ワンナイト聖杯戦争 第二夜 激闘「マンモススレイヤー」   作:どっこちゃん

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「なんじゃあィ?? 今のでそんなになっとるんか? 植木かなんかかよォお前さん!?」

 

 ベンケイは笑うのも忘れて驚愕し、そのあと思い出したみたいに爆笑し始めた。

 

「なんじゃあそらぁ。植木じゃ! 突っ立っとった植木ぃ!! がハハハハハハハハァッ!」

 

 しかし、もう一方の巨漢は素早く身をひるがえした。

 

 身を自らの腰巻をとって床に敷くと、伊庭をその上に横たえた。

 

「うお……っと」

 

 抵抗どころか、身をすくませるヒマすらなかった。

 

 まるで子猫でもつまみ上げるような手際で伊庭は扱われた。

 

 巨漢は伊庭の傷口に手持ちの軟膏のようなものを塗ると、祭壇にかかっていた飾り布などを引き裂き、包帯代わりに巻き始めた。

 

 やり方は原始的だが、スピーディで的確な治療だった。

 

「ぶははぁッ!!! ――はははは! なんだァ、一応『マスター』だっつぅ自覚はあるんだのぅ」

 

「とりあえず、悪い人じゃないみたいね――そこまでよセイバー」

 

「おおゥ。ないめりあ! おまえさんの言うとおりだったぞ! おとなしくしてりゃあいいことがあるってなァ! いやぁ、面白い連中だ!」

 

「……それはあくまでも敵のことを言ったつもりだったのだけれど」

 

 セイバーを制しつつ、ナイメリアは伊庭に近寄る。

 

「……やぁ、どうも」

 

「魔術による治療がいるかしら?」

 

「いや」

 

「それはそうよね。自分でつけた傷なのだし」

 

 伊庭は原始の英霊を見るが、彼は伊庭の治療を終えると、またなにがしかの工作を再開した。

 

「……まぁ、うまく行ったろ?」

 

「なんで服まで脱いだのか疑問だけれど」

 

「悪いね」

 

「別に悪くはないけれどね。うふふ」

 

 ナイメリアは眼を細める。

 

「……あのスーツ、借り物でね。取ってきてくれると助かるんだけど……」

 

「やれやれね。――で、彼は何をしようとしてるんだと思う?」

 

「作ってるんだ。――武器を」

 

 原始の英霊は一心不乱に作業を続けている。

 

 今度はナイメリアの工房――つまりは作業場にあった備品を引っ掻き回し始めた。

 

「……悪いね」

 

 伊庭がスーツを受け取りながら言う。

 

「かまわないわ。むしろ、興味深いものが見れるかも……」

 

 

 砕いた隕石の破片。

 

 先ほどへし折れてしまったダンビラの片割れ。

 

 魔獣の骨格標本から抜き出した骨を削り、さらには自分が持参した装飾品や髪ヒモ。

 

 あげくに崩壊したコンクリの中から引き抜いた鉄骨まで使って。

 

 彼は瞬く間に幾つかの道具を造りだした。

 

 伊庭は元よりナイメリアも言葉を失くしていた。

 

 できあがたったのは、

 

 

 二本の石槍

 

 石の手斧

 

 石のアミュレットを幾つか。

 

 さらに削った石の粉と幾つかの材料をこねあげて、塗料のようなものまでつくってしまった。

 

 

 

「……ほぉん? 器用なもんだのぉ」

 

 ベンケイがつまらなそうに言い、ナイメリアも出来上がった物品を詳細にスケッチしながら呟く。

 

「どうやら、彼は『石器』を作り出すスキルを持っているようね……」

 

「……」

 

 伊庭は何も言わず、ただただ、この原始の英霊を見ていた。

 

 やっていることはまさしく原人という具合なのだが、その五体にみなぎる機能美とでもいうか、

 

 それとも、その所作のよどみの無さゆえなのか。

 

 熱心に作業を続ける彼から、眼が離せなかった。

 

「……ッと」

 

 すると、原始の英霊はまたよどみのない、静かな動きで伊庭の眼前に迫った。

 

 そして、じっ……と伊庭を見据えてくる。

 

「ああ……さっきはどうも」

 

「ウソ、だめ」

 

 短く、しかし鋭く、この男は初めて人語を発した。

 

 片言だが、一応会話は可能なようだ。

 

 しかし、ウソとは何のことだ!?

