1945年に滅びる日本を救って欲しいであります(未来知識チート) 作:火焔+
「ハーバー・ボッシュ法」と言ったが……
アレは嘘であります。
その前に、今年のアルハンゲリスク訪問があるであります。
前回の訪問は1838年であります。
――――――――――――――――
●鉄鉱石の価値
【アルハンゲリスク】
ロシア十字軍が始まって2ヶ月。
1839年7月、勝海舟たち含む日本海軍(幕府・藩連合艦隊)が大量の物資を積載してアルハンゲリスクに到着する。
そこでロシア外交官が出迎える。
「ようこそロシアへ。お待ちしておりました。」
戦争を始めたロシアと未だ知らない日本。
無理も無い。海舟たちは5月半ばに日本を出港したのだ。それからずっと船の上、情報など入るはずも無いし、日本も欧州で戦争が始まったことなど知らない。
「ありがとうございます。
今回は穀物、ウォッカ、それに鋳鉄レール、マスケット銃を持って参りました」
数十隻ある船の内一隻には、満載の鋳鉄レール、もう一隻には満載の火縄銃。
そして残りの船には大量の食料。
見るものが見たら軍事物資にしか見えない。
ロシアとしてはそのつもりなのだから当たり前なのだが、知らぬは日本のみ。
「助かります。これで多くの(ロシア人の)命が救われる。
さて、お約束の品です。
バラ積みされている鉄鉱石、幾ら積んでいっても構いません。」
以前の約束通り鉄鉱石の大盤振る舞い。
日本海軍の船に満載したら欧州市場価格の数分の一という格安になる。
欧州に売らないのは対ロシアの武器になるのが目に見えているからだ。
「こちらこそ、ありがとうございます。」
日本としては鉄は幾らあっても足りないのだから幾らでもほしい。
ロシアの申し出は願ったり叶ったりだ。
「では、来年【も】よろしくお願いします。」
「是非とも。それではまた。」
――――日露貿易は今日も平和です。
――――――――――――――――
●知らぬが仏
「何ということだ…………」
北極航路の勝海舟らが交易を終え、日本へ戻ってきた頃、諜報機関からロシアvs欧州の戦争が起きている事を幕府の重鎮、老中らは知る。
北極交易の品は武器、インフラ、そして食料、酒。
他所が見たらロシアへの軍事支援としか見えない。
とはいえ、止めるのも非常に勿体無い……もとい、難しい。
まず、ロシアも最恵国。オランダにもマスケットを売っているのだからロシアに売らないというのは条約にも義理にも
そしてロシアからもたらされた欧州価格の数分の一という驚きの安さ。(品質もいい)
オランダが相場の数倍なので、価格差は1/10に迫るくらいに安い。
つまり輸送費、海軍演習費を差し引いても相当にボロ儲けなのだ。
さらに北極航路は海軍演習という建前上、資金は全て幕府持ち。
つまり、鉄鉱石の所有権も幕府に帰属する。
これを製鉄して国内に流せば幕府の儲けは莫大。
物資の面でも、金銭面でもどうしても維持したいというのが本音。
日本には山が丸ごと鉄鉱石なんて奇跡は無いのだから。
「とにかく現状を纏めよう。」
疲れた顔をしている水野忠邦は状況の整理を始める。
・ロシアvs欧州について
ロシアからの情報提供も無い。
オランダからの情報提供は無い。
ロシアもオランダも情報を出さないのは不明。
オランダの場合、日本に来ているオランダ人が知らない可能性もあるし、何か理由がある可能性もある。
つまり、諜報機関の情報が無ければ【日本は欧州の状況は知らない】ということになる。
・北極航路について
オランダもイギリスも北極航路の事は知らない。
オランダは南から来るため函館まで来ない。
イギリスはそもそも日本に近づかせていない。
つまり、北極航路は日本かロシアが情報を提供しない限り欧州勢が知る事はない。
・鉄鉱石について
オランダは日本が欧州相場を知らないと思っている。
日本は諜報員の情報により欧州相場を知っている。
ロシアは何故か鉄鉱石を安く売ってくれる。
恐らくは武器にして持ってくることを期待している。
つまり、日本は本当に鉄鉱石が欲しいという事だ。
これが無ければ、そもそも大きな問題にはなりえない。
オランダから吹っかけられても買うのは鉄での儲けは無くてもいいから鉄が欲しいためだ。
この情報を統合すると――――
「よし!少なくとも今回の北極航路は、時期的に日本が知らなかったという事にしておこう!
