ヴィランネーム Green Valley   作:lane

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たとえ、地に堕ち闇に染まっても彼の心はヒーローにしかなれない

 

「見てくれ!このヒーローコスチュームを研究して出来たインナーを!!なんと脂肪燃焼性がUPして着れば痩せるんだ!!」

 

 夏の陽射しがジリジリと身を焦がし、遠くではセミの鳴き声が聞こえてくる。夏の暑さにも負けない商店街の喧騒に辟易し更に顔を顰める。

 

「なんで、こんなことに…」

 

  ボクが何故街中を歩いているというと、いつも昼まで寝て、起きたら腹を空かせたと煩くなる弔くんが原因だ。

 

 

「寿司が食いたい」

 

 起き抜けの一言が始まった。

 4本指で握られている、寿司のチラシ。たしかにヴィランだって人間であることには変わりない。彼らにも体には血が流れているし感情だってあるし欲求もある。

 しかし、だからといってパシリにして良いわけでは絶対にない。

 

「俺も黒霧も目立ちすぎる。その点、お前ならただの市民に紛れることが出来る」

 

 

 

「頼むよ。寿司が食いてぇんだよ」

 

 まるで子供のわがままのようにパシリを頼まれる。

 

「しょうがないなぁ」

 

 あの時のボクを殴り飛ばしたいほどに、安請け合いしてしまったことに酷く後悔する。夏の暑さの中でパシリすることになってしまった。怨み溜めちゃっていいかな?

 

 フラフラと大通りを外れて、日陰を歩く。人が多いと面倒だからね。

 

 「お兄さん!暑そうだけど大丈夫かい?この外は飴玉、中はひんやりアイスの食感が楽しめるお菓子をあげるよ!」

 

 そうして歩いてると駄菓子屋の人に話しかけられる。一応フードを被ってバレないようにしているが…夏にフードを被っているせいか心配されてしまったようだ。

 

 

 「いや、あの…結構で「遠慮せずに、ほら!」……ありがとうございます…」

 

 無理やり渡された五つの飴玉。そこにはオールマイトのデフォルメがそれぞれ印刷されていた。

 

 「お、オールマイト!僕の知らないイラストだ!この飴、新商品なのか!」

 驚きで、つい声が出てしまう。周りをキョロキョロ見て誰もいないことを確認…しようとしたところで一つのお店に目が行ってしまった。

 

 「あっちには、最新のフィギュア!ポスターもある!なになに…当店限定グッズ!?これは一度お目にかからないといけないぞ…」

 

 電気街の一角にあるオールマイト専門店。普通に大通りを歩いていたら辿りつかないこんなところに…穴場すぎる…

 

 

 「はっ!?僕はまた夢中になって…」

 

 オールマイトを憎むと決めたのに何やってるんだ……

 

 今は、寿司屋に行くことに集中しよう。あんまり遅いと弔くんに怒られてしまう。

 

 「ありがとうございました〜」

 

 お寿司のテイクアウトは中身を水平にすることが命なんだ。少しでも傾くと全てが傾く。そして一度傾いたらもう二度と直すことができず、微妙な気持ちで食べることになるからね。

 

 しばらく歩いていると公園が見えてきた。何となく懐かしい気持ちになり中を窺ってみる。

 

 

 「ここは…僕たちが先にいたんだ…だから、だから!出ていってよぉ!」

 

 目の前には、いつかの情景と重なるボクがいた。

 遠い昔、上級生と喧嘩になった時に、とても怖くて涙が出てきて、足がすくんで感覚がなくなってゆく、でも、それでも、憧れのヒーローは笑みを絶やさず堂々としていて……僕は必死に真似をして……

 

 「あーん?何か文句でもあんのか?」

 

 大型バイクに乗った不良のなかでも一際、格好が派手で、あからさまにリーダーな奴が1人。

 向かいには小学生が5人。皆を守るように前に出て立ち向かう、彼に僕は目を離せなかった

 「兄貴、こいつ震えてやすぜ!」

 

 「おうおう!悔しかったらママに慰めてもらえよ」

 

 「あーあー、カッコつけちゃって。泣かせるねぇ」

 

 その取り巻きが3人と、わかりやすいぐらいにチンピラが言いそうなことを小学生に吠える。

 体格差と風貌は恐怖の対象になる。あれだけ年齢が違えば、その度合いは彼の小さな体で受けられるものではない。

 

 「ちょっとビビらせてやりやす!」

 

 取り巻きの1人が、爆発音を手から出す。

 爆破されて音が出ているわけではなく、単純に音を出す個性のようだ。

 それでも、恐怖の象徴からもたらされた行動に、彼らは肩をびくつかせ、目を瞑る。

 

 

 

 

 

 あぁ、本当に胸糞悪い。

 

