魔法科高校とチート転生者   作:カトポン

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 どうも、おはこんばにちは。
 今回は、久しぶりの4千ちょい。そして、このシリーズでは初の戦闘シーンがあります。
 そでは、第6話をどうぞ。


第6話 朝の鍛錬

 まだ少し肌寒い、清々しい早朝の空気に長い髪とスカートの裾をなびかせた深雪は、ローラーブレードで坂道を滑り上がっていた。

 深雪は一度もキックを入れずに、重力に逆らって緩やかだが長い坂道を疾走する。その速度は、時速60キロにも届かんとしている。

 その隣で俺と達也は深雪と併走していた。

 俺と達也はジョギングスタイルだが、一歩一歩のストライドが10mにも達している。

 

「少し、ペースを落としましょうか・・・?」

「いや、それではトレーニングにならない」

 

 達也の表情に余裕がないと感じた深雪は、クルリと身体の向きを変え、後ろ向きに片足滑走しながら問うと、疲労をにじませながらも息を切らせる事なく達也は答える。

 普通ならあり得ない事が起きているが、これはもちろん魔法によるものだ。

 深雪が使っているのは重力加速度を低減する魔法と自分の身体を道の傾斜に沿って目的方向へ移動させる魔法。

 達也が使っているのは路面をキックすることにより生じる加速力と減速力を増幅する魔法と、路面から大きく飛び上がら無いように上向きへの移動を抑える魔法。

 どちらも移動と加速の単純な複合術式だ。単純であるが故に、深雪はともかく、ニ科生である達也にも継続的に発動し続ける事ができる。

 そして、俺が使っているのは『一方通行』によるベクトル操作で一度全ての力の向きを前方に変換させてから、『一方通行』を基に独自で作り上げた『ベクトル分散』で道路にヒビや穴が空いたりしないように調整して、さらに達也達にスピードを合わせていた。

 この場合、元が複雑な2つの魔法を同時発動している俺が一番難易度が高いと思うが、ローラーブレードを履いている深雪と自分の足で走っている達也の、どちらが難易度が高いかは一概には言えない。

 両者は共に単純な移動と加速の複合術式なので、一見、ローラーブレードによって運動負荷が軽減されている深雪の方が楽に見えるが、自分の足を使わないということは移動ベクトルを全面的に魔法で制御しなければならないということだ。

 それに対して達也は、走るという動作で移動の方向性を決定づけている。

 一歩ごとに術式を起動し続けなければならない達也と、一瞬も術式のコントロールを手放す事が出来ない深雪。

 それぞれ別の訓練を自分達に課して目的地へと向かうのだった。

 

◇◇◇

 

 3人の目的地は小高い丘の上にある寺だった。

 だが、そこに集う者達の面構えは「僧侶」や「和尚」、あるいは「(小)坊主」にさえ、到底見えない。

 あえて相応しい存在を当て嵌めるとすれば、「修行者」、いや、「僧兵」の方が適当だろうか。

 そんな寺で今、俺達は何をしているかと言うと

 

ドガッ!ビュン!

 

 達也と共に山門をくぐるなり、手荒い出迎(稽古)を受けていた。

 この寺で鍛錬をするようになった当初は一人ずつの掛かり稽古だったのだが、今ではお互い門人約20人による総掛かりに変わっていた。

 次々と襲いかかってくる門人達の攻撃を躱したり捌いたりして防ぐと体術(魔法は使っていない)で門人達を倒していく。

 俺が門人達20人を倒し終えると師匠が深雪にちょっかいを掛けていた。

 

「お久しぶりです、師匠」

「悠馬くん。久しぶりだね」

 

 この嘘臭い僧侶の名は九重八雲。飄々としてはいるが名状しがたい俗っぽさを滲ませているせいで僧侶もどきにしか見えないが、身分上は本物の僧侶であり、自称『忍び』(忍者では無い)、より一般的な呼称は「忍術使い」だ。

