ワンナイト聖杯戦争 第二夜 激闘「マンモススレイヤー」   作:どっこちゃん

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 合理的低思考・低姿勢。

 

 それが伊庭(いば)のスタイルだった。

 

 要するに、高望みをせず、周囲とも揉めず、なぁなぁでやっていこうということである。

 

 日本の一地方都市に居を構える魔術師、伊庭魁(いば かい)は表向き、いわゆる「探偵」とか呼ばれる仕事をして、糊口(ここう)をしのいでいる。

 

 歳は30代の半ば、上背はあるが痩せて、見るからに貧相な男だった。

 

 それでも磨けは光る可能性はあるが、そんな非合理的な事は考えるだけ無駄だと、伊庭自身が一番よくわかっている。  

 

 かくも合理的なスタイルを貫く伊庭には、悩みというものが無かった。

 

 ただ、いくら合理的に振舞おうとも、貧乏だけはどうにも看過できないのが辛いところである。

 

 金がないことを悩みというなら、伊庭は悩みを持つ人間だといえるのかもしれない。

 

 ――いや、どちらでも同じだ。現実は変わらない。非合理的だ。

 

 とにかく、仕事はせねばならない。

 

 しかし地方都市の探偵への依頼など、たかが知れている。

 

 普段彼が請け負うのは浮気調査やペット探しの仕事ばかりなのだ。

 

 必然、大した報酬にもならないので、魔術を使用すれば足が出てしまう。

 

 結局、普通の探偵と同じやり方で、まじめに仕事をこなさねばならない。

 

 ここしばらくの間、伊庭は魔術を使用も研究もしていない。

 

 自分が魔術師という存在なのだということを忘れてしまいそうになる。

 

 ああ、高い志を持って魔導に身を投じたはずのご先祖が、この有り様を見たらなんというだろか?

 

 伊庭はふと、そんなことを考えた――

 

 ――いや、考えた夢を見ていた。

 

 そして夢から覚めて、夢の内容は忘れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 時刻はすでに昼だった。

 

「……えぇっと、なんだったかぁ」

 

 なんだったかではない。仕事だ。

 

 仕事に行かなければらならない。

 

「あぁ……、そうそう」

 

 昨日は一晩中パソコンとにらめっこをすることになってしまった。

 

 久しぶりの()()()()()()だ。取りこぼすことは出来ない。

 

 探偵としてではなく、魔術師としての伊庭への依頼だ。

 

 ある怪死事件に、魔術師の影があるのだという。

 

 犠牲者たちの共通点が、とある人物のSNSサイトに執拗な書き込みをしていたというものだったらしい。

 

 要するにネット上のトラブルというわけだ。

 

 それだけなら、ありふれた世間のさざなみという程度のものでしかない。

 

 しかし問題なのは、その報復に魔術師が手を貸してしまったことだ。

 

 書き込みをされた人間の依頼を受けて、何者かが呪術を使用。

 

 書き込みを行っていた人間を呪い殺してしまった。

 

 なんと浅はかで、粗雑なやり方だろうか。

 

 そいつはすぐに「上」に目を付けられ、大まかな居場所も特定されてしまった。

 

 伊庭の仕事は、この「浅はかな」魔術師についての裏取りだ。

 

 どんな魔術師が、どんな手段でそれをやったのか。

 

 それを調べ、データにまとめて依頼主に送る。

 

 それだけだ。

 

 伊庭の依頼主である「上」が懸念しているのは、あくまで魔術の漏えいを防ぐ、というその一点に尽きる。

 

 犠牲者の無念だとか遺族の悲しみだとか、そう言うものとは無縁の話だ。

 

 気が楽でいい。誰がやったのかを調べて、裏を取り、妙な噂を流されないよう、諸注意をして、それで終わり。

 

「あぁー……っと。これじゃ、よくない」

 

 出かけようとして、服だけでも着替えねばと思い返す。

 

 調べたところによれば、相手の魔術師の名は「ナイメリア」。

 

 自称ではあるが、おそらくは女だろう。

 

 こんなくたびれた格好のまま接触すると、相手の気分を損ねる可能性もある。

 

 魔術師とは無駄なことをしない人種だが、それはそれとして妙な気位の高さや独特の行動原理で動く輩も多い。

 

 相手を無駄に刺激するような真似は慎むべきだ。

 

「もうちょいまともな……まともな……」

 

 まともなスーツに着替えたかったが、まともなスーツが見当たらなかった。

 

 もっとマメにクリーングを頼むんだった。

 

 助手の一人でもいればな……。

 

 肩を落としつつ、伊庭はクローゼットをひっかきまわす。

 

「……」

 

 そして一着だけ、着用できそうなものを見つける。

 

「借りるかぁ……」

 

 そうして着替えた。スーツは、しょぼくれた伊庭には少し大きかった。

 

 まぁ、しわだらけのヤツよりはいいだろう。  

 

 伊庭は事務所を後にした。

 

 

 

 

 

 そこにたどり着いたのは4時間ほど後のことだった。

 

「――待ってたわ。どうぞ入ってくださる?」

 

 何の変哲もない一軒家だった。

 

 周囲は新興の住宅街と言う奴で、それなりに真新しい、中流家庭向けの家屋が軒を並べている。   

 

「……」

 

 しかし、待っていたとはどういうことなのだろうか?

 

 伊庭はただでさえハの字のような顔をぽかんとしおれさせて、部屋に入る。

 

「どうもはじめまして、伊庭さん。ナイメリアです」

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