ナツミ・シュバルツ嬢は友達が欲しい   作:ら・ま・ミュウ

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ナツミ嬢とユリウス

「やった!二期が始まったぜ!」二期一話視聴後「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だァァァァ!!!!!」

 

僕の仕事は場を整える事です。

「あの二人……天然なのかわざとなのか、ほっとくと直ぐにムードをぶち壊しやがるのですよ」

 

店を貸し切るのも店員に成り済ますのも僕の手に掛かればお茶の子さいさいなのです。ですから、エスコートする側の意見も聞かず、朝食ならまだしも午後の事を考え、そこそこ精力のつく物を食べたい時間帯にサラダ料理を進めようとする(自称)女性の扱いを心得ている同僚を影からサポートをしたり、口をニンニク臭くされてはムードもへったくれもないとメニューを慌てて取り替える機転さだって求められるのです。

 

――それにしても

片方は仕方ないですがもう片方は……『貴方(ユリウス)は気があるのだからもう少し考えて行動なさい』と言わざるを得ないのです。

 

ナツミ・シュバルツお嬢様。

少々目付きがおキツイ方ですが、このような事態になる前も社交界ではそれなりに有名なお方でしたし、男の影こそ欠片も覗かせない人でありましたが、人を選ばない持ち前の明るさあって評判も上々……まさに選り取りみどりというやつです。

 

今でこそ餓えた狼のように彼女に求婚を申し込む非常識者は珍しくなってきましたが、彼女の権力もあって逆に腹黒い野望を胸に、取り入ろうとする輩が増えてきたのは頭の痛い話ですよ。

 

「やれやれです」

 

言っては何だが、この二人がそういう関係になるのはとても難しい事だろう。

ナツミさんからは何が何でも貞操を守り抜くという鋼の意思を感じますし、口では娶るだの、迎え入れる、など言うもののナツミさんとの友人関係に居心地良さを感じて、いつまでもぬるま湯に浸かっているような男だ。

 

モノクルを掛けた獣人の少年ティビーは首を竦めて息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

「ナツミ」

「何ですかユリウス様」

「最近はどうだい、派遣した人材だけで手は足りているのかな?」

 

ユリウスが問い掛けるように会話を切り出すのは何時もの事だった。

そうしないと彼女は本当に何も喋らない。

だがそれは無口とか口ベタなどの理由があるからではなく自分に対して遠慮していないから。気を使う必要がないからだ。

ナツミはよく喋るが、喋るのが好きではないのだろう。

 

本人から直接言われた訳ではないが、伊達に幼馴染をやっている訳ではない。

 

(こうして自分が信頼されているという実感に浸るのものいいが、久しぶりの食事で何も話さないというのは面白くない)

 

「……現状では何の問題もありません。ヨシュアやガーネットは慣れない多重過多な仕事でありながら要領よくこなせていますし、懸念していた賢人会からも現状では表だった嫌がらせは受けていません」

「我が弟も君の下では学ぶ事も多かろう、まったく君の博識には頭が下がるよ」

「ヨシュア……くんは優秀ですよ。ですが前から言ってますけど、私は“していい”事が他の方々より多いだけであって、その道のプロに比べれば勝てる要素なんて米粒のようなんですからね?」

 

~の資格や免許が必要。~をするには~期間学ぶ必要がある。

組織化された仕事ほどそういった学歴は求められる。

幼い頃の彼女はまるで見えない何かに駆り立てられていたかように勉学に取り組んでいた。

今でこそ落ち着いたが彼女は私でも把握しきれない量の学問を一通り修めている。それを誉めれば『浅く広く』などと謙遜するが、王族が任されていた仕事の大半を任せられる学歴という物がどれだけ凄い事か……言葉に現さなくても分かるだろう。

 

「たまに疑問に思う事がある」

「あら、何ですの?」

 

運ばれてきた白身魚のムニエルにナイフを通すナツミ嬢。

 

「――かつて君は学者肌なのかと尋ねた事があった。」

「……あ、ぁぁそんな事もありましたね(覚えてない)」

「その時、君は鼻で笑ってそれを否定した。現に裁判官という学者とは程遠い職についた」

「勉学は必要だと思って修めただけですからね。深い意味があった訳ではございません」

「裁判官には魚の捌き方まで求められるのかい?」

「何も子供の頃から裁判官を目指していたわけではありませんわ、私はただ人々の役に立てるような立派な――」

 

「人の為になる……か、憧れている人でもいるのかな?」

 

それはユリウスが何気なしに呟いた事だった。前々から何を理由にしてそこまで頑張れたのか、気になっては尋ねていたのだが確証を得られた物はなく、恐らく今回も空振りだろうと思っての発言だ。

 

 

やっぱりあの人の子だな

 

 

「なん……て」

「ナツミ?」

 

彼女の雰囲気が変わった。

 

「―――いえ、何でもございませんわ」

「そ、そうか」

 

と、思えばいつもどおりの笑みを作り食事を口に運ぶ。

一瞬とはいえ虎が兎になったような豹変に面食らうユリウスである。


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