 本人が拘っているとおり、身体的な技能が優れているだけの前近代の諜報員とは一線を画する、古い魔法を伝える者の1人だった。

 魔法が科学の対象となり、世間からフィクションだと考えられていた魔法の実在が確認された時、忍術も単なる体術・中世的な諜報技術の体系だけでなく、奥義とされる部分は魔法の一種である事が明らかになった。

 虚構と思い込んでいた、思い込まされていた妖しげな「術」こそが、真実の姿に近かったという訳だ。

 無論、他の魔法体系と同じく、言い伝えがそのまま真実という事ではない。

 講談の中での忍術の代表格とも言える「変化」は、幻影と高速移動の組み合わせである事が解明されている。忍術だけでなく、伝統的な魔法における変身系統の術は全てこの種のトリックによるもので、変身、変化、元素変換は現代魔法では不可能とされている分野だ。

 俺と達也が師匠と、深雪が先生と呼んでいる九重八雲は、そんな忍術を昔ながらのノウハウで伝える古式魔法の伝承者だった。

 しかし、僧形は別として(それすら嘘臭いのだが)、その立ち振る舞いも、到底そのような由緒正しい存在には見えないが。

 

「すみません。連絡もせずいきなり来て」

「本当だよ。こっちだって慌てて門人を呼んだんだから」

 

 成る程。だから、いつもより歯応えが無くて、達也よりも早く終わったのか。

 

「それよりも深雪くん、それが第一高校の制服かい?」

 

 どうやら師匠の興味は俺から深雪にシフトしたようだ。

 

「はい。昨日が入学式でした」

「そうかそうか。う〜ん、いいねぇ」

 

 師匠が顔をニヤニヤ(いつもかもしれない・・・)させて深雪の制服を見る。これは師匠が暴走するパターンかもしれない。

 

「・・・今日は、入学のご報告を、と存じまして・・・」

「真新しい制服が初々しくて、清楚の中にも隠し切れない色香があって」

 

 訂正しよう。これは師匠が暴走するパターンかもしれないではなく暴走するパターンだった、その証拠に師匠は手をクネクネさせてるし深雪は若干たじろいている。

 

「まるでまさに綻ばんとする花の蕾、萌え出る新緑の芽。そう・・・萌えだ、萌えだよ!ムッ?」

 

 際限なくテンションをあげ、怯えている深雪にジリジリと詰め寄っていた師匠が突然、身体を反転させつつ腰を落とし左手を頭上に翳した。

 パシッ、という鈍い音を立てて、とんでもないスピードで放たれた達也の手刀が師匠に防がれた。

 

「師匠、深雪が怯えてますんで、少し落ち着いて貰えませんか」

「・・・やるね、達也くん。僕の背中をとると、はっ」

 

 左手で達也の右手を巻き込みながら右の突きを放つ師匠。

 達也はそれを左手で受けると、師匠の極め技から逃れた右手も使って師匠を抱え込む。

 逆らわず前転した師匠の足が達也の後頭部に襲い掛かるが、達也は身を捻って躱すと、2人の間合いが離れる。

 

「いや〜、もう体術だけなら達也くんには敵わないかもしれないねぇ」

 

 自分で頭をペシペシと叩きながら軽く言うが、達也はそんな事も無視して師匠に突撃し猛攻をかける。

 しかし師匠は達也の猛攻を難なく受け止めると、平手の突きを連続で達也に放つ。達也は何とか受け止めるが、いきなり放たれた師匠の蹴りが直撃し吹っ飛ばされ、倒れる事なく勢いを殺す。

 見物人から漏れるため息。いつの間にか、対峙するる2人を門人達が座って見ていた。

 

「さぁ、来なさい」

 

 師匠が左手で挑発し、達也と師匠は再び交差した。

 

◇◇◇

 

