天と地程の差はあるが、天と地しか選べない。   作:恒例行事

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実質リメイク。


第一話

『やあ、目が覚めたかな?』

 

 それが、俺の中にある最初で最古の記憶。

 生を受けて一人の人間として活動を開始した瞬間に聞いた声だ。どこか荘厳で、不気味で、厳格でもあり、畏怖を肌で理解させる低い声。口調だけは柔らかいのが余計恐怖を増長させる。

 

『よく定着してるみたいだね。いいかい? 僕はこれから君に会うことはないけれど、一応生みの親(・・・・)として幾つか言葉をおくろう』

 

 液体に包まれ、沢山の管が身体中に突き刺さる俺に対して話しかける謎の声。男性であることは間違いなく、しかしその姿は捉えることができない。俺の目が見えないとかではなく、純粋に見える場所にいないからだ。

 

『君は、僕がヒーロー達への贈り物として創り上げた最高の作品だ。あくまで幾つか用意してるプランの一つに過ぎないけど、それでも十分過ぎるほどに整っている。遺伝子から選別して、君という生命体に仕立て上げた。ああ、安心してくれ。今は理解できなくても、後から理解できるだろうから』

 

 続けて、その声は言葉を紡ぐ。

 

『君の人生のレールは既に敷かれている。二つに枝分かれしてはいるが、君の意思で新たな道を作ることは出来ない。それを十分に承知してくれたまえ──ああ、異論反論は受け付けていないよ』

 

『それと、時間制限かな。君はその個性の関係上、色んな場面で色んな葛藤や選択が生まれる。そう、絶対的な二択の選択肢がね。生かすか殺すか、きっとそういう道のりになるだろう。その時にどちらを選んでも構わないが──ふふ。考えるだけでワクワクするよ』

 

 酷く不愉快な声色だ。

 まるで俺の人生の全てを娯楽として閲覧し、愉悦を感じているようで。人の人生を玩具にして遊ぶ最低最悪な感情を感じる。

 

『きっと君なら、いい方向に行く(・・・・・・・)。いいかい? せっかく僕が生み出したんだ、よく学び、よく遊び、愉しく生きるといい』

 

 それじゃあ僕は失礼するよ──そう言って、それきり謎の声は聞こえない。

 

 それが、俺の最初にして最古の記憶。

 今からおよそ十五年前の(・・・・・)、誰にも言えない俺の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ィ、ォ……!」

 

 とてつもなく懐かしい夢をみたような気がする。

 先程まで感じていた夢現な感覚とは違い、重力をしっかりと感じる。具体的には、椅子に座り机に倒れ込んでいるので下に体重を預けている感覚が。

 

「……イ! ……!」

 

 それに何だか周りが騒がしい。いや、騒がしいというよりは……人の声? やけに煩い人の声が耳に少しずつ入ってくる。

 

「──オイ! 起きろやクソ!」

 

 ああ、騒音の正体はこいつか。

 伏せていた顔を起こし、俺の眠る机の目の前で騒ぐ男を見る。ツンツンした髪型、人を殺してそうなヴィラン面、そこそこ整っている顔立ち──見知った人間だ。もう一度顔を伏せて寝よう。

 

「なに寝直そうとしてんだカスコラ! テメーはここに寝泊まりしてんのか!? あ゛ぁ゛!?」

「……バクゴーくんよ。そう声を荒げると健康に悪いぞ」

「誰のせいだと思ってやがるこのカスコラァ!!」

 

 うがーと暴れる男──爆豪勝己(ばくごうかつき)

 俺が中学二年生、つまり去年この学校に編入された時からの付き合いになる人間。口調は荒く、基本的に他者に対して差別的な言動を多くする事から余程劣悪な環境で育ったのだろうと哀しみすら抱いた。

 

 これを本人に伝えた後は少しだけマシになった。きっと、自分だけではなく周りも巻き込むと理解したのだろう。家族による教育も問題視されるとその言葉だけで理解できる分、彼は聡明だ。

 ……もしかしたら差別主義者的な言われ方が嫌だったのかもしれない。

 

「別にいいだろ寝てようがさ、授業は終わってるんだぜ?」

「だから問題なんだろうが! テメェ家に帰んねーのか!?」

「……確かに」

 

 これは呆けていた。

 我ながら既に老化が進行しているのかもしれない、あの謎の声が告げる制限時間とはこの事だったのか──? まあ、造られたって明言されてるし寿命とかは関係ありそうだ。自分のルーツを辿ったことはないから断言出来ないが。

 

「よし、帰るぞバクゴーくん。パフェ食いてぇ」

「一人で帰れやカス」

 

 親友からの誘いを断るなんて、なんて非情な奴なんだ。

 

「誰が親友だ殺すぞ!」

 

 男のツンデレ、か……特定層に需要がありそうだな。

 

「女体化に興味はないか?」

「………………」

 

 あ、歩いて行っちゃった。

 TS(トランスセクシャル)に興味が無いとは──彼もまだまだ甘いな。

 

 

 既に季節は秋、制服だと肌寒く感じ始める季節。秋を通り越して夏が続き冬になる、なんて四季もへったくれもない状態がたまにあるが今年はそうではなかった。

 

 蜻蛉が飛び、紅葉は色付く。

 食欲の秋だのスポーツの秋だの個性の秋だの色々言われる季節ではあるが、今年に関してはそれどころではないのだ。

 

 俺は去年この中学校に転校してきた。中学二年生の時にだ。

 

