ワンナイト聖杯戦争 第二夜 激闘「マンモススレイヤー」   作:どっこちゃん

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 伊庭は仕方なく、ナイメリアに促されるままに移動した。

 

 背後からはセイバー・武蔵坊弁慶の発する人とは思えぬ圧が迫ってくる。

 

 生きた心地がしないとはこのことだ。

 

 ――もっとも、伊庭の仕事には毎度つきものだとも言えるのだが。

 

 魔術師への警告におもむく以上、ある程度の戦闘力は無ければならない。

 

 くだらない仕事の上に危険性も高い。そんな仕事をこなせるからこそ、伊庭は重宝されているのである。 

 

『いや、それとしても、今回のこれは過去最大の厄ネタだがな……』

 

 内心でクサしつつも、とりあえずは従うほかなかった。

 

 何の変哲もなさそうな階段を降りると、不意に()()()()()()()()()()()()感覚を覚える。

 

 空間の歪曲――いや、幻覚の類だろうか。

 

 タラップを降りただけの感覚だったが、相当深いところまで降りてきたのだとわかる。

 

 ――地下だ。  

 

「ここは?」

 

 広い空間に出た。中は薄暗く、奥がどうなっているのかはわからない。

 

「ここが本拠よ。この仮住まいの心臓部。まさか上が工房のすべてだとは思わなかったでしょ?」

 

 伊庭は肩をすくめた。魔術師と言うのはいろいろだ。

 

 セオリーがあるようで、それが通じないこともまたセオリーと言える。

 

 誰もが己を魔術師としながら「例外」を抱えている。

 

 それが魔術師と言う存在だ。

 

 ――つまりは、どいつもこいつも一筋縄ではいかない。 

 

「元はどこかの変態趣味の官僚が外からは解らないように作らせた地下室だったそうよ」

 

「……それを調べ上げて、接収したわけか」

 

「ええ。運がよかったの。その官僚の人、なぜだか仕事を辞めてしまったようなのよね。その上一文無しになって、せっかくの新居も使わずじまいだったみたい」

 

 不幸なやつも居たものだ。

 

 まぁ、財産没収で済んだならマシな方かもしれないが。

 

「ここで、サーヴァント召喚をしろ、ってことか」

 

「そうね。必要なモノは出来る限り揃えてあるわ」

 

 パッと、まばゆいばかりの灯りが灯った。

 

 地下の空間は、むしろ上の一軒屋よりも広大なものだった。

 

「以前はコンクリがむきだしだったのだけれど、今はさらに鉄骨で補強してジェラルミンで覆ってあるわ」

 

 もちろん、できる限りの魔術的な防備も固めてね。とナイメリアは続けた。

 

「備えは上々。いざとなれば籠城の手もあるわ。この聖杯戦争は一夜のみ。ま、なんとかなるでしょ」

 

 地下の空間を四つに区切った一画には、祭壇めいた棚が並べられていた。

 

 その上には、宝剣、名刀、王冠、見るからに怪しいマンドラゴラめいた根や、奇妙な獣の全身骨格。

 

 さらにはミイラ化した腕や宝石・鉱石・化粧台に茶器までもがうやうやしく安置されている。

 

「こいつは……」

 

 ――しかし、それを見た伊庭は唖然としたように言葉を途切れさせた。

 

「そう、見ての通りよ。()()()()()()

 

 ナイメリアはそう、言いきって見せた。

 

「お金で何とかなりそうなものは、かき集めてみたわ。当然、本物の英霊と縁を持つような聖遺物なんてのは手に入らない」

 

 その通りだ。ここにあるのは、確かに魔術的にいわくつきの代物である。

 

 しかし、そのどれもが二流にすら届かないレベルのものでしかないのだ。

 

「仕方ないわ。こればっかりはお金でどうこうなるものでないし」

 

 ナイメリアもしょせんは新興の魔術師、儲かっていようと魔術の世界で無理を通せるほどの力はないのだ。

 

 ――そう、だからこそ彼女はこの儀式に臨んでいるのだ。

 

「……いや、お膳立てしてもらって、もうしわけないくらいだ」

 

 すべてを察し、伊庭は首をすくめた。

 

「じゃあ、始めましょう」

 

「仮にだが、召喚に失敗した場合はどうなる?」

 

「考える意味ないわ。だって失敗はしないんだもの」

 

「……」

 

 伊庭は地下室の一画に用意されていた魔法陣に自らの血を流し込み、詠唱を始める。

 

「―――告げる(応じる)

 

「詠唱も簡略なものでいいわ。機は熟した。夜は深まり、円環は満ちた。後は放っておいても彼の者はここへ至る。あなたはきっかけを与えるだけでいい。テレビのスイッチを入れるみたいに、気楽におやりなさいな」

 

 そんな言葉をかけてくるナイメリアをよそに、伊庭は自らの精神が高揚し、魔術回路が励起するのを認識する。

 

「我らが命運はここに収束する。礎のごとき理の下に、炎のごとき刃の先に。虚構の杯を求むる者よ、数奇なる寄る辺に従い、来たれ――」

 

 風が吹いた。

 

 そして地下の密封された空間には有りうべからざる風が吹いた。

 

 熱く鷹揚(おうよう)な風だった。

 

 野趣をはらむ、密林と泥土の香りが伊庭の鼻孔を満たした。

 

 次の瞬間。彼の目の前にはこれまた、見上げるような巨大な人影が出現していた。

 

 

 

 

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