう変な事にはならないだろうと。

 

 

 

―――――――――――――

 

「所でだ。外の港に浮かんでいるお前のクリッパー船だが、

 以前(横浜の出島開発)から何か変わっておらぬか?

 何やら大きくなった様な……?」

 

 一仕事を終えた忠邦は来る時から疑問に思っていたことを聞く。

 

「お、流石は水野様。お分かりになりますかお。

 実は改造――――というか新造したんですお。」

 

「ほぅ……。何が変わったのだ?」

 

「それは、乗ってみれば分かりますお」

 

「フッ!勿体振りおって。では乗るぞ。」

 

 やる夫がそういう素振りを見せるのは珍しいなと思いつつ、新たなクリッパー船へと乗り込む。

 甲板へと上ったが、大きな変化は見られなかった。

 

「??? 別段変化が無いような…………?

 いや、何かが変だ。がっしりとしている様な……

 ――――!!!

 まさか!? やる夫、船倉に降りるぞ。」

 

「はいですお。ってもう降りてしまったですお。

 阿部様も如何ですかお?」

 

 江戸城ではついぞ見ない忠邦の様相に、正弘は呆気に取られつつもやる夫と共に船の内部へと降りていく。

 

 総木製に見えた甲板とは全く様相が異なり、至る所に鋼鉄が使用されていた。

 竜骨や骨組みは鋼鉄で出来ており、それに木の板を張った木鉄混合船だったのだ。

 

 実はマストも鋼鉄製であり、偽装の為に木の板を貼り付けて居たのだ。

 船体の強度が増したため、大型化するのは必然だった。

 

「またとんでもない物を作りおったな!やる夫!

 しかも鋼鉄が使われている所が内部にまで入らないと分からぬ所が更に良い!」

 

「お上が鋼鉄を作っていることを海外に内密にしている事を噂に聞きましたお。

 だからこういう仕掛けの方が、航海の許可が下りるかと思いましたお」

 

 幕府の御用商人になっているのだから、上層部の噂は良く耳にする。

 なんだかんだ言ってこういう配慮が出来るのが、やる夫の気に入られている所でもある。

 

「うむ。良くわかっておるな。

 良くやったぞ、やる夫。新しい船舶の特許だな。」

 

「え?クリッパー船自体の構造は同じですお?」

 

「何を言っておる。改良して新しい製品となれば特許に決まっておろう。

 ジェニー紡績機とミュール紡績機、同じ紡績機でありながら共に特許を持っているであろう?

 製品に新たな進化がある場合、それはもれなく特許だ。」

 

「そうだったんですかお。」

 

 現代人ですら、専門家でなければ詳しくないのだ。

 やる夫も自身を発明家だと思ってないので、大して詳しくない。

 

「これなら、マスト用の大きな木も不要になるし木を他の内需に回せるな。」

 

 木材は開拓、開墾でかなり伐採しているが、それ以上に使用量も増えている。

 国内用船舶(合いの子船)、機械部品、木造建築、紙など様々だ。

 大型船用の木材が半減するだけでも助かるというモノだ。

 

 鋼の相場は高くなるだろうが、八幡製鉄所が出来れば落ち着くというか、下がるだろう。

 

「今後、幕府はこの次世代クリッパー船を建造する事としよう!」

 

 

 そして、思い出したように忠邦は言葉を続ける。

 

「あ、それと八幡の製鉄所が完成したら、横浜で使っていたクリッパーは幕府が買い上げるからな。」

 

「デスヨネー」

 

 俗に言うボッシュートである。

 それも仕方ない。

 何せ【大船建造禁止令】は廃止されていないから(軍船に限定という忘れられている制限も黙ったままにしてある)、幕府のみが大型船を建造しているのだ。

 やる夫は、次世代船舶開発という名目で一隻のみ自身が所有する事を認められているのだ。

 二隻目を作ったら、そりゃそうなる。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 ついに始まりましたな八幡製鉄所。

 六枠もブチ込むとこんな大変になるんでしょうな。

 

 さてさて、どうなる事やらでありますな。

 

 ちなみにやる夫が作った次世代クリッパーは、クリッパー船として有名なカティ・サーク号の和製バージョンであります。

 カティ・サークは1869年末に処女航海をするでありますよ。

 つまり、32年先取りしてやる夫は後期のクリッパーを作ってしまったでありますな。

 

 因みにカティ・サークは中国~イギリス間を102~122日(3~4ヶ月)で航海する高速船であります。

 シドニー~ロンドン間は最速で72日であったりします。

 

 いつ、オランダやイギリスにばれるか冷や冷やモノでありますな。

 

 

 


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