「シュバルツ家の支持を得ることは重要だーぁよね」
「こればかりはベティも賛成かしら。あの娘、癪には障るけど優秀なのは間違いないのよ」
主人のロズワールと禁書庫の守る幼女精霊ベアトリスはある日の晩餐、銀髪のハーフエルフや双子のメイド達を除いて珍しく二人きりで食事を取り一人の令嬢について意見を出し合っていた。
「おやおやーぁ、君がそこまで評価するとは本物なのか。これは本腰をいれて囲い込まないといけなーぁいかな?」
「でも、それは不可能なのよ。あの娘にはクルシュ陣営やアナスタシア陣営が既に目をつけてる。」
幼い頃から神童と一目おかれ、将来は王族が携わるような高い役職に就くに違いないと、両親や家庭教師の有難いご協力によって
経済学や心理学に帝王学や薬学など……思えば、数年前にその才能と努力に反して休みが多いことだけが取り柄の給料の安い軽犯罪専門の裁判官に収まった時にはそれはそれで話題になったものだが、真に彼女が我々王選候補者達の目に止まったのはあの原因不明の病が流行し、王族が死に絶えたばかりの時だった。
彼ら彼女らは王族なだけあって幼い頃から英才教育を受け国の重要な役職に就く者が多くいた。
国は一斉にその重要な役割に就いた働き手を(引き続きも無しに)失う事になり、その影響は瞬く間に広がり出す。
「どうなってんだ!申請だして、もう一週間だぞ!」
「もっ申し訳ありません!!」
「水路が汚れちまって船が進まねえんだ!清掃の兄ちゃんは何で来ねぇんだよ!」
「それは上層部が資料を紛失し雇用契約の一時的な破棄を――」
損失は日を逐うごとに膨れ上がり耳を塞ぎたくなるものであった。
賢人会は急ピッチで人材育成に取りかかるが、全ての引き継ぎが終了までにルグニカ王国が持つかどうかは半々であり、王選とか悠長な事言ってられねぇとルグニカ全体が頭を抱える中、白羽の矢がたったのは鬼才の少女。
ナツミ・シュバルツ嬢である。
「今じゃ何もかもがあの娘に任せっぱなし、あの娘の協力を得るという事はそのまま国が味方になるような物なのよ。」
「王国が彼女のような人材を今まで腐らせていたのはある意味幸いだったね。」
「ふんっ馬鹿馬鹿しいかしら。今じゃ王族が携わっていなかった関係ない役職まで押し付けて働き殺す気かと疑いたくなるし、賢人会は自分たちが楽しようと押し付けてるつもりなのかもしれないけど。」
「もう明らかーぁに、ナツミ様の方が権力は上だよね」
ナツミ様を見つけた賢人会はこれ幸いと育成までの期間、文字通り彼女を使い潰す気であったが、あまりにも彼女に仕事を押し付け過ぎた。
今では下手をすれば……当時の王族の誰よりも彼女の権力は大きい。
武器を買うにもナツミ様に許可を、兵を動かすにもナツミ様の許可を、輸入品の書類にサインはナツミ様が。
使い潰される所か持ち前の反骨心を爆発させ、忙殺されそうな業務に耐え続ける彼女は超効率のレベリングが如く地位や民意が天井知らずに上昇し続け、『賢人会』の総意よりも彼女の一言の方が重いという三権分立も真っ青な現状である。
「丁度明日、王選の決定を通達する催しが開かれる。ナツミ様も出席なさる筈だ。そこで私は彼女を我が陣営に率いれてみせるよ―――何としてでもね」
「…………そう。」
その後、両者は口を開かず晩餐は静かな物となった。