キャラの性別を間違えるという、重大な大ポカをやからし、あまつさえ、それを話のネタにしようとする自称“強メンタル"のカトポンです。
さて、ここからいよいよ第2巻・・・入学編の後編に突入です。なのに、『未元物質』をまだ出してない。なので、そろそろ、出して行きたいです。
それでは、第16話をどうぞ。
連絡してから程なくして、渡辺先輩がやって来た。
案の定、2人はこの学校の卒業生だったのだが、男と思っていた先輩が女だった。
髪の長さは俺とそう変わらないし、口調も男っぽかったから、てっきり、男だと思っていた。よくよく見れば、胸に女性特有の膨らみがあるというのにな。
で、渡辺先輩と一緒に部活連本部に行き、克人さんや真由美に報告。ビデオレコーダーに保存されていた映像データも一緒に提出した。正直、此処が生徒会室で克人さんが居なかったら、嫌味の1つでも言っていただろう。
とりあえず、真由美から今日の業務は終わりと言われたので、生徒会室には、戻らなくても良いようだ。
「ん、達也?」
「悠馬か」
部活連本部室の外に出ると、達也が居た。
「何でお前が此処に?」
「むしろ、風紀委員じゃないお前が何故、此処に居たのか気になるんだが?」
「真由美に巡回の応援に加えて、修理の手配やら苦情の受付なんかの対応を任されたからな。過剰な勧誘してたOG達を引っ捕えたから報告に。達也は?」
「俺は魔法の不適正使用で剣術部の部員を逮捕したからな。今からそれの報告だ」
どうやら、達也の方も違反行為に出くわしていたらしい。
「なら、深雪を呼んで、此処で待っていた方が良いか?少なくとも、俺は業務が無いみたいだし」
それに、もうすぐで日没なので、深雪の方も仕事が終わっているかもしれない。それなら、此処に連れて来た方が良いのかと思ったが・・・
「なら、深雪の業務が無かったから、此処に連れて来てもらえるか?終わってなかったら、深雪と生徒会室に居てくれ」
「ん、了解」
一旦、達也と別れた俺は、生徒会室へと向かう。
部活連は、生徒会室のある本校舎とは別棟に置かれている。なので、部活連本部から生徒会室へ行くには、一旦、校庭へ出て昇降口に回らなければいけないのだ。まぁ、前世の学校とは違って、上履きという習慣は殆ど見られないので、靴を履き替える必要が無いだけ、まだ、マシだが。
「ただいま、戻りました」
「お疲れ様です、九島君」
「お疲れ様です、悠馬さん。聴きましたよ。過剰な勧誘行為を行ったOGを逮捕したと」
「何処から知ったのかはともかく、その言葉は、素直に褒め言葉として受け取っておくよ」
さっき、報告に行ったばかりの事を何故、深雪が知っているのは疑問に思うが、大方、真由美か渡辺先輩が漏らしたんだろうな。
「それにしても、どうして戻って来たのですか?会長から、本日の業務は終わりと聞かされている筈ですが・・・」
まぁ、生徒会室に戻らなくても良いと言われた人物が生徒会室に居るからな。疑問に思うのも何ら不思議ではない。
「部活連本部前で偶然、達也と会いまして。深雪の業務が無かったら、部活連本部前に連れて行こうと思いまして・・・」
「お兄様もどなたか逮捕されたのですか?」
「あぁ。詳しい事は知らないが、魔法の不適正使用で剣術部の部員を逮捕したんだと」
「そうですか。流石はお兄様です」
「それは、本人の前で言ってやれ。で、深雪は今日の業務は終わったのか?」
「はい。先程、終わったばかりです。市原先輩、先に上がってもよろしいですか?」
「はい。戸締まりなどは私がやっておくので」
「それでは、お先に失礼します」
俺達は、市原先輩に会釈して、生徒会室を後にした。
さっきと通った所と同じ所を通って、部活連本部前に行こうとした時だった。
「お、悠馬じゃねぇか」
「深雪、おつかれ〜」
昇降口に出た所で、レオとエリカと美月に遭遇した。
さっき、昇降口を通った時には、誰も居なかったが、入れ違いだったのだろうか?
