ワンナイト聖杯戦争 第二夜 激闘「マンモススレイヤー」   作:どっこちゃん

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 マンモスである。未だ完全な実体ではなく、サーヴァント同様の半実体のような状態なのだと解る。

 

 しかも、それが二体も。

 

 それも、想像をはるかに超える大きさである。家よりも巨大だと言っていい。

 

 雄々しくうねる長い牙と鼻を振り乱し、根を張る巨木のごとき四肢を振り乱し、地をどよもす。

 

「マンモスだわ。――なんで〝マンモススレイヤー〟がマンモスを使役してるのよ?」

 

 実際、実体化したマンモスたちは氷の巨人に立ち向かい、それを押し返している。

 

 とんでもない馬力である。

 

 これをハンターが使役しているとするなら、なるほど強大な宝具と言えるだろう。

 

「そんな都合のいいもんじゃないんだなぁ……これが」 

 

 しかし、それでは彼の真名に反する。彼の名は『マンモスを殺戮するもの(スレイヤー)』。使役する者ではないはずだ。

 

「――それじゃあ」

 

「そういうことだ」

 

 まさか……と言わんばかりにナイメリアが声を漏らす。

 

 途端に、その実体化したマンモスの背に、ハンターが飛びかかった。

 

 自らが実体化させたはずのマンモスを相手に、槍を突き立てているのだ。

 

 そしてマンモスの方もハンターを力のかぎり振り落としにかかる。

 

 巨体を揺らし、憤怒に満ち満ちた咆哮を張りあげ、巨大な足で大地を割り砕く。

 

 当然、巨像も静観などしない。

 

 自らの腕を刃へと変え、ハンターとマンモスをまとめて始末しようとしたが、それをセイバーの宝具である『刃のガトリング砲』が打ち砕く。

 

「うわっはははははは!!!! なんじゃいこりゃあ!? ばはははは!!!」

 

 そのセイバーを、今度はもう一体のマンモスが踏みつぶそうと襲い掛かった。

 

 セイバーはいかにも楽しそうに爆笑しつつ、巨像とマンモスとの間を駆け回る。

 

 乱戦も乱戦。大乱戦の様相を呈している。

 

 これには、さしもの古賀鏡子も驚愕した事だろう。

 

 ハンターの宝具は、都合よく味方を増やすような性質のものではないのだ。 

 

「――つまり、自分がハントするための獲物として、あの馬鹿でかいマンモスを召喚したってことなの?」

 

 先ほどの巨大な氷柱に身を隠しつつ、伊庭とナイメリアは続ける。

 

 誰もが混乱せざるを得ないことだろう。

 

 まさか、自分の敵を造りだすなどと言う宝具を持つ英霊がいいようとは。

 

「召喚したわけじゃなく、アレはハンター自身のイメージ……心象を形にしたものらしい」

 

「つまり?」

 

「……ハンターにとって、過去最も強力だったマンモスのイメージが元になってるってことだな」

 

「さすがに笑えないわね。わざわざ敵を創りだすなんて……理に適わない宝具だわ」

 

「当然だが、意味はある」

 

 そう。マンモスが出現してからは、ハンターの動きが目に見えて変化しているのだ。

 

「マンモスと対峙することで、ハンターのステータスはもれなく倍加するんだ」

 

「……自分のコンディションの為に宿敵が必要といううことね。なんだかマッチポンプだけど……でも、敵への障害と自分へのバフ(Buff)を兼ねるっていうなら、まぁ分らなくもないかしら?」

 

 実際、ただでさえ光り輝くようだったハンターの五体は、今や彫像どころではないほどにビルドアップされ、その面貌までもが鬼気迫るものへと変貌している。

 

 あれが、かつてマンモス相手に粗雑な石器のみで戦いを挑んだ男の本領なのだ。

 

 暴れ狂うマンモスはハンターの味方ではないが、敵である古賀にとっても味方ではない。

 

 巨象もいきなり出現した巨獣相手に、少々虚を突かれて後手に回っているのが見て取れる。

 

 敵サーヴァントを打つために離脱するなら、今だろうか。

 

「これなら、足止めくらいは出来るはずだ。セイバーと一緒に行ってくれ」

 

「……」

 

「どうした? オレが行くのは無理だ。ハンターはもう俺の指示なんて聞こえてない」

 

 言葉を切ったナイメリアはじっと伊庭を見据えた後、つぶやく。

 

「それだけなの? ハンターの宝具は」

 

 その言葉に、伊庭は息を呑んだ。――最後まで、たとえ自分が死ぬことになったとしても、これを言うつもりはなかったのだ。

 

「詳細まではわからないけど、彼にはもう一つの宝具があるんでしょう? 隠さなくたっていいんじゃない?」

 

 ハンターのステータスを知った伊庭が驚愕していたのを、この女は見逃していなかったのだ。

 

 なんと目ざとい……いや、目端が利くというべきか。

 

「……悪いな。アレは完全に外れだ。使えない」

 

 擬態の専門家である伊庭をして驚愕を隠すことをさせなかった、その異形ともいうべき宝具。

 

「あら、何事も使いようじゃない? あのマンモスだってそうだし。どんな宝具なのか」

 

「そうじゃない! ……使えないんだ。使()()()()じゃなくて使えない」

 

「条件があるってこと? それとも」

 

「条件もくそもない! ――どんな条件だろうと使えないってことだ!」

 

 伊庭には半ば叫ぶようにして言った。

 

 そう言うしかなかった。そうだ。()()は使うとか使えないとか、そう言う次元の代物ではないのだ。

 

