ワンナイト聖杯戦争 第二夜 激闘「マンモススレイヤー」   作:どっこちゃん

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 月のない、生温い夜だった。

 

「なんだァ。気にするな気にするな。家なんてのはな、どれもそのうち壊れるもんだ♡」

 

「あなたには取ってはそうなのかもしれないと思えるのがシャクね。まぁ、仮住まいだからいいけれど」

 

 伊庭(いば)とナイメリアはサーヴァント達を伴い、夜のアスファルトを進んでいく。

 

 もともとこちらから出向くつもりだったとナイメリアは言ったが、どのみち、あの要害に立てこもるわけにはいかなかったことだろう。

 

「……狩りの前、血、めぐる……熱くなる」

 

 神妙な顔で「ハンター」のサーヴァント、こと〝マンモススレイヤー〟が呟く。

 

 やる気になってくれているのはありがたいのだが、……「狩り」と言われてもどうしたものか。

 

「おぉい。この先にァなァ、その()()()()と言う獣はおらんぞぅ」

 

 伊庭の内心を代弁するように、セイバー・ベンケイがのたり、とした声を掛ける。

 

「獲物・・いる」

 

「そうよ、獲物がいるの」

 

 一人、ナイメリアだけは笑顔でマンモススレイヤーのやる気を歓迎している。

 

 相手が何であれ、戦力になってくれればナイメリアとしては問題ないのだろう。

 

「オレ、獲物、狩る。そのため、来た」

 

 マンモススレイヤーは先ほど自らが組み上げた槍を握りしめる。

 

 寄せ集めな上に、粗雑な作りの石器の槍。

 

 ……にもかかわらず、彼の手の中にあるそれはいかにも見事な神器のようにも見えてくる。

 

 まるで幾星霜の時を経て磨き上げられた芸術作品であるかのようにさえ。

 

「へへぇ……それはそうと、こっちはこっちで()()()()じゃあねぇか。ちょいとみせてくれくれろ?」

 

 先ほどからちらちらと槍を見ていたベンケイが、機を見計らったかのように丸太のような腕を突き出す。

 

 が、マンモススレイヤーは過度に反応し距離を取った。

 

「ダメ」

 

「ありゃりゃ……。きらわれちまったなァ♡」

 

 巨漢は、また童子のようにくすくすと笑った。

 

「そのようね」

 

「お前、こども」

 

 すると、マンモススレイヤーが、初めてベンケイに声を掛けた。

 

「おん?」

 

「お前、子供。ダメ」

 

 そして、やれやれとでもいうように首を振った。

 

「なぁんでぇ。同じ孔の()()()のくせによぉ」

 

 

 背後で巨漢同士のやりとりを耳に聞きながら、伊庭はとにかく気が重い。

 

「……で、肝心のあんたが殺したい相手ってのは?」

 

 伊庭はナイメリアに問う。そう言えば、彼女が雌雄を決しようとしている相手の名すら聞いていなかった。

 

「名前は古賀鏡子(こが きょうこ)。生意気にもこの土地の管理者ってハナシね。歳は19。小娘だわ」

 

「…………アンタとそんなに変わらないと思うがね」

 

「あら、ありがと。――で、知ってるのかしら?」

 

 ――「なぁんでぇ。どうやらみぃんなガキばっかりらしいぜィ♡」と、ベンケイが口を挟んでくるが、伊庭は取り合わずに続ける。

 

「ああ、知ってる」

 

「地元だものねぇ。ここの霊地を所有してるのがその家ね」

 

「この街で霊地なんて呼べんのは古賀の屋敷だけだ」

 

 だから、予想はついていた。できれば外れていてほしい予想だったが。

 

「簡単でいいわね。あの小娘の家に押し入って、サーヴァントを殺し、聖杯の欠片をいただくわ」

 

「さて、そう上手くいくかな……」

 

「いくわよ。そのためのアナタなのだもの。どのみち二対一なら問題なく勝てる相手だわ」

 

「相手も、それが解ってるはずだがね」

 

「当然ね」

 

 ――伊庭は足を止めた。

 

「なら、なんで当人がここに居るのかな?」

 

「あら?」

 

 凍てつくような風が吹いた。

 