「2人は今から帰る所?」
「俺はともかく、深雪が達也を置いて帰る訳ねぇだろ」
そんな事は、お互いの立場が逆転していたとしても、天地がひっくり返る可能性より遥かに低いだろう。何なら、この兄妹がどちらかを置いて帰らないに、全財産を賭けても良い。
「これから、お兄様の出迎えに部活連本部前まで、悠馬さんと一緒に出迎えに行こうとしていたところよ」
「達也さん、部活連本部に居るんですか?」
「あぁ。魔法の不適正使用で、剣術部の部員を逮捕したらしいから、その報告で部活連本部に居るんだよ」
美月達に達也が部活連本部前に居る訳を説明する。
「なら、俺達も部活連本部前まで行って、達也を出迎えようぜ」
「そうだな・・・って言いたい所だが、どうやら、その必要は無さそうだぞ」
チョンチョンと、とある一点を指差す。
全員、そっちの方を見ると、深雪が俺が指差した方へ駆ける。それもその筈、俺が指差した方には達也が居るのだから。
「あっ、おつかれ〜」
「お兄様」
真っ先に声を上げたのはエリカだったが、真っ先に駆け寄ったのは深雪だった。
思いがけない機敏さに、俺と達也以外の面子が目を丸くしている。
「お疲れ様です。本日は、ご活躍でしたね」
「大した事はしてないさ。深雪の方こそ、ご苦労様。それと、悠馬。人の事を指差すのはどうかと思うぞ」
「まぁ、お前なら大丈夫かなって」
「お前の辞書には、親しき仲にも礼儀ありって言葉は無いのか」
「流石にやっていい事と悪い事の区別はしているつもりだ。それと、深雪のおねだりは無視して良いのか?」
現に深雪は達也の顔を見上げている。
「俺だから良いが、他の人にはやるなよ」
「安心しろ。お前以外には、やらん」
その言葉を聞いて、達也は深雪の髪を二度、三度とゆっくり撫でた。
深雪は気持ち良さそうに目を細めながら、兄である達也を見詰める。勿論、その瞳は一瞬たりとも晒さない。
「兄妹だと分かっちゃいるんだけどなぁ・・・」
2人へ歩み寄りながら、気恥ずかしげな表情で、微妙に視線を外しながらレオが呟くと・・・
「何だか、凄く絵になってますよね・・・」
その隣では、美月が顔を赤らめながらも、食い入るように2人を見ている。
「お前ら・・・あの2人に一体、何を期待してるんだ?」
「その通りよ。あの2人は兄妹なんだけど?」
俺の言葉に、エリカがレオを半眼で睨みながら、同調する。
そして、エリカが繰り出した台詞の省略部分は、2人にも、ちゃんと伝わったようだ。慌てふためくレオと美月の反応がその事を雄弁に語っていた。
「ババババカ言うなよ!なな何も期待してねぇって!」
「そそそそうですよ、エリカちゃん!へへ変なこと言わないで!」
「・・・ハイハイ、そういう事にしといてあげる」
もっとも、俺の冷やかしとエリカのツッコミが入らなければ、レオと美月の勘違いは止まるところを知らなかっただろう。
そんな俺達の奮闘も知らず、達也はようやく妹である深雪の髪から手を放して、俺達に目を向けた。
深雪も、名残惜しそうな顔を見せつつ、兄である達也に倣う。
「そういう表情を見せるから、変な妄想を招くんだろうな・・・」
「何か言ったか?」
「嫌、何も」
ボソリと呟いた言葉に達也が反応したので、何食わぬ顔で無かった事にした。
「そうか。それより、悠馬と深雪が何故、此処に?」
「部活連本部前に深雪を連れて行こうとしたら、お前のクラスメイト3人と此処で会ってな。皆で行こうとした時に、お前が来たってわけ」
「そういう事か。すまんな、待っていてくれたのか」
達也が誠実な表情で、申し訳なさそうに友人へ声を掛けた。
「水くさいぜ、達也。ここは謝るとこじゃねぇよ」