 達也と師匠の一騒動が終わり、境内は静けさを取り戻した。門人達は自らの勤行へ戻り、本堂の前庭に残っているのは、俺、達也、深雪、師匠だけとなっていた。

 

「悠馬さん、先生、どうぞ。お兄様もいかがですか?」

「ありがとう、深雪」

「おぉ、深雪くん、ありがとう」

「・・・少し、待ってくれ」

 

 俺は深雪が渡してくれたタオルで汗を拭く。

 師匠は、汗を垂らしながらも笑顔で深雪からタオルを受け取る。体術だけなら達也には敵わないとか言ってたのにその表情にはまだまだ余裕がありそうだ。

 一方、達也はというと、土の上に大の字になった状態で荒い息を整えていた。片手を上げて返事をした後、苦労して地面から上体を引き剥がした。

 

「お兄様、大丈夫ですか・・・?」

 

 身体を起こしたものの、座り込んだままの達也の傍らに、心配そうな表情を浮かべた深雪はスカートが汚れるのも厭わずに膝をつき、手にしたタオルで流れ落ちる汗を拭う。

 

「いや、大丈夫だ」

 

 達也は深雪の手からタオルを引き取り、一息、気合いを入れて立ち上がった。

 

「すまない、スカートに土がついてしまったな」

 

 そう言う達也のトレーナーこそ、土が付いているどころではない有様だが、深雪がそれを指摘する言葉は無かった。

 

「いえ、お気遣いなく」

 

 深雪は笑顔でそう応えると、スカートの裾を払う代わりに、制服の内ポケットから縦長の薄型携帯端末を取り出した。端末は表側ほぼ全面を占めるフォース・フィードバック・パネルから、淀みなく短い番号を入力する。

 深雪が手にしているのは、携帯端末形態の汎用型CAD。最も普及しているブレスレット形態の汎用型に対して、落下のリスクというデメリットはあるものの、慣れれば片手で操作可能というメリットがあり、両手が塞がる事を嫌う現場肌の上級魔法師に好まれているタイプの物だ。

 非物理の光で描かれた複雑なパターンが、CADからそれを持つ左手は吸い込まれ、魔法が発動した。

 現代の魔法師は、杖や魔導書、呪文や印契の代わりに、魔法工学の成果物たる電子機器、CADを用いる。

 CADには感応石という名の、想子(サイオン)信号と電気信号を相互に変換する合成物質が組み込まれており、魔法師から供給されたサイオンを使って電子的に記録された魔法陣である起動式を出力する。

 起動式とは、魔法の設計図だ。その中には、長ったらしい呪文と、複雑なシンボルと、忙しく組み替えられた印を合わせたものと同等以上の情報量が存在する。

 魔法師はサイオンの両導体である肉体を通じてCADが出力した起動式を吸収し、無意識下に存在し魔法師を魔法師たらしめている精神機構(システム)、魔法演算領域に送り込む。魔法演算領域は起動式に基づき、魔法を実行する情報体、魔法式を組み上げる事でCADは、魔法の構築に必要な情報を一瞬で提供することができるのである。

 何処からともなく出現した実体の無い雲が、深雪のスカートから黒のレギンスに包まれた脚。ブーツの爪先までまとわりつく。

 更に空中から湧き出たほのかな粒子が、達也の背中から全身を流れ落ちて行く。

 薄く微かに輝く霧が晴れた後には、土埃一つ無い清潔な制服とトレーナーが達也と深雪の身体を包んでいた。

 

「俺の服まで、すまない」

「このくらいの事何でもありません。それよりお兄様、悠馬さん、朝ご飯にしませんか?先生も宜しければご一緒に」

 

 深雪は、ごく普通の口調で、バスケットを軽く掲げて見せるのだった。




 という訳で、九重八雲の初登場回でした。言葉遣いとか口調とか大丈夫だったでしょうか。
 次回は、久しぶりの第一高校が舞台です。それでは、また次回お会いしましょう。
 
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