ナツミ・シュバルツ嬢は友達が欲しい   作:ら・ま・ミュウ

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ナツミシュバルツはトモダチが、ホシイホシイホシイホシイホシイホシイ

あの娘に抱いた感情が、恋愛ではなく友愛であることを私は今でも後悔している。

 

もし、あの時。

我が友ラインハルトではなく私が彼女の手を握っていれば、未来はきっと変わっていただろう。

 

シュバルツ家に突如として発生した魔獣の群れ。そして現れた黒蛇(こうじゃ)の切れ端。

 

物語などで云う、分かりやすい展開だった。

 

 

きっと、あの時。

私がナツミを選んでいればもしかすれば、ナツミも私を――。

 

 

 

 

 

 

「なんだ、わざわざ来てくれちゃったの。

お前も忙しいだろうに、ありがとよユリウス!」

 

あまりにも場違いな声色でナツミは友人を歓迎する。

ダラダラと汗を流すオットーは「この女、気でも狂ったか!」と内心叫んだが、「そう言えばこの人、こういう人だった」と、顔を青くして恐る恐るユリウスを見る。

 

「……元気そうでなりよりだ」

 

端的で、とても衝撃を受けているようには見えないとオットーは感じた。

 

少なくとも、想いを寄せている女性が見ず知らずの異性と抱きついている様を直視する男の目ではない。

もしやユリウス・ユークリウスがナツミ・シュバルツに想いを寄せているという巷を潤せる色恋の噂はホラだったのだろうか。

 

だとすればオットーの恐怖は取り越し苦労となるわけで、でも国のトップにこれまた堂々を抱きついているのを他人に見られたのはそれはそれで不味い状況ではないのかとハラハラとしていると、

 

「――――何泣いてるんだ?」

 

一滴の涙がユリウスの頬を流れていた。

 

「ぁ……いや、何だろうなこれは。私にも分からない」

 

疑問の声を上げたナツミに、戸惑うように涙を拭うユリウス。

 

「何もないのに涙が出るなんてことないだろ。

何か変な病気とかだったらどうする。フェリスを呼んでやるから取り敢えずうちの屋敷で休め」

 

「いや、本当に問題ない。きっと目にゴミでも入っただけだろう」

 

 

 

 

(……やっぱッうわあああああ!!!!!)

 

 

修羅場、修羅場、修羅場。あまりにも修羅場。

オットーの胃袋は雑巾のように絞られて、そのあとにミキサーにでも掛けられているようだった。

 

――物凄く気まずい。

色恋をお題にしたナツミの朴念仁さは、もはや同性と接しているレベルだが、これはあまりにもないんじゃないかとオットーは目と目の中央に深い皺を作る。

 

「ナツミ様、いくら何でもその言い方は……いえ、レムはそんな色恋に初なナツミ様も大好きなので構わないのですが」

 

さすがに聞き咎めたのか青髪のメイドさんがユリウスをフォローするつもりでナツミに耳打ちする。

 

「そうか……?

体調が悪いなら多少業務に支障をきたしても休むべきだと思うんだけど……やっぱりブラックなのかなそこら辺。

これは騎士団の業務に対する意識改革にもその内手を出さねえといけないかも」

 

むしろ生理的に受け付けないので無理だと断られたほうがマシのフラれ方である。自分とて想いを告げられぬまま初恋を終えた身の上であるが、このようなフラれ方をしたら普通は立ち直れないと思う。

 

オットーは平気そうな顔をするユリウスの肩が僅かに震えているのに気付いた。

 

ハッとする。

……たぶん耐えているのだ。ユリウスはこれからの関係を維持するためにも、一欠片も自身の恋慕に気付いた様子のないナツミ嬢に要らぬ気苦労を背負わせないようにと沸き上がる激情を寸前で抑えている。

 

「な、ナツミさん。この状況で何ですが仕事の話をしたいのですけど」

 

これ以上は見ていられないと、オットーは手を上げる。

 

「おう?

ま、お前のお陰が大分楽になったからそれは構わねえけど……」

 

「ユリウス様は客室でお待ちになられますか?」

 

「……いや、ナツミの状態を確認しにきただけだ。私は帰らせてもらうよ」

 

青髪メイドさんの言葉にやんわりと断りをいれるユリウス。

やっと、この地獄のような時間が終わりそうだとオットーはほっと息をついた。

 

 

 

 

 

「ナツミ、帰る前に一言いいだろうか?」

 

「何だ?」

 

「私は君の良き友になれているだろうか?」

 

 

「何言ってんだよ。お前以上の友達(ダチ)なんていねーよ」

 

「そうか……」

 

ユリウスは少しだけ頬を持ち上げて屋敷をあとにする。

ナツミにはその笑顔が何故だが印象的に感じた。

 


 

 


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