ワンナイト聖杯戦争 第二夜 激闘「マンモススレイヤー」   作:どっこちゃん

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「なんじゃい! こっちの方が面白いんじゃなかったんかァ!」

 

 ガラガラと不満を漏らすセイバーの機嫌はすこぶる悪かった。

 

「件の『剣骸』とやらを観たかったのによゥ」

 

 伊庭と別れたナイメリアは、セイバーを連れて一路、キャスターが潜伏していると思わしき、古賀鏡子の本陣へと向かっていた。

 

「あら、興味でもあるのかしら?」

 

 セイバーを先導しつつ、ナイメリアは言う。

 

 急ぐ必要があるのだが、セイバーは乗り気でないらしく、足取りにも真剣みが感じられない。

 

「応ともよ。言ったよなァ? おいらァこんなとこまで出張ってきてるのはよぉ、()()()が欲しいからなのさ」

 

「この先にも、いい刀があるかもしれないわよ?」

 

「そんなこたァ、あるかねぇ? この先にいるのはキャスターのサーヴァントとかいう輩だろう?」

 

 確かに、キャスターといえば、まず直接戦闘には向かないクラスであり、さらに言うななら、最弱のクラスなどとさえ言われるサーヴァントでもある。

 

 セイバーの言わんとするところも、わからないでもない。

 

期待薄(きたいうす)だわなァ」

 

「逆に、要害にこもっての防衛戦においては最強という話もあるのよ。――そうだ。今のうちにあなたの対魔力を補強して……」

 

「ああ! いらんいらん! 煩わしい!」

 

 子供が駄々をこねるように、セイバーは巨体をゆすって()()()()をした。今にも元の戦場に取って返しそうな勢いだ。

 

 ナイメリアはやれやれとでもいうようにため息をつく。

 

「どうしてもハンターと戦いたいのね?」

 

「応よ。さいっしょからそう言ってらァ」

 

「なら、いいわよ。キャスターの後でなら好きなだけやりあいなさいな」

 

「おゥ!? いーいのかぃ? 味方なんだろ?」

 

「……私にとって重要なのは、ほかのサーヴァントを排除していかに効率よく『聖杯の欠片』を手に入れるかという一点に尽きるわ。それ以外のことは、この際、目をつぶることにするわ」

 

 すると、セイバーは悪童のような笑みをその分厚い面相にねじ込むようにして、破顔する。

 

「わァるい女だなァ♡ ないめりあ」

 

「魔術師ってそういうものよ。――もちろん私としても()()()()()伊庭さんに義理は通したいの。あなたがキャスターだけで満足してくれるなら」

 

 すると、セイバーはその座布団ほどもある掌でナイメリアの身体を救い上げた。

 

 まるきり猫のような具合だ。

 

「みなまで言うなや♡ そうと決まれば、――雑魚は手早く済まそうぞィ♡」

 

 そして、ナイメリアの返事も聞かずに、疾走し始めた。

 

 

 

 

「――さァて、着いたな」

 

「静かなものね。当主がいないにしても」

 

 たどり着いた先は山城のような場所に立つ一軒の屋敷だった。

 

 住宅地からは離れた小高い丘の上に、据え付けられるような形で存在している。

 

 魔術的な敷設だけでなく、広大な川と(ほり)、複雑に入り組んだ土塀(どへい)に囲まれており、軍勢を相手取るなら、なるほど確かに攻めがたい、良い地形、良い布陣なのだとわかる。

 

「こォの後に及んで、ここには居ねェ、なんてこたァねぇよな? 探して()()()()すんなァ、ごめんだぞ?」

 

 しかし、当然だが、一騎当千のサーヴァントを阻めるようなものではない。

 

「大丈夫よ……ほら出てきた」

 

 ナイメリアが言うと、(ほり)の水底から、土塀(どへい)のそこかしこから、猟犬のごとき氷の彫像が姿を現す。

 

「さて――どうするかなんだけど」

 

