ワンナイト聖杯戦争 第二夜 激闘「マンモススレイヤー」 作:どっこちゃん
氷雪紋のガンドにより、伊庭の体温は急激に冷やされていく。
先ほどとはまるで別物といっていい威力だった。――加減して言いたのか!?
兎角、これはまずい状況だった。
冷やしたいのはやまやまだったが、急に、しかも過剰に冷やされるのはまずい!
剣骸は魔術刻印である前に
それが一気に冷やされることで伊庭の血中で否応なく凝固し始めている。
このままでは……。
「他愛ナイ。――さっさと渡せば良いものを」
薄く笑いながら、鏡子は切り裂かれてしまった衣服を破砕し、氷の羽織を身に纏う。
それは、まるで氷結した滝の只中にでもいるかのような美しい装いであった。
「さぁ、私の――我ラ――の――返して――カえしてもらオう――もらいましょう」
蒼白の肌に、こちらも薄氷のごとく変容した白髪。
水鳥の翼のごとき白装束も相まって、もはや元の少女然とした面影は無いといっていい。
そこに刻まれた彫像のような微笑が、伊庭を見る。
羽織の袖口が花開くように伸長し、氷の刃を形作る。
伊庭はおもちゃのようなギクシャクとした動きで、もう一度剣骸の刃を突き出そうとした。
しかしその動きはまるでスローモーションだった。
鏡子はその切っ先を捕まえ、再び冷却していく。
「――ぁ、ああ……がぁあああぁぁぁぁ………」
生きたまま血を凍らされるような感覚に、伊庭は悲鳴を上げる。
「ああ、そう。――ではこのまま、剣骸以外の部分を
言いさした鏡子の身体が、その時残像すら残さずに消失した。
伊庭は目を剥いた。それほどの圧倒的な一撃であった。
そう。今、伊庭の目の前に立つのは、先ほどにもまして全身の筋肉を隆起させる原始の英霊。
ハンターのサーヴァント、マンモススレイヤーであった。
伊庭の窮地に、駆けつけてくれたのだ。
「……マンモスは」
伊庭が言うと、ハンターは血に濡れた石槍と右腕を高々と掲げて見せる。
どうやら、ハンターは無事に自らの宿敵を狩ることに成功したらしい。
――まぁ、ここでやられてもらっても困るのだが。
しかし、その甲斐もあって、今やハンターのステータスは極まり、最高潮に達している。
これで、如何に宝具を所持しようと、ハンターが鏡子に負ける可能性は無い。
「――賢者の石とはなんなのか、あなたはご存知ですか?」
ハンターの一撃で
この上なく嬉しそうに、全身で、身体の内側から、五臓六腑の全てを使って喜悦を浮かべるかのように、笑う。
それがなぜか泣いているかのように見えて、伊庭は言葉を失った。
「賢者の石とは
再び、鏡子の身体からは、融解したルビーのような液体が染み出してくる。
「故に、賢者の石とは金属だけではなく生物を含む万象を「健康」にも、「不健康」な状態にも出来る触媒なのです。それは魔術も同じ!」
すると、歪みねじれていた鏡子の身体が元の状態に戻っていく。
同時に、鏡子の手に握られたままだった
「欠けた魔術を「健康」な状態へと保全していく……」
その形状はいわゆる七支刀に近いものでああった。
七匹の蛇が複雑に絡み合うかのような、異形の剣が姿を現す。
奪い取った剣骸の一部から、残りの部分を復元して見せたということか!
鏡子は、それを愛おしそうに抱きしめた。
「これで揃った。そう――ようやく、我らノ願いは、カナう」
そして背を向けて駆け出す。
「――行かせるな、ハンター!」
伊庭は叫んだ。――鏡子の言葉の意味までは解らない。
剣骸を取り戻したからと言って、何が起こるというのだろうか?
ハンターが大気を置き去りにするようにして駆けだそうとしたのを、巨大な影が阻んだ。
先ほど鏡子が内側から操っていた氷の巨像である。
しかも、それが複数。ハンターと伊庭を取り囲むように散開している。
いつの間に? おそらくは先ほど砕けた氷塊を元にして複製したという所か。
「HUUUUUOOOOOROROROROROU!!!」
もはや人語とは思われぬ咆哮が迸った。
ハンターの投げ放った槍が、複数体の巨像をまとめて貫いたのだ。
ステータスの極まった今のハンターなら、この巨像ぐらいはなんとでもなるのだろう。
だが、今は足止めをくらっている場合ではない。
そして、伊庭では「
「ハンター! 行ってくれ。ここはオレが引き受ける。お前は鏡子を止めるんだ!」
何をする気なのかはわからないが、魔術師が
伊庭は己が身体にムチを打ち、再び剣骸を体内で練り上げる。
血潮が五体を焼く。身体の内側から火あぶりにでもされているかのようだ。
それでもやらなければならない。
その一心で、伊庭は告げた。――しかしその言葉を、
「ダメ」
ハンター、マンモススレイヤーは一蹴した。