相手をねじ伏せる方法は何も腕力だけじゃ無い   作:赤いティントリップ (活動停止中)

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第44話

 

 

side・心操

 

 

「切島がノックしただろ!布団の中にでも入っとけよ!」

 

 

 

グデーとやる気なく薄い胸元の開いたシャツを着た状態でベッドに寝転んでいる心理の姿を見てしまい、一気に顔に熱が集まる

 

 

 

「別にこれくらいいいじゃん」

 

 

 

のんびりと気の抜けるような動きで上体を起こした心理は全然良くないのに呑気な事を言う

 

 

 

「いや、何でいいって思えたんだ?男装も解いてるのに、いや、男装してても駄目だけどさ」

 

 

「男装っていうか、ウィッグは服脱がして貰った時に乱れたから全部外して貰った」

 

 

くいった顎を受けた方を見てみれば綺麗に畳まれた制服の上に置かれている

 

 

 

「そうだったのか、体操服もってきたから早くこれ着ろ、そしてなにがあったか教えてくれ」

 

 

「服着せて、自分で着れない」

 

 

 

折角顔をそらして体操服を渡したのに、そんなことを言われ、思わず至近距離でしっかりと見てしまった

 

 

 

 

「無理をしたから腕がまともに使えないの、別にジロジロ見ても何も言わないから、お願い」

 

 

 

 

それは役得と受け取ってもいいんだろうか

 

 

それに、もし俺が断れば多分心理は俺以外の誰かに頼むに決まっている

 

 

それこそ、心理と離れてはいるが同じベッドに座ってどこかを見ている爆豪にでも頼むんだろう

 

 

だけど、俺は自分以外の誰かが心理に頼まれ服を着せている姿は見たくなかった

 

 

独占欲が胸の奥の方から湧き上がり、恥ずかしさや至近距離で薄着の彼女を見る申し訳なさよりも勝った

 

 

 

 

 

 

無言で体操服を広げ上まで律儀にあげられていたチャックを開け、伸ばしてくる手に通す

 

 

 

 

「なんで無理をしたんだ?」

 

 

「んー、一言じゃ纏められないから初めから順を追って説明するのでいい?」

 

 

 

いつものようにハキハキとした明確な答えではない上に、俺に確認する方式での話の進め方

 

 

 

どこか眠たそうに見えるぼんやりと眠た珍しい雰囲気をした心理に頷いた

 

 

白くて細い肌をなるべく見ないようにして、腕を通し終わり、チャックを上げて、ようやく着せ終えた

 

 

 

「ありがとう、よし、じゃあ保健室までおんぶして」

 

 

 

「………おぶる事自体は全然構わないけど、先にどこを怪我したのかを教えてくれないか?」

 

 

 

甘えるように両手を広げた状態の心理に対してやはり見た目がいいと無言で感心した後に聞いておく

 

 

知らなければ、痛めたところを触れてしまいそうだったからだ

 

 

 

「怪我というより、重いものを無理矢理持ち上げて筋肉に無理をさせたから痛めた、なんで持ち上げたかは道すがら話すよ」

 

 

 

 

 

だから早くというように両手を広げる心理の前に背中を向けてしゃがむと、よっこいしょ、という老けた声と共に背中に重さが少し加わった

 

 

だが、いつまでたってもそこから増えないので、どうして乗らないのかと怪訝に思っていると、肩をタップされた

 

 

 

「もう乗れたよ、重たくて立てないとか?」

 

 

 

そう聞かれたので、直ぐに立ち上がるが、背中にかかる重さが軽すぎてちゃんと乗っているのか不安になる

 

 

 

「………本当に乗ったのか?」

 

 

 

「とっくにね」

 

 

 

心理の太腿を支えて、胸が背中に当たりにくいように少し前のめりの状態を保つ

 

 

 

「あんまり前屈みだと落ちそうで怖いから、もうちょい上体あげて」

 

 

 

人の配慮を一蹴する気だな、心理

 

 

 

いつもと違い、心情に聡く無いどころか最早かなり疎いレベルでの対応は、よく、弱い個性の振りをわざと親しく無い人にしている時のようで、なんだか距離を感じてしまう

 

 

だが、言われるがまま上体を起こした俺に全身を預けるようにピッタリと体を寄せて物理的距離を体温が直接伝わるゼロ距離になった事により、開いた気がした距離が今度はとっても近く感じれた

 

 

 

 

 

「ごめん、瀬呂くん、扉開けて貰ってもいい?」

 

 

 

一番扉の近くにいた心理を背負った俺を少し羨ましそうに見ていた瀬呂に心理がそう頼むと元気のいい返事と共に扉をあける

 

 

 

 

すると、廊下にはB組の担任であるブラド先生が渋い顔して立っていた

 

 

 

ブラド先生は俺に背負われた心理を見ると、俺の正面に立った

 

 

 

背負ってるのを交代すると言いにきたのだろうか

 

 

 

 

「保健室までの人払いは済ませておいた、読解、本当にうちの物間と拳藤が迷惑をかけた、申し訳ない」

 

 

 

 

予想と違い、俺に向かって、正確には俺に背負われた心理に向かって90度ほど腰を曲げて頭を下げた

 

 

急になんだと思っていたら、気怠げに回されていただけの腕に少し力が入り、グッと俺の肩の所から心理が顔を出して

 

 

 

「ええ、確かに迷惑でした」

 

 

 

 

そう冷たい声で言い切った

 

 

何も事情を知らない俺からしたら急に何という感じだが、心理にはもちろん、チラッと横目で伺った上鳴達にも心当たりがありそうな表情だ

 

 

 

「まあ、私は職業柄あんな奴山程相手してるんで、あれくらい可愛いもんですけどね」

 

 

 

ハハハハハッと乾いた抑揚の無い笑い声が日頃の苦労を物語っている

 

 

 

何があったのかは相変わらず分からないが、表情が分かりやすすぎる上鳴や切島の表情がドン引きになってるので、相当な事をされたんだろう

 

 

 

 

「って事で、もう保健室に向かいますね、背負われたまま長話はしたく無いですし」

 

 

 

「ああ、悪い」

 

 

 

「人使、長いこと背負わせてごめんね、保健室に向かってもらってもいい?」

 

 

 

耳に口を寄せた状態で言われたため、あまりに声が近く、ブンブンと頭を縦に振った後に、なるべく心理に振動がいかないように配慮しながら歩き始めた

 

 

心理に負担はかけたく無い、でもなるべく背負っていたい

 

 

背中の温もりを手放したくなくて保健室までゆっくりと進む

 

 

いつもなら鬱陶しく思う事の多い無駄に広い校舎を今なら心からとてもいいものとして考えられた

 






サブタイトルについてご投票いただきありがとうございました。
あんなに多くの人に投票してもらえると思っていなかったので感激しています!
投票により、サブタイトルについて、通常の話はこの数字のままということになりました。
特別な閑話や過去編にのみサブタイトルを付けて投稿させてもらいます。

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