人は生まれながらに平等じゃない。これは僕が齢4歳にして知った現実だ。
「無個性でも……個性がなくてもっ!!貴方みたいな……ヒーローになれますか!?」
穏やかな陽気に少し冷たい風が肌を撫でる。それでも、僕の心は激しく脈動し目の前の存在に問いかけた。
2メートルを超える身長、鍛え上げられた肉体は、まるで地球でも持ち上げられそうだと錯覚する程の安心感を放っていた。目が眩むほどの眩い笑顔をこちらに向ける憧れのヒーロー、オールマイトは、僕に……
「プロはいつだって命懸けだよ。“個性”がなくとも成り立つとはとてもじゃないが…口には出来ないね」
僕に……
「………夢を見るのは悪いことじゃない。だが…相応に現実も見なくてはな少年」
そう、現実…。わかっていた。個性が無い人間がヒーローになるなんてただの夢だ。夢でしか無い。
この日、緑谷出久は夢から覚めた。そして、ヒビ割れてくすんだ想いが砕け散る音を聞いた。
「じゃあね少年」
遥か遠くの憧れだった存在は消え、暗い雲が太陽を隠す。暗雲が立ち込み、空から涙が零れ落ちる。
アスファルトを黒く染め、暖かった風は今はもう吹かない。代わりにどこまでも冷たい雨と風が心の熱を奪う。
「可哀想に。でも、もう大丈夫」
ぼやける視界、俯いた顔を上げればそこに……
「何故って?」
醜悪な顔に笑みを貼り付け手を差し出される。
「僕が来た」
その手はヒーローのそれとは全く違った。どこまでも凍てついた悪意。それでも僕は……
その手を握り返してしまった。
これは、僕がこの世界の不条理を壊す物語。
「来世は個性が宿ると信じて」
目の前の存在に告げられる。その目はこちらをドン底に突き落とし全てを否定するが如く口は弧を描いていた。
「屋上から…ワンチャンダイブ!!!」
浮遊感。地面が近づいてくる。いや、僕が飛び降りたんだ。無個性なのは嫌だったから。もう全てを捨てて逃げ出したくて、考えることすら許されない自分の最期の抵抗。人生を賭けてでも、この先どうなろうとたった一度でも彼に見返してやりたかった。僕は君の人形でもなんでもないと!!!
5秒後の衝撃に備え身体を強張らせる。でも、最後まで見続けるんだ。俯く自分を救ってくれたあの人のために!!
「目覚めたかい、緑谷出久」
消毒臭が満ちた部屋。天井にはパイプやコードが繋がり、僕の目を照明が突き刺す。思わず目を細め横に居る人物に目を向ける。
「ハッピーバースディ。君は今、生まれ変わったんだ」
「これから期待しているよ、僕の頭として」
悍ましい悪意を煮詰めた存在がボクを見つめ返す。彼の目を反射した僕の笑顔は、とてつもなく醜悪に嗤っていた……
「先生、すごく…良い気分です、頭の中が空っぽになったようです」
身を起こし、自分に誓う。
「オールマイト…かつての憧れ…その存在を叩き落とす!」
緑谷出久、"個性“超思考。一瞬の内に全てをシュミレートし、答えを出すことができる。思考速度は1秒で常人の1000秒に値するだろう。
そして、“個性“怨み。他人から受けた悪意を溜め込み、放出する。その性質は、身体強化、衝撃波、レーザー等のエネルギーとして使うことも出来る。
「手始めにまず…」
「ボクが来たってことを世界に知らしめないとね」
砕け散った想いは黒く染まり新しく再構成される。溢れた欠片は闇にくべられ、更に闇を増幅させる。
「勝己〜帰ろうぜ〜」
あのクソナードが消えてから一ヶ月が経った。俺の手には、焼け焦げたノートが収まっており思い出すのは、あの時放った呪いの言葉。もしかして……
「まだ、あいつのこと気にしてんのかよ」
「てか、無個性だし消えても別に良くね?」
「そ〜そ〜考えすぎだって」
「誘拐されたってことなんじゃねー?」
「あほ、無個性誘拐して何になるんだよ」
「まぁ、そうだよなぁ〜、なんせむこせ「うるせぇ!!!」」
ごちゃごちゃと煩いモブを爆破して黙らせる。俺はあいつの心配なんざしてねェ。だが、どうにも、おばさんの、あいつの母親の泣き叫ぶ顔が脳裏から消えねぇ。それはまるで、俺のせいでこうなったと言わんばかりに俺を責めたててきやがる。
「最速でトップヒーローになる」
足を止めれば、振り向けば罪の意識でまともじゃいられなくなる。だから、ただひたすらに上だけを目指し続ける。そして言ってやる。俺はオールマイトをも超えるヒーローだ。テメェの頭が高かっただけの話だってなァ。
「ふふふ、もう、終わりかい。ヒーロー」
スーツを纏い、深緑色の髪と目に嘲るような笑顔。まだまだ幼い顔立ちが残る少年だがその存在は、立っているだけで圧倒的な威圧感と底知れぬ悪意を放っていた。
眼前には、倒壊した家屋、衝撃で辺りは火に包まれ、黒煙を上げている。空は淀み、地には這いつくばるヒーロー。誰かが言った。悪夢だと。
「なら、死ね」
ヒーローの体を闇色の光線が襲う。顔を苦痛に歪め睨み返すも、その光線はヒーローを……
「私が来た!」
貫かなかった。金色の髪に、二本のアホ毛。まるで勝利のサインと言わんばかりの平和の象徴がそこに居た。
「オールマイト…」
「なっ!?君は!あの時の少年!!」
驚愕の表情をするオールマイト。おかしいなぁ。全てを救うなんて嘘だったね。あの時、貴方がボクの手を弾いたせいでこうなってしまったんだから。
「オールマイト。感謝しています。おかげで僕は夢から覚めた」
高密度の怨みが両手に溜まっていく、これを地面にぶつければたちまちこの辺りが更地と化すだろう。両手を一つに束ねて収束させる。溢れ出した闇は僕を燃やし、更に闇を深くしていく。
「まて!?少年!!!話し合おうじゃないか!!?」
「平和の象徴を消しとばす」
限界まで貯められたエネルギーを両手で包みこむように突き出しオールマイト目掛けて放つ。
これが貴方の罪で、僕の罰だ!!!
