ナツミ・シュバルツ嬢は友達が欲しい   作:ら・ま・ミュウ

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十一話


井の中の蛙、大海を知らず

(……ナツミ・シュバルツさんは何処にいるんだろう)

 

王選開幕を告げる式典の中、銀髪のハーフエルフ――エミリアは視線を彷徨わせる。

 

 

「私が王になった暁には―――」

 

人々のざわめき、クルシュの王としての野望。それに各々が反発や感嘆の息を表す……私たちと対面するように席を置く賢人会の周囲には居ない。懇意にしているという精霊騎士や治癒術士の近くにもそれらしい姿は確認出来ない。

ナツミ・シュバルツは好んで黒いドレスをよく纏う。だから人目につきやすく、すぐに目に止まる筈だとロズワールから聞いていたエミリアだが、顔は知らなかった。

 

元貧民街の開発区画ではナツミ・シュバルツの威光を肖って等身大の石像を作ろうという話が上がっているらしいが、元々文官仕事からエスカレーター式に偉くなっていた彼女が大衆の面前に立ったことなど数えるほどにもなく、せいぜいが彼女の家が主催するパーティーへ主席したぐらいである。その時は単なる軽犯罪専門の裁判官であった為、注目もなかった。

 

「……リア、逸る気持ちも分かるけど次は君の番だよ」

 

耳元でそっと囁くパックの言葉にはっとして彼女は前に出た。

 

「私の望みは一つ、ただ公平であること。全ての民が公平である国を作ることです」

 

「は、魔女擬きが何を言うかと思えば影の女王の真似事か」

 

自分がしたいこと。心から望んだ願い。それを公言すれば、同じルグニカ王国の王位継承の資格を持った候補者であり、燃え上がる炎のようなドレスを纏った女性――プリシラ・バーリエルが口を挟む。

 

「そんな事ッ」

 

「奇しくもルグニカは影の女王の采配によって目覚ましい発展を遂げている。まさに妾が支配するに相応しい……理想郷といった所か。今さら影の女王の席を廃絶し、他者が手を加えた所でそれは名画に泥を塗るようなもの、はっきり言ってこれ以上の発展は望めまい」

 

「そんなの、やってみなきゃ分からないじゃない」

 

「分かるとも、現にここにいる全ての候補者があれを越える目標として捉えるのではなく、如何に上手く使うかを思量しておる」

 

クルシュやアナスタシタらを一瞥し、嘲笑う表情を隠すように取り出した扇子を口に当てる彼女。

 

「今回の召集に応じたのは、妾を差し置いて王を名乗る某に軽い灸を据えてやるつもりであったが、賢人会の権威はもはやあれを縛る効力はないと見た」

 

賢人会の一部は不快そうに顔を歪める。

それで分かった。エミリアがナツミ嬢を見つけることが出来ないのも無理はないのだ。何せ彼女はこの空間に存在しないのだから。

 

「居ない……?」

 

側に仕えるロズワールを見れば、彼は苦笑して首を縦に振る。

 

「さて、つまらぬ事に時間を浪費してしまった。ウェイターの愚物、次は貴様の番であろう」

 

「ウェイター、ウェイターってあぁもう!」

 

癇癪を起こす金髪の少女――フェルト。

浮浪者と蔑まれる立場からいつしか開発区画にある飯処の看板娘と呼ばれるようになった彼女はここにいない女性に向けて叫ぶ。

 

「あたしが、王になったら?

全部姉ちゃんに仕事押し付けてやっから、今と何も変わんねーよチクショウ!」

 

投げやりのようで、彼の騎士たるラインハルトを連れて舞台に上がり、(言葉使いに粗が目立つものの)形式上問題ない作法を取ったのは、誰かの入れ知恵あってのものか。

 

「…………私だけ、ナツミ・シュバルツさんの事を何もしらない」

 

五人の候補者が選ばれ王選の開幕を告げる式典。エミリアはそこで他の候補者達との間に価値観や見えているものが違うような……寂寥の思いを抱いた。


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