ナツミ・シュバルツ嬢は友達が欲しい   作:ら・ま・ミュウ

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十話


溺れる

前々から賢人会が自分の事を快く思っていないのは分かっていた。

いや、浄水場の管理代行とか害鳥対策の責任者など。王族が携わったとも直ぐに替えを用意出来ないとは思えない仕事の数々を大量に押し付けて、過労死や大きな失敗でもさせて望んでもいないのに勝手についてきた権力を削ぎ落としたい気持ちは嫌というほど理解出来た。

 

「申し訳ありませんボス。『腸狩り』でしたっけ?

良いところまでいったのですがまさか吸血鬼とは思わず、切断された両足をくっ付けて姿を眩ませました。

あ、見逃した訳ではありませんよ?中々の美女ではありましたが、吸血鬼を抱く趣味はありません」

 

「余計な情報ありがとうセシルス」

 

文官達は仕方ないとして騎士の一人も護衛が付かない事に疑問を抱かないほどナツミ・シュバルツは耄碌していなかった。

只でさえ間接的な妨害を繰り返していた彼らだ。いざ、暗殺者を送り込んできたとしても違和感はない。

そして異世界転生も安定しない職場環境もナツキ・スバルは一度も願った事はなかった。

……ふざけるんじゃねぇ。賢人会の好きなようにさせてたまるかと奮起して護衛集めを始める。

 

しかし、個人で護衛を見繕おうにも賢人会の根回しからか懇意にしている騎士達からやんわりとお断りされ、ユリウス達は王選候補者の騎士だから呼べる訳もない。

ラインハルトは最近なんだか忙しそうだったので声を掛けていない。

 

「あれ、私の人望なさすぎ!?」

ルグニカ王国にナツミ嬢の味方はいないのか。

思わず頭を抱えたナツミの護衛問題に白羽の矢がたったのはヴォラキア帝国である。

取り敢えず身分がしっかりしていて其れなりに強ければ申し分ない。ナツミ・シュバルツ嬢は、カララギから来てるんだし彼方を呼んでも問題ない筈だと、暫く近辺警護をしてくれる人材派遣を申し立て――そして訪れたのが、セシルス・セグムント。

ヴォラキア帝国最強の戦士、『九神将』の筆頭。 一将の位を与えられた『青き雷光』

早い話、ヴォラキア帝国版のラインハルトである。

 

「スッゲエのが来ちゃった!?」

 

飄々とした男だから無難な奴なのかと思えば……だ。

 

「閣下が貴方という存在を正当に評価した結果ですよ?

もし、亡命する気があるなら連れてこいとも言われました。厚待遇で迎え入れるそうです。」

 

「……ちなみにご給料と休みのほどは?」

 

「1日八時間労働。完全週休二日制。祝日休み。有休30日。給料は僕と同じぐらいですね。ボーナスはその五倍です。」

 

 

 

この時、本気で亡命しようと思ったのは内緒である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ナツミ・シュバルツさん…王国の大混乱を一人で建て直した英雄か)

 

銀色の髪の少女が一枚の新聞を見つめ城を見上げる。

 

「ねぇパック。こんなに立派な人が王選候補者に選ばれないなんておかしいと思わない?」

 

「そうだね~リア以上に王様に相応しい子なんて想像も出来なかったけど、家柄も優秀、才能や努力はピカ一。さらに先進的な技術の革命児と敬われ老若男女に好かれるこの子はまるで王様になるために産まれてきたように見えるよ」

 

銀髪の少女の肩で欠伸する灰色の体毛をした子猫。大精霊のパックは新聞の見出しを突っつき「それにリアほどじゃないけど人間にしては可愛いし」と付け加える。

 

「もうっふざけないの」

 

リアと呼ばれた少女――エミリアは頬を膨らませ恥ずかしそうに顔を赤くした。

 

「エミリア様。間も無く式典が開始します」

 

「えっ、もうそんな時間!?

ラム、ロズワール、急ぎましょ!」

 

「そぉーだね」「はい」

 

道化のようなメイクの男性と桃髪の少女を引き連れ、彼女は城を目指す。




【セシルス・セグムント】
原作のエイプリルフール企画。『ゼロカラオボレルイセカイセイカツ』の登場キャラクター。
粛清王ナツキ・スバルの側近。

次回、自称婚約者ユリウス・ユークリウス(予定)

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