今日は2月14日。バレンタインデー。
女の子が好きな人に想いを込めてチョコレートを渡す日。日頃の感謝の気持ちとしてチョコレートを渡す事もある。
男が一人しかいない鎮守府という環境では、司令官1人にとんでもない数のチョコレートが集まるわけで。
それらを全て食べるのも、お返しをするのも大変ということで、チョコレートは渡さなくて良いと伝えたのだが...
「Hey、テイトクー!私のBurningな想いを詰めたチョコレートを持ってきたネー!受け取ってくれるよネー?」
「提督、私が本気で作ったチョコレート...食べるぅ?」
提督室を訪れる艦娘の足が止まらない。みんなこの男がそんなに好きなのか。
私は霞。この鎮守府で1番の古参ということで、秘書官を任されているのだけど...
この男、本当にだらしがない。私が世話を焼いてやらないと、生きていけないんじゃないか。本当に軍人なのか疑問を抱く程である。
そのくせ、仕事中はキリッとしていてさも私はできる提督だぞという顔をしている。この間の大規模作戦で戦果を挙げて、巷では英雄だとかもてはやされているそうだが、実情は酷い。その作戦の前に戦力増強目的で、ケッコンカッコカリの書類一式が複数届いた。だが、この男、嫁は1人しか取らないとか言って一つを残して全て捨ててしまったのだ。その1つを巡って艦娘達がやる気を出した結果...という訳だ。
今も、入れ替わり艦娘が提督室を訪れて司令官にチョコレートを押し付けていく。司令官の笑顔がだんだんひきつってきている。去年チョコレートを食べ過ぎて鼻血を出して倒れた彼としては複雑なものがあるのだろう。
「なぁ、霞。」
「何よ。」
「このチョコレート、どうすればいいと思う?」
「食べるしかないでしょ。でも前みたいに一気に食べるんじゃなく、少しずつ食べなさい。」
「まぁ、そうなるよなぁ...」
さっきから落ち着きなくチラチラとこっちを見てくる司令官。助けて欲しいのは分からないでもないけれど、私にはどうしようもないし、その視線に気付いた子がこっちを睨んでくるからやめて欲しい。あぁ、この子もそんな涙ぐみながらこっちを睨まれても。別に私が本命ってわけじゃないわよ。こいつの本命は間宮さんだと思うし。ここ最近、ずっと間宮さんと二人で厨房にいるのを見るしね。
2150、終業時間ギリギリまでチョコレートを渡す子はいた。前日からずっと遠征に出ていた子達で、目の下に真っ黒な隈を作りながら順番にチョコレートを渡す様は申し訳ないが、少し儀式じみていてホラーだった。
何はともあれ、これで出撃と遠征に出ていた子達も全員帰投した。もうチョコレートを渡しに来る子も居ないだろう。片付けにかかり始める。
「―――霞。」
「何よ。このチョコレート達は貰ってあげないわよ。みんなの心が籠っているんだから自分でなんとかしなさいな。」
「ああ、わかっている...。お前からはないのか?」
「なに、まだ欲しかったの?朝潮姉達に渡す余りならあるけど」
「いや、それならいい。」
「そう?なら、さっさとこのチョコレート達を運ぶわよ。あんまりゆっくりしてると、消灯時間を過ぎちゃうしね。」
「――待ってくれ。」
まだ何かあるのか。若干うんざりした顔で司令官の方を見ると、何時になく真面目な顔でこっちを見ていた。
「どうしたの。」
「これを受け取って欲しい。」
そう言いながら、彼が差し出してきたのは綺麗な包み紙で放送された四角形の箱。
「何、逆チョコってやつ?別に私にそんな気を使わなくてもいいのに。くれるなら貰っておくけど。」
「開けてくれないか。」
「ここで?」
「ああ。」
少し不思議に思いながらも包装を開けていくと―
小さな粒のチョコレートが6個入っていた。
「あら、手作り?司令官にしてはよくできてるじゃない。」
「2段重ねにしてみたんだ。下の段も見てくれないか。」
言われてみれば、その段の真ん中には白く光る指輪が一つ。
「え?」
これではまるで―
「プロポーズ?。」
「ああ。」
頭が真っ白になる。胸の鼓動が早くなる。
「霞。君が好きだ。一緒に笑ってくれる君が好きだ。怒ってくれる君が好きだ。言葉は綺麗じゃないかもしれないけど、俺を想って罵ってくれる君が好きだ。いつも隣にいてくれる君が好きだ。」
待ってよ。待って。
「俺と結婚してくれないか。」
そう言って彼はこっちをじっと見つめる。
思わず顔を背けてしまう。突然の事で理解が追いつかない。少し落ち着かなくては。
バレないように小さく深呼吸をする。うん、落ち着いた。
「本気なのね?冗談じゃないのね?」
「ああ。」
「この鎮守府の中にはそこに積み上がっているチョコレートの数だけ貴方のことを好きな子がいるのよ。その中には私より魅力的な子もいる。」
「俺にはお前よりも魅力的な存在は居ない。」
「私みたいな口の汚くて性格の悪いやつより、優しい子は沢山いるわ。」
「霞がいいんだ。」
「それに貴方はもう英雄なのよ。鎮守府から外に出たら貴方と結婚したい人間の女の子だって沢山いる。」
「そんなの関係ない。」
「それに...」
言葉に詰まる。頭がうまく回らない。
「俺じゃあダメか、霞。」
「...」
わかってる。素直になろうと決めたの。ちゃんとこいつを見よう。
俯いていてよく見えなかったけど、彼の瞳は不安げに揺れていて。
緊張している時の癖が出ている。右手を忙しなく動かしすぎ。
私はそんな彼の隣にいて。ずっと一緒に過ごしてきて。
私には無理だと諦めて一歩引いた所にずっといた。自分が傷つかないように。
でも本当は―。
「いいわよ。」
「え?」
「え?じゃないわよ、このグズ。貴方のだっさいプロポーズ、受けてやろうじゃない。」
彼が鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。前に言われてから、意識して変えていた口調を戻したことに対して驚いたのか、プロポーズを受けた事に対してか、あるいは両方か。
「あぁ....ああ!!よっしゃぁぁぁぁ!」
彼が目の前で大きくガッツポーズをしている。彼のそんな姿は、久しぶりに見た。そんなに嬉しかったのか。
「ほんとバカみたい。わざわざ私を選ぶなんて。」
そう言いながら、彼のチョコレートを1粒食べた。
甘い味がした。
逆チョコって良いよね。