レオがカラッとした笑顔で首を横に振る。
「私はついさっき、クラブのオリエンテーションが終わったところですから。少しも待っていませんよ?」
美月も人当たりの良い柔らかな微笑みと共に、達也の謝罪を必要ないと否定する。
「そいつも部活が終わったばかりだから。気にしなくていいよ」
エリカは悪戯っぽい笑顔で、人を食った答えを返した。
三者三様の笑顔で達也を出迎えるレオ、美月、エリカ。
事実が言葉と裏腹である事に達也はすぐに気づいただろうが、彼女達の心遣いを敢えて無にするような真似はしなかった。
「こんな時間だし何処かで、軽く食べて行かないか?1人、1000円までなら奢るぞ。勿論、悠馬は自腹だが」
「おい!」
何、俺だけサラッと仲間外れにしてるんだよ。
「冗談だ。悠馬も1000円までなら奢る」
「お前の冗談は、マジで冗談に聞こえないから勘弁してくれ」
現在の通貨価値だと、高校生にとって1000円という金額は、少し高めではあるが妥当なラインだ。
それ以上の謝罪を呑み込んだ、代わりの誘い。
それが分からぬ者も、余計な遠慮を口にする者も、此処には居なかった。
◇◇◇
入学式の日とは別のカフェで、俺達は今日の事・・・入部したクラブの事とか、退屈な留守番の事とか、勧誘に名を借りたナンパの事とか、色々な体験談に花を咲かせていた。
「しかし、ビックリしました。外を見たら、悠馬さんがスケボーに乗って、大ジャンプしていたのですから」
「見てたのかよ」
まさか、深雪に見られていたとは。
「見てたというより、見えたの方が正しいですね」
が、生徒会室から偶々、見えたようだった。
「生徒会室から見えるって、どんだけ高いジャンプしたのよ」
「魔法で発生した下降気流を飛び越えようとしたからな」
追いかけるのに必死だったから、生徒会室から見えるぐらい大ジャンプしていたとは自分でも思わなかった。
「よく骨折しなかったですね」
「着地の時にも魔法を使ったしな。ていうか、魔法を使わずに着地しようとしたら、確実に骨は折れてるから」
いくら、師匠の元で体術の修行をしてるからって、生徒会から見えるような高さから、魔法を使わずに着地しようものなら、ただで済まないのは目に見えている。
「んで、その大ジャンプをした後に、この学校のOGを捕まえたんだろ?流石、十師族だぜ」
「しかも、あの老師のお孫さんですもんね」
「アハハ・・・」
「どうしたんだよ」
「いや〜・・・ここに、俺の父さんや兄達が居なくて良かったなぁ〜と思ってな」
特に、俺の6歳上の兄と父さんの前では、絶対に聞かせられない。
とまぁ、俺の追跡劇も話題に上がったが、最も関心を引いたのは、達也の捕物劇だった。
「・・・その桐原って2年生、殺傷性ランクBの魔法を使ってたんだろ?よく怪我しなかったなぁ」
俺としては、そんな桐原って奴は、よく停学処分にならなかったな。
剣道部の新勧演武に乱入した挙句、殺傷性ランクBの魔法なんて使えば、停学処分でも全然おかしくないぞ。
「致死性がある、と言っても、高周波ブレードは有効範囲の狭い魔法だからな。刃に触れられない、という点を除けば、良く切れる刀と変わらない。それ程、対処が難しい魔法じゃないさ」
さっきから手放しで感心しているレオに、やや辟易した表情で達也が応じる。
「まぁ、刃に触れなきゃいいだけだからな」
俺の場合、『一方通行』があるので、高周波ブレードを持って襲いかかろうが、触れる前に反射して終了である。
「いや、そんな簡単に言われても・・・」
「実際、そうだろ」
「触れない刃の対処法はそうなるな」
「・・・・・・」
俺と達也の言葉にレオが絶句する。
