今回は、解説回ですが、ラストにはあのキャラが登場します。
それでは、第12話をどうぞ。
「・・・勝者、司波達也」
服部先輩を瞬殺した達也の顔に、喜悦はない。
ただ淡々と、為すべきことを為した顔をだった。達也は軽く一礼して、CADのケースを置いたデスクに向かう。
「待て」
その背中を渡辺先輩が呼び止める。
「今の動きは・・・自己加速術式を予め展開していたのか?」
「いえ、魔法ではなく、正真正銘、身体的な技術です」
「達也の言う通りです。それに、渡辺先輩程の実力者がその程度のことを見破れないとは思えないのですが」
「私も証言します。あれは、兄の体術です。兄は、忍術使い・九重八雲先生の指導を受けているのです」
「あの九重先生に・・・!」
渡辺先輩が息を呑む。その様子だと渡辺先輩は師匠の事を知っているのだろう。
「もしかして、悠馬くんが言ったら面白くないってこの事?」
「そうだよ。達也が体術の指導を受けているなんて言ったらどっちが勝つか分かっちゃうだろ?」
「でも、悠馬くん。それが達也くんと初めて会った事とどう関係しているの?」
「それは・・・」
俺は達也が模擬戦でやった高速移動で達也の隣に移動する。
「俺も達也と同じく師匠の指導を受けてるから」
真由美はポカンとしていた。まぁ、いきなり言われたらそんな反応になるのも無理ないか。
「さて、悠馬。お前には何が起きたか、全部分かっただろうから、先輩達に分かりやすく説明してくれ」
「ったく、良いようにこき使いやがって。まぁ良いけど・・・」
俺はぼやいてから、あの模擬戦で何が起きたのか解説を始めた。
「まず、試合が開始した瞬間、達也は体術による高速移動で服部先輩の背後に回りました。この時、服部先輩が放とうした魔法は、服部先輩の視界から達也の姿が消失したので不発に終わっています。その後、服部先輩の背後に回った達也は、多変数化させた基礎単一系振動魔法で振動数の異なるサイオン波を3連続で作り出し、3つの波が丁度服部先輩と重なる位置で合成されるように調整して、三角波のような強い波動を作り出したんです。達也の合成したサイオン波に晒された服部先輩は、自分の身体が揺さぶられたと錯覚してしまい、激しい船酔いようなものになって倒れてしまった・・・達也、これで合ってるか?」
「あぁ。文句なしの満点だ」
「そりゃ良かった」
間違った解説をしなくて良かったと胸を撫で下ろしていると、真由美が驚きながらも俺に問いかける。
「ちょ、ちょっと待ってよ。サイオン波を3連続で作り出したってあの短時間で振動魔法を3回も発動したってこと!?」
「それだけの処理速度があれば、実技の評価が低い筈ではありませんが・・・」
市原先輩に正面から成績が悪いと言われた達也は苦笑いだった。
「その答えは達也が使っているCADにあります」
「「CAD(ですか)?」」
俺は真由美と市原先輩の疑問に答える。
CADと言われても2人はピンと来ていないようだが、先程からチラチラと落ち着き無く達也の手元を覗き込んでいた中条先輩が、怖ず怖ずと
推測の形で答えてくれた。
「あの、もしかして、司波くんのCADは『シルバー・ホーン』じゃありませんか?」
「シルバー・ホーン?シルバーって、あの謎の天才魔工師トーラス・シルバーのシルバー?」
真由美に問われ、中条先輩の表情パッと明るくなった。
その様子を見て俺は中条先輩は「デバイスオタク」だったなと思い出す。
中条先輩は、目を輝かせ嬉々として語り出した。
「そうです!フォア・リーブス・テクノロジー専属、その本名、姿、プロフィールの全てが謎に包まれた奇跡のCADエンジニア!世界で始めてループ・キャスト・システムを実現した天才プログラマ!あっ、ループ・キャスト・システムというのはですね、通常の起動式が魔法発動の都度消去され、同じ起動式を展開し直さなければならなかったのを、起動式の最終段階に同じ起動式を魔法演算領域内に複写する処理を付け加えることで、魔法師の演算キャパシティが許す限り何度でも連続して魔法を発動できるように組み込まれた起動式のことで、理論的には以前から可能とされていたんですが魔法の発動と起動式の複写を両立させると演算能力の配分がどうしても上手く行かなかったのを・・・」
「ストップ!ループ・キャストのことは知ってるから」
真由美が中条先輩を慌てて止める。
確かに真由美が止めなければ、このまま延々とループ・キャストについて語りかねない。
「そうですか・・・?それでですね、シルバー・ホーンというのは、そのトーラス・シルバーがフルカスタマイズした特化型CADのモデル名なんです!ループ・キャストに最適化されているのはもちろん、最小の魔法力でスムーズに魔法を発動できる点でも高い評価を受けていて、特に警察関係者の間では凄い人気なんですよ!現行の市販モデルであるにもかかわらず、プレミア付で取引されているくらいなんですから!しかもそれ、通常のシルバー・ホーンより銃身が長い限定モデルですよねっ?何処で手に入れたんですかっ?」
