ナツミ・シュバルツ嬢は友達が欲しい   作:ら・ま・ミュウ

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十四話


美味しいお酒も量による

銀光の差し込む陰湿とした路上の裏。

 

「……くぅ、……ふぅ……」

 

黒髪の少女は脂汗を滲ませて体をくの字に折る。

ギュルギュルと肉体の内から締め上げるような音がした。

 

彼女は猛烈な吐き気に襲われたのか口元を覆い、食道から逆流しようとするそれを必死に抑えようと努めたものの……「だから、言ったんですよ。自業自得ですって」

いつの間にか背後に佇んでいた男の言葉を最後に口から溢れ出る茶色の吐瀉物を辺り一面に撒き散らした。

 

「――オロロロロ」

 

とても人様には見せられない姿だ。

そして黒いドレスにすらその飛沫を散らす百年の恋も冷めるような彼女の名はナツミ・シュバルツ。

王国の影の宰相や女王だとか本人の限界スペックを越えた過大評価を受けているが、その実態は腱鞘炎を回復魔法で誤魔化しながら終わりのない職務時間と迫る納期に駆り立てられる休みなきブラック社員である。

 

「僕、美少女はゲロ吐かないんだと思っていたんですど貴方のお陰で幻想がぶち壊れました!」

 

半端に消化されたパスタやお酒と酸っぱい臭いが辺りに立ち込める。

護衛であるセシルスは彼女の背中をさすっていた。

 

ナツミ・シュバルツ嬢は酒に弱い。だが全く飲めない訳ではない。それを自覚して普段は飲むペースを考えているのだが、ロム爺やフェルトなど久しぶりとなる知人達の前でつい羽目を外してしまい肝臓の処理能力がキャパを越えてしまったらしい。

 

「うげぇぇ……それ、は悪かったですね」

 

口元を拭う。最後の王選候補たるフェルトが王選出場への表明を表し、龍の盟約に従い正式に王選の開始を告げる式典への参加を求められた彼女であるが、ゲロをぶちまけた今の状態では不味い。

 

時計はないが湯浴みや新しいドレスを揃えたとして、これから式典に向かおうにも間に合わないであろうことは彼女にも察しがついた。男の頃なら口を濯いで特攻かませるほど図々しくもあれたものだが、ナツミ・シュバルツとしての半生が自己を突き通せるほど鈍感ではいられないことを教えてくれた。

 

成長したのだろう。生前に比べれば世渡りが上手くなったと言える。

 

「セシルス……あんな奴らの顔色を伺うのは癪だが今回は全面的に私が悪い。賢人会に謝罪の文を今から書くから大至急、神殿まで届けてくれ」

 

そう言うと彼女は懐から紙とペンを取り出して、覚束ないペン裁きで毒にも薬にもならない長ったらしい文章を書き上げるとセシルスに託し、床につく。

 

「えっ、ちょ!……護衛対象を一人に出来るわけな」

 

セシルスは何か言いたげであったが、数日分の疲れが酔いにどっと被さって思考が回らない。

横にあった木箱に頭をおいたナツミ嬢はうっすらとした視界の中で何かしら銀色の物体が蠢いているのを納めながらゆったりと意識を暗転させた。




やっと会えた

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