屋敷精霊の愛読書
ナツミ・シュバルツという新世代の怪物により今や楽園都市と評されるルグニカ王都。
各国から行き交う商工のたまり場であり、日々真新しく街が変貌していくのに比例して急激に地価や物価も上昇していく。
それは市民階級の者が新たに居を構えたり、独り立ちをした子供が家を買うことが出来なくなるのではないかと一部の人間は危惧したが、やはり鬼才ナツミ・シュバルツの名は伊達ではなく、彼女の計らいあって、移住者や市民階級のものは申請をすれば国が補助してくれるようになった。
しかし、たらふく私財を抱え込んでいる貴族にはその必要なしと……賢人会ですら新たに別館を用意することを躊躇う中、ロズワールは先日の魔女教大罪司教の襲撃を受けて、新たに購入した屋敷のベッドの上で困り顔を浮かべていた。
そわそわ そわそわ そわそわ そわそわ
「あー、私の心配をしてくれるのは嬉しぃーのだけれど。少し落ち着いてくれないかな。ベアトリス?」
本来であるならば、メイザース領に構える屋敷の禁書庫から滅多に離れることはない人工精霊のベアトリス。
フリフリとしたツインテールに赤いドレスを纏う、見た目だけなら非常に愛らしい少女だ。
ロズワールは今回の一件で重傷を負って、彼女に無理を言って駆けつけてもらい治療を受けていた。
「だからナツミ・シュバルツに喧嘩を売るような真似をするなとベティーは忠告したのに!」と頬を膨らませてご立腹の彼女を適度に宥めながら、何とか一人で立ち上がれるほどに回復した。
「ふん、かしら。
別にベティーはお前のことが心配で王都に来たんじゃないかしら。ベティーが王都に来たのは、
――影の女王と最優の騎士のサイン会があるからなのよ!!!」
頬を赤くして、とても待ち遠しそうに懐にある一冊の本を抱き締めるベアトリス。
影の女性と最優の騎士……はて?と一瞬何のことだろうかとロズワールは首をひねって、そう言えば最近そのような書物が流行しているのを思い出した。
只でさえ、本好きの彼女だ。いつその本を手に入れていたかは置いといて……反応を見るに、とても面白かったのだろう。
何せ、強欲の魔女エキドナ様の言いつけを破ってサイン会に駆けつけるほどだ。
「ほぉ、君がそこまで評価するなら、私も読んでみよぉーかな」
歩けるようにはなったとはいえ、十分安静にする必要がある身だ。暇潰しにはちょうどいいかもしれないとベアトリスが持つ本に視線を向けるロズワールは「……今なんと?」猛禽類のようなギラつく瞳をしたベアトリスに失言だったことを悟る。
「やっとロズワールもこの本の素晴らしさに気づいたのかしら!
ベティーは読む用、鑑賞用、保管用、禁書庫に飾る用、布教用の五つを持っているから、布教用を上げてもいいのよ!その代わり読み終わったら感想を聞かせてもらうかしら!双子メイドと談義するのも楽しいのだけれど、こういうのって多い方が面白いの!影の女王と最優の騎士は二十二巻出ているから、当然ロズワールには一巻目から読んで貰いたいのけど、あー!でもね、十三巻から読んでみるのも悪くないと思うのよ!十三巻は最優の騎士の弟の話なんだけど、その子が影の女王に一目惚れしてしまって、それが後に判明する…………」
これは、囲い込まれるやつだ。