「しょうがないわね。まぁ、それについてはいいわ。ただ――あとひとつだけいいかしら?」

 

 さすがの伊庭も少々焦れる。

 

「なんだ!?」

 

「あなたはあの古賀鏡子を()()()()()なの?」

 

「どうするって……」

 

「私とセイバーで敵のサーヴァントを探すというのはいいけれど、あなたはあの古賀と戦う気があるの?」

 

「どういう意味だ?」

 

「そのまんまの意味よ。私の懸念は一つ。あなたが古賀鏡子と和解してしまうということよ」

 

「……あるわけがないだろ」

 

「あら、そうなの? ()()()()()()()()()()なのよね? 彼女」

 

「――お前!」

 

 そこで、巨大な氷の欠片が二人の元に降りそそいだ。

 

「……ツァッ!」

 

 ナイメリアはスイカほどもある氷塊を回避するが、伊庭はそれが間に合わず、氷塊をまともに受けてしまう。

 

「あらら、ダメよ。周囲に気を配らないと。ここは戦場なのに」

 

 伊庭は応えず、ただじっと、猛禽のように笑うナイメリアを見据えた。

 

 伊庭の頬を、一筋の血が流れる。

 

 ――当然、全てを知っているのだろう。伊庭のことを知って、ここへ呼び寄せたのだろう。

 

 考えれば解ることだ。しかし、それでもなお、伊庭の中で、見ないようにしていたハズの記憶と憤激の感情とが頭をもたげてくる。

 

「あら危ない」

 

 再び氷塊が降ってくる。が、伊庭は動かなかった。

 

 その顔面に、牙のような氷が飛来する。

 

 しかし、その氷塊は伊庭に触れる前に消えてしまった。

 

「あらあら、うふふ。――それはなにに対しての怒りなのかしら?」

 

 煮立っている。

 

 先ほどの氷塊で受けた傷口からこぼれた血が煮えたぎり、ついには発火し始めているのだ。

 

 すさまじい温度である。一千度をゆうに超える高温の血を流し、伊庭はナイメリアを睨みつける。

 

 踏み入られたくない領域に土足で踏み込もうとしたナイメリアへの怒りはもちろんあるが、それは表層でしかない。

 

 その深奥にある感情は、おそらく自らに対しての怒り。怒りと自責の念。

 

「――ぐッ!」

 

 伊庭はうめいた。こぼれた融鉄の血潮が、伊庭自身にもダメージを負わせるのだ。

 

 そう、この血潮は、しょせん、借り物でしかない。

 

「興奮し過ぎよ。大事な()()()()スーツが燃えてしまうわ」

 

「……」

 

 伊庭は再びナイメリアを見る。 

 

「当然、全部知ってて言ってるのよ。だからあなたが来るように仕向けたのよ。古賀と因縁のあるあなたを」

 

 その通りだ。伊庭にはあの「古賀」との因縁がある。ただし、古賀鏡子本人とは会ったこともないし、表立って敵対したこともない。

 

 ただ、幾度となく、古臭い書面で『返却』を求められたというだけのこと。剣骸の返却を。

 

「私は100%自分の都合で言っているけど、これはあなたにも良い機会なんじゃないの? 過去の因縁を断ち切るための――あなただって、そう思ったからこそ、私の案に乗ったんでしょう?」

 

 それでも、伊庭にとって、それは刃を突きつけられるよりもなお耐え難いことであった。

 

 逃げることも出来ず、出向くことさえ出来ず、ただ、曖昧な状態でここまで来てしまった。

 

「いろいろあるんでしょうねぇ。細かいところまで根掘り葉掘り聞いておきたいところだけど、この儀式は一夜限り。ゆっくりもしていられないわ。だからあなたにチャンスを上げる。古賀との決着をつけるためのね」

 

「……オレは、」

 

「そのスーツ、サイズが合ってないわよね。しかも()()()()って言ってたし」

 

 ナイメリアは、伊庭が絞り出そうとした言葉を遮って、少々興奮気味に身を乗り出す。

 

「……誰か死んだのかしら? あなたの恋人?」

 

「いや、ただの助手だ」

 

 何を言うのかと、伊庭は顔を上げた。

 

「助手! ふんふん。それで?」

 

 何故かここに至ってナイメリアはゴシップを見つけたパパラッチみたいに興味津々で目を輝かせている。

 

「オレの助手で――あの古賀鏡子の兄だった。オレに剣骸を預けて、死んだ」

 

「……やっぱり、恋人じゃなかったの?」

 

「……」

 

「うふふ。あらあら、ごめんなさい。続けて?」

 

 伊庭にもこの女が何を言わんするのかが分かり掛けてきた。

 

 ――下衆(ゲス)め。

 

「あらあら、違うのよ? でもそこまで大事な人だったんでしょう? ――友情なんて言葉でかたづけられる?」

 

 伊庭は口をつぐむ。とんでもない言いがかりであり、故人への侮蔑である。

 

 ――が、しかし伊庭とて、彼との関係をどこまで客観的に称することが出来るかはわからない。

 

 ただ、互いに居場所がなかったのだ。

 

 魔術と言う人外の理の中でもがく青春を送った者同士。

 

 確かに友人なんて言葉では足らないのかもしれない。

 

 そしてその死にざまが、いまだに伊庭を縛っているのだ。

 

 ――なるほど、恋人、は無いにしても兄弟か家族程度には深く結びついた間柄だったと言えるだろう。

 

 もっとも、それを余人に弄ばれたいとは思えない。

 

「そうだな。ここからどうなるかの確約は出来ない。――異論があるなら、ここに残ることだな」

 

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