ナツミ・シュバルツ嬢は友達が欲しい   作:ら・ま・ミュウ

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シリアル


十回目

王選開始から数週間の時が流れた。

始まったと言っても、未だどの陣営も目立った動きをみせていない。

 

王都は今日も今日とてナツミ・シュバルツの別次元的で近未来的な発想により街を賑やかに騒がせている。

強いて王選候補者の中で動きを見せている者といえば言えば、『影の女王と最優の騎士』という書物を発行し、名のある小説家としてアナスタシア・ホーシンが急速にネームバリューを得ていることだろうか。

 

エミリアがナツミ嬢と接触し、フェルトがロム爺の飲食店を手伝っている頃。座して待つばかりであった彼女も、ついに動きを見せようとしていた。

 

…………

 

………

 

…………

 

 

「これがリンガなのか?

リンガとは白い果実ではなかったのか?」

 

「姫さん。それは皮を剥く前の話だ」

 

プリシラは高貴そうな身の着のまま、祭りに訪れた子供のようにその街を巡り歩いて、従者の男はそれを追う。

 

プリシラ・バーリエルは王都の観光に訪れていた。

 

狐の面や、カランコロンと音のなるサンダル、猫耳、文字の書かれたシャツに、龍がとぐろを巻いた聖剣のストラップなど、目につくものを片っ端から手にしていくプリシラ。それでお金を払わずに持ち出そうとするのだから、アルと呼ばれる従者は大慌てで会計を済ませていく。

 

「シャクリ……ふむ、どうやら嘘ではないようじゃの」

 

「だから言ってんだろ、姫さんの元に運ばれるまでに親切で可愛いメイドさん達が綺麗に剥いてくれてるって」

 

「アル。このリンガの山の中で一番甘いリンガを選んで妾へと献上せよ」

 

「あー、はいはい。普通に無理だから勘弁な」

 

余程気に入ったのか、それとも単純に足が疲れてしまったのかリンガの屋台の前で雑談する二人。

そんな彼女達の視線の先には重装備に身を包んだ兵士や魔術師の一団がクルシュ・カルステンの屋敷に向けて進軍していく。

このルグニカでは久しくあのような物々しい軍団は現れなかった為、剣や盾という見た目からして仕方ない事だが民衆はかなり不安がっているようだ。

 

「奴さん、ナツミ嬢に勝てないと悟って武力行使か?」

 

「違うな。離れるとわかれば惜しくなる美貌。妾の罪作りな神の造形に目もくれぬのだ。そのようなつまらぬ理由であれほど覚悟を決めた兵士は見繕えん」

 

只でさえ今のルグニカは平和ボケしている。

余程貧困に飢えた他国ならいざ知らず、一度でもこの平穏に浸かったことのある人間が、これを破壊しようと矛を取るのは不可能な話だとソフトクリームをぺろりと舐め取ってプリシラは言う。

 

「なら、何をやらかすつもりなのかねぇ」

 

「さてな。興味はないが、存外下らぬことかも知れぬし、この国の命運を掛けるものなのかも知れぬ」

 

プリシラとアルは黄昏るように屋敷の方角を見る。

 

 

 

この日、クルシュ・カルステンは王選候補者として大きな一手を打ち出そうとしていた。

 

「なにッ!この店ではリンガ飴なるものを取り扱っておるのか!?」

 

「……姫さん。後で買ってあげるから、こういう雰囲気は飲み込んでくれ」




お土産含め、沢山買い物したプリシラは満足げに帰ったそうだ。

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