1945年に滅びる日本を救って欲しいであります(未来知識チート)   作:火焔+

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34. 1840年 薩英戦争

 

時代は1840年10月であります。

「薩英戦争」でありますよ。

 

ついに日本にも戦争に火の粉が舞ってしまうであります。

直ぐに鎮火できるか、燃え上がってしまうかは――――

 

 

――――――――――――――――

 

【イギリス懲罰艦隊】

 

●鹿児島湾近海

 

 4等艦を旗艦とした10隻のロイヤルネイビーが鹿児島湾に向かって進む。

 幸い汽船は存在しないが、これだけでも清の海軍ならば殲滅するのに十分な戦力。

 日本のいち地方を占領するには過剰戦力だといってもいい。

 

 懲罰勧告が行われたのは3日前、

 懲罰理由は――――

 

『アヘン戦争において補給拠点となる予定であった琉球を実効支配したこと』

 

 あくまで実効支配であり、琉球を併合したことに対してではない。

 併合を理由にすると日英戦争になってしまう為、これはイギリスも望んではいない

 

 

 体裁としては、薩摩とは戦争状態である

 しかし、日本とは戦争していないので貿易は今まで通り続けましょう。

 

 日本で最強と噂される薩摩を叩けば日本も大人しくなる。

 そして、鉄の貿易は今まで通り続ける。

 勝利後には平等でも不平等でも通商を結べば、オランダを挟まず交易が出来て最上の結果となる。

 それがイギリスの描く青写真。

 

 万が一、日本愛にあふれたオランダ義勇軍やロシア義勇軍がやってきて辛酸を舐めさせられたとしても、

 一部隊の独断であり日本と事を構える気はないと即座に停戦。

 『英国流、一度なら誤射かも知れない』で万が一の備えもバッチリ

 

 そんな事させないための短期決戦なのだか。

 

 

 イギリスの陰謀渦巻く中、懲罰勧告から3日経過した今日が戦の火蓋が切られる日

 

 

 

●鹿児島城

 

 三日前、いきなり最終勧告を通達された島津家。

 幕府のとばっちりもいい所だが、懲罰理由に身に覚えがあり過ぎるのも事実。

 

 その勧告を受けた島津家27代当主斉興は――――

 

「戦が十全の準備を以って行えぬは世の理。

 ならばこそ最善を以ってお相手しようぞ」

 

 動じない斉興の対応に部下たち激励され

 島津の名に恥じぬ迅速な戦準備でイギリスを迎え撃つことになった。

 

 

 

――――――――――――――――

 

【開戦】

 

 鹿児島湾に佇むイギリス海軍の4~6等艦(戦列艦からフリゲートで大砲は20~40門)

 下等艦とはいえ英国海軍。6等艦2隻で清国海軍が全滅するほどの精強さ。

 

 対する島津軍は高台に築かれた砲台10門に集結。

 沿岸からイギリスを迎え撃つ。

 しかし、肝心の大砲は1833年に幕府から譲り受けた旧式。

 今年に正式採用された後装式、ライフリング、駐退機が日本列島の果て九州に届くはずがない。

 大口径の大砲は御三家に配備するのが精いっぱいなのだ。

 

 風は島津方への追い風。

 高さも丘に築いた砲台が高所を制する。

 砲台の後方に塹壕を掘り、防御力も高い。

 しかし、砲の性能は圧倒的にイギリス優位。

 

 状況は島津方やや不利で幕を開ける――――

 

 

 

「撃てーーーーぃ!」

 

 28代当主となる斉彬の異母弟、島津久光が大将となり10基の大砲を指揮する。

 一射目はイギリス軍船の遥か手前に弾着し、水柱を作る。

 これは当てるためではない。弾道から風、大砲の調子を推察し、今日の最適な射角を図る為だった。

 

 これを威嚇と受け取ったイギリス海軍は向かい風ながらもお返しの一射目を撃つ

 こちらも島津軍に当たりはしないが砲弾は丘へと落ち、土を耕す。

 

 