「ギルティパニッシュ!!!!」
圧縮された闇が、オールマイトを飲み込む。衝撃で瓦礫が舞い、闇が辺りを漆黒に包む。
「デトロイトォォォォ!!!」
その中から一筋の光が現れる。
光は天高く突き抜け、風圧で全てが吹き飛ぶ。
「スマァァァァァッッッシュ!!!」
遂に、光が闇を飲み込み、雲は晴れ、太陽が顔を出す。
「オールマイト……、やっぱり眩しいなぁ」
ボクの最大火力はオールマイトを消すに至らなかった。天候さえ変える余裕もあったようだ。本当に…眩しすぎる。
「はぁっ、はぁっ。……少年、いいかな?」
ただオールマイトは力を使いすぎたようだ。やはり弱体化しているのは本当だったようだ。
「今更何ですか?平和の象徴」
あの時の光景を鮮明に思い返す。あの日もこんな晴天の日だったな…と少しずれた考えをしながら、憧れからの否定の言葉を思い返す。
怨みの力を纏いながらいつでも飛び出せるように準備する。
「何故、ヴィランなんかに。そして、その個性は?」
わかりきったような質問。十中八九時間稼ぎだろう。
「しょうもない話をするんですね」
あの時の、怒りを!
「教えてあげます。平和の象徴」
あの時死んだ自分を!!
「全てはあの時否定されたからだ」
あの時の、悲しみを!
「誰にも認められない」
夢を打ち砕かれたその復讐を!!
「あぁ、認められない。認められない。認められない。認められないぃぃぃぃぃ……」
一瞬の空白、そして。
「だから、全部、ぶっ壊れればいいんです」
ニタァっと笑い飛ばし、想いを語る。彼はいつもしている笑顔の裏で何を感じているんだろうか。
「…シット!私のあの時の言葉が…」
「少年…すまなかった!!」
オールマイトは自分との和解をしようとしたんだろう。けれど、その言葉は。
「ふふふ、もう……」
あまりにも遅すぎた。
「遅いです」
体から溢れる怨みを、増幅させる。今度は防ぐことすら出来ない質量で…
いや、そろそろ他のプロヒーローが来る。そうなれば面倒だ。増幅を止め、威力を広範囲な衝撃波に変えてオールマイトと距離を離す。
ちょうど横に、黒霧さんが現れる。思った時間通りだ。
「Green valley これ以上は危険です」
「わかりました。ありがとうございます、黒霧さん」
「ッ!!待てッ!まだ話は終わって…」
まだこちらに手を差し出すオールマイト。その苦悩する顔が見たかったんだ…!
「平和の象徴」
「次は届くといいですね」
忌まわしき過去との決別。次は確実にオールマイトを……
仕留める!!
黒く広がる靄の中で、ボクは彼をどう殺すかブツブツ呟き考え始めた。
『続いてのニュースです』
トレーニング後に何気なくつけたテレビを流し見する。
『昨日、○○市でヴィランが暴れ、プロヒーロー3人が重症を負いました』
映像には、ヴィランと対峙するオールマイト。闇色の光をパンチ一つで吹き飛ばしていた。
『幸い近くにいたオールマイトがヴィランを撃退。辺りは倒壊した家屋がありますが怪我人はいない、とのことです』
『警察は、このヴィランの行方を捜索中です』
ちらりと見えた、あの緑色の髪。まさか……
いや、ねェか。あいつは無個性だ。
「トレーニングに戻るか…」
オールマイトを越えるために!!
「どうだったかい、緑谷出久」
薄暗いバーの中でボクは先生に報告する。
「やはりオールマイトは弱体化していました」
「しかし、やはり平和の象徴。向こうが本気なら今のボクでは勝ち目は少なかったでしょう……」
オールマイトの超パワーは規格外でボクの怨みも飲み込むほどだ。
「トレーニングします」
「目標は、オールマイトと殴り合いができるまで」
「だから、宜しくね?弔くん」
「あぁ?んだよ先生このガキは?」
身体中に手をつけた青年に挨拶する。
「ボクの名前は緑谷出久…超人社会をぶっ壊すものさ」
彼に握手を求める。彼とは長い付き合いになりそうだ。
「はっ、お前、なかなかいいなぁ」
4本指で握手を返された。
「どうして4本で…ブツブツ いや、彼の個性によるもの?なら条件は5本。効果は?範囲はどこまで?足の指は含まれるのか?いや、そもそも発動条件を制限している可能性も……ブツブツブツブツ」
「おい、先生こいつ大丈夫かよ」
ヴィラン連合の卵、死柄木弔は出久の異常な独り言に若干引きながら
来たる破壊の時に心を震わせた。
「大丈夫。あれは素だ。元々だったよ…」
心なしかオールフォーワンも引き気味だ。まさか個性付与の施術をする前に夢中で分析されまくるなんて、予想外すぎた。例えるならば解体される直前の魚に現在の状況を解説される…といったところか。
「さて、面白くなってきたな」
「唯一、僕を倒しうる存在はもうこちら側だ」
邪悪に嗤う。どこか悪戯が成功した子どものように。
「次に勝つのは私達だ」