「ダークネス・カウル!!」
夜闇の輝きを全身に溢れさせる。溢れ出たエネルギーは闇色にスパークしながら宙に弾けて消える。その状態でボクは脳無に接近する。
オールマイト並みのパワーと、再生力。真正面から平和の象徴を殺せるように設計された怪人。
ボクの個性制御の調整にと、ドクターが貸してくれたのだ。ボクの個性、超思考の本領は高速戦闘時における、相手の研究を可能にし、戦いながら膨大な量の情報を精査、そして相手を打ち倒す最適解を見つけ出せることにある。
もう一つの個性。怨みは憎しみの心を燃やしてエネルギーにすることが出来る。エネルギーの変形には、繊細な制御が必要となり、放出以外にも、盾に変えたり、全身にエネルギーを行き渡らせ身体強化することも出来る。
上から振り下ろされる右腕に、こちらも力を溜めた右腕を脳無へ突き出す。力は拮抗したようにも思えたが、少しずつ此方が押されていく。
「まだ…まだァァァァァ!!!」
エネルギーを限界まで漲らせて、豪腕を弾き飛ばす。その瞬間振るわれる圧倒的な速さの左フックをしゃがんで回避し、足を払う。しかし寸前に踏みとどまった脳無は巨体を活かしたダブルスレッジハンマーが豪腕から繰り出され堪らず、その場から回避するために右に飛び退く。しかし、飛び退いた先には既に怪物が腕を振りかざしていた。
「なっ!?」
考える間もなくこちらに迫る凶悪な暴力。落ち着け。超思考を発動させ、この場の最善策を導き出す。エネルギーをバリアーへと変換し、一瞬均衡させる。すぐに破られるものの、その時にはボクは背後へ回り込み、全身に力を溜めて、右腕に集約させている!!!
「カオス…」
「スマッシュ!!」
脳無の胴をボクの腕が突き破る。さっきまで超速で動いていた脳無は嘘のように活動を停止した。パチパチパチ…と拍手の音が響き渡る。
「流石です。緑谷出久…いえ、Green valley」
頭を黒いモヤ状にしたヴィラン連合の1人、黒霧。彼の個性は、ワープゲート。対象を任意の場所に転移させることができる。
「ふー…、どうしたんですか?もしかして何かあったんですか?」
「ええ、近いうちに、戦力を集めて雄英高校に襲撃に行くとのことです。」
その言葉はボクの脳にグルグルと回り始めた。かつての夢の跡地。ヒーローを志す全ての子どもの目標でもあり、試練でもある。倍率300倍を超える、最難関にして頂点。ボクも、大きくなったら、雄英に行くんだ!って目指したものだなぁ。残念ながら、個性は発現せず、半ば諦めた状態だっただけに、決めることすらできないでいたけれど…
「雄英高校に襲撃…ですか」
ボクの中で興味が湧いた。難関な入試を乗り越えた本物の天才だけが入学を許可された高校。当然ヒーローとして活躍する前の卵。どんな凄い人たちなんだろう…とワクワクしないわけがない。そんな場所への襲撃。警備や監視は厳重になっていることだろう。それを踏まえて攻めに行く余りあるリターンがある。ということか。そういえば、オールマイトが着任する話もあったな。
「目的はやはりオールマイトということか」
「察しが良くて助かります。今年度からオールマイトが教鞭を振るう。そんな場所での…」
「オールマイトの殺害、とともに失態を犯した雄英を地に堕とし、ヴィラン連合の名を轟かせる…と弔くんは考えたのか」
普通なら馬鹿げた考えだと一笑に付すだろう。天下の雄英の監視網を破り侵入。そして、No.1ヒーローの殺害。
「こちらには怪人脳無、そしてその怪人と互角にまで戦えるようになった貴方がいる。死柄木弔はそうお考えです」
黒霧がいて、脳無がいて、ボクがいる。更にオールマイトは少しずつ弱体化している。どこまで弱体化しているか、は見せないように振る舞っているけれど、ボクの一撃で息切れを起こしていたのと、活動時間が年々少なくなっていることから、間違い無いだろう。
「なるほど…楽しくなってきたね…」
無個性が故に誰にも認められず、その声は淘汰される。いつもそうだ。弱者の声は淘汰され、理不尽を押し付けられる。