まぁ、師匠の元で体術の修行をしている訳でもないレオからすれば、そう思っても仕方ないだろう。
「で、でもそれって、真剣を振り回す人を素手で止めようとするのと同じって事でしょう?危なかったんですか?」
「大丈夫よ、美月。お兄様なら、心配要らないわ」
「随分余裕ね、深雪?」
今更のように顔を曇らせた美月を宥める深雪の表情は、エリカ達から見れば不自然なほど余裕があった。
「確かに、10人以上の乱戦を捌いた達也くんの技は見事としか言えないものだったけど、桐原先輩の腕も決して鈍刀じゃなかったよ。むしろ、あそこに居た人達の中では頭一つ抜け出してた。深雪、本当に心配じゃなかったの?」
エリカに問われた、深雪の答えは・・・
「えぇ。お兄様に勝てる者が居るとすれば、それは悠馬さんしか居ないもの」
一分一厘の躊躇もない断言・・・なのだが・・・
「あの、深雪さん?ついでとばかりに俺のハードルを上げるのを辞めてもらえませんか?」
「お兄様が悠馬さんは、真っ向から対峙しうる人物と言っていましたが・・・」
いや、まぁ、確かに俺の固有魔法の片割れを駆使すれば、達也の『分解』を無力化出来るが、それでも『再成』を突破する手段が無いので、長期戦になるだろう。
そうなると、どちらが先にサイオンが尽きるかの泥沼仕合になるだろう。しかも、俺と達也のサイオン保有量は規格外なので、1日で決着がつくかどうか。
「・・・えーっと・・・」
これには、エリカも絶句するしかない。
「・・・達也さんの技量を疑う訳じゃないんだけど、高周波ブレードは単なる刀剣と違って、超音波を放っているんでしょう?」
「そういや、俺も聞いた事があるな。超音波酔いを防止する為に耳栓を使う術者もいるそうじゃねぇか。まっ、そういうのは最初から計算ずくなんだろうけど」
「いや、そうじゃなくてだな。単に、達也の体術が優れてるだけじゃないんだよ」
「えぇ。魔法式の無効化は、お兄様の十八番なの」
深雪の言葉にエリカがすかさず食いついた。
「魔法式の無効化?情報強化でも領域干渉でもなくて?」
「えぇ」
得意げに頷く深雪と「仕方ないなぁ」という顔で笑っている達也を交互に見て、エリカは感嘆の表情と呆れ顔の半々で呟いた。
「それって結構、レアなスキルだと思うけど」
「そうね。少なくとも、高校の授業では教えないのではないかしら。教えられたからといって、誰にでも出来る事ではないのだし。エリカ、お兄様が飛び出した直後、床が揺れたような錯覚を覚えたのでしょう?」
「う〜ん、あたしは大した事に成らなかったけど、酷い乗り物酔いと同じ症状が出た生徒も居たみたい。そういえば、最初の程じゃ無かったけど、乱闘中も頻繁に揺らぎを感じたような・・・?」
「それ、お兄様の仕業よ。お兄様、キャスト・ジャミングをお使いになったでしょう?」
ニッコリと、作り笑いを向けてくる深雪に、達也はため息の白旗を掲げた。
「深雪には敵わないな」
「それはもう。お兄様の事ならば、深雪は何でもお見通しですよ」
「いやいやいや」
苦笑いと微笑、笑顔を見合わせる2人の間に、素っ頓狂な声でレオが割り込む。
「それって、兄妹の会話じゃないぜ?恋人同士のレベルも超えちまってるって」
「そうかな?」「そうかしら?」
寸分の狂いもなくハーモニーを奏でた達也と深雪に、たっぷり1秒は硬直した後、レオは力尽きたかの如くテーブルに突っ伏した。
「あのな、レオ。このラブラブ兄妹にツッコミを入れる事は、天変地異に自分から突っ込んで行くぐらい、無謀な事だぞ」
俺ですら、達也の冗談にツッコミを入れるのが関の山だ。
そう思うと、この兄妹にツッコミを入れる事が出来る人材は、この地球上に存在するのだろうか?