「あーちゃん、チョット落ち着きなさい」
息が切れたのか、胸を大きく上下させながら、中条先輩は目をハート型にして達也の手元を見つめている。真由美にたしなめられなければ、顔をくっつけんばかりの至近距離まで詰め寄っていたか可能性が高いだろう。
「でも、リンちゃん。それっておかしくない?いくらループ・キャストに最適化された高性能CADを使ったからって、そもそもループ・キャストじゃ・・・」
「えぇ、おかしいですね。ループ・キャストはあくまでも、全く同一の魔法を連続するための・・・九島君、私達に説明した際に
「えぇ、市原先輩のおっしゃる通りです。達也は、座標・強度・持続時間に加え、振動数を変数化させて魔法を放ちました。尤も、多変数化は処理速度としても演算規模としても干渉強度としても評価されない項目ですが」
俺の解説を終えた後も、真由美と市原先輩と渡辺先輩は達也の技量に驚いている。
「・・・実技試験における魔法力の評価は、魔法を発動する速度、魔法式の規模、対象物の情報を書き換える強度で決まる。なるほど、テストが本当の能力を示していないとはこういうことか・・・」
呻き声を上げながら、服部先輩が半身を起こす。
「はんぞーくん、大丈夫ですか?」
「大丈夫です!」
少し腰を屈めて、のぞき込むように身を乗り出してきた真由美に対し、寄せられて来た顔から逃げるように、服部先輩は慌てて立ち上がった。
服部先輩は冷静さを取り戻すと、俺と深雪の方を向く。
「司波さん、九島君。先程は身贔屓などと失礼な事を言って申し訳ない。テストでは本当の力が測れないという意味が分かりました。目が曇っていたのは、私の方だ。許して欲しい」
「私の方こそ、生意気を申しました。お許しください」
「自分も、服部先輩には舐めた口を聞いて申し訳ありませんでした」
俺と深雪と服部先輩はお互いに謝罪したが、服部先輩は達也に謝罪する事はなかった。
とはいえ、達也の実力を認めてくれただろうから風紀委員入りを拒むような事はしないだろう。
これで模擬戦も終わり、生徒会室へ移動しようとした時だった。
「どうやら、決着はついていたようだな」
「十文字くん!?」
「十文字?」
第三演習室に入ってきたのは巌のような男子生徒が入ってきた。
身長は185センチ前後。分厚い胸板と広い肩幅、制服越しでも分かる、くっきりと隆起した筋肉。
そういう肉体的な特徴だけでなく、人間を構成する諸要素を凝縮するだけ凝縮したような、存在感の密度が桁外れに濃厚な人物だった。
そして、俺はこの人を知っている。
「久しぶりだな、九島」
「お久しぶりです、克人さん」
この人は十文字克人。俺と同じ十師族の一員である十文字家の次期当主にして当主代行だ。
克人さんは達也の方を向き、口を開く。
「司波、先程の模擬戦、見事だった」
「ありがとうございます」
達也は克人さんに一礼する。
克人さんは体の向きを変えると、服部先輩の方に近づく。
「服部、負けたようだな」
「っ・・・はい」
「なら、次に活かせ。胡座をかいていたらまた足を掬われるぞ」
「はい!」
服部先輩は克人さんのアドバイスを胸に秘め、立ち去ろうとするが克人さんは服部先輩の肩に手を置く。
克人さんが手を離すと、服部先輩は第三演習室から立ち去らずに、真由美達の方へ行く。
「十文字くん。この模擬戦は非公開なんだけど・・・誰から聞いたの?」
「お前達に用があったんだが、生徒会室に居なかったんでな。そしたら、第三演習室が使用中と聞き、もしかしたら思い来てみたら当たったというだけの話だ」
「それで十文字くんは私達にどんな用があるの?」
克人さんは俺の方を向き
「九島、お前に模擬戦を申し込む」
「克人さん、一応理由をお聞きしてもよろしいですか?」
「お前とは、一度手合わせをしてみたかった。それだけだ」
克人さんの答えは簡潔だったが、その言葉にはお互いの実力をぶつけ合いたいという思いがこれでもかと伝わってきた。
「分かりました。その勝負、受けて立ちます」
「十文字、模擬戦するには構わないが、演習室の使用時間はそんなに残ってないぞ」
「使用時間なら延長申請を出してきた。九島、CADの準備をしたいならいくらでも待つぞ」
「いえ、このままで問題ありません」
俺は常時発動していた『一方通行』を解除し左腕に白色のブレスレット型CADを装着する。
克人さんは渡辺先輩に審判を頼むと、お互い模擬戦の初期位置に立つのだった。
如何でしたか?ラストには、十文字先輩が登場し、主人公と模擬戦をする事に。
次回は、やっと主人公の戦闘シーンです。どのような勝負になるか楽しみにしてください。
それでは、また次回お会いしましょう。