「ふむ。嫌な所に砲台を作ってくれる。

 風と高さ両方を味方につけられるのは手痛いが、

 不利な状況であれ、大砲の性能差でこちらの射程の方が長いな。」

 

 

 島津優位な地形であれ、イギリスの大砲が150m程長射程であった。

 

 

「着実に一基ずつ落として行け。

 砲弾の消費は嵩むが賠償金で請求すればいい。

 清の弱兵とは違うことを各艦に通達せよ」

 

 堅実なイギリス海軍の提督は(はや)らず着実に島津方の大砲を潰す方針を立てた。

 

 

 

「ぬぅ……。清と同じと侮らぬか。」

 

 清と同じと侮り、不用意に接近させる為に敢えて50m手前に着弾させたのだが

 薩摩を護る砲台の設計の良さが仇となり、イギリスの油断を誘えなかった。

 

「久光様! 2番砲台大破、5番砲台中破に御座ります!」

 

 数百発の砲弾が高台に降り注ぐ中、久光は伝令の報告を聞き――――

 

「2、5番砲台は破棄。

 負傷者は下がらせよ。

 無事な者は他の砲台の援軍へ向かえ」

 

「はっ! その様にお伝えします!」

 

 島津方の戦力は20%低下。

 それに引き換えイギリスは無傷。

 潮の流れと風をコントロールし、島津方の射程外を維持しつつ島津に砲弾を浴びせる。

 湾内でそれを行えるのは、イギリス海軍の練度の高さ故だ。

 序盤は終始イギリス優位で進んでいく。

 

 

 3時間が経過し、島津の砲台は残り2基

 イギリス海軍は功を逸った2隻が不用意に接近し、6等艦「パーシュース」が大破、5等艦「レースホース」が小破

 8隻は依然として無傷のまま。

 島津軍が居る丘には数百、いや数千発の砲弾が地面に突き刺さり鉄の丘とも呼べそうな程、鉄と硝煙に満たされていた。

 

 

 勝敗はイギリス方に決まりつつある。

 とはいえ島津が戦える力を残したまま敗戦することなどありえない。

 

 

「久光様! 4番砲台も大破しました。

 残りは我が7番砲台のみに御座い――――」

 

 報告を受けている最中、集中砲火を受ける7番砲台に着弾し轟音が響く。

 

「ぬぅ……!!

 もはやこれまでか。

 全軍退け――――ぃ!!!!」

 

 10基すべてを失った島津軍は砲台を捨て後退を余儀なくされる。

 幸いなのは負傷者は軽傷なれど後方へ移送したため、死者が居なかったことだ。

 

 それに引き換えイギリス海軍は――――

 

「撃破はしたが……

 一隻大破に一隻小破。敵方に目に見える死者は居らず、こちらは10数名。

 これで勝ったなどとは言えぬ。

 

 これより追撃に入る!!

 敵軍に被害を与え、街をいくらか焼く!」

 

 

 これでは日本を交渉のテーブルにつかせられない。

 目に見える戦果が必要と判断し、島津側に損害を与えるため港へと船を進める

 

 

 

 望遠鏡を使い、戦場から離れた場所で状況を見ていた日本の防諜スパイは零す

 

「恐ろしく自然な敗走――――俺でなきゃ見逃しちゃうね。」

 

 島津軍は後方へと、内陸へと敗走し、

 それを追うイギリス海軍は勝利を確信し陸地へとどんどん近づいていた。

 

 

 

「隆盛、距離を申せ」

 

「必中距離まで200――――、100――――、50――――」

 

 内陸の高台にある塹壕から顔をのぞかせつつ単眼鏡で距離を測る。

 彼こそ西郷隆盛。

 斉彬が取り立て、後に日本の基礎を築く男の初陣である。

 

「斉彬様!」

 

 

 

 

 大友宗麟なら立ち止まっただろう

 立花道雪であれば反計を考えただろう――――

 

 

 

「これぞ島津の釣り野伏!