 

 

 

 

 「カース・エアー」

 

 ボクの怨みのエネルギーを掌からそのまま放出する。突風を生み出し、彼ら4人をバイクごと纏めて空に巻き上げる。

 そして、今度は地面に叩きつけるように操作する。自慢のバイクは念入りにガラクタにしてやる。

 

 「いってぇぇぇ!」

 

 「俺の10年ローンで買ったバイクがぁぁぁぁ」

 

 「なにもんでやすか!?」

 

 「まじ、ひどすぎるくね!?」

 

 

 

 「本当に、胸糞悪い」

 

 体から怨みが勝手に溢れ出す。地面を揺らし、砂が巻き上げられる。

 

 

 「君たちみたいなのがいるから」

 

 

 「誰かが苦痛をアジワウことにナル…」

 

 そう、こんなのが、こんなのさえいなければ…誰かを苦しませるだけの存在なんて、キエテシマエバイイ…

 

 

 

 「ちょぉ、こいつマジでやばそうだぜ……」

 

 「や、やばいでやす!」

 

 「た、助けてくれぇぇ!!」

 

 「逃げろぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

 「報いを受けろ」

 

 

 

 

 

 4人を風で空に舞いあげ、宙を一回転させ、遠くに飛ばす。死にはしないだろうけど、もしかしたら当たりどころが悪いと骨折するかもね。

 

 

 「「「「ウワァァァァア!!」」」」

 

 

子供たちは、さっきまでの威圧感ある相手が、まるでギャグのワンシーンかのように空の彼方に消えていったことにぽかーんとした表情を浮かべていたが、すぐに

 

 「す、スゲェェェェェ!!」

 

 「お兄ちゃん!ありがと!」

 

 「ヒーローみたいでカッコ良かった!」

 

 「あいつらの情けない顔見たか!?」

 

 

 

 

 

 危険が去ったことに安堵する。

 

 

 「お、俺1人でもあんな奴ら倒せたし!!」

 

 皆を庇っていた少年がボクを睨みつける。

 

 凄いなぁ、本当に。小さな勇気に思わず目を細める。それがあまりにも眩しすぎて。ボクの手ではもう手に入れられないそれを。

 

 僕は彼と目線を合わせるようにしゃがみ込む。

 未だ震える肩に手を置いて、彼の頭を撫でる。

 

 「よく立ち向かったね。でも、もう大丈夫!」

 

 彼を安心させる、とびっきりの言葉。最高の笑顔とともに言い放つ。

 

 

 「なんたって、僕がいるから、ね!」

 

 

 「うわぁぁぁぁぁん!!!!!」

 

 彼の涙腺はもう限界だったのか、凄い勢いで泣き出す。水たまりができるほどだ。

 

 「よく頑張ったね」

 

 しばらくして、彼は泣き止み落ち着きを取り戻した。辺りのバイクの残骸を端にどける。

 

 「いいかい?次は大人の人を呼んで遊ぶんだよ?」

 

 「うん…」

 

 しかし、泣き止んでも、あれだけ怖いことが起きたから元気を出すなんて無理な話だ。こんな時、あの人なら笑顔だけで安心させてしまうんだろう。いや、ボクはボクのやり方で。彼を元気づければいいじゃないか!

 

 「君にプレゼントをあげる」

 

 商店街で貰ったオールマイトキャンディを彼の小さな手に渡す。

ちょうど5個あって、良かった。

 

 「わぁぁあ!オールマイト!!」

 

 彼の顔にはもう、宝石のような笑顔が浮かんでいた。

 

 「皆で仲良く分けて食べるんだよ?」

 

 「うん!」

 

 よし!もう彼は大丈夫。ボクに出来ることは無くなった。

 

 「じゃあね」

 

 せめて、最後にヒーローらしく立ち去ってあげよう。

 突風を起こし、空に浮かび上がる。エネルギーを明るい紫色にスパークさせながら体に纏う。溜まったエネルギーを下に放出して一気に空へ昇る。眼下では、放出した影響で彼らに風が吹きつける。

 

 「か、かっこいい……」

 

 我ながら上手く決まったな、という達成感と、お寿司が入った袋を確実にひっくり返してしまって、弔くんに怒られる未来を想像した。

 

 「傾くどころか、ひっくり返しちゃったよ…大丈夫かな…」

 

 

 

 

 

 

 緑谷出久が去った後の公園で物陰から一部始終をみていた1人の男が姿を現す。

 

 「やはり、彼は……」

 

 その呟きは空の彼方へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、なんとかなりませんでした。

 あのあと、弔くんは遅いうえに、ひっくり返ったお寿司を見て、

 

 「お寿司じゃなかったら粉々にしてたよ」

 

 ボクに、イチャモンをつけまくるのであった。

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