 ナイメリアが言い終わるよりも先に、セイバーの宝具は、己を阻むあらゆる障害を粉砕してしまった。

 

 堀も塀も結界も、使い魔も。丸ごとである。まるで削岩機だ。

 

 あるいは芝刈り機というべきか。まるで雑草でも刈るようにして、敵が丹精込めて作り上げた防御陣が作業的に粉砕されていく。

 

「――あー、つゥまらん。やはり、キャスターとやらには期待できんなァこりゃ」

 

「…………」

 

 あらゆるものを粉砕しながらただまっすぐに前進するだけ。確かに、これでは攻略も何もあったものではない。

 

「――その辺にしといてもらえんかのぅ」

 

 屋敷そのものを正面から掘削するかのようにして、正面玄関に大穴を開けた時のことだった。

 

 脇から、なんというべきか、とてもヨボヨボとした、とぼけた声が聞こえてきた。

 

「あら」

 

 セイバーの後ろにいたナイメリアが真っ先に声を上げる。

 

 視線の先にいたのは、恰幅(かっぷく)の良い、しかし背筋の伸びた健康的な顔色の老人であった。

 

「…………うっそだろォ。おい」

 

 一方でセイバーは、まさか、やめてくれ、とでも言わんばかりに絶望の表情を浮かべる。

 

「たった半日の付き合いとはいえな、留守を預かっとる軒先で、こんな狼藉は見過ごせんよ。狼藉というにも前代未聞じゃないかのうこれは」

 

 ヨボヨボと、必要以上に老人めいた声で言う言葉には答えず、セイバーは泣きそうな顔で叫ぶ。

 

「なぁんでそんなにヨボヨボなんだァおい! おいらァ、おいらァなんだか悲しくなってきちまったぜ! おい、ないめりあ! どうしてくれる!? あの細首を落とせと、ああ! 言いてぇのかよォ! このおいらァによぉ!!!」  

 

 野太い五体をあらん限りに捩じって悶絶するセイバーに、ナイメリアは言葉を返さない。

 

「それもそうね。サーヴァントって全盛期の姿で現界するものよね?」

 

 親し気に声をかけたのは、ヨボヨボとした老人。――キャスターのサーヴァントの方へであった。

 

「これでも()()()()じゃからのう。若い恰好だと、ほれ。すぐに疑われるじゃろうに」

 

「ああ、そういう。それもそうよね」

 

「――おい、ないめりあ!! 聞いてるのかよォ、おい!」

 

「うーん。でもこの状況だし? やってもらえないのかしら?」

 

 ナイメリアはさほど困った様子もなくセイバーに言う。

 

「ったりめーだァ!!」

 

「じゃあ、仕方がないわね。令呪を使用させてもらうわ」

 

「はァ!? あのなァ、そりゃあ、そいつを使うはお前さんの勝手」

 

「令呪を持って命ずるわ――セイバー、()()()()()

 

 ぽかんとナイメリアを観たセイバーの右手に、見事な拵えの太刀が一本だけ出現し、まるで機械仕掛けのように、セイバー自身の心臓を貫いた。

 

「ごめんなさいね? あなたも言っていたけど、私も悪い女なの♡」

 

 こんな時まで()()()と思えるほどの勢いの血しぶきを吹きながら、セイバー・ベンケイは膝を石畳に膝を突く。

 

 巨躯ゆえにか石畳に亀裂が走る。その鈍い音だけが、夜に鳴り響いた。

 

 セイバーはいまだに理解が追い付かないという顔で、ナイメリアを見る。

 

 それも当然だ。ここでセイバーを自決させてしまえば、いかに弱そうだといっても自分がキャスター相手に殺されるだけなのではないのか?

 

「こんな時だけど、――いえ、こんな時だから、といいべきかしら? 紹介するわ。()()()()()()()()()()()、キャスター、二コラ・フラメルよ」

 

 ナイメリアは飄々(ひょうひょう)と佇むキャスターのそばに寄り添いながら、そう言った。

 

 

 

 

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