 

「み、見抜かれとるぅ……」

 

 すると背後ではセイバーがまたくすくすと、押し隠すように笑う。

 

 つまりは、先ほどの負傷が伊庭の狂言だったというのがバレているということか。

 

 いや、構わない。それであの場は収まったのだから

 

「……ああ、悪かったよ。すまない」

 

「ちがう」

 

 出来る限り申し訳なさそうに謝意を示そうとした伊庭に、巨漢は首を振った。

 

「じぶん、だます、だめ。じぶん、ウソ、だめ」

 

「じぶん?」

 

 原始の巨漢は大きくうなずいた。

 

 そして、子供にするみたいに、伊庭の頭をゴリゴリと押した。

 

 ――撫でたつもりなのだろうか?

 

 場合によっては首が捩じ切れそうな勢いだったが。

 

(うら)(うら)まで筒抜けだぜェ? おまえさん、()()()()()()いつまでも子ども扱いだァ♡」

 

 ベンケイは伊庭の背後から揶揄するような声をかけてくる。

 

「……」

 

 さすがに憮然とせざるを得ない。

 

 伊庭はこれでも中年だ。体の大きさで大人か子供かが変わるものでもあるまいし……。

 

「それで? 彼のことは何て呼べばいいのかしら?」

 

 マスターにはサーヴァントの各種ステータスを視認する能力が与えられている。

 

 本来、伊庭は元よりナイメリアにも彼のクラス名くらいは()()()ハズなのだが、なんの作用かこの英霊は自らのステータスを隠ぺいすることが出来るらしい。

 

 おそらくは、彼が身体に纏う各種装飾品の効果なのではないだろうか。

 

「……あー、あんたのことを、なんて呼べばいい? ……パートナーとしてさ」

 

 伊庭は相手を刺激しないようにと気を付けて声を掛けた。

 

 何を考えているのかは知らないが、とりあえず今、この場で伊庭を殺しにかかる事は無いはずだ。

 

「――……」

 

 すると原始の巨漢は自らが作り上げた長大な槍を手にして、ずい、と伊庭の眼前に突き出した。

 

「…………ハンター!? クラスは『ハンター』だっていうのか!?」

 

 そうすると、伊庭の視界にぼんやりとだが彼のステータスが浮かび上がってくるのだ。

 

「エクストラクラス……なのか? ……クラスは、『ハンター』……それで」

 

 次に、『ハンター』のサーヴァントは、いましがた練り上げた塗料のようなものを指ですくい取り、壁に何かの絵を描き始めた。

 

「……!」

 

「あれって……」

 

「マ、マンモス……か!?」

 

 原始の英霊がジェラルミンの壁に描いたのは、誰もが知る原生生物、毛長マンモスの姿そのものだった。

 

「おぉん? 〝まんもす〟っつーのはなんぞ??」

 

 一人、セイバーだけが図案の意図を理解できず太い眉を(すが)めている。

 

 そして巨漢は自分で描いた絵図を指差しながら、手にした槍を力強く突き出してくる。

 

「マンモスを……狩ってたって言いたいのか?」

 

 伊庭の言葉に、彼は二カっと笑顔を見せる。獣のような巨大な犬歯がのぞいた。

 

 次の瞬間、伊庭の脳内に、この英霊の情報が一気に叩き込まれた。光が閃くかのように。

 

「マンモスハンターってこと? それが英霊として呼ばれたって事なの?」

 

「おぉい、だからその〝まんもす〟っつーのはなんなんだぃ?」

 

「『ハンター』じゃない……」

 

 確信を込めた伊庭の言葉に、ナイメリアが振り返る。

 

「『ハンター』はこいつを表すクラスでしかない。こいつは、この英雄の真名は『マンモススレイヤー』……」

 

 この星で、最も多くのマンモスを狩った、人類史最古の英霊。

 

 それが、この原始の英霊の真名であった。

 

 

 

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