本来であれば、オランダからもたらされる情報しか欧州を知る術はないのだ。
寧ろ知っている方が疑われてしまう。(諜報機関の存在も)」
十数年前まではオランダの言ってる事は全て正しい。
そんな感じだったのだ。それで押し通そうということに決まった。
「次に鉄鉱石だ。これはロシアから購入している1トンあたりの購入価格を引き合いに出してゴネよう。」
その結果、豪州の鉄鉱石が安くなるのであればそれはそれでいい。
ロシアから買っていた分の製鉄能力が空いているといって取引量を増やす。
その場合はロシアの鉄を諦められる。
日本は欧州相場を知らないのだから、ゴネるのはとても自然な行為ともいえる。
「これらはオランダが日露貿易に対して何か言ってきた時の対処法であり、こちらからアクションを起こしてはいけない。
自ら吊るし上げに遭いに行く必要はない。」
そういう方針になった。
――――――――――――――――
●オランダの憂慮
「はぁ……日本にロシア戦の事なんて切り出そうかしら……」
オランダが悩むのはロシアと揉めているのを言うか否か。
戦争となれば軍事物資が値上がりする。既に欧州、アメリカでは絶賛上昇中。
日本が知れば、少しでも儲けようと値段交渉に入ってくるだろうと。
いや、前置きはいい。
【暴利を貪っている鉄】に関しての一切の情報を与えたくないのが本音だ。
こんにちの戦争で鉄は重要な軍事資源、嫌でも話題に上がる。
それがオランダとしては困る。
ただ、長年の義理とロシアへの牽制を兼ねて言うべきかも悩みのタネだ。
「だったら言わなければいいじゃないですか?
イギリスとしては日本に情報を流すの反対です。」
同じく暴利を貪るイギリスが待ったをかける。
「あれほどの製鉄能力、20~30年も持つわけがありません。
山はハゲ山となり、環境は汚染され、いやでも鉄の値段を上げてくるでしょう。
それまで儲けさせて貰えばいい。」
「経験者が語ると説得力が凄いわね……」
イギリスはそんな感じで絶賛公害発生中だ。
「お褒めに預かり光栄です」
「褒めてないわよ……。
ま、イギリスの言い分も尤もね。
わかったわ。日本には欧州は特に変わりなしということで聞かれなければ話題にしないし、
聞かれても【特に問題はない】という事にしておくわ。」
「そうですね。ロシアから戦争の情報を得ている可能性もあります。
【特に問題はない】。
ロシアとの戦争は特に問題にならない程度であるという事にしておいて下さい。」
(ま、鉄に関しては日本が何も言わないので、ロシアも暴利を貪っているのでしょう。
実際の価格を知れば、間違いなく交渉してくるはずです。
わざわざ高く買う理由などありませんからね。)
――――――――――――――――
●日蘭貿易
横浜港に水野忠邦、阿部正弘はやってきた。
情報では近日中に到着するオランダ商船に外交官が同乗しているからだ。
平時であれば、ただの来訪で情報交換程度で済むのだが……
今回は事が事だ、何が起こるか不明である。
「忠邦様。オランダの方がお見えのようです。」
部下の武士が外交官が来日した事を忠邦に伝える。
「うむ。」
忠邦は様々なシミュレーションをしつつ港へ向かった。
「これはこれは。まさか忠邦殿がお見えになるとは思いませんでした。」
外交官はいつもより面子が大物である事に警戒する。
「えぇ、横浜の視察が入っておりましたので。
こちらに居るのですから、お会いしようかと。」
「なるほど、確かに横浜は随分と発展していますからね。」
横浜の湾岸は年々整備され、レンガ造りの建物も数多く建っている。
中には鉄筋コンクリート建造物にレンガタイルを張るという手法をとっているものもあるが。
横浜はレンガ造りの景観という名目で技術秘匿が掛けられており、かなりの建設規制が整備されている。
だとしてもオランダからすればかなり都会的な街並みだ。
「ええ。視察を重ねるごとに様変わりするので、視察が楽しみなのです。
これも日蘭貿易の賜物です。」
「光栄です。国王陛下もお喜びになると思います。
オランダも随分と発展して来ているのですよ。」
とりあえずは世間話で互いに様子を探る。
「…………」
「…………」
世間話も一段落がつき、ひと時の静寂が流れる。
(何故だ……? 何故オランダはロシア戦争について何も言わないのだ?
情報によればオランダも巻き込まれていると聞く。
東インド領の在留オランダ人ならともかく、本国からの外交官が情報を知らないわけが無い。
何か理由が……?)
その理由が日本の利となるか損となるか気になりはするが、藪をつついて何とやら。
何も言わないでくれるのであれば、それに越した事はない。
(何故、日本は何も言わない?
ロシアから何も聞かされていない?
極東経由であれば、確かに年単位の時間は掛かるか。
知らないのであれば僥倖、このままでいいだろう。
何せ、ロシアとの戦争は【特に問題はない】のだから……)
オランダは日本がロシアから何も聞いてないと判断して、何も言わないことにする。
(ま、来年日本に来るの俺じゃないし)
もし、日本が知っても、来年来る担当官が何とかしてくれるだろうと……
その後も特に何ら問題なく、例年のようにつつがなく会合を終える事となった。
((ヨシッ!))
――――日蘭貿易は今日も平和です。
――――――――――――――――
結局何事も無かったでありますな。
後ろめたい事が互いにあると、結構すんなり進むものです。
焦点が同じ案件であれば尚更。
ロシアは日本の軍事物資をアテに、
オランダは鉄をアテにしているでありますよ。
ちなみにオランダは建設国債を追加発行しているであります。
経済大国なのに絶賛国債塗れでございます。
ま、日本との交易量も増えているので1850年には【今の】国債は返済できるであります。
勿論日本のメリットもあるであります。
国債の利子は東インド作物をほぼ原価で現物支給しているであります。
つまり日本にもってい行けば数倍の値段で捌けるであります。
仮に年利1%だったとしても10数年で貸した分の金額は幕府の金庫にはいるであります。
さて、次こそ本当に「ハーバー・ボッシュ法」であります。