 つまり、俺は今年中学三年生──まあわかりやすくいうと受験生なのだ。

 既に受験の日まで半年はおろか三ヶ月ほどしか期間が空いていない、別に困ったことはないがそれはそれとして緊張する。毎日の生活の中で、どこか緊迫感を感じ始めている。

 

 もっと大雑把な性格だったらそんなことを考えなくてもいいのかも知れないが、生憎とそうではなかった。先程の爆豪との絡みのみ見られるとめっちゃ図太い奴だとか鋼の心とか揶揄されるが、その実ヘタれで小心者なのである。

 爆豪とのアレはそう、じゃれ愛。じゃなかった戯れ合い。

 

 個性と呼ばれる超能力に近い突然変異が一般的に普及し、俺もその類を漏れず──というより恐らくだが全人類の中でもトップクラスに巻き込まれている──【個性】と呼ばれるものを所持している。

 本来ならば両親から受け継ぎ決まる個性だが、俺は両親がいない。居たが、死んだ。

 

 親のことはどうでもいいとして、俺の個性。小心者な俺の心は、この個性によるものでもある。

 

 全く、個性なんてものを有り難いと奉じる人の心が知れない。この知れないという言葉も冗談でしかなく、模範解答は理解している。だが、それを抱く理由は理解できない。

 

 個性なんてものがなければ、俺はきっと生まれてこなかった。生まれなかった方が、きっと俺は幸せだった。

 

 ぐるぐる廻る思考を中断して、歩く足を止めて周りを見る。

 閑静な住宅街、既に夜の帳は降りてすっかり暗闇に包まれている。薄い街灯は存在しているが、十分なほど照らせていないのは確かだ。

 

【個性】という、超能力を抱えた人間は適応した。

 超能力を持った【超人】は数を増やし、やがて【超人】は【常人】になった。個性を持つ人間が【当たり前】、無個性の方が【異常】。なにが原因だとか、そんな事はどうでもいい。

 

 適応した人間は、その力を誇示しようとする。暴力に繋がる個性であれば、暴力を振るった。悪事に繋がる個性であれば、悪事を働いた。人の心は簡単に捻じ曲がり、湾曲し、元は真っ直ぐだった道すらも大きく軌道を変えて歩んでいく。

 

「む──君。ちょっといいかな」

 

 背後からかけられた声に対して返事をしながら振り向く。

 特長的な服装に身を包み、頭から生えた異形の角が激しく自己主張をしている。

 

「もうこんな暗い時間だけど、下校中かな?」

 

 ええそうです、と答えながら思考を回転させる。

 前述の、【個性】を使用して他者に対して悪事を働いた人間は多数存在した。では、逆に問おう。

 

 個性を使用して、【正義】を謳ったものは──? 

 

 いる。

 いない訳がない(・・・・・・・)

 

 世間一般的に強い心を持ち、それでいて強力な個性を身につけた人間。そういった人々は決して悪事に加担せずに、寧ろ積極的に平和を謳った。法整備もロクに整っていない時代、悪が蔓延り陽の当たらない世界を渡り歩き後世へと光を託すために戦った人々が。

 

 そう言った正義を謳う者を、人々はヒーローと呼んだ。

 

 それを忌み嫌う悪を、ヴィランと呼んだ。

 

 ヒーローは現代まで続き職業へと、ヴィランもまた現在まで存在している。

 

「早く帰宅しなさい。私達が巡回してはいるし、大丈夫だとは思うが万が一もある。災害は起きてから対処するのではなく、起きないようにするのがベストだよ」

「はい、わかりました」

 

 プロヒーローと呼ばれる彼らは、日々ヴィランによる犯罪を見逃さないように目を光らせている。人々を守る、大切な家族を守る、様々な想いを抱き戦っている。

 

 俺もまた、プロヒーローを目指す一人。

 彼らの活動は毎日目にしているし、尊敬すらしている。

 

 横を通り過ぎて歩いていくヒーローを見送って、再度帰路に就く。

 

 この社会は、沢山のモノを抱えている。

 

 人種による差別? そんなもの序の口だ。

 個性の有無、個性の強弱、個性の汎用性、社会への貢献度、最初からヴィランにならざるを得ない者もいれば、プロヒーローへとまっすぐ駆け抜けていく者もいる。

 

 強力すぎる個性によって闇に身を堕とすしかない、弱すぎる個性でもその心でもってヒーローへと成る。

 

 この社会で、絶対なモノはない。──そう、俺一人を除いて(・・・・・・・)

 

 俺は絶対に未来が決まっている。二択しか存在しない選択肢の中で、俺は片方を選んだ。闇へと身を堕とす選択肢を徹底的に蹴落とし続けて、光へと歩んでいる。それすらも、既に敷かれたレールの上を。

 

 どう足掻いたところで、俺の末路は決まっている。

 個性の所為で余計な事を考えるようになり、現実から目を逸らすように沢山の思想に触れた結果──俺は自分の最期を理解してしまった。

 

 ならば、せめてその二択くらいは選んで見せよう。

 俺の生みの親へと、最期のその瞬間まで足掻いて見せよう。あからさまに悪意を以て生まれた俺が、その悪意の親玉(生みの親)らしき人物へと笑ってやる。

 

『お前の作品は、ここまで上に飛んだぞ。地の底で這い蹲って見上げてろ』って。

 

 きっとそれが最高の恩返しだ。

 俺を生んだ(造った)憎らしくも愛しい切ってもきれない声の主へ。

 

 この物語は、俺が最高(最悪)な最期を迎えるその日までの軌跡を記したモノだ。

 あなたも、愉しんでくれよ? 親父(悪の親玉)

 

 

 

 

 

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