ニートが人生をやり直す話。

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時をかけるニート

 昨日から何も口にしていない。

 飯が運ばれてこないことに文句を言ってやろうと俺は部屋を出た。昼間に部屋を出るだなんて何年ぶりだろうか。

 

「おい、飯は──」

 

 それ以上言葉を続けられなかった。

 母が倒れていた。小さな体だ。手足は枝のように細く、顔には深いシワが刻まれている。

 父が死んでからずっと、年金暮らしのなか家から出ようともしない息子の面倒を見てきたのだ。思いの外弱っていることも、前触れもなく倒れることもなんら可笑しいことではない。

 

 恐々と母に近寄る。呼吸はなかった。

 

「死んだ……? じゃあ年金は……? 飯はこれから誰が作るんだ?」

 

 俺はうめく。爆然とした不安が一気に襲ってきた。

 

「誰が助けてくれ。誰でもいい、誰でもいいんだ」

 

 俺は次々と知り合いの名前を挙げていく。すぐに底がついた。

 そもそも、今まで何もしてこなかった俺を助けてくれる人なんているわけがないのだ。

 

 俺が誰だろうと平等に手を差し伸べると言われている奴を呼ぶのは当然だった。

 

「──神様」

 

「呼んだか?」

 

「うわ、ホントに来た」

 

 突然、ジジイが目の前に立っていた。

 長い真っ白な髪と髭。体に巻きつけられた白い布。どこからどう見ても「神」だ。

 

「お前の願いはなんだ? 一生働かなくても良いようにしてくれなんていう願いなら聞かんぞ」

 

「当たり前だ。俺は悔い改めた。大学四年生に戻してくれ。あの時、ちゃんと定職に就いていればこんな事にはならなかったんだ!」

 

「いいだろう」

 

 気がつけば俺は自室に居た。カレンダーは何十年も前の年を示していた。

 

 

 *

 

 

「それで、今度は何が願いだ?」

 

「俺さ、四年の秋に戻っただろ?」

 

「ああ」

 

「大手企業の求人はほとんど消えてたんだよ」

 

「そうなのか」

 

「何でもう少し前に戻してくれなかったのかとお前を恨みはしたが、ぐだぐだ考えても仕方がないと思って進路変更したんだ」

 

「ほう」

 

「公務員目指すことにした」

 

「でもお前三十歳なのに無職だろ」

 

「三十歳になるまで何度でも試験受けられるってネットで見たから準備期間を長くしたんだ」

 

「落ちるのが怖くて試験をすっぽかしただけだろ」

 

「なぜそれを……⁉︎」

 

「経験則だ。で、次の願いは?」

 

「ああ、大学四年生の六月一日に戻してくれ。その日が選考解禁らしい」

 

 

 *

 

 

「おーい、神ー!」

 

「呼んだか?」

 

「ああ。エントリーシートの提出開始が三月からだった。既に締め切られてる。その時まで戻してくれ」

 

 

 *

 

 

「神、いるか?」

 

「どうした」

 

「エントリーシートに書けることがない。大学生活で打ち込んだことなんてネサフとゲームと読書くらいだ。大学入学式まで戻してくれ」

 

 

 

 *

 

 

「神、いるか?」

 

「今度はどうした」

 

「何もしなかった。遊び呆けてたらいつの間にか四年生になっていた。やべえわ、染み付いた生活スタイル。これはもう幼少期からやり直すしかない」

 

「じゃあ小学生の頃に戻してやろうか?」

 

「いや、環境も悪いと思うんだ。この国には義務教育があるし、最終学歴で就職先が決まる。夢も希望もない。魔法が存在するRPGのような世界だったら俺もやる気になると思う。異世界転生させてくれ」

 

「そうか。別の人間になる場合は記憶が消えるがいいか?」

 

「もちろんだ」

 

 

 *

 

 

 剣と魔法の国では、一人の男が神と話していた。

 

「それで、今度はいつに戻りたいんだ?」

 

「魔力によって行ける学園のレベルに差ができて、その結果就職に有利不利ができる。さらに言えば全員が全員教育を受けられるわけじゃないから中には文字すら読めない人間がいる。その中に有能な人間が埋もれていても誰も気がつかない。さらに言えば王が全てを決める。こんな世界だから俺はやる気が出ないんだ。別の世界に生まれ変わらせてくれ」

 

「そうか。魔力は存在しない。全国民が教育を受けることが義務付けられている。さらに国民の意見を政治に反映させることが決まっている日本という国があるんだが、そこはどうだ?」

 

「お、いいな、そこ。楽園みたいな国だ」

 

 神は記憶が引き継がれないことを説明する。男は了承した。

 

 男を転生させると、神はひとりごちる。

 

「全くあの魂、何度二つの世界を行き来するつもりだ?」


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