 日ノ本に島津ありと西欧に知らしめて見せようぞ!!!!」

 

 土色の布に包まれ土が盛られた様にしか見えなかった『それ』が陽に晒される。

 

 

 天保野砲――――

 

 

 この時代に似つかわしくない化け物がイギリス海軍を打倒(うちたお)さんと牙を剥く。

 

「撃てーーーーぃ!!!!」

 

 

 

「き、旗艦ユーライアス大破!!!」

 

 釣り野伏にかかったイギリス海軍は、

 先ず旗艦に集中砲火を浴び指揮系統を崩される

 

「りゅ、榴弾もあるぞ! 船内に避難しろ!!」

 

「う、うわぁぁぁ――――!!」

 

 人への殺傷能力を追求した榴弾が甲板に降り注ぎ、イギリス海兵は船内へと避難する。

 帆を操るものを失い、帆自体も榴弾の雨で襤褸(ぼろ)切れへと成り果てる。

 

「くそっ! 撃て! 何としても敵の大砲を沈黙させろっ!」

 

 イギリス軍船から大量の砲弾が放たれるが、

 悲しいかな、斉彬達が籠る塹壕には200mほど届かず大地を耕すのみ

 

 戦況は一転、島津軍の優勢にて固まりつつある。

 

 

 

「斉彬、首尾はどうだ?」

 

 久光は敗走から一転、斉彬率いる伏兵と合流する。

 

「義兄上、敵船舶の航行能力は失われました。

 あとはこちらの戦列艦で頭と後を抑えれば勝利です。」

 

「うむ。では俺が頭を抑える、斉彬は後を抑えよ。」

 

 

 

 航行能力を失ったイギリス海軍は砲門の無い船首と船尾を抑えられ

 降伏することとなった――――

 

 

 

「大砲と砲弾、火薬はすべて回収せよ。

 高台に落ちた砲弾も全てだ。

 集成館へと送り、鋼鉄の材料とするのだ。」

 

 

(この砲が、鉄道が無ければ、負けていただろうな……)

 

 斉彬は切り札となった天保野砲を見つつ、

 天保野砲を開発し、鉄道を薩摩まで敷設した幕府の力を感じるのだった。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 やはり(いくさ)は島津でありますな。

 島津に天保野砲、鬼に金棒とはこの事であります。

 

 戦況としては、序盤に久光が放棄予定の砲台でイギリス軍を惹きつけて敗走を装う。

 その後敗走を演じ、勝ちを確信したイギリス海軍に伏兵の斉彬が奇襲をかける。

 という感じでありますな。

 

 海戦を放棄し地上で迎撃したのは、砲弾を地上に撃たせて鉄を回収するためでもありますよ。

 セコイでありますな。

 ま、島津も自己で管理できる鉄が欲しかったのでありましょうな。

 海に沈むと回収も大変でありますしな。

 

 

 ちなみに、天保野砲は参勤交代で江戸に行ったとき

 幕府から購入して特急『薩摩』で持ち帰ったであります。

 

 これはこの戦いから一か月前の事であります。

 3週間の慣熟訓練をした後、5日後に宣戦布告という本当にギリギリのタイミングであったでありますよ。

 鉄道が無ければ確実に間に合わなかったでありますな。

 

 

 あと、幕府は全く動けなかったであります。

 三日だと薩摩から江戸に到着したばかりでありましょう。

 そこから動員をかけて薩摩へ向かう。

 一週間で来れたら神速を言ってもいいくらいでありますな。

 まぁ、島津が援軍を求めるとは思わないでありますが。

 

 

 ともあれ、薩英戦争は薩摩藩の『完勝』であります。

 ただ、イギリス海軍の死傷者も多くはなく20名程度、軍船の轟沈は無いであります。

 島津的には拿捕した船を修復して売り払うか、自分の船とするつもりであったからでありますよ。

 

 

 

 

 

 さて、戦争は終わりましたが、これから和平と戦後処理でありますな。

 どう決着がつくのかは次回でありますよ。

 

 

 

 勝ち過ぎるのも――――

 デメリットになってしまうモノであります。

 

 


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