ワンナイト聖杯戦争 第二夜 激闘「マンモススレイヤー」   作:どっこちゃん

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 セイバーは当然、セイバーのサーヴァントとして、全うに自らの得物である武装を取り出したに過ぎない。

 

 ただ、それだけのことだ。それはわかっている。だが、それでもなお、伊庭は唖然として言葉を失うしかなかった。

 

 ――剣? あれが? 冗談だろう?

 

「うふふ。()()を振るうにふさわしい状態で呼ばれたからこそ、あの()()()なのよ。私のセイバーは」

 

 それは刀剣と呼べるようなものではなかった。

 

 確かに刀剣で出来てはいた。しかし刀剣として使用できる代物ではなかった。

 

 それは巨大な鋼の柱に見えた。

 

 人の手が回らぬほどに太い柱だ。そして、その柱はその全てが太刀で出来ていた。

 

 つまり、数十、数百もの太刀を幾重にも束ね、す巻きにしてあるような状態なのだ。

 

 それをまるで巨大な米俵でも持つかのように、セイバーは掲げ上げる。

 

 その様はまるで――――まるで、巨大なガトリング砲を人間が抱えているかのようにも見えた。

 

 伊庭は、理解を超えて察した。

 

 あの怪物が――無邪気とも取れる笑みを浮かべながら、なにをしようとしているのかを!

 

 セイバーが束ねられた切っ先を突き出すようにすると、幾重にも層を成す、数珠つなぎの太刀が、まるで悪夢の如く旋転し始める。

 

 そして――

 

 周囲を薙ぎ払うようにして、見えない斬撃のようなものが、ばら撒かれているのだ。

 

 鋼が何かを弾き、また、切り刻むような、ちちちちち、あるいは、ききききき、という、耳慣れぬ音が痛烈に伊庭の耳を打つ。

 

「ど、どこが――どこが〝セイバー〟だ!」

 

「れっきとしたセイバーよ。あの宝具は『一振りで斬撃を最大999まで増大させる』という宝具なのだから。――この国では有名なのでしょう?」

 

「――五条大橋での決闘か。たしか義経(よしつね)公と出会うまでに999本の太刀を集めたとか……」

 

 セイバーがベンケイと言うには妙に若々しい荒くれ者だったのは、()()()()()()()()()()()()()()を召喚したせいだというのか!?

 

「そうそう。それ」

 

 伊庭が応えようとした言葉が、再びかき鳴らすような斬撃音にかき消された。

 

 ――ふざけるな! あの逸話のどこにこんな要素があるっていうんだ!?

 

 まるで第一次大戦だ。人類の牧歌的な戦争が、悪夢の虐殺と掃討戦に成り代わった、人類の悪夢の始まりの光景じゃないか!!

 

 ()く言う間に、掃射が終了する。

 

「――ふぅ。悪くねぇな」

 

 セイバーが、満足そうにつぶやくのが聞こえた。

 

 

 

「あら、終わったかしら?」

 

「終わったもなにも……」

 

 ナイメリアの言葉を信じるなら、その雨のようにばら撒かれた見えない斬撃は、一発一発があのベンケイの振るう一撃に等しいのだ。

 

 防げるはずがない。古賀京子はとっくに死んでいるだろう。

 

 ――もしもそれを防げたとするなら、 

 

 

「――ありえない。我らが管理する土地で、ここまでの暴虐を行うとは……ッッ」

 

 

 仮に、もしもそれを防げたとするなら、それは何らかの理、つまりは宝具級の神秘によってでしか、あり得ない。 

 

 古賀鏡子を、悪夢のような斬撃の雨から守ったモノ。それは氷の壁だった。

 

 その地面から突き出した氷山のごときモノの中から、声が響いてくる。

 

「はぁん!? 傷もつけてないでしょうが!!」

 

 ナイメリアはファックサイン片手に周囲を指差す。

 

 たしかに、まるで戦争を始めたかのような、()()()()()()だったセイバーの攻撃を受けたにもかかわらず、周囲の住宅街は静かなままだ。

 