「少なくとも、アンタじゃ最初から太刀打ち出来ないって」
しみじみ語るエリカに・・・
「あぁ、俺が間違ってたよ・・・」
身体を起こしながら、やはりしみじみとレオが応える。
「その言われ様は不本意なんだが」
達也が、さして不本意とも思っていない口調で抗議(?)するも、
「良いじゃありませんか。私とお兄様が強い兄妹愛で結ばれているのは事実ですし」
深雪がサラリと兄である達也を宥める。
直後、今度はエリカとレオが、同時に突っ伏した。
「ぐはっ!」
レオは、血でも吐き出そうなセルフ効果音まで付けて、自分の心情を表現していた。
「私はお兄様の事を、誰よりも敬愛いたしておりますので」
それでも、深雪は止まらない。友人達へ見せつけるように、わざわざ椅子を動かして達也に身を寄せ、近くなった距離から熱い眼差しで兄の顔を見上げる。
「あー、もうあたし帰ろーかなー」
エリカはテーブルに頬を押し付けたまま、すっかりやさぐれていた。
「・・・深雪、悪ノリも程々にしとけよ」
と、俺が深雪を嗜めると・・・
「冗談だって分かってないのも約1名いるようだから」
達也が苦笑いしながら、続きの部分を言ってくれた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そして、深雪、エリカ、レオの視線が残る1人に集まった。
「・・・えっ?えっ?冗談?」
顔を赤く染めて俯いていた美月が、沈黙を浴びせられながら、キョロキョロと左右に目を彷徨わせるに至って、誰からともなくため息が溢れた。
「・・・まっ、これが美月の持ち味よね」
「あぅ・・・」
エリカの微笑ましげな呟きに、美月の顔が別の意味で赤く染まった。
「・・・そういや、キャスト・ジャミングとか言ってなかったか?」
ここで、自分もノッていたとはいえ、これ以上この何となく、むず痒い雰囲気が続いては堪らないとばかり、レオが強引に話題を戻した。
「タネを明かせば、そうなんだ」
「良いのか?タネ明かしをして」
「出来れば、タネ明かしはしたくなかったが、この雰囲気は何とかしたいからな」
達也としては、あまり好ましくない話題であろうが、この雰囲気を何とかする為に已む無し、とレオの話に乗る事にしたようだ。
「キャスト・ジャミングって、魔法の妨害電波の事だっけ?」
「電波じゃないけどな」
「慣用句よ」
レオが放った言わずもがなのツッコミを、すました顔で切り返して、エリカは何事もなかったように達也へ視線を戻した。
キャスト・ジャミングは、魔法式が、事象に付随する情報体・エイドスに働きかけるのを妨害する魔法の一種であり、広い定義でいえば無系統魔法と同じ性質を有している。
同じように相手の魔法を無効化する『領域干渉』という魔法があるが、この術式は自分を中心とした一定のエリアに対して、何の情報改変も伴わない、干渉力のみが定義された魔法式を作用させる事により、他者の魔法式の干渉をシャットアウトする技法だ。これに対して、キャスト・ジャミングは無意味なサイオン波を大量に散布する事で、魔法式がエイドスに働きかけるプロセスを阻害する技術である。
領域干渉はある意味で、魔法を予約する事により、他者の魔法の割り込みを防止するものであり、基本的に相手より強い干渉力が必要となる。
一方、キャスト・ジャミングは他のユーザーがデータをアップロードしようとしている無線回線の基地局に対し、大量のアクセス要求を行う事によりアップロードの速度を極端に低下させるようなもので、干渉力の強弱はそれほど問題にならない。その代わり、4系統8種全ての魔法を妨害する事の出来るサイオンノイズ、先の例で言えば、周波数を頻繁かつ不規則に切り替える事により、一本の送信アンテナでも帯域を全て塞いでしまうような電波を作り出す事が必要とされる。