ヒーローが輝いて、大きな影を落とし込んだのに、その影から目を背け見ないようにして、まるで救えなかったものなんて無かったかのようにヒーロー社会は構築されてきた。そんなことが当たり前のように罷り通るなんておかしい…
そんな世界を作ったのは誰だ?ヴィランもヒーローも暴力を押し付けているじゃないか。両者の違いなんて本当に紙一重だ。力を振りかざすのが認められている…ただそれだけである者はヒーローに。ある者はヴィランに分けられる。
そして、無個性なんて、そこいらの石扱いさ。
ふざけた世界だと思う。お前たちがヴィランや石ころと呼んだそれにも、感情があって、何も感じないわけなんてないのに、こちらへ見向きさえしない…
「漸く、この手で貴方を壊せる…!!」
まずはその社会の象徴を壊す。そして無視し続けていた影に全てを壊されていくその様を震えて見ることしかできないようにしてやる。それこそが緑谷出久の原点。社会への復讐。
オールマイトを越える。ただその目標だけに全力を尽くす、形はどうであれ、俺を脅かす過去が消えた。ただそれだけだ。
頭に過ぎるのは、あの日、顔が黒く塗りつぶされた存在にかけた、言葉。そいつは無個性のくせに、俺の目の端をうろちょろして俺を苛つかせる。消えろ、と思った。
テメェは後ろからついてくるただのモブで、ビビりなくせして、俺に手を差し伸べやがった。オドオドした目は打って変わって、まるで俯瞰した目で俺を見下すその存在がとてつもなくムカついたんだ。その上、雄英を受けると身の丈にあわねぇあいつにキレちまって口からつい出てきてしまった自殺教唆。
そしてあいつは俺の前から姿を消した。消してしまった。巷では誘拐だ、なんだと言われているが、俺からしてみれば、俺が殺したようなモンだった。
消えろと、常に思っていた。でも…
「ほんとーに消える奴がどこにいんだよ…」
眼前に現れるロボットを片っ端から爆破していく。あいつに対する怒りが更に爆発していく。
「YEAHAAAAAAAA!!!これで何ポイントだよあいつ!?」
「既に100ポイントは超えているぞ…」
「彼は間違いなく今年のトップね」
「そんな彼にも、更なる受難ってわけさ!」
彼の目の前に現れる超巨大ロボット。0ポイントの出現だ。
「見せてみろ。お前の全てを」
巨大ロボットが俺を踏みつけようと足を浮かせる。横目で瓦礫に足を挟まれて逃げ遅れた受験生を一瞥し、爆破を起こして飛び立つ。
「俺を…」
「見下してんじゃねェ!!!!!!」
「ハウザー…インパクトォォォォ!!!!」
手の爆破の推進力を利用して錐揉み回転。その勢いのまま、最大火力の爆破を叩き込む。巨大ロボットの頭部を爆発させてガラクタに変え、周りに飛び散る破片は空いた手で燃やしていく。
「あの巨大ロボットを1発で…!!」
「しかも、逃げ遅れた受験生を庇う余裕すらある!!!」
モクモクと立ち昇る煙と瓦礫をバックに俺は周りを見渡す。
そして、逃げ遅れたクソモブの上にある瓦礫を爆破する。クソモブはこちらを弱々しい目で見上げてくる。ちっ、めんどくせぇ。
「逃げ遅れてんじゃねえよ、クソモブが」
「あ、ありがとう…?てかそれ私の名前!?」
「麗日お茶子!私の名前!!!」
立ち上がったクソモブはどうでもいいことに、自己紹介までし始める。テメェなんざ丸顔で充分だ。
「おい、丸顔。まだ試験は終わってねぇ」
「気ぃ抜いてんじゃねぇぞ」
それだけ言って俺は爆破で残りの敵を倒しに行く。
「そ、そうやった…って!丸顔!?」
後ろから、文句が聞こえてくるが無視をする。
「あー!!もう怒った!私もやってやる!!」
丸顔は走り出す。一瞬で持ち直すあたり、クソモブとはちがうみてぇだな。
「TIME UP!!!!!!!」
しばらく、残りの敵を片付けていたら終了の合図が出た。この程度じゃまだまだダメだ。もっと強くなってぜってぇにオールマイトを越えてやる!
「粗野で乱暴でプライドが高そうなものの、不器用ながら、相手を励まし希望を与える…最高だぜ!少年!」
「来い!ここが君のヒーローアカデミアだ!!」
ヴィラン連合とヒーロー。両者の邂逅は目前に迫っている。