 何の破壊も起っていない。

 

「……セイバーが加減したのか?」

 

「まさか。あらかじめ戦場になりそうな場所には仕掛けてをしてあったのよ」

 

 ナイメリアの仕込みだったらしい。さすがに魔術師としての義務までは忘れていなかったようだ。

 

 伊庭は内心で息を吐いた。これなら注意喚起の必要もなさそうだ。

 

 後は生きて帰るだけなのだが……。

 

「入念に筆を振るっておいたわ。多少暴れても、周囲は壊れないし、騒音も漏れない」

 

「なるほど……それは失礼。しかし」

 

 古賀鏡子が言葉を切る。そこで、セイバーが唐突に膝を突いた。

 

「おぉん!? なんだぁこりゃあ……」

 

 その巨体が、あろうことか、ぶるぶると震えているではないか。

 

「我らが土地を土足で汚して回ったことは事実――その罪、許し難い」

 

 古賀は巨大な氷像の中に入ったまま、どんどん夜空に昇っていく。

 

 彼女を内包する氷が巨大化していくのだ。

 

「セイバー!? どうしたのよ!」

 

「氷雪紋だ……」

 

 伊庭がつぶやく。

 

「さっきのガンドのこと!?」 

 

「ああ、アレは当たらなくてもヤバいんだ」

 

 伊庭は解説する。

 

 氷雪紋のガンド。アレは冷気によって「低体温症」を引き起こす呪いで、相手に命中させる必要がないのが特徴なのだ。

 

 直撃させなくとも、着弾点の周囲から温度をどんどん奪い、果ては相手の体温を下げきって、眠るように殺してしまう。

 

 逃げ纏う相手をゆっくりと追い詰め、始末するための魔術なのだ。

 

「――けど、それが何でサーヴァントにまで効いてるのよ? セイバーにだって対魔力はあるのよ?」

 

「何かある……ってことだ」

 

「ああ。なるほど、()()()()()で自分の魔術を底上げしてるわけね。なぁんだ。まさしく剽窃(ひょうせつ)じゃないの」

 

「仕掛けなどありません」

 

 遥か頭上から、声が降ってくる。

 

「単純に、私の魔術がサーヴァントを超えているだけ」

 

「はぁ~ん? 信じられないわね。猿マネだけじゃなくて、虚偽まで重ねる気なのかしら?」

 

「――では、死んでたしかめるが良いでしょう!」

 

 古賀鏡子は澄んだ氷塊の中から、再びガンドを放ってくる。

 

「セイバー!!」

 

 同時にナイメリアも万年筆を振るう。

 

 セイバーの身体に直接書き込ませた筆跡が、その五体に温度を取り戻す。

 

「――――――GUUUUUUURRRRAAAAAAAAAA!!!!」

 

 獣のごとき怒声を張りあげ、セイバーは再び太刀のガトリング砲を古賀へ向けて掃射した。

 

 ちゃちな霜の魔弾(ガンド撃ち)はもとより、巨大な氷の壁、或いは氷山そのものがすさまじい勢いで削られていく。

 

 しかし、なぜなのか、それを上回る勢いで氷は修復されていくのだ。

 

「本当にサーヴァントを圧倒してるっていうのか……」

 

「そんなわけないでしょう。どこかであの女のサーヴァントが援護してるに決まってるわ」

 

「……けど、使ってるのは、古賀の魔術そのものだ」

 

 問題は、本来の古賀が持つ魔術とは比較にならないレベルでそれが強化されているのだということ。

 

 もはや現代の魔術師の規格を逸脱しているといっていいレベルだ。もはや神代のそれに近しいほどの。

 

「詳しいわね」

 

「……で、どうするんだ? このままだと分が悪そうだが……」

 

「そうねぇ。ところで」

 

 ナイメリアはちろりと、横目に目を剥く。

 

「ハンターはどこかしら?」

 

「そりゃあ、()()()()()()()さ」 

 

 セイバーの刃が氷山を削る一方、ハンター・マンモススレイヤーは古賀の頭上に居た。

 

 

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