「でもあれって、特殊な石が要るんじゃなかったけ?アンティ・・・アンティ何とか・・・」
半端なところで固有名詞を思い出せずにいるエリカに、何とか復活を果たした美月が助け舟を出す。
「アンティナイトよ、エリカちゃん。達也さん、アンティナイトを持ってるんですか?凄く高価な物だったと思うんですけど」
アンティナイトは、キャスト・ジャミングの条件を満たすサイオンノイズを作り出す物質として知られている。魔法師が自身の演算でキャスト・ジャミング用のノイズを作り出す事も理論上は可能とされているが、実行は困難ともされている。
領域干渉とは異なり、キャスト・ジャミングの影響下では自分の魔法発動も阻害されてしまう為、魔法師本人の意識がキャスト・ジャミング用のノイズを構成しようとしても、無意識下では本能的にそれを拒否してしまうからだ。(魔法演算領域は無意識領域に形成されるものであり、意識の作用よりも無意識の作用の方が優先される)
その為、キャスト・ジャミングを使うには、サイオンを流すだけで4系統8種全ての魔法を妨害する事の出来るサイオンノイズを発振するアンティナイトの利用が不可欠と考えられている。
「軍事物資であるアンティナイトを一民間人が手に入れる事は出来ないよ」
それは、暗に自分は、アンティナイトを持っていないと言っているが、達也の常識を覆す解答を受け入れる事が出来ないからか、美月達が一斉に俺の方に視線を集中させる。
「確かに、ウチは軍事とか軍需に強い繋がりがあるから、実家を漁ればワンチャンあるかもしれんが、少なくとも俺から達也にアンティナイトを贈ったりはしてねぇよ」
とは言ったものの、ウチからアンティナイトが見つかったら、腰を抜かす自信があるぞ。
いくら、爺ちゃんが元国防陸軍の軍人で現在は国防軍魔法顧問をしていたとしており、父さんが様々な軍需産業会社の株主、出資者、債権者だったとしてもだ。っていうか、腰抜かしながら何故あるのか絶対に聞く自信がある。
「えっ?でも、キャスト・ジャミングを使ったって・・・」
実際に声を発したエリカだけでなく、レオと美月も訳が分からないかという顔をしている。
「あー・・・これはオフレコで頼みたいんだが・・・悠馬」
「了解」
『一方通行』の効果範囲を俺達をすっぱりと覆うように設定し、効果範囲の内側から触れた音を反射するように設定した。
「達也、俺達の声が外部に聞こえないようにしといたから、遠慮なく喋っていいぞ」
「助かる」
そうして、達也はオフレコの内容を話し始めた。
「正確には、俺が使ったのはキャスト・ジャミングではなく、キャスト・ジャミングの理論を応用した『特定魔法のジャミング』なんだ」
達也の話を聞いて、美月がキョトンとした顔で何度か瞼を瞬かせた。
「えっと・・・そんな魔法、ありましたっけ?」
「無いと思うけど」
美月の質問に直接答えたのはエリカだった。
「それって、新しい魔法を理論的に編み出したって事じゃない?」
エリカの声には、感心や驚愕や賞賛より呆れたようなニュアンスが強く含まれていた。
オリジナルの魔法を使う魔法を使う魔法師は少なくない。子供の頃からオリジナル魔法を得意とする魔法師の卵も多いし、俺も転生での特典とはいえ、子供の頃からオリジナル魔法を使っている身だ。
だがそれは、本能的、あるいは直感的に自分にあった魔法を自然に編み出すものが大半で、理論的に新しい魔法を構築出来る魔法師は数少ない。