 この温い夜には似合わない極寒の風だ。

 

 周囲には、ありうべからざる霜までもが降り始めている。

 

 今夜は本物の厄日だ、と伊庭は思った。

 

「ちょっとだけ予想外ね」

 

「……氷雪紋(ひょうせつもん)

 

 きょとんと眼を剥くナイメリアを余所に、伊庭が畏怖を込めて呟いた。

 

 大気中に氷の結晶が実り始める。

 

 その煌めくような帳の向こう。一人の女が立っていた。

 

「それが二つ名? うふふ。剽窃(ひょうせつ)だなんて、やぁね。猿マネがお得意かしら?」

 

 ナイメリアは言う。

 

 剽窃とは他人の著作から思想や筋などを部分的に写し取ることだ。

 

 盗用とは違うが、他人の思惑を聞きかじりで書く文章と言うのは、見るに堪えないものになる場合が多い。

 

 文筆屋として皮肉を言ったつもりなのだろうが、場の空気は()()()()()だった。

 

「――先に言っておくことが有ります」

 

 キンと冷えた真冬のような空気を伝い、よく通る声で女は言った。

 

 大人びた容姿に反して、その喉はまだ少女のままのようだった。

 

「今すぐに、サーヴァントを自害させなさい。そうすれば無駄な戦闘を回避できます」

 

 怜悧に切りそろえられた黒髪。その向こうから、射抜くような視線が両者を見ている。

 

 そして、女は――古賀鏡子は右手を真っ直ぐに向けてきた。

 

 まるで銃口のように。

 

「あら、ガンド射ち? 古風ね?」

 

「――まずい!!」

 

 伊庭が叫んだ。

 

 ガンドは相手を指差すことで体調を悪化させるという呪術の一種とされる。

 

「当たらなければいいじゃない」

 

 奇妙に濡れ光る質感の万年筆を手に、ナイメリアも戦闘態勢に入る。

 

筆誅(ひっちゅう)してあげるわ――どんな見出しがいいかしら!?」

 

 虚空に(ぼう)っとした光のラインがあらわれ、瞬く間にナイメリアの筆跡が夜の虚空に踊り始める。

 

「――――」

 

 一切の応答もなく、ガンドが放たれる。

 

 魔力の密度はそれほどのモノとも思えない。

 

 何よりも、直線的に迫る軌道は防ぐにも躱すにも容易なものとしか見受けられない。

 

「ちょこざい。……剽窃屋(ひょうせつや)には誅罰を!!」

 

 ガンドの魔弾を居なしつつ前に出ようとしたナイメリアの身体を、伊庭が強引に引き留めた。

 

「――あら?」

 

「セイバー! ハンター!」

 

 伊庭が叫ぶ。次の瞬間、出現した二体の巨漢がナイメリアを守るように立ち塞がった。

 

 まるで肉の壁、否、肉の要塞と言うべき威容であった。

 

 当然、霜のガンドは肉壁の前にかき消される。

 

「……情熱的で悪い気はしないのだけど。ちょっと警戒しすぎじゃない?」

 

「サーヴァントの対魔力なら問題ない。――けどな、あのガンド射ちはまずいんだ」

 

 伊庭は、ナイメリアを抱え、さらに後退する。

 

 伊庭の仕事はそもそもナイメリアへの注意喚起だ。ナイメリアが早々に死んでしまっては仕事も何もあったものではない。

 

「……相手のサーヴァントを確認したかったのだけど」

 

 たしかに、古賀鏡子は未だに自らが召喚したであろうサーヴァントを見せていない。

 

「んなぁ~に、まずは娘っ子一人によぉ。そんな気張ることもねェだろ♡」

 

 ガンド射ちを受け切ったセイバー・ベンケイが、のたり、と前に出た。

 

「そうね……では先陣(フォワード)を任せるわ」

 

「言ィわずもがなァ、とくらァ!!」

 

 そしてセイバーはどたり、どたり、と野放図に前進する。

 

 その手には――彼の()()()たる、巨大な宝具が握られていた。

 

「な、なんだあれ……」

 

 それを観た伊庭は、古賀鏡子の脅威も忘れ、唖然として言葉を失ってしまった。

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