ナツミ・シュバルツ嬢は友達が欲しい   作:ら・ま・ミュウ

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両者、外枠を埋められる

「――なぁユリウス」

 

ルグニカ王国のとある喫茶店。そこそこ良い間取りの席に腰かけるアナスタシア・ホーシンは五秒ほど、自らの騎士であるユリウスの顔をじっくりと覗き込み

 

「ウチはなぁ、めんどいのはあんまり好きやないけど、お金の為になるんやったらある程度は待ってもいいかな~って思うんよ」

「流石はアナスタシア様。貴方様の商人として培われたご検眼は――」

「あっ今そういうのはいいから」

 

話終わる前に口を挟まれたのが不満だったのか、その形のよい鼻を不服げに鳴らし、すげなく言葉を切り捨てる彼女。

主の不興を買ったユリウスは少しバツの悪そうに顔を歪め、直ぐに謝罪を口にするよう顔を上げるが「――待った」アナスタシアからのストップに寸前で押し黙る。

 

「ウチが聞きたいのは一つやねん」

 

何なりと。このユリウス、嘘偽りなく答えてみせましょう。

……口に出すのは止められた為に力強い瞳で訴えるユリウス。

 

「アンタぁ、いつナツミ嬢ちゃんと結婚するん?」

「……!」

 

予想外の質問に動揺を隠せない。

ユリウスは風通しのよいその喫茶店が突如として灼熱や極寒の地にでも陥ってしまったのではないかと錯覚し眩暈がした。

 

「アンタの事やから、律儀に童貞守ってるんやろ?

ウチ……自分の騎士が童貞ですーって恥ずかしくてお天道様に顔向けできひんのよ。それにナツミ嬢ちゃんもいつまで経っても愛しのユリウス様がアタックして来いひんから悲しくて悲しくて枕濡らしてたりするんとちがうかな?」

 

顔が真っ赤になって真っ青になる。

羞恥と困惑。ユリウスの心の中はぐちゃぐちゃ――だが、この質問はアナスタシアのみならずナツミ嬢とユリウスの関係を知る者達からすれば気になっている事でもあった。

彼女が言わなくても誰かが言ってた。

案外、フェリス辺りが拳を鳴らしながら明日あたりにも乗り込んで来るかもしれない。

だったら自分が一番初めに聞いてやろう。この情報は高く売れるに違いない。

彼女にとって相手のプライバシーを過度に侵略する行為は敬遠する物かもしれないが、それとこれとは別。何より人様の恋事情という物はいつの世も話題性を持つ。

 

「ルグニカ王国の影の女王様と幼馴染の騎士…良いやないの。萌えるやないの~其処んとこどうなん?キス、とかもうしたん?」

「いえ……嫁入り前の女性とそのようなふしだらな事は……その、あの…………」

「えらい可愛らしい反応からして…まさかまだ手も繋いでない!!!」

「いや!手どころか抱き上げた事ぐらい……ハッ!?」

「なるほど、な~あるほど~!これは本が分厚くなりますなぁ!」

 

ユリウスは自分が乗せられている事に気付いて口をつぐむがもう遅い。鼻息を荒く恋も知らない生娘のように頬を薄桃色に染め上げた彼女はメモ帳に筆を走らせ瞬く間に店を飛び出した。

 

ユリウスは慌ててそれを追うが――彼は知らない。

 

ナツミ嬢と自分の物語がこっそり恋愛小説として綴られホーシン商会の売上向上へと大きく役立っている事を。




アナスタシア様の口調は難しい…誤字修正ありがとうございます!

【悲報】ユリウスが結婚するべきなのか?
……とかキザな事言うから周りが勘違いし出す。


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