魔法は無意識領域の作用に大きく依存している為、無意識に使える魔法は後から理論付けすれば良いが、理論的に新しい魔法を作り出す事は、それが単なる既存魔法のバリエーションであっても、その魔法の構成と作動原理を完全に理解する事が要求されるからだ
高校生が新しい魔法を理論的に編み出したとすれば、異常とは言われないまでも非常識な事ではある。
「編み出したって言うより、偶然発見したという方が正確だな」
エリカの正直な反応に、達也は笑みを浮かべながら答えた。
「2つのCADを同時に使おうとすると、サイオン波が干渉して殆どの場合で魔法が発動しない事は知っているよな?」
「まぁ、やった事あるしな」
「あぁ、俺も経験した事があるぜ」
俺とレオは達也の言葉に頷く。
「うわっ、身の程知らず」
「それは、どっちのことを言ってんだ?」
「悠馬じゃなくて、そっちのバカに言ってるに決まってるじゃない」
どうやら、エリカに身の程知らず扱いされてるのはレオの方だ。
「バカって何だ!バカって」
「2つのホウキを同時に使うって、魔法を並列起動させようとしたって事なのよ?そんな高等テクが出来ると思うなんて、身の程知らずなバカと言いようが無いじゃない」
「うるせーな。出来ると思ったんだよ!一応、得意属性だけなら多重起動は出来るんだからな」
「ウッソーマッジーヤッダー」
「・・・バカにしてんのは分かってっから、その棒読み口調は止めろ。それに、悠馬が出来るとは限らないだろうが」
「あ〜・・・すまん、レオ。俺は2つのCADを同時に使用可能なんだわ。まぁ、出来るようになるまで結構時間がかかったけどさ」
「ほれ見なさい。悠馬は実技に関しては、深雪よりも評価が高かったのよ」
あぁ、それを聞くと入試のやらかしを嫌でも思い出してしまう。
なんで、バタバタしていたとはいえ、筆記試験であんな大ポカをやらかしたんだろうな。
「その悠馬が時間を掛けないと出来ない事を貴方が出来ると本気で思ってたなら、もう身の程知らずを通り越して、自分の実力をしっかり把握していない只の愚か者よ」
「んだと!」
「ふ、2人とも、今は達也さんのお話を聞きましょう?ねっ?」
「・・・・・・」
「・・・フンッ」
互いにそっぽを向くエリカとレオ。
おろおろと視線を左右に振る美月に、達也は肩をすくめて見せた。
「俺としては、ここで止めてもいいんだが・・・続けて欲しいなら続けるぞ。2つのCADを同時に使用する際に発生するサイオンの干渉波をキャスト・ジャミングと同じように、魔法師を取り巻く事象のエイドスを含むイデアへ発信する。一方のCADで妨害するする魔法の起動式を展開し、もう一方のCADでそれとは逆方向の起動式を展開、その2つの起動式を魔法式へ変換せず起動式のまま複写増幅し、そのサイオン波を無系統魔法として放てば、各々のCADで展開した起動式が本来構築すべき2種類の魔法式と同種類の魔法式による魔法発動をある程度、妨害出来るんだ。これが、アンティナイトを使わないキャスト・ジャミングのタネだ」
レオが小声で「マジかよ・・・」と呟いだ。抑揚の乏しい声は、呆然とした顔が表面的な物だけでない事をよく示していた。
不意に、美月が咳き込んだ。グラスが空になっていたにも関わらずストローを吸い続けた結果、咽せてしまったようだ。苦しい咳の発作によって、ようやく意識上に感情が戻ってきたようで、表情が驚愕に染まっていく。
エリカは眉間に皺を寄せて何事か考えている。険しい顔つきからするにあまり楽しい事ではないようだが、不快感を覚えているようには見えなかった。
「・・・具体的にどうするかは全く分からねぇが、おおよその理屈は理解出来たぜ。だかよ、何でオフレコなんだ?特許を取ったら儲かりそうな技術だと思うんだがなぁ」
何とか思考力を回復させたレオが、真っ先に、腑に落ちないという顔で達也にそう訊ねた。
首を傾げるレオに向けられた達也の表情は、単なる苦笑いというには苦みが強いものだった。
「1つは、この技術はまぁ未完成なものだということ。相手は発動中の魔法が使えないだけ・・・しかも全く使えない訳じゃなくて、使い難くなるだけなのに、こっちは全く魔法が使えなくなるんだからな。これだけでも相当致命的なんだが、それ以上に、アンティナイトを使わずに魔法を妨害出来るという仕組みそのものが問題だ」
「・・・それの何処に問題があるんだよ」
不審がと言うより、不満げに問うレオを、俺は厳しい口調で叱りつけた。
「レオ。国防や治安の分野では、魔法は今や無くてはならない物だ。そんな状況下で、高い魔法力やアンティナイトを必要としないお手軽な魔法無効化の技術が広まったり流出したりしてみろ。それだけで魔法師の社会基盤の揺るぎかねないんだぞ」
「悠馬の言う通りだと俺も考えている。世の中には、魔法を差別の元凶と決めつけて、魔法の排斥を運動している過激派も居るからな。アンティナイトは産出量が少ないから、現実的な脅威にならずに済んでいる面がある。対抗手段を見つけられるまで、あのキャスト・ジャミングもどきを公表する気にはなれないな」
ようやく得心がいったのか、レオは何度も頷いている。何故か美月も、同じような顔でウンウンと頷いていた。
「凄いですね・・・そんな事まで考えているなんて」
感嘆がため息となって、美月の口から吐き出された。
「俺なら、目先の名声に飛び付いちまうだろうなぁ」
続けて、レオがため息を漏らすと深雪が柔らかで控えめな笑みをこぼした。
「お兄様は少し考え過ぎだと思いますけどね?そもそも、相手が展開中の起動式を読み取る事も、CADの干渉波を投射する事も、誰にでも出来る事ではありませんし。ですが、それでこそお兄様という事でしょうか」
「・・・それは暗に、俺が優柔不断なヘタレだと言っているのか?」
妹の指摘に、達也は心底、情け無さそうな表情をする・・・が、この表情はきっと、
「さぁ?エリカはどう思うかしら?」
深雪は素っ気ない態度でーーこれは、100%
「さぁねぇ?あたしとしては、美月の意見を聞いてみたかったり」
エリカはわざとらしい口調で、美月に球を渡した。
「えぇっ?私はわ、その、えぇっと・・・」
「誰も否定してはくれないんだな・・・」
達也から恨めしそうな目を向けられて、深雪は朗らかな作り笑いで目を逸らし、エリカはメニューで顔を隠し、美月はオロオロと視線を彷徨わせた、が、確信犯の身でなんだが、助けは何処からも現れなかったのだった。
如何でしたか?
達也のキャスト・ジャミングもどきの説明回で終わってしまいましたが、相変わらず、『一方通行』の汎用性は凄まじいです。戦闘だけに留まらない汎用性の高さが『一方通行』のチートっぷりに磨きをかけます。
さらに言えば、この作品で現在、名前しか出てきていない『未元物質』をとある使い方で用いれば、達也の『分解』をメタれるんじゃないかと思いましたので、忘れないうちに書いておきました。
そして、今話で出てきた『魔法の排斥を運動している過激派』もそろそろ、動き出して行くと思いますが、劣等生の皮を被った達也とぶっ壊れの転生特典マシマシの悠馬のチートコンビがおりますので。
それでは、また次回お会いしましょう。